ギルデカラン到着後、すぐにレープはそこのハンターズギルドへ向かった。ギルドマスターに話は通してあるようで、すぐに応接室へ案内された。途中、廊下で一人の少女を見つけた。深い青のマントを羽織っているが、正面から見たらやたら露出度の高い格好をしている。
(なんだろ……色変えたキリン装備かな?)
その時は特に深く気にすることなく素通りした。
応接室に通され、出されたお茶を飲みながら待っていると、扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは男の子だった。歳は12歳くらいに見える。着ているのはギルドナイト装備のようだ。
(子ども? なんで子どもがそんな格好でここに?)
少年はレープの向かいに座った。
「えーっと、私に何か用事かな?」
「? いにしえの仙丹を渡しに来たのですが」
「……え? じゃああなたが……」
「あ、自己紹介がまだでしたね。僕はワスレナ。ライダーです」
ワスレナは軽く頭を下げた。レープは予想していたよりもずっと幼いライダーの姿に驚いていた。
「いやぁ……思ってたより子どもなんだね……」
「他から来たハンターにはよく言われます……」
「あはは……」
「あぁ、先に仙丹渡しちゃいましょうか」
ワスレナは布に包まれた箱をテーブルの上に置いた。
「この中に仙丹があります。貴重なので、ちゃんと持ち帰ってくださいね?」
「ありがとう。助かるよ」
レープは箱を受け取った。
「さて、で……次の用事っていうのは?」
「は?」
「え? 仙丹とまだ用事があるって言われてるんですが……」
「……? …………あ! まさか!」
*
「これが……骸龍オストガロア」
「人化症のね」
「見れば分かります」
もうひとつの用事、それはオストガロアの今後についてライダーの意見を聞くことだ。
「超大型の古龍って聞いてたけど、思ったより小さい……」
「そうだね。本当は人なんて一口なんだけど」
「んー……そっちではどういう判断したの?」
「古龍は珍しいから、研究サンプルにって……」
「研究サンプル……?」
ワスレナの目つきが厳しくなる。
「この子だって生き物なんだよ?」
「わかってる! 否定する意見も出たからこうしてライダーの意見も聞きに来てるんだよ!」
「……。とりあえず、話し合ってみよう」
ワスレナは指笛を吹いた。少しして、二つの人影が船に降り立った。一人は赤い甲殻に包まれた尻尾をもつ人化症の飛竜。おそらくリオレウスだろうが、左眼に傷を負っている。もう一人はさっきレープが見た少女だ。
「どうした? 相棒」
「お手伝いかな?」
「レウスとコオリ、二人でご飯用意して欲しい。なるべく沢山」
「了解。すぐ用意する」
「任せて〜」
二人はすぐに船を降り、どこかへ向かった。
「今のは?」
「僕のオトモン、レウスとコオリです。レウスはずっと一緒に居た隻眼のリオレウスだったけど、ある日突然あの姿になってて……。コオリの方は雪原で寝てたのを保護しました。キリン亜種の女の子です」
「なるほど」
(キリン亜種ってかなり珍しいんじゃないっけ……。ここら辺には普通に居るのかな?)
「さて、レウス達が戻って来るまでオストガロアと会話してみましょうか」
ワスレナは檻の前に座ると、オストガロアに声をかけた。その声を聞き、オストガロアはゆっくりと目を覚ます。
「ん……んうぅ……」
口枷のせいで喋れないようだ。
「それ外せますか?」
「え!? 危険だよ! この姿になろうと、他の生物を食べるのは変わらないんだから」
「いいから外してください。食欲が強い生物から食事を取り上げると危ないのは充分わかっているはずです」
「うぅ……わかった……」
オストガロアは獲物を見る目でワスレナを睨む。口枷からは唾液が零れてきている。
(噛まないでよ……)
レープは恐る恐るオストガロアの檻に手を入れ、頭の後ろで結んでいた紐を解き、口枷を外す。
「ご飯……」
「今来るよ」
オストガロアはワスレナに近付こうとするが、四肢と触腕を拘束されているせいで動けない。
(まさかこれも外せとか言わないよね……)
レープは怯えた目でワスレナを見る。ワスレナは落ち着いた様子でオストガロアの目を見ていた。
「お待たせ相棒」
「料理持ってきたよー」
レウスとコオリが戻ってきた。持ってきたのは、大きなステーキや生肉の寿司、ラーメン等だ。匂いにつられてか、オストガロアの視線が料理に向く。
「じゃあ、これを檻の中に入れてください。入れたら手足と触腕の拘束を解いてください」
「わかった……」
レープは鍵を使って檻を開けると、中に料理を入れた。そしてまた檻に鍵をかけ、今度は背後に回って手だけ入れ、手足と触腕の拘束を解く。
(ひいぃ……怖かった……)
「ありがとう。さ、どうぞ」
「ご飯!!」
オストガロアは料理に飛びつき、貪るように食べ始めた。その姿を前に、ワスレナは左手の甲についた何かをオストガロアにかざした。石のようなそれは展開すると、中央にある水色の水晶のようなものが優しく光った。
「相棒、まさか……」
「おぉ……まさかそういう判断するか」
「え、何何? あれ何してるの?」
レープは二人に尋ねた。
「相棒がかざしてるあれは『絆石』っていう物だ。ライダーとオトモンを繋ぐ、大切な物。多分、オストガロアの食欲を抑えようとしているのかも……」
「そんな事できるの?」
「ある地域のライダーは、特殊な天彗龍の溢れ出る龍気を絆石の力で抑制して、天彗龍の暴走を抑えたらしい……。それの転用かな?」
「イビルジョーと絆を結ぶ方が近いんじゃない?」
「あぁ……確かに」
しばらくして、オストガロアの食事は終わった。
「ふぅ……お腹いっぱい……」
「え、今お腹いっぱいって……」
「上手くいったね。……ハンターさん、この子僕が引き取るよ」
「え!?」
「やっぱりか」
「おほー! 古龍仲間だ♪」
コオリは心底嬉しそうにしている。
「どうせあっちに帰ってもろくな目にあわないだろうし。」
「まぁ、確かに……」
「良いのか? ボクはその気になれば人だって食べるよ?」
オストガロアが話に割り込んできた。
「おや。今の料理食べてもまだ血塗れの生肉を食べる生活に戻れるの?」
「え? まさか今のが毎日食べれるのか!?」
「勿論。クエスト手伝ってくれたらね」
「本当に? あのものすごく美味しい焼いた肉も?」
「うん」
「美味しい液体に入ってる細いやつも?」
「うん」
「生肉の下に虫をしいた美味しいやつも?」
「うん」
「よろしく相棒!!」
オストガロアは檻の隙間から手を伸ばしてくる。
「よろしく」
ワスレナはその手を握り返した。
(相棒はオレなんだが……)
「やったー! 更に賑やかになるね!」
(なんなのこの人……)
檻から出たオストガロアはワスレナの傍に寄った。襲いそうな気配は全くない。
「じゃあ、そういう事で。オストガロアはライダーが引き取ったって報告しておいて下さい」
「わ、わかった。もし何かあったらすぐハンターに連絡してね」
「大丈夫ですよ。形はどうあれ、絆は確かに結べてますから」
レープを乗せた飛行船はギルデカランを飛び立った。
「ねぇ、君はどう呼べばいいの?」
「僕の事は好きに呼んでいいよ」
「じゃあ……相b」
「それはダメ。相棒はこのオレ一人だ」
「む……じゃあ、名前で呼びたい」
「良いよ。ワスレナって呼んで」
「ワスレナ……」
「そう。君の名前は帰ったら決めようね」
「ボクの?」
「うん。新しい仲間だからね」
「仲間……!」
オストガロアの表情が明るくなる。
「さ、帰ろうか。家は少し離れた所にあるから、ネコタクを使うよ」
ワスレナはオストガロアの頭を撫でる。新たな絆が、ここに生まれた。
ライダーの名前の由来は、勿忘草から。花言葉に「真実の友情」というのがあるからチョイスしました。
あ、次回から主人公二人復活です