白海竜と歩む道   作:よっしー希少種

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14.黒に染まる原生林

「知らないよ。そんなの」

 

 原生林にやってきたセアとラルアは二手にわかれ、ゴア・マガラを探した。そしてセアが、散歩中のゴア・マガラを見つけ、例のモンスターについて話を聞いてみた。しかし、全く覚えがないようだ。

 

「そっか。ありがとう」

「ご、ごめんなさい……。せっかくここまで来たのに私、何にも知らなくて……」

「良いんだよ。気にしないで」

「そ、そうだ! ここら辺に痕跡なら、私探し出せるよ!」

「本当? どうやって?」

「原生林一帯に鱗粉を撒いて……触角で……」

「え、遠慮しておく……」

「ごめんなさい……」

「気にしなくていいってば。……確かに痕跡はあるかもしれないね。探してみるよ」

「頑張ってね、ハンターさん」

「うん。ありがとう」

 

 セアはゴア・マガラに手を振ってその場を後にした。セアを見送ったゴア・マガラは再び散歩を再開した。

 

「……ん? なんかいい匂いする」

 

 ゴア・マガラは匂いのする方へ向かった。触角を立て、よく探す。匂いの元はキノコだった。

 

「キノコ……こんなにいい匂いするっけ?」

 

 触角から得られる情報だけ見れば、なんの変哲も無いただのキノコだ。

 

(なんか……この匂い嗅いでたら無性に食べたくなってきちゃった……)

 

 ゴア・マガラはキノコを……金色の鱗粉がかかったキノコを口に運んだ。

 

 

 セアがゴア・マガラから話を聞いている頃……ラルアは水浴びをしていた。

 

「あぁ……原生林の水気持ちいい……セアに見つかったら滑って落ちたことにしよ」

 

 地図に記された場所で言えばエリア3にある狭い水溜まりで水浴びをしている。元居た海に比べたら全然狭いが、最近自然の中で水に浸かる機会が無かったラルアにとっては、これでも満足出来た。

 

(……服脱ぎたいな。広がったスカートの中に魚入ってきてなんかやな感じするし。でも……脱いだら滑って落ちたって言い訳が使えなくなる)

 

 なんて事を考えながら、空を見上げる。木々の間から差す木漏れ日が美しい。ぼーっとしていると、何か大きなものが落ちてきた音が響いた。ラルアは咄嗟に水中に身を隠す。

 

(びっくりした……何、今の音)

 

 水中から目の辺りまで出し、周りを見る。そこに居たのは、ジンオウガだった。

 

「ぐる……くぅん……」

(ジンオウガ……でも、角や爪はボロボロだし、もう瀕死だ。ハンターが居るのかな?)

 

 直後、再び大きなものが落ちる音が辺りに響く。

 

「ひいっ! 今度は何!?」

 

 水しぶきの中から現れたのは、四つの大きな脚を備えた何か。

 

(……人? 違う、人化症か)

 

 緑のアーマーで武装した人間の姿がそこにあった。腰からは四本の脚と、先端が挟みのようになっている尻尾が生えている。四本の脚がメインなのか、そっちで動いていて、人間の体の方は宙ぶらりんの上体になっている。よく見ると、背中に一人、同じく緑のアーマーで武装した人間を背負っているようにも見える。

 

「目標視認……排除する!」

 

 前傾姿勢になると、背負っている方のアーマーから生えている角のような部位をジンオウガに向けた。

 

「「セルタスドライバー!!」」

 

 そして四本の脚で地面を揺らしながら突進。角はジンオウガの腹部を貫いた。

 

「ぐぎゃあぁぁ…………」

「対象の沈黙を確認。超電雷光虫の採取を開……」

 

 ジンオウガが絶命すると同時に、背中にいた雷光虫は全て飛び去ってしまった。

 

「……」

「……」

「……バッテリー残量0%。アーマーの活動を停止する」

「どっ……どどどどうしよう! 何か電気、電気になるもの!!」

「ある確率0.001%……」

「ぐ……とりあえず、また僕のバッテリー繋ぐから……」

「あ、あの……」

 

 ラルアが声をかけると、二人は一緒にラルアの方を向いた。

 

「一応私……電気出せるよ?」

 

 

「助かったよ……」

「感謝する」

「えへへ……どうも」

 

 バッテリーに繋がるコードを持ちながら、放電を続ける。充電中に自己紹介は済ませており、四本の脚を備えた方がゲネル・セルタス、背中に乗っていた方がアルセルタス、だそうだ。

 

「充電100%。しかし、ここにラギアクルス亜種がいるとは。想定外だ」

「本当、ラッキーだったね。あ、ついでに僕の予備のやつも充電頼める?」

「良いよ」

 

 アルセルタスは小型のバッテリーを複数個出てきた。

 

「ありがとう。ゲネルの方はめちゃくちゃバッテリー使うから予備がないとダメなんだ」

「あれ? これあなたのじゃないの?」

「僕のだよ?」

「??? どういうこと?」

「ゲネルのバッテリーは大きいから持ち運びが困難なんだ。でも、僕のは小型ので済むから、僕は予備を持ち歩く、ゲネルは僕のバッテリーから充電する。終わったらバッテリー変えるってやり方で長時間の戦闘も可能にしてるんだ」

「へぇ……。ところで、さっきからバッテリーとか充電とか……あなた達って機械なの?」

「違う、今は人間に近いよ。ほら」

 

 アルセルタスがアーマーを脱いでみせた。中からはインナー姿で背中に薄い羽が付いている少年が現れた。

 

「ゲネルの方も同じだよ」

「うむ」

 

 ゲネル・セルタスもアーマーを脱ぐ。インナー姿で、畳んだ四本の脚と大きな尻尾を備えた女性が現れる。

 

「その脚? と尻尾はそのままなんだ……」

「そうだ」

「重くないの?」

「重い。だからアーマーに補助してもらう事で動作をスムーズにしている」

「なるほど……」

 

 二人は再びアーマーを身に付けた。

 

「ありがとう。そうだ、何かお礼しないとね」

「いいよいいよ。見返りなんて求めてないし」

「いやでも……」

 

 二人の会話を遮るように、咆哮が辺りに木霊する。

 

「な、何!?」

「付近に高濃度の狂竜ウイルスを検出……生身だと危ないぞ」

「狂竜ウイルス……ゴア・マガラか」

「君、ここに居たら危ないよ。いくら人間の姿になったとしても本質はモンスターだ。狂竜ウイルスを吸い込めば狂竜化しちゃうよ」

「でも、行かなきゃ……ここに来た目的はゴア・マガラなんだし」

「死にに行く気か!?」

「あの濃度の狂竜ウイルス……元凶が普通の状態じゃない可能性97%。退却を推奨する」

「……なら尚更だよ!」

 

 アルセルタスとゲネル・セルタスは顔を見合わせた。

 

「そこまで言うなら、止めはしない。ただ、今の状態でゴア・マガラに接触して狂竜化する確率は98%。狂竜ウイルス対策等の準備を強く推奨する」

「……わかった」

「準備は僕らも手伝うよ。その方が早く終わるからね」

「ありがとう」

 

 三人は咆哮が聞こえた方と逆の方へ走っていった。

 

 

 陽の光をも遮り、辺りを暗くする量の鱗粉を撒き散らしながら、ゴア・マガラは獲物を探す。彼女の周りは、狂竜ウイルスを吸い込み、そのまま死んでいった小型のモンスター達の骸が転がっている。

 

(こんなの見た事ない……中に居るだけで狂竜症が進みそうだ)

 

 セアは岩に身を隠しながらゴア・マガラを観察する。狂竜ウイルスはドームのように拡散しており、濃度が濃く、外から中の様子を伺うことは出来ない。

 

(とりあえずラルアと合流だな。撤退も視野に入れて話し合おう)

 

 セアがその場を離れようとしたその瞬間、パキン、と足元で何かが鳴った。落ちていた小枝を踏んでしまったようだ。咄嗟に振り向き、狂竜ウイルスの方へ意識を向ける。

 

(……来る!)

 

 紫の霧から現れた黒い影はセアに迫り、その赤黒い爪ですれ違いざまに引き裂こうとした。セアは盾で防いだが、あまりの強さに大きく仰け反る。

 

「やっぱり……あなたなんだね」

 

 セアの前に現れたのは、さっき会話したゴア・マガラ。額からは二本の触角が伸びており、髪に隠れていた赤い目が顕になっている。背中から生えている翼脚は展開し、そこから紫の鱗粉、狂竜ウイルスが放出されている。

 

(大人しくさせるしかないか……)

 

 セアは武器を構える。

 

「……シャアァァァァァ!!!!」

 

 ゴア・マガラが咆哮と共に狂竜ウイルスを一気に拡散する。辺りは紫の霧に包み込まれてしまった。

 

(まずい……ウチケシの実……)

 

 ポーチの中からウチケシの実を取り出し、食べようとするが、体に異変を感じ、手が止まる。

 

(あれ……まさか……)

 

 体内がじわじわと痛む。セアはこの感覚に覚えがあった。

 

(これ、狂竜症の時に更に狂竜ウイルスを吸った時と同じ……。まさか、今の一瞬で発症したの!?)

 

 狂竜症は、ウイルスを吸い込んでからしばらくして発症する。発症までにモンスターに攻撃を複数回与える事で克服出来るのだが、今回は即座に発症してしまった。それくらい、放出された狂竜ウイルスの濃度が高いのだろう。狂竜症を発症してしまえば、ウチケシの実は無意味。かつ、狂竜ウイルスを吸い込めば体を蝕まれてダメージを受けてしまう。

 

(ここに居たら死んじゃう……早くここから出ないと)

 

 セアは口元を抑えながら辺りを見回す。霧が濃くて視界は悪いが、とにかく逃げるしかない。しかし、ゴア・マガラも黙って逃がすわけがない。セアに向けてブレスを放ち、追撃してきた。セアはかわしながら逃げ続ける。しびれを切らしたのか、セアを捕まえようと走ってきた。人間の脚と、モンスターの翼脚が地を蹴りながら迫る。

 

(まずいか……)

「「セルタスドライバー!」」

 

 捕まる寸前、ゴア・マガラに向かって何か大きなものが迫り、そのまま体当たりした。ゴア・マガラはそのまま壁と何かに挟まれて身動きが取れなくなる。その様子を見ていると、何かに手を掴まれた。ラルアだ。

 

(ラルア!)

 

 ラルアは手を掴むと、強引に引っ張りながら走り出した。背後から、鋭い爪が金属を引っ掻く音が聞こえる。ラルアは全く気にする様子を見せず、ただひたすらに走った。そしてついに、狂竜ウイルスの霧を抜けた。

 

「はぁ……抜けたか」

「ありがとうラルア。助かったよ……」

「間に合って良かった……。さ、今のうちに回復して……」

 

 霧を抜け、安心していた二人の頭上を大きな影が舞う。

 

「くっ……かなり凶暴だな」

「頭部損傷……これ以上霧の中で戦闘を継続するのは不可能……」

「二人とも……」

「……来るぞ、避けて!!」

 

 霧の中からゴア・マガラが姿を現す。その翼爪はラルア達を狙っていた。ラルアはセアを押し倒すようにして攻撃を避けた。

 

「来たか。しかし戦闘は危険と判断。撤退を強く推奨する」

「ゲネルの言う通り。ここは引こう!」

「わかった。セア、走れるね?」

「うん!」

 

 ゴア・マガラに背を向け、四人は逃げ出した。しかし、ゴア・マガラもしつこく追いかけてくる。

 

「やばい……速い!」

「このままじゃ……」

 

 段々の距離を詰められ、遂に攻撃が届く間合いになった。限界か……そう思った次の瞬間、何かがゴア・マガラに襲いかかった。

 

(……なんだ!?)

 

 現れたのは、右半身は白、左半身は黒の服を着ている人化症のモンスターだ。ゴア・マガラと同じ構造の翼を有しており、触角は右だけ立っている。シルエットだけならゴア・マガラにそっくりだ。それはゴア・マガラの触角を噛みながら拘束、そして翼脚で頭を叩きつけて気絶させた。ゴア・マガラの触角は縮み、翼脚も畳まれた。

 

「すまない。我が妹が迷惑をかけたようだ」

 

 ゴア・マガラを襲ったモンスターは少年の姿をしていた。

 

「えっと……あなたは?」

「ほう。貴様、我が真名に興味があるようだな!」

(あ……めんどくさいタイプかな?)

「良いだろう! よく聞くがいい! 我は天界の光と冥府の闇を身に宿す異形の黒蝕竜! その名も『渾沌に呻くゴア・マガラ』だ!!」

「「「「…………」」」」

 

 辺りに風の音が響く。

 

「なるほど、感想が出ないくらい驚いたのか……」

(ポジティブだな)

「して、貴様らは何故我が妹に襲われていたのだ?」

「わからない……」

「ふむ……妹は大人しい性格だ。あれだけ荒ぶるとなると何か原因がありそうだが……」

 

 渾沌ゴアはゴア・マガラに近付く。

 

「……む?」

「何かあった?」

「いや、妹の口の周りに金色の粉があってな。さては何か食べたな」

「金色の粉…………待って!」

 

 セアは渾沌ゴアの手を引いてゴア・マガラから離した。

 

「な、何をする!」

「その粉だよ原因!」

「意味がわからんぞ! 我にもわかるように説明してくれ」

「わかったわかった。あれは……」

 

 セアは渾沌ゴアに金色の鱗粉について話した。

 

「なるほど。それで我が妹を尋ねたと。で、話が終わり、しばらくしたら襲われた……か」

「そういうこと。あなたも何か知ってる事ない?」

「残念だが全く知らない。……もしかしたらシャガル姉様なら……」

「知ってそう?」

「あぁ。姉様は人間の姿になってからというもの、毎日のように禁足地を離れてあちこち飛び回っていてな……故に、何か知ってる事があるやもしれん」

「じゃあ次は禁足地か……」

「待て人間。貴様らハンターの仕事は狩りだろう。本業を放ったらかしてて良いのか? 荒ぶるモンスターに立ち向かえるのは貴様らハンター以外に居ないだろう」

「でも……情報……」

「安心しろ。我らが手伝う」

 

 渾沌ゴアの提案にセアは目を丸くした。そうくるとは思っていなかったからだ。

 

「いいの?」

「妹が迷惑をかけたからな。詫びだ」

「……ありがとう」

「礼には及ばん」

「じゃあ、情報収集はお願い」

「任せたまえ! 貴様らにも天界の神と冥府の主の加護があらんことを!!」

 

 セアとラルアはとりあえず帰還した。

 

「そういや、あの二人は?」

「飽きて帰った」

「あぁ……」

 

 後日、龍歴院にやたら賑やかな黒蝕竜が現れたのは言うまでもない……




渾沌マガラの中二病を書きたくて書いたまである。そんなお話でした
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