さざ波の音が聞こえる。それで目が覚めてしまった。
(あれ……ここは?)
体を起こすと、そこは洞窟の中だった。近付くには大きな水溜まりがある。そこから外に出れるようだ。
(出てみようかな)
水に潜って洞窟から出る。体を撫でる水は冷たく、心地よい。
(なんだろ……すごく懐かしい感じがする)
水面から出て陸に上がる。辺りは真っ暗で、月明かりだけがうっすらと夜を照らしていた。波の音と、自分の足音以外、何も聞こえない静寂な空間。
(これも、覚えてる。落ち着くくらい、懐かしい……でもなんで?)
ふと、他の何かの足音が聞こえた。視線を送ると、そこにいたのは一人の人間。龍歴士装備に身を包み、デスレストレインを携えたハンターだ。
(セア……セアだ)
「……見つけた」
ハンターは武器を手に取ると、青色の刃薬を武器に塗った。
(セア……な、何してるの?)
「ここで狩る……ハンターの誇りにかけて!」
盾と剣を擦り合わせ、摩擦で点火。剣は淡い青色に輝いている。
(セア! な、何で!! 私が何をしたって言うの!!?)
「グルアァァァァァ!!」
訴えかける声は、竜の咆哮となって辺りに響く。ハンターは思わず耳を塞いでしまう。
(え……)
思わず、足元を見る。水に映ったのは、白い甲殻に身を包んだ一匹のモンスター。そう、白海竜ラギアクルス亜種だ。
(な、なんで……?)
「はあぁっ!」
顔を上げると、そこには武器を振り上げたハンターの姿があった。
*
「…………っ!!!??」
ラルアは布団から飛び起きた。周りは真っ暗で、明かりはついていない。自分の呼吸は荒く、汗が額から落ちるのがわかる。
「ゆ……め…………?」
恐る恐る自分の手を見る。人間の少女の手がそこにあった。夢であった事の安心感から、大きなため息が出た。
しかし、不安感はまだ拭いきれていない。セアが眠っているであろうベッドを見てみたが、そこにセアは居なかった。
「セア……まだ帰ってないの……?」
ラルアは布団にくるまった。妙にリアルで、現実味のある夢。あの光景ははっきりと頭の中に残っていた。
(もし……もし元の姿に戻ったら、私は……セアに狩られちゃうのかな……)
(セアは……私だってわからなくなるのかな……)
(そんなの……そんなの…………)
「いや……だよ……」
零れた声は震えていた。視界が滲んでくる。ラルアは枕に顔を埋めて静かに泣いた。この日常が壊れる可能性だってある。それを知ってしまったようで、怖くなった。そもそも、この生活自体、モンスターにとっては異常なことだ。人間と同じ姿で同じ生活を送る。この生活を知った上でまた野生に帰れるかなんて、そんなのわからない。
(怖い……怖いよ……誰か……)
「はぁー……疲れたぁ」
玄関の方から声がする。聞き慣れた、安心する声。
「ラルア、寝たかな?」
間違いなく、セアだ。ラルアは布団から飛び出すと、セア目掛けて走った。
「あ、ラルア……」
そして強く抱きついた。
「!? ど、どうしたの?」
「セア……怖い、怖いの……」
「怖い? 何が怖いの?」
責めるような言い方じゃない、柔らかく優しい問いかけだ。でもラルアは、何が怖いか答えられなかった。ただセアに抱きついて泣く事しかできなかった。
「……大丈夫。無理に話さなくてもいいよ」
セアはラルアの頭を撫でながら宥めた。
(怖い夢でも見たのかな? とにかく、落ち着かせなきゃ)
「よしよし、もう大丈夫だよ。怖かったね……」
「うん……」
「一緒に寝よっか。ね?」
「うん……」
セアは防具を脱ぎ、ラルアをなだめながら一緒にベッドに入る。少し窮屈だが、気にしてられない。
「セア……」
「ん、何?」
「これからもずっと一緒……?」
潤んだ目でセアを見る。その目から、不安と恐怖が読み取れた。
「勿論。何があっても一緒だよ」
「……ありがとう」
ラルアは微笑むと、安心したのか、眠りについた。セアも眠りにつこうと目を閉じる。
(ずっと一緒……か。本当、どんな夢を見たんだろ……)
*
翌日。ラルアは昨晩よりはマシになったが、いつもと比べると少し元気が無かった。
「ラルア、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
そう言って見せた笑顔も、無理やり作っているように見えた。セアだってやりたくなかったが、ラルアに元気が無いことについて、追求してみた。しかし、返ってくるのは「大丈夫」「気にしないで」だけ。追求し過ぎるのも可哀想になってくるから、セアも諦めた。
(限界になる前に、誰かしらに相談して欲しいんだけどなぁ……)
セアはラルアを研究室に送ると、再び痕跡の調査に出かけた。遠ざかるセアを見送りながら、ラルアは考え事をした。
(……私はこの生活をずっと続けたい。セアとずっと一緒に居たい。でも、もし夢と同じ事になったら、その時は…………)
セアの姿が見えなくなると、ラルアは研究室に入っていった。なるべく普段通りに、悩みを隠すようにして。
そろそろ本編は終盤です……