白海竜と歩む道   作:よっしー希少種

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5.調査・密林編

 調査内容を報告し、四人はすぐに別の場所の調査を受注した。向かった場所は密林。海沿いなら痕跡も見つけやすい。そう思っていたのだが……。

 

「無い」

「え?」

「匂わない。ここに痕跡は無いかも……」

 

 海岸を歩きながら探索をしたが、痕跡は全く見つからなかった。

 

「海岸沿いにないなら無さそうだよね……」

「多分。でもまだセア達が来てない」

「内陸の方にあるのかな……。とりあえず、私達はベースキャンプに戻ろっか」

「ん、わかった」

 

 レープとフーはベースキャンプの方へ歩き始めた。

 

 

 密林内陸部。セアとラルアは洞窟の中で休息をとっていた。

 

「はぁー疲れたぁ……」

「結構探したけど……無いね……」

 

 水筒の水を飲み、小さくため息をつく。その時、静かな洞窟の中に微かに咆哮がこだました。

 

「ん……今、鳴き声しなかった?」

「ラルアも聞こえた? あれは多分……ナルガクルガかな」

「行ってみようよ」

「勿論」

 

 二人は荷物をまとめ、鳴き声が聞こえた方へ足を運んだ。

 岩陰に身を隠しながら、慎重に進む。案の定、ナルガクルガの姿がそこにはあった。しかし、力なく倒れている。

 

「……死んでる?」

「まだわからない……。近付いて調べないと」

 

 セアはナルガクルガの周囲を見渡した。付近に何か居る気配はない。足早に近付き、ナルガクルガの体に触れる。

 

「……死んでる。でも一体誰が……?」

 

 体をよく観察してみる。頭部に多くの傷が付いており、逆に体や刃翼にはあまり傷が付いていない。ナルガクルガの弱点を理解し、そこを重点的に狙ったのだろう。刃翼には赤い血が付着している。ナルガクルガのものか、相手のものかは分からない。傷口には、血に紫の液体が混ざっている。おそらく、毒だろう。

 

(ハンターが狩ったのかな? でも剥ぎ取りをした形跡は無い。でも他に居るのか……? ナルガクルガの頭部を重点的に狙えて、毒を扱える存在……)

「……セア、上!」

「……!」

 

 ラルアの声に反応し、上を見ると、セアに迫りくる一つの黒い影があった。

 

「ぐっ……!」

 

 咄嗟に盾で攻撃を防ぐ。何度も蹴られているような衝撃が伝わってくる。

 

「離れて!」

 

 ラルアは口から雷の球を放出した。雷の球は見事命中。セアを襲っていた存在は地面に倒れた。

 そこで初めてセアはさっきの影の正体を見た。頭部に生える紫の耳、先端に三本の棘があり、紫の甲殻に覆われた尻尾、そして前腕に付く翼。

 

「人化症のイャンガルルガか……」

 

 イャンガルルガは苦しそうな顔をしながらも、セアを睨んだ。見ると、腹部に大きな切り傷を負っており、血が絶えず流れ出している。また、左目の上や腕などに棘が刺さっている。

 

「……これ以上動かない方がいいよ。傷が開けば、致命傷になる」

「……」

 

 忠告には聞く耳を持たず、イャンガルルガは弱々しく立ち上がった。そして地を強く踏み、前傾姿勢になって腕を横に広げ、翼を広げた。直後、十八番でもあるサマーソルトをセアに向けて放った。

 

「っ!」

 

 ギリギリで避ける。毒を帯びた尻尾が視界の横を過ぎていく。反抗する気なら仕方ない。なるべく傷付けないように沈静化しようと身構えた。

 

「うっ……あぐっ……」

「……?」

 

 しかし、イャンガルルガは空中でバランスを崩し、背中から落下。その時に後頭部もぶつけたからか、気を失って動かなくなった。

 

「限界か」

「どうする?」

「どうするって……」

 

 外傷が酷い。このまま放っておけば失血死するのは目に見えている。

 

「ベースキャンプに運んで手当しよう。止血だけでもしてあげなくちゃ」

「じゃあ、そうしよう」

「ラルアは周りを見てて。もしこっちを狙うモンスターが居たら、時間稼ぎだけお願い」

「わかった!」

 

 二人はイャンガルルガを保護してベースキャンプに向かった。

 

 

「……で、連れてきたんだ」

「うん」

 

 テントの外で待機しているラルアとフーは地面に座りながら話していた。

 

「放っておいてもよかったんじゃない? 私達の目的は別にあるし」

「でもなんか、見捨てることは出来なかったんじゃない?」

「……お人好しって言うか、なんと言うか……」

「似た姿だから放っておけないんじゃない?」

「なるほど。ところで、さっきからその茂みに誰かいるよね」

 

 フーが茂みを指さす。見ると、茂みが少しだけ動いた。

 

「……なんだろ」

「見てきて。私はなんか……眠いから寝る」

「はぁー???」

 

 フーはすぐに眠ってしまった。アルビノなのに日向で眠って大丈夫なのか……不安に思ったラルアはフーを抱えて日陰に移した。それから、茂みにゆっくり近付いてみる。茂みからの反応は無し。そのまま茂みを掻き分けてみると、中から黄色い耳が二つ、現れた。

 

「……」

「……」

 

 更に掻き分ける。桃色の髪に赤い縁のメガネ、前腕にある畳まれた翼、桃色の鱗に包まれた尻尾、スーツをアレンジしたような服を着ている。学校の先生のような雰囲気だ。

 

「……はっ!」

「……?」

「わ、私は怪しい者ではございませんよ!」

「いや、めちゃめちゃ怪しいけど……」

「いえ本当に。あなた方を傷付ける気持ちは微塵もありませんから!」

「なら良いけど……あなた、誰? で、なんでそこに居たの?」

「あぁ、申し遅れました。私、イャンクックです。ハンターの間では『クック先生』なんて呼ばれたりしているみたいです。気軽にクックとでも呼んでください。皆さんそう呼んでいるので」

 

 自己紹介をすると、クックは深く頭を下げた。

 

「イャンクックか……で、ここに居た理由……」

「今お話しますね。実は、ここにデー……コホン、ピクニックに来ていたのですが、一緒に来ていた方とはぐれてしまって……偶然あなた方が彼を運ぶのを見たので、後をつけちゃいました」

「ってことはあのイャンガルルガ……」

「はい! そうです。あのイャンガルルガです!」

「そうだったんだ……。あ、悪い事はしてないからね」

「それを聞けて安心しました。そうだ、あのテントに入れてくれませんか? 傍に居たいので」

「別に良いと思うけど……」

「ありがとうございます!」

 

 クックは小走りでテントの中に入っていった。

 

「ガルちゃーん?」

「おいテメェ触んなボケ!!」

「暴れないで! 傷が開くから!」

「黙れ! 近寄んじゃねぇ!!」

 

 中はちょっとした惨状になっていた。ガルルガを抑えるラルアと、反撃をくらったのか、気絶しているレープ、そして暴れているイャンガルルガ。

 

「ガ、ガルちゃん……?」

「ん? あっ!?」

「え? 誰……っ!?」

 

 ラルアの拘束が緩んだ瞬間、ガルルガはスルッと拘束を抜け、仕返しとばかりに尻尾をラルアの顔面に叩き込みつつクックの方へ向かった。

 

「悪ぃ……弁当取り返せなかったわ」

「ううん、いいの。その気持ちだけで私嬉しいから」

「……クック」

 

 なんだか良い雰囲気の二人の横をラルアはそーっと通り、セアの元に向かった。

 

「えーっと、大丈夫?」

「なんとか……」

 

 傍には漢方薬の袋が置いてある。それで解毒と回復を済ませたらしい。

 

「あっ、ハンターさん達がガルちゃんの手当をしてくれたのですよね?」

 

 クックがセアに視線を向けながら言った。

 

「えぇ、まぁ……」

「ありがとうございます。ガルちゃんちょっとヤンチャで喧嘩っ早いところがあって……迷惑かけちゃいましたよね?」

「うん……そこそこ」

「ですよね……あ、そうだ。これでよければお礼に……」

 

 クックはポケットの中からそっと、光り輝く鱗を取りだした。

 

「これ……もしかして、天鱗!?」

「はい。先程のナルガクルガが落としていた物です」

「い、良いの?」

「勿論です。私が持っていても役に立ちませんので」

 

 セアは天鱗を受け取ると、割れないようにそっとポーチにしまった。

 

「では、私達はこの辺で」

「その……ありがとうな、手当」

「うん。じゃあ、元気で」

 

 二人はセア達に挨拶をすると、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

「……大変だったね」

「まあね。でも、天鱗貰えたし、良いかな」

「……単純だね」

「さ、レープを起こして帰ろう」

「だね。フーも……まだ寝てるかな?」

 

 一行は帰還の準備を始めた。密林での探索でも、これといって良い成果を持って帰ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古代林の奥地、龍ノ墓場と呼ばれている場所に四人のハンターが訪れていた。目的は、数日前にオストガロアの狩猟に赴いたパーティの捜索だ。

 

「なぁ、これ……」

「あぁ、一人は片手剣を使っていたらしいから……これは、そいつの物だろう」

「こっちには貫通弾が落ちているぞ。これももしかして……」

「多分そうだな……」

「四人まとめて殉職か……」

 

 一人のハンターが小さくため息をついて立ち上がった。

 

「せめて彼らの持ち物だけでも持って帰ってやろう。帰還するぞ」

「はーい」

「しかし、オストガロアも居ないとは」

「死体が沈んだんじゃね? 相討ちだったとかさ」

「……有り得るのかな?」

 

 四人はポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつけようとした。その時、背後から金属が落ちる音が聞こえた。

 

「!?」

「おい、なんだ!?」

 

 振り向くと、一人のハンターの姿が消えていた。彼が回収したアイテムを残して……。三人は武器を構えて辺りを見渡す。

 

「くそっ……居るのか、オストガロア!」

「やばくない? 急にだよ……?」

「やつの触腕は発光するはず……それさえ見えれば……」

 

 暗闇と静寂が、恐怖心を増幅させる。

 

「え、わ……ちょっ!?」

 

 突如、一人のハンターが引っ張られていき、水中に姿を消した。

 

「おい!」

「まずいよリーダー……ここは引こう。ギルドに報告しなくてはっ!?」

 

 さらにもう一人、消えた。

 

「クソっ……! 出て来やがれ!!」

 

 直後、背後から水の音が聞こえた。振り向くとそこには、損傷が激しいミツネ装備に身を包んだ少年が歩いてくるのが見えた。

 

「子ども……何故ここに?」

「……わからない?」

「は……?」

「出てこいって、言われたから」

 

 少年の背後から、触腕が姿を現した。青い斑点が光る、大きな触腕。

 

「……! まさかお前!!」

 

 直後、触腕はハンターを捉えて締め付けた。ミシミシと防具が軋む。

 

「この姿になってからね、色んな場所に行けるようになったんだ。それに、隠れるのも上手になった。でもね……」

 

 少年は触腕を水辺へと動かした。ハンターの眼前には水面が広がる。

 

「よ、よせ……」

「……すぐお腹いっぱいになっちゃうんだ」

 

 触腕を水中へと潜らせた。ハンターは脱出を試みるが、どれだけもがいても触腕は緩まない。

 

「だからね」

 

 少年も水に潜る。

 

「美味しいとこだけ、悪くならないうちに食べる事にしたんだ」

 

 触腕を思いっきり締め付け、防具を粉砕する。ハンターは口から泡を吐き出し、意識を失った。

 

「味わって食べてあげるね、人間さん」

 

 少年はハンターの体から防具の破片を取り除くと、大きく口を開いた。




ガルルガは「ガルちゃん」って呼ばれていますが、男です。一応補足しておきます
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