「嫌だ」
「なんと?」
「嫌だって言ったの」
夜の渓流、水辺で月を眺めているタマミツネにオウガとナルガは滑液が必要な事を伝えた。
「なんでさ、私達の知り合いの為なんだよ」
「でもなぁ……私の滑液って、瞬時に傷を癒すじゃん?」
「うん」
「それをハンター達のとこに持ってくじゃん?」
「うん」
「そしたらハンター達が回復薬の変わりって……この滑液を狙うかもしれない」
「……うん?」
「そしたらどうなる!? 私はハンターに追われる生活、捕まれば一生ハンター達の為に滑液を出さなければならなくなる……」
「いやぁ、ハンターはそんな畜生じゃないよ……」
「延髄引っこ抜くようなやつらが?」
「ぴっ……」
ナルガが縮こまる。
「まぁ、お主が嫌なら無理強いはしない。他の手段を探すことにする」
「あー待った待った。大丈夫だから。ハンターに入手方法を教えなければね」
「……なんなんだ」
タマミツネは手に持っていた扇を開き、口元を隠す。
「でも、こっちのお願いも聞いてほしいな」
「何だ。出来ることならやろう」
「じゃあ……」
*
「暑いよおぉぉぉぉ」
「早くこの『くーらーどりんく』とやらを飲め。暑さに耐性がつくぞ」
「飲んだけど、苦すぎるんだもん……」
「良薬口に苦し。死にたくなければ飲め」
「ひいぃ……」
二人は火山に来ていた。
『友人の為に首飾りを作りたいんだけど、青色の鉱石が欲しくてさ。火山でなんかいい感じの採ってきてよ』
ミツネからのお願いは火山での鉱石採取。ミツネは海竜種な上に、クーラードリンクがあっても水分の蒸発は防げない。故に火山での行動が出来ないから依頼したらしい。
「早く探すぞ」
「はいはい……」
二人は火山の中を歩く。鉱石はたくさん見つかるのだが、青色のものは中々見つからないでいた。そして奥へと進んでいると、ナルガの耳がモンスターの咆哮を捉えた。
「オウガ……聞こえた?」
「何がだ?」
「モンスターの咆哮だよ。かなり遠いけど……多分、あっちの方」
「無視でいいだろう」
「いや、火山のモンスターがどんなのか見てみたい!」
ナルガは咆哮が聞こえた方へ走っていった。
「あ、おい!」
オウガもナルガの後を追って走った。
*
「あれが……」
二人が目にしたのは溶岩を纏う海竜種のモンスター、アグナコトルだ。体を丸めている。
「何してるんだろ、あれ」
「何かを絞めつけているようにも見えるな」
そう、体を丸めた状態で内側に力を入れているように見えるのだ。アグナコトルの中に何が居るのかはわからない。
「小型のモンスターを狩ってる?」
「いや、あの大きさのモンスターならもっと効率の良い狩り方をするはず……なぜ絞めているのだ?」
二人は疑問に思いながらアグナコトルの様子を観察する。
「はぁっ!」
突然、アグナコトルが拘束を解いた。中にいたのは深い紫の道着を着た人型の何か。それが内側から強い衝撃を与えたがためにアグナコトルは拘束を解き、ダウンしてしまう。
「人間ではないね。尻尾がある」
「うむ……」
それは拳を強く握ると、アグナコトル目掛けて振り下ろす。何度も何度も、無抵抗のアグナコトルの頭部のみを狙って殴る。
「ね、あれなんだろ?」
「血ではないな。何か……粘液のように見える」
アグナコトルの頭部に付着した緑の液体はだんだんと赤くなっていき、爆発した。これが致命傷になったのか、アグナコトルは動かなくなった。
「……かなり腕がたつようだ。何かの間違いで彼奴と戦闘になれば結果はわからぬ。ナルガ、ここは慎重に……」
オウガはナルガがいた場所を見て話したが、そこにナルガの姿は無い。
「ナルガ? どこに……」
「ねーねー、そこの人ー!」
アグナコトルの死体の方からナルガの声が聞こえる。どうやらさっきの人影に声をかけに行ったようだ。
(馬鹿者……!!)
「あ、ねぇ、あなたでしょ? これ倒したの?」
「あん、誰だ」
そこに居たのは、紫色の道着を着た人化症のモンスター。深い青色の甲殻に包まれた尻尾、同じ色のショートヘアで前髪が黄緑に染まっている。道着は袖が無いノースリーブで、腕は格闘技をするには細いように見える。
「私はナルガクルガ。ナルガって呼んで」
「ナルガクルガ……か。オレはブラキディオス。ブラキでいい」
「ブラキディオス……うん、聞いた事ないな」
「オレもナルガクルガなんて聞いた事ないぞ」
(だ、大丈夫なのか……?)
二人のやり取りをオウガが岩陰から見守る。
「で、何か用か?」
「実は、かくかくしかじか……」
ナルガはここに来た経緯をブラキに説明した。
「純度の高い青い鉱石……鉱石ならオレの友人なら知ってるかもな」
「本当!?」
「あぁ、ツレも誘って着いてきな」
(なっ……見つかっていたのか)
オウガは岩陰から出てくると、ナルガと一緒にブランの後ろを歩き始めた。
「オウガ、ビビってたの?」
「違う。拙者はお主と違って考え無しに前に出たりしないという事だ」
「……バカにした?」
「貶したのだ」
「変わらないよ……」
*
「ここだ」
「おぉー」
二人が案内されたのは火山の深部。ハンターも立ち入らないような場所だ。横穴の近くには様々な鉱石が入ったトロッコが置いてある。
「少し待ってろ、すぐ持ってくる。鉱石には指一本触れるなよ」
「勿論!」
ブラキは横穴の中に入っていった。
「しかし……なんか暑くない?」
「どりんくの効果が切れてきているのかもしれぬ。二本目を飲むか」
オウガはクーラードリンクを取り出すと、一気に飲み干した。
「……不味い」
「また飲むのぉ……」
「飲みたくなければそれでいい。ここで火葬まで済ませておくからな」
「ひどい!」
ナルガも嫌そうな顔をしながらクーラードリンクを飲み干す。途中むせていたが、なんとか全部飲み干した。
「うえぇ……口直しが欲しいよぉ……」
「我慢しろ。ん……この音は?」
どこからか、ガラガラと音が聞こえてくる。
「来たんじゃない?」
「そうかもな」
そして横穴から出てきたのは
「おぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!」
「頑張れ〜」
「「!?」」
鉱石が大量に入ったトロッコを引っ張るブラキ……それに、鉱石の上に座るハンマーを持った少女だ。二人はその異様な光景に目を丸くした。
「よっ……と。お疲れ」
「こっちもいいトレーニングになった」
「で、私に用事があるのは? あ、あなた達か」
少女は二人に近付いてくる。頭には黄色いヘルメットを被っており、その下にタオルをハチマキのように巻いている。黄土色の鉱石によって作られた鎧に身を包んでいて、動く度にガチャガチャ鳴っている。一番目を引くのは少女の身長の半分はあるであろう大きさのハンマー。岩の塊のようなそれを片手で担いでいる。
「はじめまして〜。私の名前はウラガンキン。ここら辺で炭鉱夫してるんだ」
「なんと呼べばいい?」
「ガンキンでいいよ。女の子っぽくないけど、そこは仕方ないよね。あ、話はブラキちゃんから聞いてるよ。青い鉱石なら沢山あるよ」
「話が早くて助かる」
「……ブラキ
「あれ? 本人から聞いてない? ブラキちゃん女の子だよ」
「……え」
「なるほど。どうりで腕が細いわけだ」
(そこ……?)
ガンキンは鉱石を探しながら会話を続ける。
「でもその分筋肉は凄いらしいよ。力を込めれば、刃物通さないし」
「何それ……」
「切れ味緑? までなら弾くらしいよ。すごいよね〜」
「ふむ……ナルガの刃翼は切れ味何色だ?」
「え? あー……空色?」
「……良いのはあるか?」
「おい」
「あるよ〜。これなんかどう?」
ガンキンが見せたのは綺麗な青色の鉱石だ。
「おぉ、これで良いと思うぞ。では、代金を」
「ありがとう〜」
オウガはミツネに渡されたお金を支払い、袋に入った鉱石を受け取る。
「では、拙者達はこれで……」
「なんだ、もう帰っちゃうの?」
「急ぐ用事がある故……」
「なら仕方ないね。じゃ、またいつかね〜」
「今度来た時はオレと手合わせもしてくれよ?」
「機会があれば、な。行くぞナルガ」
「はいよー。ありがとうねー!」
二人は足早に火山を後にした。
*
所変わって渓流。
「意外と早かったね。はい、じゃあ例のもの……」
ミツネは鉱石と引き換えに、瓶に入った緑色の液体を渡してきた。
「かたじけない」
「良いんだよ。ほら、早く知り合いのとこ行きな」
「うむ、そうさせてもらう」
「ありがとうミツネ」
二人はそのまま龍歴院へと向かった。
(……これ、ミツネのどこから出たんだろ)
(……あの滑液、口から出したって知らないよね? 知られたりしたら……私生きていけなくなる)
あんまし触れられてないミツネちゃんの説明を……
ミツネ……人化症の泡狐竜タマミツネ。鱗の色と同じ、白や桃色の和服を着ており、常に赤い番傘を持ち歩いている。尻尾は変わらず、紫の毛が生えており、フワフワしている。頭に大きなヒレが付いている。が、付いてる位置が位置だからか、よく狐耳に間違われがち。また、背中に『大きな』錦ヒレが付いている。感情によって紅くなったり青みを帯びたりする。