宇宙(ソラ)に輝く、星の守り手~Phantasy Star Online2外伝~ 作:星野優季
あの後、私たちは巨大な会議室のような場所へと移動していた。
案内されたこの広間も煌びやかな作りだ。
今は、上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻きが適当に座っている。私たちは、ハジメくんたちと一緒に最後の方に座って小声で話している。
「………最悪のパターンは免れればいいね」
「そう…だね」
「…………………………………畑山先生涙目だね」
「………天之川君のいつも通りの
そこに、私の服をちょいちょいと引っ張る子がいた。私の家族、本条楓だ。
「わたしたち、大丈夫かな………」
「大丈夫だよ。ヒドイ扱いになんて、私が、させない」
全員が着席したタイミングでカートを押しながらメイドが入ってきた。生メイドである。
ハジメや男子のほとんどがメイドを凝視している。
確かに、日本の某聖地に居るエセメイドとか外国にいるぽっちゃりしたメイドじゃ無いのは分からなくないが、男子達よ、女子達の目線に気付こうよ。冷めてるよ?そりゃあもうナベリウスの雪原並みに。
そんな事を考えている間に全員に飲み物がメイド達の手によって行き渡ったのを確認しイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱されている事でしょう。一から説明させて頂きますのでな。まずは私の話を最後までお聞きくだされ」
そう言い
要約するとこうだ。
まずこの世界はトータスと呼ばれている。そしてトータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。人間族は北一帯を、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けているのだそう。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の力が大きいらしく、その力の差に対して人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが魔人族による魔物の使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。
この世界の人々にも、正確な魔物の生態については分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく厄介な害獣とのことだ。
今まで本能のままに活動する彼等を使役出来る者はほとんど居なかった。使役出来ても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。これの意味するところは、人間族側の“数”というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。
他にも、巨大な人のような城を召喚している、等という話もあるらしい。………魔神城、なのかな?けれど、オメガの遺物がなぜここに?
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一にして、この世界の創造された至上の神。恐らく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間よりも優れた力を有しているのです」
そこで一度言葉を切ったイシュタルは、「神託で伝えられた受け売りですがな」と表情を崩しながら話を続けた。
「あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を討ち滅ぼし我等人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。恐らくは神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。キモっ。
イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位に就くらしい。
私とハジメは目を合わせ同じ考えに至ったらしい。“神の意思”を疑うことなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えた。
そんな話を聞いて、私は身勝手でくだらない話に呆れ、少し情報を整理するために目を閉じた。
side ハジメ
そんなことを話されている中で、黙っていられない人がいた。
突然立ち上がり猛然と抗議するのは、愛子先生だ。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!貴方達のしている事はただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百四十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましく、その何時でも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。
“愛ちゃん”と愛称で呼ばれ親しまれている(ユウキさん曰くよくいる合法ロリ)のだが、本人はそう呼ばれるとすぐ怒る。何でも威厳のある教師を目指しているのだとか。
今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだった。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる………」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食って掛かる愛子先生を眺めている生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし………貴方方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい雰囲気がのしかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたなら還せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。
「先程も言ったように、貴方方を召喚したのはエヒト様です。我々があの場にいたのは単に勇者様方を出迎える為と、エヒト様に祈りを捧げる為。人間に異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな、貴方方が帰還できるかはエヒト様の御意志次第という事ですな」
「そ、そんな…………」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「嘘だろ。帰れないってなんだよ!」
「嫌よ!何でもいいから帰して!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで………」
パニックになる生徒達。ハジメも平気ではなかった。ユウキさんはさっきから黙ったまま目を瞑って何か考えてるみたい。最悪のパターンでは無かったのでユウキさんみたいに平静では無いが周りと比べればわりかし平静だ。
誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むのではなく静かにその様子を眺めていた。だが、ハジメは何となくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「神に選ばれたておいて何故喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。
「あほかい、何でもかんでもこの世界の物差しで測れると思うなよ………」
そんな中、ユウキさんは何かをボソッと呟いた。
まあ、その気持ちも分かるのだが。
未だにパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。………俺は、戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺には出来ない。それに、人間を救う為に召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。
………イシュタルさん、どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「えぇ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えられるでしょう」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が、世界も皆も救ってみせる‼︎」
sideユウキ
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が、世界も皆も救ってみせる‼︎」
ギュッと握り拳を作り、そう宣言をする光輝。うん。『なら大丈夫』、じゃないわ!!アホかっ!んな簡単に参戦宣言すんなや!何でもかんでも守れると思うなよ、勇者だって全部守れるわけじゃないのに……!
同時に、彼のカリスマは
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。………俺もやるぜ?」
「龍太郎………」
「今のところ、それしかないわよね。……気にくわないけど……私もやるわ」
「雫………」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織………」
いつものメンバーがアイツに賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイトが賛同していく。愛子先生はオロオロと「駄目ですよ〜」と涙目で訴えているがアイツの作った流れの前では無力だった。
結局、全員が戦争にすることになった。
みんな、場の流れに乗りすぎだ。現実逃避してもおかしくない状況だけど………
呆れたように溜息を吐きながら、何となくイシュタル氏を見ると、彼は実に満足そうな笑みを浮かべていた。
イシュタル氏が事情を説明する間、それとなくアイツを観察し、どの言葉にどう反応するか。正義感の強いアイツが人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだ、この集団の中で誰が一番影響力があるのか。
ハジメと顔を見合わせ、頷いた。イシュタルは要注意人物だと。やってくれやがって…………
私たちが戦争の参戦を決意した以上、戦いの術を学ばないとならない。幾ら規格外の力を持っていたところで、私以外平和そのものにどっぷり浸かった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど以ての外だ。
しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会の本山がある【神山】の麓【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
王国は聖教教会と親密な関係があり、聖教教会が崇める神───創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統のある国とのことだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるのだろう。
冬樹達は聖教教会の正面門にやってきた。下山しハイリヒ王国に行くためだ。聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。高山特有の息苦しさを感じなかったせいか、高山にあるとは気がつかなかったのだ。
俺以外は太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れていた。
(うーん、やっ艦橋から見た景色の方が綺麗に見える……感覚狂ってんのかな………?)
私はアークスシップの艦橋から見た景色が凄かったせいで目の前の景色に対してそこまで感動を覚えなかった。
どこか自慢気なイシュタルに促されて先に進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座に巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱え出した。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん"天道“」
その途端、足元の魔法陣が燦然と輝きだした。そして、まるでロープウェイのように滑るように動き出したので、クラスメイトのみんなは感嘆の声をあげた。
そのまま雲海に突入し、やがて地上が見えてきた。眼下には大きな街、いや国が見える。山肌から迫り出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座のロープウェイは王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。
ハジメくんは、素晴らしい演出だと皮肉っぽく笑った。雲海を抜け天より降りたる"神の使徒“という構図そのままである。ハジメくん達だけではなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。
ハジメくんは何となしに戦前の日本を思い出していた。政治と宗教が密接に結びついた時代のことだ。それが後に様々な悲劇をもたらした。だが、この世界はもっと歪かもしれない。何せこの世界には異世界に干渉できるほどの力を持った超常の存在が実在しており、文字通り"神の意思“を中心に世界は回っているからだ。
自分達の帰還もこの世界のいく末もこの世界の神の胸三寸なのである。
王宮に着くと、私たちは真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが皆一様に期待に満ち溢れた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。私たちが何なのかはある程度知っているようだ。
ハジメくんは居心地が悪そうに、周りの視線など気にせんという顔で歩いている私の後ろを付いていった。こういう視線は気にしたら負け。雰囲気に飲まれないことが重要なんだよ少年。
美しい意匠を凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢を取っていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。天之川くん等一部を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉の先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子──────玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には10歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更にレッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がザッと三十人以上が並んで佇んでいる。
玉座の手前に着くと、イシュタルは生徒達をそこに留まらせ、自分は国王の隣へと進んだ。
そこで、おもむろに手を差し出すと国王はその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら教皇の方が立場は上のようだ。これで、国を動かすのが"神"であることが確定だな、とハジメは内心溜息を吐く。
ここからはただの自己紹介だった。
国王の名はエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃の名をルルアリアというらしい。金髪美少年はランダル王子、王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。
その後、晩餐会が開かれて異世界料理を堪能することになった。たまに桃色のソースや虹色の飲み物が出てきて私以外は躊躇いながら味わっていた。…………何でみんなは躊躇っているんだろう?美味しいのに……
王宮ではハジメ達の衣食住が保証されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということなのだろう。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。
今は私の部屋に楓ちゃんとその幼馴染みで同じオンラインゲームをやっている友だちだというの白峰理沙と一緒におり、明日からの事を話していた。
「ユウキちゃん、大変なことになったね」
「そうだねぇ……まぁ、いきなり戦闘に駆り出されるってことにならなくて良かったとは思ってるよ………だけど」
「だけど?」
「いや、明日からの訓練がどうなるか、自分が特別だと自惚れないか、後は……魔人族の接触が今後必ずあるってことかな?」
「訓練と魔人族の接触は分かるけど、特別だと自惚れるっていうのは?」
「…………んー、そうだな……力があるけど、その力を弱い者に振るったり、特別だと威張っちゃって自分以外を下に見て蔑ろにする人と二人は一緒に戦いたいと着いて行きたいと思う?」
「………思わないね」
「………思わないわね」
「でしょ?自惚れてたり驕りがある人ほどそんな事をやっちゃうんだよ。二人も気を付けてね?」
「………うん」
「………分かった」
そう言い私は軽く笑った。その後軽く話してから二人と別れ、自室には行かずに王宮の廊下を歩いていた。
「うーん、やっぱ圏外、か…………」
分かってはいたけど、やっぱり電波は繋がらない。空を見て、私の知る星の並びとは全く違ったことからそうではないかとは思っていたが。
………やっぱり、シエラやマトイ、シャオ達にも会いたいな。こんな心細い時にそばにいてくれたのは、紛れもなくみんなだった。
その後、変に落ち着かないので周りを見渡し訓練施設らしき場所に立ち入った。
そして、日頃行なっているトレーニングを始めた。
器具がない分、トレーニングする内容も変わって来るが本格的なものになり、イメージした敵と戦闘している時に誰かが近くに居るのに気がつき動きを止め、気配がする方を振り向いた。
「あなたは………確か騎士団長の────」
「メルド。メルド・ロギンスだ、嬢ちゃんはユウキだったな」
「そうです。それで、何のご用ですか?訓練場の無断使用の件に関しては謝罪します」
「いや何ソレは構わんさ。嬢ちゃんの動きが余りにも無駄がないものでな。ついつい見惚れちまったんだ。
………どうだ、嬢ちゃん。一戦やってみないか?」
と、メルドがユウキに対してそんな提案をしてきた。
「それ、本気で言ってます?」
「本気も本気さ。嬢ちゃんの立ち姿はあの中で一番こっちに近いと思ったからな。尋常じゃない気配も感じた。
その実力のほどを確かめてみたいと思ったのさ。
まぁ、明日以降でも良かったんだが、たまたま見回りしてる時に嬢ちゃんを見つけたからな」
「そうですか。それなら、お願いします」
そう言い、メルドは訓練用の木刀、私はナックルの構えをとり、戦闘態勢に入った。
「おいおい、嬢ちゃんは素手で良いのか?」
「慣れないもんで闘っても今はこっちの方が良いので。
それにまだ力の内容も分かって無いのでやっぱり慣れた方で戦った方が強いですし」
「そうか。なら行くぞ」
メルドは、木剣でこちらを袈裟切りにするモーションを行う。私は、それをサイドステップで回避し、そこから即座にナックルの
「ってて…………嬢ちゃん、容赦なさすぎだろ………ハハ、見事にぶっ飛ばされちまったな」
「これでも、荒事は慣れてますもの」
「そう、か」
ここで私は、気になっていたことを聞いた。
「一つ、質問しても?」
「ああ。構わんが?」
「…………これから私たちがやろうとしてることは、“戦争”。────つまりは“人殺し”をする事になります。
そして、彼ら彼女らは、人殺しなんてしたこともない。動物すら殺めたこともない。─────────どうするつもりですか?」
「………今は考えている所だ。
それに正直迷っている所だ。君達にこんな事を任せても良いのかと」
「………良かったです」
「……………なにがだ?お前達にとって俺たちは、自分たちの戦いに巻き込んだ最低な人間だと思うんだが」
「いいえ、そうではなく、貴方が人格者だと分かったことです。
遠からず、私たちは“殺し”をする事になる。
だから、私たちの事で悩んでくれて嬉しいんです。
あなたは、教会の連中とは、確実に違うんだって。
今後とも、どうかよろしくお願いします」
「ああ、明日には嬢ちゃん達のステータスが分かる筈だ楽しみにしていてくれ」
「そこには私、少し期待していますよ」
「ハハハ、そうか。明日は早い。早めに寝とけよ」
「そうさせて貰います。少し落ち着いてきましたし」
その後私は、メルドさんと別れ、自室で汗を拭き取りベットにダイブし、そのまま眠りについた。
side楓
翌日
早速、訓練と座学が始まった。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長のメルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうっていうのに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員にも普通に接するように忠告するくらいだ。
わたしたちもその方が気楽で良かった。自分よりも遥か年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろ。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血をいってたらしてくれ。それで所持者が登録される。"ステータスオープン“と言えば表に自分のステータスが表示される筈だ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。
「アーティファクトっていうのはな、現代じゃ再現できない強力な能力を持った魔法道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、昔から普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証明に便利だからな」
ちなみに、ステータスプレートを作製するアーティファクトも存在しており、毎年、教会の厳重な管理の下必要に応じて作製・配布されている。
それらに「なるほど」と頷く。ユウキちゃんは躊躇いもなく親指に針を刺しステータスプレートの魔法陣に血を垂らし魔法陣が淡く輝いていた。それに習ってわたしも指に傷を作って魔法陣に血を垂らすと同じように淡く輝き、直後、スッと真綿にインクが染み込むように綺麗な紅色へと変色していった。わたしはギョッとした。他の生徒達も瞠目している。
そんな生徒達にメルド団長が説明を加える。曰く、魔力というものには人それぞれ違う色を持っているらしく、プレートに自己の情報を登録すると、所持者の魔力色に合わせて染まるそうだ。つまり、そのプレートの色と本人の魔力色の一致を持って身分証明とするのである。
(わたしの魔力は赤色、というか紅色、かな?結構綺麗な色だ………)
内心で黒い色などにならなくて良かったと思いつつわたしが視線を巡らせれば、他の生徒達も自分の色と言うものをマジマジと見つめている所だった。
ちなみに、天之川くんは勇者らしく純白。坂上くんは深緑色で、香織ちゃんは白菫、雫ちゃんは瑠璃色、南雲くんは空色で、ユウキちゃんはピンクと黒の混ざったような色と、空色のような色の二色だった。
「珍しいのも分かるが、しっかり内容も確認してくれよ」
苦笑しながらメルド団長が確認を促す。生徒達はハッとしたように顔を上げて直ぐに確認に移った。
わたしも、自分のステータスプレートに視線を落とす、そこには…………
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本条 楓 17歳 女 レベル:1
天職:守護者
筋力:10
体力:10
耐性:20
敏捷:5
魔力:10
魔耐:20
技能:アバター[+封印]・フォトン適正[+封印]・システムNWO・言語理解
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と、表示されていた。
まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、わたしは自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。
メルド団長からステータスの説明がなされた。
「全員見られたか?説明するぞ?まず、最初に"レベル"があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれぞれがその人間の限界を示す。つまりレベルとは、その人間が到達できる領域の限界値を示しているというわけだ。レベル100ということは、自分の潜在能力を発揮した極致ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がるわけではないらしい。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しい事は分かっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、お前達用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するという事は無いらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。
「次に"天職"ってのがあるだろう?それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動して、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦闘系も少ないと言えば少ないが………百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持ってる奴が多いな」
わたしは自分のステータスに目を落とす。確かに天職欄に“守護者”とある。どうやら“守護”というものに才能があるようだ。
わたし達は上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていた事。なら当然だろうと思いつつ、少し興奮してしまう。自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものだ。
しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び、背筋が凍った。
「後は……各ステータスは見たまんまだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まあ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
この世界のレベル1の平均は10らしい。だが、わたしのステータスは殆どが平均。敏捷に至っては平均を下回っているわたしは嫌な汗をかきながら内心首を捻った。
(あ、あれー?ほとんど平均なんですけど………もういっそ見事なくらい平均なんですけど?最初っから強いんじゃないの?もっと高いんじゃないの?………ほ、他の人は?やっぱり最初はこのくらいなんじゃ……)
わたしは、僅かな希望に縋りキョロキョロと周りを見る。皆、顔を輝かせハジメのように冷や汗を流している者はいない。
メルド団長の呼び掛けに、早速、天之川くんがステータスを報告しに前へ出た。ステータスは……
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天之河 光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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まさにチートの権化だった。
「ほお〜、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か…………技能も普通は二つ三つなんだがな………規格外な奴め!頼もしい限りだ」
「いや〜、あはは………」
メルド団長の称賛に照れたように頭を掻く天之川くん。ちなみにメルド団長のレベルは62。ステータスは平均300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、天之川くんはレベル1で既に三分の一に迫ってる。成長次第では、あっさり追い抜きそうだ。
ちなみに、技能=才能である以上、先天的なもので増えたりはしないらしい。唯一の例外が"派生技能“だ。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる"壁を越える“までに至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。
天之川くんだけが特別かと思ったら他の人たちも、天之川くんに及ばないながらも十分チートだった。それにみんな戦闘系天職ばかりなのだった………何となく冬樹君の方を向いてみると、凄く死んだ目をしていた。
「ゆ、ユウキちゃん、どうしたの」
「あ、あぁ楓ちゃんか………いや〜、何をどうトチ狂ったらこんなことになるのかな?って思ってね」
そう言い渡されたステータスプレートには
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本条 ユウキ 17才 女 レベル1?
メインクラス:ファントム
サブクラス:なし
天職:アークス 職業:アークス
HP:1200
PP:245
打撃力:3481
射撃力:1757
法撃力:4527
技量:681
打撃防御:2542
射撃防御:2523
法撃防御:2523
魔力:1
技能:守護輝士[+ハンターLV.100][+ファイターLV.100][+レンジャーLV.100][+ガンナーLV.100][+フォースLV.100][+テクターLV.100][+ブレイバーLV.100][+バウンサーLV.100][+サモナーLV.100][+ヒーローLV.100][+ファントムLV.100][+エトワールLV.100][+ラスターLV.100][+光紡の守護輝士][+天敵:ドゥドゥ]・ダークブラスト[+
称号:守護輝士
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「…………ナニコレ?」
「アハハ、そうなるよな普通は」
「ユウキちゃんって、人間?」
「いや〜、自分でも人間か疑いたくなって来たな。まあ、ある程度情報を隠蔽しないと」
「えっと、わたしに見せて大丈夫だったの?」
「だいじょぶだいじょぶ。あなたには隠し事したくないからね」
色々突っ込みたいことがたくさんあるが、今は良い。
聞きたいのはただ一つ。
「………ドゥドゥって、誰?」
そう聞くと、彼女は苦々しい顔をする。
「…………アークスの天敵。ダークファルス以上の諸悪の根源。アークスの心の7割はアイツによって折られていると言っていい。ラスボスを超えるラスボス。生息地はアイテムラボ。おのれドゥドゥッッ!!」
「ぅ、ぅぉぅ………」
圧がすごい。最後の方は憎しみのこもった般若のような表情だった。
なぜか、「素晴らしく運がないね、君は」という幻聴が聞こえた。すごいイラッとした。
その時だった。団長のいる方から笑い声がした。
何かと思って見てみると、南雲くんが檜山くんに絡まれているところだった。
「ぶっははははっ~何だこれ!完全に一般人じゃねえか!」
「むしろ平均が10なんだから場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな!」
ゲラゲラと笑う彼ら。
あまりいい気分はしない。
その後、自身もステータスを見せに行ったが、数値が低く、哀れみの視線を向けられてしまった。
ちなみに
白峰理沙さんのステータス
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白峰 理沙 17歳 女 レベル:1
天職:暗殺者
筋力:40
体力:50
耐性:20
敏捷:120
魔力:80
魔耐:40
技能:双剣術・気配感知・魔力感知・気配遮断・超加速・アバター[+封印]・言語理解
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感想くだちい
あなたはPSO2を知ってますか?
-
知ってる
-
知らない
-
アークスです
-
引退しました
-
ハルファにいます
-
世界を滅ぼし、フォトンを消す!