さっきまで居た場所とは違う、少し暖かい場所でフーは目を覚ました。植物の匂いが強く、また、柔らかい物の上にいることから、ベースキャンプに居ると考えた。
(あれ……私……)
パチパチと火が弾ける音が聞こえる。一瞬、さっきまで雪山を彷徨っていたのは夢だったのではないかと思った。しかし、右腕の痛みで夢でない事を確信する。
「ん……」
体を起こす。何かフワフワした布のようなものが体にかかっていたようで、それが体から滑り落ちる。直後、風が直に肌を撫でるのを感じた。
「え……服、どこ……」
どういう訳か、着ていた服が全て脱がされていた。どこにあるのかも分からない。
「あ、起きた?」
テントの外から声が聞こえる。落ち着いた少女の声だ。
「うん。あの……服……」
「乾かしてる。それより、体温低い。これ飲んで」
少女はフーの前に立ち、液体が入った瓶を渡す。フーは手探りで瓶の開け口を探した。
「見えないの?」
「うん……」
「わかった。貸して」
少女はフーから瓶を取ると、蓋を開けた。香辛料系のツンとした匂いが鼻腔を刺激する。
「何それ」
「ホットドリンク。熱くて辛い。飲んだらポカポカ」
少女はフーの口に瓶を近付ける。
「はい、あーん」
「え、待って……!」
フーは少女の手首を掴んで止める。
「辛いのも熱いのも……苦手だから」
「でも、飲まなきゃ死んじゃう」
「毛布で暖まるから……」
「ダメ。飲んで」
「いや……」
「良薬口に苦し。飲んで」
「……」
首を横に振る。すると少女は小さくため息をついた後、フーをベッドに押し倒した。そして体に跨る。
「え……え……?」
「こうなったら実力行使。無理やり飲ませる」
「待って、本当に……」
「つべこべ言わない。あーん」
無理やりホットドリンクを口の中に流し込まれた。口内が火傷しそうな熱さと、涙が出るくらいの辛さがフーを襲う。
「う……ケホッ、うぅ……」
「お疲れ様。ちゃんと飲めて、えらい」
少女はフーの頭を撫で、涙を指で拭った。
「ポカポカするでしょ?」
「うん……」
(舌、ヒリヒリする……)
ホットドリンクの効果は抜群。毛布を羽織らなくても全く寒さを感じない。
「私の友達、薬草取りに行ってる。待ってる間、お話しよ」
少女はフーの隣に腰掛けた。
「うん。いいよ」
「ありがとう。あなた、名前は?」
「フー。フルフルだよ」
「へー。フルフル。私、キリン」
「キリン……? キリンって」
「幻獣キリン。人間がそう呼んでる」
幻獣キリン。古龍種に分類されるモンスターで、雷を扱う力を持つ。小柄だが、それ故に俊敏で、怒り時には体の一部が硬化する能力もある。
「あなた、なんで雪山歩いてたの? 吹雪だったよ?」
「あるモンスターを探してた」
「なんて名前?」
「メタドラス……」
「知らない」
「新種だもん。黄色い体で、背中に翼みたいな膜があって……」
「あ、知ってる」
「え?」
「見たことある」
「それってどこで……」
聞こうとしたその時、強い風が二人の間を抜けていった。鉄のような匂いもする。
「来た。友達」
「お、起きたんだ。いつ起きた?」
「さっき。ホットドリンクは飲ませた」
「オッケー。気分はどう?」
キリンよりも大人びた感じの女性の声だ。
「悪くはない……」
「良かった良かった。じゃあ、今から薬草すり潰して傷口に塗るね。ちょっと痛いかも」
「クシャル、自己紹介しなきゃ」
「あ、そうだね。はじめまして、私はクシャルダオラ。鋼龍クシャルダオラだよ」
「クシャル……ダオラ…………」
鋼龍クシャルダオラ。鋼のような硬い鱗に身を包む古龍。風を操る力を持ち、竜巻や風の塊を使って攻撃を行う。脱皮を繰り返して成長するという生態がある。脱皮直後は全く酸化していない純白の鱗に包まれた姿を見れるとか。
クシャルの自己紹介を聞き、フーはガチガチに緊張してしまった。何せ、自分の周りに古龍種が二人も居るのだから。
「そんなに緊張しなくていいよ。同じモンスター同士、仲良くしようよ」
「うん。仲良くしよ」
「う……はい……」
クシャルはフーの右腕に薬草を塗った。少しづつ、傷が癒えていくのを感じた。
「しかし、真っ白な肌だね〜」
「綺麗」
「それに、あなた……なんか体付きが不思議だね。その……裸なのに男か女かわからないからさ」
「フルフルだから、多分無性」
「あ、フルフルなんだ。どうりで」
「う……うぅ……」
(古龍に囲まれてる……帰りたい……)
古龍という格上の存在に囲まれている事に精神的に耐えられなくなる。
「な、なんでそんな怖がるの? 大丈夫だってばー!」
「……そもそも、古龍、他の竜にとっては怖い存在。かも」
「そ、そう……?」
「怖い……かも……」
「やっぱり。クシャル、竜巻起こす。みんな怖がる」
「な……キリンだって雷落とすじゃん!」
「あれは自衛。無闇矢鱈に落とさない」
キリンはフーの顔を覗き込む。
「怖いよね。ごめんね」
「ううん……」
「怪我も大丈夫そうだし、お家、帰りな?」
「それがいいよ。なんなら、送ってあげてもいいよ」
「本当?」
「うん。疲れてるでしょ?」
「ありがとう……」
「じゃあ、お家教えてくれる?」
「えっとね……」
*
マイハウスの中でレープはずっとウロウロしていた。探せる場所は全て探した。後は狩場くらいしか場所はない。
「フーちゃん大丈夫かな……お腹空かせてないかな……怪我してないかな……」
心配で眠ることも出来なかった。
「探しに行こう……会えるかはわからないけど、じっとしてられない」
装備ボックスの中から真名ネブタジェセルを取り出し、マイハウスを飛び出した。外に出た瞬間、強い向かい風がレープを襲う。
「風強……」
「ん、保護者?」
「え?」
目の前にはいつの間にか少女が立っていた。ファー付きの白いコートを羽織っており、コートの下の服はミニスカートにへそ出しと、なかなかに露出度が高い。赤い瞳と綺麗な水色の髪、額からは一本の蒼角が生えている。
「あなた、フルフルの保護者?」
「フルフルって……フーちゃん!?」
「うん。保護者?」
「保護者保護者! フーちゃんは?」
「今来る」
少女の横に風を纏う影が降り立つ。黒銀色の甲冑のような服を着ており、同じ色の翼と尻尾、さらに頭の後方に伸びる角が付いている。
(人化症のモンスターだ……でもこれってまさか……)
「着いたぞ。しかし、まさか人間と同居とはね……」
背後からフーが顔を出す。レープの匂いに気付くと、まっすぐレープに走っていった。
「レープぅ……」
「フーちゃん! 良かった、無事だったんだね」
「ごめんなさい……一人で、何も言わずに……」
「大丈夫だよ。フーちゃんが無事ならそれでいいの!」
レープはフーの頭を撫でて慰めた。
「よし、無事に届けたな。帰るぞ」
「もう?」
「私が人間嫌いなのわかるだろ」
「はいはい。じゃーね、フーちゃん」
「ん……ありがとう」
「ま、待って! あなた達は!?」
少女は振り返って答えた。
「私はキリン。あなた達がそう呼ぶ存在」
「……」
「こっちはクシャルダオラ。人間が嫌い」
「言うな。ほら、帰るよ」
クシャルは翼を広げ、飛び立った。そしてどこかへ飛んでいってしまう。
「……私も帰るね」
パチン、とキリンの角に電気が走る。
「さよなら。でも、またいつか会うかもね」
「!」
辺りに白い稲光が満ちる。レープは思わず目を覆ってしまう。次に目を開けた時には、既にキリンの姿は無かった。
「人間の姿になっても古龍の力は健在か……」
レープはフーをギュッと抱きしめた。
「レープ……今日は一緒に寝よ」
「うん。そうしよっか」
二人はマイハウスの中に入った。その日のベッドは少し狭かったが、とても温かかった。
*
「クシャル、あの娘の話……」
「わかってる。私をこんな姿にした奴だ。放ってはおけない」
「うんうん。もしハンターとそのモンスターが戦う時は、私達も加担しなくちゃね。私達、鱗粉の影響無いみたいだし」
「……覚悟決めたいから時間欲しいな」
「なんの覚悟?」
「人間なんかと共闘する覚悟」
「変なの。でも、そんなに時間は無いかもよ」
「私もそんな気がするよ」
「やっぱり?」
「うん」
「じゃ早く覚悟決めて」
「はいはい……」
キリン系はどうしてもキリン装備ベースな格好にしたくなるんですよ。この現象……何