「だぁりゃぁぁぁぁ!!」
ゼクスは黒炎王の真上をとると、急降下しつつ蹴りを放った。徐々に高度が下がっていく。
「今だね……」
ミツネは落下地点を予測し、そこに大きく円を描くように滑り、滑液で満たした。読み通り、滑液の真ん中に黒炎王は落ちた。
「はっ……やったよミツネ!」
「おめでとう、かっこよかったよ」
黒炎王は体制を整えようとするが、滑液で滑って全く立ち上がれない。
「コゥ……コアァ……」
「黒炎王は空中にいる時間が長いから、脚力は少し弱い。だからこうなれば、立ち上がるのすら困難なはずだ。立ち上がれなければ、飛ぶこともできない」
「なるほど」
「さて、あとは楽にしてあげよっか」
「……あぁ!」
ゼクスは翼を、ミツネは尻尾を振り上げ、黒炎王の頭を潰した。
「コアァァ…………」
「……仕留めたね」
「うん。ゼクスのおかげだよ」
「えへへ……」
一方、紅兜との戦いも決着がつくところだ。
「うぉらぁぁ!!」
ガキン、と爪と尻尾がぶつかり合う。戦闘中、あえて錆びさせる事で強度を増した尻尾は、紅兜の爪すら弾く程固くなっていた。
「決めろ!」
「うん!」
ディノの肩を踏み台にし、ガムートが飛ぶ。
「はぁっ!!」
そして全力の鉄槌打ち。紅兜の頭骨が砕けるのを感じた。間もなくして、紅兜は地に伏した。
「よし……」
「何とかなったな」
「うん。ゼクスちゃん達も片付いたみたいだし、ここはもう大丈夫かな」
「だな。あとはやつが逃げないように留まるだけだ」
*
「お姉ちゃん、右!」
「はいっ!」
ゴア・マガラの探知を活かし、不可視状態の朧隠にも攻撃を与えていく。
「ギュウゥ……」
「そろそろ終わりだね……」
「ならば最後は我が!」
渾沌ゴアの翼爪が、朧隠に迫る。
「冥界に堕ちよ!!」
「ギュアァァァ……」
そして朧隠の胸を貫いた。朧隠は弱々しい声を上げ、そして倒れる。
「さらばだ……」
「ふぅ…………疲れた……」
探知に全身全霊を尽くしたからか、ゴア・マガラは特に疲れた様子だった。
「ゴアちゃんも渾沌ちゃんもお疲れ様。二人は少し休んでて」
「うむ……そうしよう……」
「お姉ちゃん、疲れないもんね……」
「古龍だからね。ほら、膝枕してあげる」
そう言ってゴア・マガラの頭を膝に乗せる。
「後はここを守るのみ、か」
「そうね。他は大丈夫かしら……」
*
爆発音が、絶えず鳴り響いていた。
「ぐうぅ!!」
「キュイィ……」
拳を舐め、防御状態の矛砕の全身を殴る。鋏、脚、背中の骨……。その小さな体躯を活かし、素早く動き回って殴り続けた。
「防御状態の矛砕はかなり硬いはず……あんな戦い方無茶ですよ……」
「大丈夫、ブラキちゃんはちゃんと考えて戦ってるから。信じて」
粘液が付着し、爆発する。矛砕には全くダメージが入っていない……ように見えた。
(……そこか!)
ブラキは見逃さなかった。度重なる爆発により、背中の頭骨にヒビが入ったことを。そこが狙い目だ。
「砕け散れっっ!!!!」
ブラキは鋏を踏み台にして大きく跳躍、落下の勢いそのままに頭骨を殴る。そこを中心に頭骨にヒビが走り、バラバラに砕けた。矛砕の最強の守りを破り、そのまま本体に拳を叩き付ける。巨体が地面に沈む程の衝撃を受けた矛砕は、そのまま動かなくなった。
「ギュ……ギュイィィ……」
「過信しすぎたな……自分の守りを」
一方ガルルガの方は、飛び回りつつ、岩穿の隙を付いて攻撃を与えていた。毒によるダメージも重なり、既に虫の息だ。
「だいぶ地味な戦いだったが、これで終わりだ……!」
トドメのサマーソルト。全力のそれは岩穿の体を後ろに倒す程の威力だった。仰向けになった岩穿は、そのまま絶命した。
「やるじゃん……」
「そっちもな……」
ブラキは拳を突き出してきた。合わせろ、という事なのだろうが、その拳は血で真っ赤に染まっていた。所々、矛砕の甲殻の破片等が刺さっているのもわかる。
「……無茶したな」
「少しな。でも、この黒曜石の拳は……簡単には砕けねーよ。安心しろ」
「……別に、心配なんかしてねーよ」
ガルルガは突き出された拳に、軽く自分の拳を合わせた。
「っし。あとはここを守るだけだな」
「その前に手の治療して貰え」
「大丈夫だって、ほらっ!!?」
手を開こうとした瞬間、激痛が走った。
「……バカか。自分の体の状態くらい把握しとけ」
「なんだと!?」
「ほら、さっさと行けバカ」
「コイツ……」
「お前って戦闘中は頭冴えるのに、こういう時はバカなんだな」
「バカバカうるせぇ……」
*
「ひいぃ……どこが安全地帯なの……」
ペッコはナルガを抱えたまま、木や岩の影を走り回っていた。オウガと白疾風の戦いの流れ弾がこっちまで飛んできて、遮蔽物を壊すものだから、全く休まらない。
「早く……そろそろ限界だよぉ……」
「ペッコ!!」
「ひゃいっ!」
「トドメを刺す! 力を貸せ!」
「え? あ、うん!」
ペッコは咳払いをした後、歌声を辺りに響かせた。それは、力をあげる歌。オウガの一撃が、必殺の威力になる。オウガも右手に雷光虫を集め、帯電。構えを取り、白疾風の隙を伺う。そして……
「ハッ!!!!」
刃翼で切りかかろうとした白疾風の頭に掌底打ちを放つ、全力以上の威力となったそれにより白疾風は墜落、さらに追い討ちとして、帯電した右手で思いっきり頭部を叩き潰した。
「……逝ったな」
「ふ……ふいぃ……怖かった」
「すまぬ。奴め、やたらめったらに攻撃をするものだから……」
オウガはペッコに抱えられたナルガの様子を見た。血は止まっているようだ。
「体はどうだ?」
「だいぶ良いよ。ありがとう……」
「何、当然のことをした迄よ」
「これで僕らの仕事はおしまい?」
「いや、まだ奴が逃げないよう見張っておく必要がある。もう少しだ」
「そ、そっか……」
「案ずるな。また拙者が叩き潰してやる」
オウガはペッコに笑いかけた。ペッコも、少し安心したような顔を見せた。
*
一方、ハンター側は苦戦を強いられていた。群れの勢いは弱まる様子はない。このままでは、ハンター達は全滅、空いた空間からメタドラスが逃げ出してしまう。
「はっ……はぁっ!」
レープ含め、ハンター達にも疲労の色が見え始めた。
(大剣が重い……身体が思うようにうごかない……。でも、セアも頑張ってるから……!)
ヘトヘトになりながらも大剣を振るう。しかし、大したダメージは与えられず、逆にイビルジョーのタックルで大きく吹き飛ばされてしまう。
「いっ……!」
身体が動かない。更に、落とした大剣がイビルジョーに踏まれ、砕けてしまった。
「レープ……」
まだ気分が悪そうな様子のフーが、倒れたレープに駆け寄る。
「フーちゃん……。いや、まだ私、諦めないから……!」
体を起こし、最後まで足掻こうとしたその時だった。
「……やむを得ない。全ハンターに告ぐ! 今回の討伐戦は失敗だ! 総員、撤退準備に入れ!!」
リーダー格のハンターからの声だ。被害の大きさ、状況の悪さから、犠牲を増やさないために撤退の判断をしたのだろう。
「そんな…………」
(ごめん、セア……ダメだったよ……)
「………………! 風……」
自分の力不足を心の中で嘆いていると、フーがぼそっと呟いた。
「え?」
「……来てくれたんだ」
直後、強い追い風が吹き、イビルジョーの群れが大きく後退した。更に、強風で怯んだイビルジョーに無数の雷が落ちる。
「なっ……!」
「まだ、諦めないで」
レープの前に強い稲光が走る。直後、白いコートを羽織った少女が現れる。
「言ったでしょ? またいつか会うかもって」
「キリン……!?」
キリンの横に、風を纏った鋼が降り立つ。クシャルダオラだ。
「クシャルダオラも……」
「……言っておくが、人間の為に来たんじゃないぞ。私をこんな姿にしたやつを叩きのめしに来たんだ」
二人はイビルジョーの群れの方を向く。
「後は、私達に任せて」
「でも……いくら古龍でもこの数は……」
「大丈夫。私達だけじゃない」
「え?」
突然、辺りの空気が一気に冷えた。直後、尖った氷の波がイビルジョー達を貫く。
「やっほーハンターさん、久しぶり! 元気……ではないよね」
レープの傍に、深い青色のマントを羽織った少女が降り立つ。ギルデカランで出会ったキリン亜種の少女、コオリだ。
「あなた、確かライダーの……。な、なんでここに!?」
「加勢に来たの。みんなも一緒だよ!」
そう言ってコオリは空を指さす。見上げてみると、何かオレンジ色の物体が降下してくる。
「「スカイハイフォール!!」」
物体は群れの中心に落下。大きな火柱が上がり、イビルジョー達が吹き飛んだ。
「決まったな、相棒」
「うん。上出来だ!」
ライダーの少年、ワスレナとそのオトモン、レウスだ。
「ギリギリかな。でも、間に合ってよかった……」
「相棒、戦闘は俺らに任せてくれ。相棒は負傷したハンター達の手当てを頼む」
「レウス、一人で大丈夫?」
「正直一緒が良いが……仕方ないだろ。こうした方が今は良いからな」
「……わかった。頑張ってね」
「おう」
レウスとの会話を終えると、ワスレナはレープに駆け寄った。
「とりあえず、後ろの方に下がろうか。ここはこれから大変な事になるので」
「う、うん……」
ワスレナの肩を借りて動こうとしたその時、一匹のイビルジョーがこっちに向かって勢いよく走ってきた。
「あっ……!」
食べられる、そう思ったその時、イビルジョーの巨体が急に持ち上がった。地面から生えた骨まみれの何か。それから放たれた龍属性のビームは、イビルジョーの体を貫き、焦がした。
「……流石」
「ワスレナ、イビルジョーってこんな不味いっけ?」
「生の血肉の味を忘れたからそう感じるんじゃない?」
茂みの中から現れたのは、口の周りを血で汚した少年。腰からは骨を纏った二本の触腕が生えている。
「お、オストガロア!?」
「あ、ハンターさん久しぶり!!」
「良い子になったよ。あ、名前は『ムクロ』。そう呼んであげて」
「お、おぉ……」
あまりの豹変っぷりに、レープもフーも言葉が出ない。
「丁度いい。ムクロ、護衛お願い」
「はーい!」
レープ達も撤退を始めた。
前線から退くハンター達を背に、キリン、クシャルダオラ、レウス、コオリは戦闘態勢に入る。
「リオレウス、足引っ張るなよ」
「安心しろ。俺はそんな弱くない」
「うん。レウスは強いよ。めちゃくちゃ強いよ」
「皆、お話終わり。来るよ」
四人はイビルジョーの群れに攻撃を始めた。幻雷が、暴風が、絶対零度が、希望の炎が、飢えた捕食者の群れを穿つ。
*
レープ達は無事に陣営の後方にある簡易ベースキャンプまで戻ってきていた。負傷したハンター達が大勢居る。
「ここまで来たら大丈夫か。ありがとうムクロ」
「どういたしまして!」
「君にもすぐ手当てするからね……。あ、ムクロはここの防衛をお願い」
「任せて!」
ムクロはベースキャンプの入り口の方へ駆けていった。
「さて……。うん、傷は浅い方だよ。安心して」
そう言いながら、ワスレナはレープの傷口に何か液体を垂らした。
「これは?」
「幽明エキス。幽明虫から採れる体液だよ」
「……! じゃあ……!」
「うん。彼女……ジンオウガ不死種も来てる」
「……すごい。人脈が広いね」
「いやいや、彼女はここに来る途中で合流したんだ」
「幽明虫なら……気持ち悪いの治る……?」
フーが呟く。まだ顔色は悪い。
「それは……わからない。とりあえず、横になって深呼吸してな? 戻したいなら戻してもいいし」
「うん…………」
ワスレナはフーに袋を渡した。今まで堪えていたのか、袋を受け取った直後、フーは袋に戻した。
「う……ゲホッ……」
「よしよし、辛かったね」
ワスレナは背中を擦りながら話した。
「おや、ワスレナさん。前線の方は大丈夫なのですか?」
ワスレナに声をかけたのは、ジンオウガ不死種だった。
「うん。彼らなら大丈夫さ。そっちは治療進んでる?」
「はい。今ここに居るハンターさん達の治療は大方終わりました」
「ありがとう。まだ運び込まれるハンターも居るだろうから、その手当もお願いね」
「わかりました」
ジンオウガ不死種は、治療の為にまた別の場所に行ってしまった。
「とりあえず、ハンター側もこれで大丈夫かな。空から見た感じ、他のとこは片付いてたみたいだから」
「そっか」
「後は……無事に討伐が終わるのを待つだけだね」
「うん……。二人とも、無事で帰ってきて……」
今のレープに出来るのは、ただ祈る事。セアとラルア、二人の無事を、生還を祈った。
もうちょい細かく書きたい気持ちはあったのですが、そうするともっと長くなっていたので、端折りました