セアとラルアの目の前に、蒼と桜の火竜が降り立つ。リオレウス亜種とリオレイア亜種だ。戦闘能力自体は低いメタドラス本体は闘わずに、鱗粉でモンスターを凶暴化させる事で外敵に仕向けてくるようだ。
「ラルアはリオレイアをお願い!」
「わかった!」
二手に別れて、火竜の番を相手取る。
「これでっ!」
リオレイア亜種の火球を掻い潜り、頭を掴むと一気に放電、それによりリオレイア亜種は意識を失った。
「やる……」
セアも、飛び立とうとするリオレウス亜種目掛けて狩技、昇竜撃を放つ。
「はあぁっ!」
盾でリオレウス亜種の顎を突き上げつつ上昇、落下の勢いそのままに盾で頭頂部を叩く。リオレウス亜種の無力化も成功だ。
「次……」
二人はメタドラスに視線を向ける。あちらも二人を見つめており、背中の翼のような膜をヒラヒラと動かしている。
「コオォォォォォ!!」
再び咆哮をする。今度は地中からダイミョウザザミと、川の下流からガノトトスが現れた。
「また……」
「セア、ザザミをお願い!」
「わかった!」
再び、二手に分かれてモンスターを狩る。そうやって時間を稼いでいる間に、メタドラスは周りの気配を察知していた。窪地の周りにはハンターや人化症のモンスターが多くおり、このまま逃げても無事に逃げれる保証は無い。今まで慎重に生きてきたこのモンスターの本能がそう伝えている。メタドラスは耐える事にした。自分が洗脳したモンスター達が道を切り開くまで……。
*
一方、窪地周囲。
「フーちゃん、次は?」
「あっち……」
「よし……」
周囲のモンスターの対処も順調だった。ハンター達はフーの索敵を頼りに、先手を打つ形で対処に回れていた。
「だいぶ匂い減った。もう少しかも……」
「わかった。もう少し……頑張るよ!」
他の組も順調だった。やはり、元モンスターだからか、人間と比べると単体での戦力が段違いだ。
「もう少しだ! 気合い入れていくぞぉ!!」
「「「オォォォォォ!!」」」
「……」
(もう少し……確かにもう少しなんだけど……なんだろう、この異臭……)
*
「おりゃあぁっ!!」
ロアルドロスとアオアシラを無力化し、再びメタドラスに視線を向ける。
「そろそろ……あいつの仲間も尽きるかな?」
「多分……段々弱くなってきてるし」
無力化したモンスター達は、意識を取り戻すと、どこかに逃げていってしまう。しかし、それでもメタドラスは変わらず、二人をじっと見つめていた。二人も警戒を解かずに、メタドラスを睨む。静寂が、窪地に訪れた。
「……咆哮をしない」
「尽きたか……じゃあ、本体を叩くよ!」
ラルアが先陣を切る。同時に、メタドラスは背中の膜を大きく広げ、前脚で地面を擦る。
何か来る。ハンターとしての経験から、セアはそれに気付けた。
「……! 待って、ラルア!」
「ゴルルアァァァァァ!!!!」
今までの透き通るような咆哮とは違う、怒りに満ちたような咆哮を上げた。同時に、辺りに金色の鱗粉を散布する。
「ラルア!」
「しまっ……!!」
忠告は間に合わなかった。ラルアは鱗粉の波に飲まれてしまった。セアも影響は無いとはいえ、この濃い鱗粉の中で動くのは不可能だ。
(ラルア……くそっ……)
*
「咆哮……」
「さっきとは全然違うわね」
「……」
窪地周囲にも咆哮は聞こえていた。明らかに違う咆哮に、全員が警戒を強めた。
「…………居る」
「え?」
「そこっ!」
「ギイッ!?」
突如、ゴア・マガラの爪が空を切った。そこから少量の血飛沫が舞う。
「……浅い」
「ゴアちゃん……何が」
三人の前に姿を見せたのは、フクロウのような姿をした鳥竜。翼には、ゴア・マガラが付けたであろう引っ掻き傷がある。
「ホロロホルル……」
「それも、二つ名……朧隠だ。視力に頼らず、常に鱗粉で探知をしていたから気付けたのだな」
「うん……。お兄ちゃん、お姉ちゃん、こいつ、強いよ」
「わかってますわ……」
三人は戦闘態勢に入った。
「援護は望めないかも。他にも強い気配がある」
「わかった。ならばここは我らで片付けよう」
「よし、頑張るわよ!」
朧隠との戦闘が始まる。
同じ頃、四天王サイド。
「最悪……二つ名かぁ」
「黒炎王に紅兜。厄介だね……」
黒炎王リオレウスと、紅兜アオアシラと対峙していた。
「隠し玉、か」
「かもね……」
「……ね、ディノとガムートで紅兜やってよ」
「え……」
ミツネの発言に、ゼクスは目を丸くした。
「わかった」
「よし、やるぞガムート!」
二人は紅兜との戦闘を開始した。
「ゼクスは黒炎王をお願い」
「一人で……?」
「飛べるのはゼクスしかいない」
「う……」
いくら四天王とは言え、二つ名に一人で挑むのは無謀だ。
「……」
「大丈夫、落とすだけでいい。落としたら今度、二度と飛べないようにするから」
「……信じるよ」
「任せて」
ミツネはゼクスの背中をぽんと叩く。そしてゼクスは空へ飛んだ。
一方、ガルルガ達。
「……マジか。これ鋏硬すぎて足がイカれるぞ」
「らしくねーな。弱気なんて」
「そっちだってさっきから岩砕いてばっかじゃねーか」
「……」
四人の前に現れたのは、矛砕ダイミョウザザミと岩穿テツカブラだ。
「だが、これだけ硬いと手を出せないのはある……」
「……じゃあ、お前アイツならいけるか?」
ブラキは岩穿を指さす。
「
「良し。なら交代だ。オレがコイツをやる」
「……無理すんなよ」
「大丈夫だ。爆砕の拳、その真価を見せてやるよ」
二人は目標を変えると、戦闘態勢に入る。
「頑張れー!」
「が、頑張れー……」
ガンキンとクックの応援も加わる。二人は目の前の敵を倒すべく、動き出した。
オウガ達も、二つ名モンスターと対峙していた。
「無理したな」
「ごめん…………」
「ど、どどどどうすればいいの……???」
真空波を受けたナルガを庇いながら、白疾風ナルガクルガを睨む。
「出血が酷いな……仕方ない。ここは拙者一人で戦う」
「む、無茶だよオウガ! いくらなんでも……」
「無謀なのは承知の上。だが……やらねばお主らを失いかねん。それだけは……」
「オウガ……」
オウガはペッコを一瞥した。
「ナルガの事、頼んだぞ」
雷光虫を展開し、白疾風に迫る。
「っ……」
ペッコはナルガを抱えて、岩陰に身を隠した。
(頑張って……オウガ……)
*
「フーちゃん……?」
「う……すごい、匂い……」
口を押えながら、苦しそうに話している。
「な、何……?」
「酸っぱい……………ような……でも……それだけじゃ…………ない。これは……」
直後、遠くからハンター達の悲鳴が聞こえた。
「お、おいなんだ!」
「リ、リーダー! 大変です!」
一人のハンターが息を切らしながら戻ってくる。
「どうしたんだ……」
「ヤツです……」
「何?」
「き、恐暴竜です……!」
「!」
恐暴竜、イビルジョーの事だ。
「イビルジョー……か。でも、こっちも数は多いから大丈夫なはず」
「違う……」
「え?」
今にも吐きそうな表情で、フーは話した。
「一匹……じゃ……ない……」
「……は?」
「一匹なら……こんな…………匂わ……ない」
「群れって事……?」
フーは首を縦に振った。レープは急いでハンター達のリーダーに報告する。
「本当か?」
「フーちゃんは鼻が利く……それであんな苦しそうにしてるなら、間違いないです!」
「むぅ……規模は?」
「そこまでは……」
「……総員備えろ! 恐暴竜の群れが来るぞ!」
多数の足音が近付いてくる。木々を薙ぎ倒しながら、恐暴竜の群れが、ハンター達の前に現れる。その数、視認できるだけでも十は超えている。
「ゴオォォォォッ!!」
「ひっ……」
「こ、こんなに……?」
「ひ、怯むな! いくぞぉぉ!!」
掛け声と共に、ハンター達はイビルジョーに立ち向かう。
(こんなの、いつ全滅してもおかしくない規模だ……。セア、早く……!)
*
窪地を覆っていた鱗粉が、徐々に晴れていく。
「……ラルア、大丈夫なの!?」
返事は返ってこない。盾を下ろして姿を確認しようとしたその時、目にした光景にセアは絶句した。
「え……」
最初に見えたのは、金色の鱗粉が付着した白い甲殻。そして青い背電殻。そう、目の前に居たのは双界の覇者、白海竜ラギアクルス亜種だ。
「な……なんで……」
代わりに、ラルアの姿は見当たらない。つまりは、そういう事なのだろう。ラギアクルス亜種はセアを見ると、小さく喉を鳴らした。
「ラルア……?」
「…………グルル……ガアァァァァァ!!!!」
「っ!」
ラギアクルスと対峙した時と同じ咆哮を上げる。相手はセアを敵とみなしたようだ。ラギアクルス亜種の周りには、破けた服が散っていた。ラルアがさっきまで着ていたものだ。あのラギアクルス亜種はラルアで間違いない。
「そんな……ラルア! 私だよ!」
セアの声には、雷ブレスで応えた。ギリギリ盾で防ぐ。
「……」
そしてセアは、震える手でデスレストレインを手に取る。
「…………ごめん」
「ガアァァァァァ!!」
そしてその刃を、ラギアクルス亜種に向けて振った。
次回、まずは窪地周囲の方々から決着です