「……だから、たぶんこのもんすたーは……」
「ガムート、眠いなら寝ていいんだぞ」
龍歴院内の一室を借り、四天王は例のモンスターの情報を集めていた。現状、一番接触したのがこの四天王の面々だからだ。
「ねむくない……」
「嘘つくな。文字書けてないし」
ガムートが筆を走らせた後には、文字とは呼べない何かが書かれていた。戦力として、凶暴化したモンスターの沈静化にも駆り出されているため、疲れが溜まってきているのだろう。
「疲れてるんだろ? 少し休めって」
「や……」
「……ったく」
ディノはガムートを抱えた。
「な、何……」
「寝る時間だ」
そしてソファに寝かせると、すぐ側にあったタオルケットをかけた。
「自分の身体も大事にしろよ。今は俺達にまかせて、ゆっくり休め」
そう言いながらガムートの頭を撫でる。間もなくして、ガムートは眠りについた。
「ただいまー」
「お、戻ったか」
入り口からゼクスとミツネが入ってくる。
「あれ、ガムちゃん寝たの?」
「寝かせた。あまりにも眠そうにしてたからな」
「そっか」
「何か情報は掴めたか」
「全く……」
「こっちは一応あるよ」
「ゼクスはあるのか。じゃあ纏めるか」
三人はテーブルを囲んで座った。
「それで、情報って?」
「最近、人化症のモンスターに限った話だけど、ここいら辺には生息していないモンスターの発見報告が相次いでる」
「……例えば?」
「断裂列島のジンオウガ不死種……は、結構前から居たか。それ以外にもナルガクルガ烈水種、タマミツネ雷泡種とかも確認されてる」
「ほぉ」
ミツネのヒレが少し動く。どうやらまだ見ぬ近縁種に興味があるようだ。
「他には、ちょっと離れた地域にいるモンスター達もここら辺に来てる。私が話聞いたのは……なんだっけ? アケノナントカって言ってたかな」
「後で調べとくか。で、そいつはなんて言ってたんだ?」
「話を聞いたんだけど、『呼ばれてる気がしたから来た』だってさ。他のもみんなそう言ってる。呼ばれてるって、誰になんだろうね」
「……あいつの可能性は?」
「あー……あるかもね」
あいつとは例の鱗粉を撒き散らすモンスターの事だ。未だに名前は決まっていない。
「だとしたら泳がせる? もし本当にあいつが呼んでるなら、探すのに役立ちそうだし」
「でもさ、あいつにそんな能力あると思う?」
「あるんじゃない? 古龍だとしたら……ね」
「……古龍なら有り得る話だね」
「まだ不確定要素が多い。こっちに現れた外部のモンスター達の行動にも注意しつつ、例のモンスターも探す必要がある」
「だね」
「はぁ……まだまだ道は長いかぁ……」
三人は書類を纏め始めた。その時だった。
「ハッハッハァ!! 天界の光と冥府の闇をその身に……」
部屋のドアを勢いよく開け、渾沌ゴアが入ってきた。その瞬間、喉元に青い刃が突きつけられた。
「ひょ……」
「静かにしろ……子ど……っ、仲間が寝てるんだ」
「……ごめんなさい」
渾沌ゴアは申し訳無さそうに頭を下げた。
「で、何の用だ」
「あぁ、今日はある情報を届けに来たよ」
「……ねぇ、なんか最初の勢い消え去ってない?」
「ディノにビビってるんだよ。てかあれ、キャラ作ってたんだ……」
ゼクスとミツネがヒソヒソと話す。それを気にすることなく、渾沌ゴアとディノは会話を続けた。
「ある情報? なんだ?」
「例のモンスターについてだよ」
*
「……だとしたらアレが元凶で間違いないか」
「多分な」
渾沌ゴアの言ったことを紙にまとめる。骨格はキリン種に近く、黄色の身体に、横に伸びた角、さらに背中には翼のような薄い膜があり、そこから鱗粉を撒き散らす……ここまでは四天王も把握していた。新たに得た情報は、攻撃により簡単に皮膚が傷付くくらいには身体が弱いこと。近くには多くの凶暴化したモンスターが居たこと。しかし、例のモンスターには見向きもしていなかったこと。さらに……
「周りに複数体の人化症のモンスターか……もしや俺達がこの姿になったのも奴が関係してるのか?」
「恐らくな。我も話を聞いただけだから断定は出来ん。シャガル姉様に来てもらうのが一番だったが……生憎他のモンスターとの戦いで傷を負っていてな」
「治り次第詳しく話を聞くか……」
ディノは資料を重ねて纏めた。
「ありがとう。有力な情報だった」
「ふっ……いつでも我を頼るがいい」
立ち上がり、帰ろうとする渾沌ゴアを
「ち、ちょっと待って!」
ゼクスが呼び止めた。
「何かね?」
「あなたのお姉さん? って、シャガルマガラだよね」
「そうだが?」
「シャガルマガラって古龍種だよね……」
「そうだが?」
「ゼクス、どうした」
「いや、古龍ってさ、狂竜化しないじゃん?」
「しないというか、報告はゼロらしいな」
「それに、別の地域で起こった黒の狂気の時だって、古龍の凶気化の報告は無かったんだよね?」
「……何が言いたいんだ?」
「今回の件、古龍にも影響が出てる。だから多分……狂竜ウイルスとかよりも生態系に与える影響は大きいと思う。今はまだ報告数は少ないけど、段々増えてきてるし……このまま人化症を放っておけば、今の生態系は必ず崩れる……」
「……」
「……」
「調査、急ぐか」
「同意だ。我も全ての縁を使い、情報収集を進める」
渾沌ゴアは窓から飛び立った。
「ありがとうゼクス。良い着眼点だよ」
「……うん」
「だとしたらハンター達にも調査を依頼するか。申請してくる。少し空けるぞ!」
そう言ってディノは部屋を出た。
「……」
「忙しくなりそうだね」
「うん……」
「頑張ろっか」
「うん……」
「……さては余計な事考えてるね?」
「……!!」
「はい図星。大丈夫、聞かないよ。ただ、もし一人で抱えきれないと思ったら誰かに相談しなよ?」
「ミツネ……」
「悩みは枷になる。抱え込むと色んなことに支障をきたすからね」
「……」
「……もし私に話したいなら寝る前に来ていいよ。誰にも言わないからさ」
「うん……ありがとう」
ゼクスは目元をグイッと拭うと、ミツネを見て微笑んだ。
「よし! まず今は資料集めだ!」
「うん! 手伝うよ」
*
数日後……
「緊急クエストだ……。久しぶりだなぁ」
クエストボードに緊急クエストが貼りだされ、ハンター達が集まっている。クエストの要項を確認したハンター達は、クエスト受注後、準備をして次々と出発していった。そしてようやく、セア達もクリストボードの前に来る事が出来た。
「後ろつっかえてるから手早く読んでね」
「わかってる。えーっと……」
『広まりを見せているモンスターの凶暴化と人化症。これの原因と思われるモンスターを確認した。ハンターズギルドはこのモンスターを「変異龍 メタドラス」と命名。ハンター各員は至急各地に赴き、メタドラスの調査に務めよ!』
「これ……」
「なるほど。そろそろ原因解明か。レープ、先に出発口で待ってて。受注してくる」
「はーい」
セアはクエストカウンターに向かうと、クエストを受注した。
「ラルアは待ってて」
「え? なんで!」
「なんでって……凶暴化の元凶だよ? ラルアはモンスターだから、影響を受けるかもしれない……」
「でも……」
「ついてきたい気持ちは分かるけど、ごめん。ラルアは連れて行けない……」
「……分かった」
ラルアは少し悲しそうに俯いた。元凶の情報が出たというのに、何も出来ない自分が不甲斐なかった。
「あー居た。おーい、ラギアクルス亜種の娘ー!」
二人の背後から声が聞こえる。そこに居たのは四天王の一人、ゼクスだ。
「あなたは四天王の……」
「やっぱりここに居たんだ。ハンターさん、この娘借りてもいい?」
「え?」
「多分、緊急クエストには同行出来ないでしょ? だからさ、情報整理の手伝いしてもらいたくて。どうかな?」
「やる!」
「そ、即答!?」
ラルアの返事の速さに驚きつつ、ラルアに笑いかける。
「助かるよ。人手は多い方がいいからね。さ、そうと決まればすぐ行くよ!」
「え、すぐ?」
ラルア達が居るのは龍識船の集会酒場。一方、情報の整理は龍歴院で行われる。龍識船はハンターの派遣の為にしばらく着陸の予定は無いはずだ。
「すぐ。ほら、掴まって」
ゼクスが背中を向けた。乗れ、という事なんだろう。
「やっぱりそうなんだ……」
ラルアはゼクスの背に乗り、肩を強く掴んだ。
「じゃ、ハンターさん。緊急クエスト頑張ってね。なるべく多く、そして質の良い情報を頼んだよ!」
「うん、任せて」
「じゃあ私達も行こう!」
「ちょっ、まだ心の準備が……」
ゼクスは前腕の翼を広げると、集会酒場の外に向かって走り、そして飛び降りた。
「いやああぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁ!!!!???」
ラルアの悲鳴が段々遠くなり、聞こえなくなった。
「……大丈夫かな」
情報の整理が出来るか、ではなく雲の上からの飛び降りにラルアが耐えられるかが不安だった。飛竜が一緒だし大丈夫だろう、と自分に言い聞かせ、セアもクエスト出発口に向かう。
「悲鳴が聞こえたけど……」
「大丈夫。多分……」
セアとレープの二人も飛行船に乗り、龍識船を後にした。
「この船ってどこ行き?」
「私が受注したのは古代林だよ。だから、古代林行きだよ」
「そっか」
「そういや、そっちのフーちゃんどうしたの?」
「龍歴院の方に預けてきた。何かしら役目は貰えると思うし」
「なるほど」
そんな事を話している間に、古代林の近くに来る。万が一に備え、武器を担いで立ち上がる。
「そろそろか」
「よし、頑張ろう!」
古代林での変異龍の調査が始まる。
ゼクスとミツネの話はいつか書きます