「間違いない、人化症のモンスターだよ」
「やっぱり……」
龍歴院に運び込まれた少女は、研究員達の検査により、モンスターであることが判明した。
「背中に突起物があるだろ? これは背電殻だ。電気を蓄電するための器官だね」
「背電殻? じゃあこの娘、元はラギアクルスなんですか?」
「ラギアクルス科である事は確定だが、背電殼の色が青だったり、尻尾の色が白い事から、おそらくこれは白海竜ラギアクルス亜種である可能性が高い」
「ラギアクルス……亜種!?」
ラギアクルス亜種は目撃例が非常に少ないモンスターだ。セアも出会ったことがないどころか、亜種に出会うのすら初めてだ。
「驚くのも無理はないね。最近は発見の報告すらなかったんだ。そんな珍しいモンスターが人化症で人の姿になっている……これはレア中のレアケースだよ」
「……なんか貰えたりしますかね?」
「上次第だね」
「なるほど」
「僕的にはお礼をしたいところだが……。さて、彼女が眠っているうちに部屋に運んでしまおうか。目が覚め次第、色々調べたいことがあるからね」
「わかりました」
セアは少女を抱え、研究員の後を着いて歩いた。
「ここに寝かせておいてくれ」
「はい」
少女を部屋の中に置き、二人は外に出た。
*
「ん……ふぁ……」
少女は目を覚ますと、大きな欠伸をした。
「おはよう」
声のした方を見る。窓越しにセアが声をかけていた。
「……おは、よう?」
「はい、おはよう。体調は大丈夫?」
「うん。……ここは?」
「龍歴院って言う……んーまぁ、ギルドみたいなとこ」
「……!? そ、素材は出ないよ!」
「剥ぎ取りはしないから! ちょっと、あなたの身体能力を見るだけ!」
「身体能力?」
「そう! 部屋の中に、プールとマトがあるでしょ?」
少女は部屋を見渡す。木でできたマトが数個あり、自分の後ろの方にはプールがある。
「ある……」
「うん、じゃあまずはそのマトを全部壊してみて。やり方はあなたに任せるから」
「わ、わかった」
少女はマトに近付き、眺めた。
(……普通に壊せそうだね。よし……)
少女は尻尾を使って一つ破壊。次のマトは背電殻に電気を集め、放電して破壊した。
「放電は可能……放電による自傷ダメージも無い……と」
龍歴院の研究員はその様子を見ながらひたすらメモを取っている。
「ふっ……いっ!?」
「ど、どうした!?」
タックルでマトを破壊した歳に木で切ったのか、少女の肩からは赤い血が流れていた。
「大丈夫!?」
「ん……少し痛いけど、平気!」
「平気……なんだ」
「他のモンスターと縄張り争いをしたり、君たちに滅多切りにされるよりはよっぽど軽傷だからね。おそらくあの傷もすぐに治るよ」
「なるほど……」
少女はそのままマトの破壊を続けた。
「よし……これで良い?」
気付けば、少女は全てのマトを破壊していた。
「お疲れ様。次に行く前に、ちょっとこっち来て」
「?」
少女は窓の方に駆けていった。すぐ隣のドアからセアが入ってきて、タオルで肩の血を拭いた。
「ありがとう」
「どういたしまして。……本当だ、傷が無い」
肩を撫でてみる。スベスベしている綺麗な肌だ。本当さっき怪我したのか、疑いたくなるくらい綺麗に治っている。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。じゃあ次はプールの中にあるコイン十枚を拾ってきてくれる? これと同じやつ」
セアは少女にコインを見せた。
「わかった」
「よし、じゃあ頑張ってね」
少女はプールの縁へ向かう。プールと呼ぶには深すぎる気もするが、少女に恐怖心は微塵も無い。少女は迷わずプールに飛び込み、スイスイと底の方へ泳いでいった。
*
「上手……」
「海竜種だからね。まぁ、泳ぎは今はいいんだ。問題は肺活量」
セアと研究員は、プールの底が見える部屋に移動した。
「海竜種の肺活量がそのまま引き継がれてるか、という事ですか?」
「そう。もしそうなら、彼女は長時間の水中での活動が可能という事になる」
二人はプールの中の少女を観察した。少女は底に落ちてあるコインを集めている。表情に苦しさは見られない。
「……ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「元モンスターとは言え、さっきからずっと女の子の裸見てて何とも思わないんですか?」
「慣れてしまったよ。それに、今見るべきは彼女の体ではなく、どれだけ水中に居られるか、だからね」
「……研究員ってすごい」
*
(七、八、九、十……よし!)
少女はプールの底にコインを並べて数えた。確かに十枚ある。
(後は持って帰るだけか)
コインを握り、水面へと浮上した。
「来たよー」
「お疲れ様〜」
セアはバスタオルを持って部屋に入ってきた。
「どうだった?」
「余裕だよ。舐めないで」
バスタオルで体を拭き、少女の体にタオルを巻いてから二人は部屋を出た。
「うん、協力ありがとう。これでまた人化症のモンスターについての資料が充実したよ」
「いえいえ……」
「じゃあ、次なんだが……」
研究員は少女の方を見た。
「服を仕立てようと思う。君はどういう服を着たい?」
少女は少し悩んだ後
「……私らしいの」
と、答えた。
「一番難しいリクエストだな」
「えー。じゃあさ、ここの人達って私達に別の呼び名付けてるでしょ? それだと私はなんて呼ばれてるの?」
「別の呼び名……白海竜とかかな?」
「そうじゃなくて、なんか……長いの……」
「……? あぁ、『双界の覇者』と」
「双界の……覇者……!」
少女の目が輝いている。
「じゃあ、双界の覇者にふさわしい服で!!」
「あ、あぁわかった。それで加工屋に通しておこうか……」
研究員はそのリクエストをメモ帳に記した。
「では、服ができた後は、どうしたい?」
「どうしたい……って?」
「孤島に帰るか、このハンターと生活するか」
「えっ!? 生活するって……ありなんですか!?」
セアが首を突っ込んできた。
「本人にその意思があればね。実際、ここの所属のハンターで、人化症のフルフルと生活しているハンターが居るし……」
「は、はぁ……」
「んー、なら一緒に暮らす」
「決断早……」
「なるほど。君はそれで良いかな?」
「私は構いませんが……」
「よし、じゃあ決まりだ。ギルドマスターの方に伝えておくよ。」
セアは少女の方を見る。どこか満足気な様子だ。
「一緒に暮らすってなると、名前が必要だよね」
「お、名前付けてくれるの?」
「うん。そうだな……ラギアクルス亜種でしょ? うーん……ラクア……シギア……ラルア……あ、良いじゃん、ラルアって。どう?」
「なんか名前の付け方がアレだが……うん、悪くない」
「よかった。じゃあ、これからよろしくね、ラルア。私はセア」
「うん、よろしく、セア」
この後、服の採寸や一緒に生活する上での注意点を説明を受ける等をしてから帰宅した。
*
次の日……
「服、届いたよ」
「おぉ! 待っていたよ!」
セアが持ってきた木箱を開けると、中には白い鱗で覆われた服が入っていた。
「これ、着てみていい?」
「どうぞ」
ラルアは服を身にまとった。パッと見はラギアU装備。だが、膝上くらいの長さのスカートや、背電殻を出すために背中が開いていたり等、デザインの違いや、篭手や兜が無かったり、足防具はブーツになっていたりと、かなりアレンジされている。
「おぉー! いいね、これ!」
「うん、似合ってるよ」
動いているのを見ても、動きを阻害されてる様子はない。ラギアU装備をモチーフに、なるべく普段使いできるように工夫したのだろう。
「これで連れ歩けるか……よかった」
「じゃあ、セアのクエストにも同行できるね」
「クエストまでは……どうだろ……」
「どうだろって……これ、そうじゃないの?」
ラルアは紙をセアに渡した。
「これ、どこから?」
「木箱の底にあった」
「なになに…………えっ!?」
紙にはラルアがクエストに同行する事を許可する旨が書かれていた。こうして、ラギアクルス亜種の少女、ラルアのハンター(?)生活が始まった。
キャラ紹介
セア
龍歴院所属のG級ハンターで、レンキン片手を使っている。片手剣が好きで、コンプリートのためにクエストで素材を集めている。いつもはデスレストレインを使っている。防具は混合装備だが、見た目は龍歴士一式に合成してある。オンオフの切り替えがしっかりとできる、やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶタイプ。
ラルア
人化症で人間の姿になったラギアクルス亜種。孤島でセアに保護されて以降、共に生活をすることになる。助けられたからか、セアに対して懐いている様子。人間の姿になっても、蓄電、放電による攻撃と、水中での長時間の活動が可能。セアと共にクエストをこなしつつ、色んな場所に行くのを楽しみにしている。