メタドラス討伐戦から数日が経過していた。状況についてもだいぶ落ち着き、日常に戻りつつあった。
「ラルア、居る?」
「フー? 居るよー」
家の中からラルアが出てくる。
「これ、今月の分のお金。クエスト沢山こなしたから、先月よりは多いかも」
「いつもありがとうね……」
「良いの。親友の為……ってレープが言ってた」
「セアの……」
ラルアは視線を落とした。あの狩りの後、セアはすぐに手当を受けたが、当然、無くなった右腕を復元する事は出来なかった。実物があれば治っていたが、それもラルアがモンスターの姿に戻った時に食いちぎり、飲み込んでしまった。
「私のせいで……」
「ラルアは悪くないよ」
「でも……私が突っ走ったから……」
「命あるだけ良いと思って。死体になって帰ってくるより全然マシでしょ?」
「……」
「……少しお話しよっか」
「え?」
急に話題を変えられて、思わず言葉に詰まる。
「みんなの事、教えてあげよっかなって」
「あ、あぁそういう。うん、聞きたいかも」
二人は家の中に入り、テーブルを挟んで座った。
「まず……私達人化症のモンスター達は、元に戻る手段を失ったから、この姿のまま過ごす事になる」
「そっか。なんか……少し安心かも」
「やっぱり? 私も同じ」
フーは少し口角を上げた。
「でも、みんなは自然の中で暮らしていくみたい。少なくとも、今回の討伐戦に参加したみんなはそうだよ」
「四天王も?」
「うん。四天王のみんなは、別々の場所に住むことになったよ」
「あんなに仲良さそうなのに?」
「住む環境が違うからね。仕方ないんだよ」
「そっか」
「あと……メタドラスに関してなんだけど」
「うん」
「あれは……ライダーさんが預かるみたい」
「??? え? 死んでないの?」
「ギリギリ生きてた。でももう大丈夫」
「どういう事?」
「えっとね……」
フーはラルアに、メタドラスが人の姿になっていた事、それにより鱗粉を扱う能力を失い、先に話したように、人化症を治す手段が無くなった事を話した。
「なるほど……」
「だから、ライダーさんが預かる事になったの。その方が安全だろうって事で」
「……そっか」
なんとなく、窓の外を少し見た。空は快晴。心地良い風が室内に吹き込んでくる。
「フーは? これからどうするの?」
「私? 私は変わらずレープの傍に居るよ」
「やっぱり?」
「うん。私は……レープの温もり、好きだから」
少しだけ、フーの表情が柔らかくなる。
「ラルアも、セアの傍に居るでしょ?」
「……うん」
フーには見えていないが、少しだけラルアの表情が曇る。
「……ラルア」
「ん?」
「セア、ラルアの事責めてると思う?」
強い風が吹き、外の木々がザァっと揺れた。
「え?」
「いつまでもそう考えてちゃダメだよ。ラルアが落ち込んでると、セアまで不安になるよ」
「う……」
「でも、そう考える気持ちもわかる」
「え?」
「大事な人、傷付けちゃったら……そう考えるよね」
「……」
「でも、わかるよ。ラルアとセアの絆……すっごく強いの」
「……え?」
ラルアは思わず目を丸くした。
「なんでわかるの?」
「ラルアもセアも、二人で話す時はちょっと楽しそうに話してるから」
「……そんなの、自分でも気付かなかったよ」
「私は目が見えないからね。他の感覚が少し鋭いのかも」
フーは得意げな表情を見せた。
「……だからさ、安心していいと思うよ。前向きになる、それが今のラルアにとって一番大事なこと」
「……そっか。そうだよね。いつまでも引きずってもいられないね」
「うん。その調子」
ふと、急にフーが顔を上げ、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
「ごめんラルア。急用思い出しちゃった」
そして椅子から立ち上がると、窓の方に向かった。
「え?」
「じゃあそういう訳で。前向きに、だよ!」
それだけ言い残すと、フーは窓から飛び立っていってしまった。
「……どうしたんだろ」
「ただいまー」
入れ替わるようにして、今度はセアが入ってくる。
「あ、お帰りセア」
「ただいま。あれ? レープ来たの?」
「うぅん。今日はフーだった」
「あぁ、そうだったんだ」
「それで……手続きはしてきたの?」
「うん。今日からはもう、私はハンターじゃなくなるよ」
片腕を失った事で、ハンターとしての活動は不可能になった。セアはギルドに引退申請を行い、今日からは一般人として生きていく事になる。
「さて……これからの収入源をどうしようか。しばらくは装備を売って食いつなぐ事はできそうかな……」
セアは慣れない手つきで、手帳を開いた。
「装備を……」
ラルアは装備ボックスに視線を送った。中には、今までセアが使ってきた装備が詰まっている。
「セア……」
「ん? 何?」
「セアはさ、ずっと私を引っ張ってくれたよね」
「い……いきなりだね……」
「オストガロアに負けた時も、セアは必死に戦ってくれたって聞いてたし、怖い夢を見た時だって、慰めてくれた。あの討伐戦の時も、ずっと気にかけてくれたし……私、セアに守られてばっかりだよ」
セアは黙ってラルアの話を聞いていた。
「セア……。今度は私がセアの役に立ちたいの」
「ラルア……」
「だから!」
ラルアはテーブルから身を乗り出し、セアに顔を近付けた。
「私、ハンターになる!」
「え……えぇぇぇ!!?」
*
「レープ……また出なかったね……」
「うぅ……天鱗……」
クエスト報酬を整理しながら、レープは項垂れていた。
「欲張ってる時程出ないよ。雑念を払わないと」
「わかってる。わかってるんだけど……」
「うん……仕方ないね。……ん?」
突然、フーが辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
「フーちゃん、どうしたの?」
「……ラルアの匂いがする」
「え? 本当?」
「うん。こっち」
フーはレープの手を引いて歩いた。ラルアはクエストカウンターの傍に立っていた。
「ラルア!」
「ん? あ、フーにレープさん!」
ラルアは今までと変わらない、ラギアUベースの服を着ていた。違う点と言えば、背中にラギアクルス素材のランスを背負っている点だ。
「ここに居るって事は、G級に昇格出来たんだね」
「うん。まぁ、私にかかれば余裕だよ」
「じゃあこれからは一緒に狩りできるね」
フーが嬉しそうな声色で言った。
「そうだね。ふふっ、よろしくね」
「そう言えば、セアの姿が見えないけど」
レープは辺りを見渡しながら話した。人混みの中をいくら探してもセアの姿は無い。
「あぁ、セアはもう一般人だからさ。龍識船には乗れないから」
「あ、そっか」
「でも、いつも私の安全を祈ってくれてるし、帰りを待っててくれるから。一緒に狩りには行けないけど、寂しくはないよ」
「良いね……心で繋がってるって感じ」
「心で繋がってる……か」
ラルアは嬉しそうに微笑んだ。
「……そう言えば、何かクエスト受注したりしたの?」
「あ、そうそう。正式にG級ハンターになる為のクエストをね」
「……ディアブロスのやつかな。せっかくだし、私達も同行しよっか?」
「良いの? 二人が一緒だと心強いよ」
「よし、決まりだね!」
レープとフーも同じクエストを受注して、準備に取り掛かる。
「昇格出来たら、セアに手紙で伝えなきゃ」
「良い報せを送れるように、頑張ろうね」
「うん!」
三人は一緒にクエスト出発口に向かう。
「よし、ラルアちゃんの為に頑張るよ!」
「おー」
「足引っ張らないように頑張るからね!」
*
後日、セアの家に手紙が届いた。
「お、無事に昇格出来たみたいだね」
差出人はラルアだった。内容は、無事にG級ハンターとして昇格出来たという報告だった。
「G級ならレープも居るし、大丈夫かな」
セアは便箋とペンを手に取ると、テーブルに座って手紙を書き始めた。
(G級となれば龍識船での活動だから、しばらくは帰ってこない……。寂しいけど、ラルアが選んだ道だもん。私は私なりにしっかりサポートしなくちゃ)
便箋を固定し、ペンで文字を書いていく。ラルアへの激励の内容と、自分が特に頼ったアイテムの調合レシピなんかも記していく。
(次帰って来た時はどんなお土産話を聞けるかな……。今から楽しみだなぁ)
封筒に便箋を入れ、郵便屋さんに出しに出かけた。
(ついでに、ラルアにいくらかアイテム送ろっかな。私が持ってても意味無いし)
セアはセアなりのやり方でラルアを支えていく。それがセアが選んだ道。今日もラルアの無事を祈りながら、セアは一日を過していく。
という訳でこのお話はここで一区切りです。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。しかし、まだ書きたいお話はあるので、番外編としてちょこちょこ更新していきます。出したくても出せなかった子とか居ますし……。更新頻度は多分落ちますが、それでもたまーに読みに来てもらえると嬉しく思います。