天に立つ?ええ、ぜひお立ちなさい! 作:きりたん
私が『私』というものを認識し、ここがどこなのかもわからないまま辺りを見渡せば…記憶にない自分の覚えのまったくない場所にいたの。
自身の幼い身体はボロボロの状態で、ここがどこかとか何もわからないので何か情報を得ようと移動すればなぜか話を聞いてくれず襲いかかってくる人ばかり。その時は恐ろしさから無我夢中で逃げ出し隠れてやり過ごし、しばらく縮こまっていたが空腹に耐えきれなくなれば食べ物を盗んだりとまるで野生の動物のような日々を過ごしていたわ。当然戦うなんて事のできない幼女にできる事は見つからないようにコソコソするだけであり、見つかってしまった時にはどうなるかなど考えるまでもない事よね。自衛の手段が必要だと強く感じたある日、たまたま見つけた屯している連中が持っていた刀をこっそり盗む事に成功したの。
後で知ったことだけどこの刀は浅打といい、目覚めさせることができれば特殊な力を得られる刀なんだって。どうして山賊のような連中がそんなものを持っていたのかわからないけど、恐らく盗んできたかどこかから拾ってきたんだろうということだったわ。
そこから同じような事を繰り返しながら会話ができる人たちに話を聞き情報を集めて、その結果ここは死んだ人たちがやってくる天国?っぽい感じの場所だという感想になったわ。別に天国という場所がお花畑だとか思っていなかったけれど、なんか思ってたのと違ったなぁ…
しかもそんな天国のはずなのに場所によっては治安が良いとか悪いとか、瀞霊廷っていう選ばれた者しか入れない場所があったり貴族なんてものがいたりと俗っぽすぎて天国であることを忘れてしまうくらいの場所だったのだから笑えないよね。
そして持っていた斬魄刀が目覚めたらしいのはその頃だったかな。
いつも通りコソコソと食べ物を盗みに行ったところで不覚にも見つかってしまった。憤怒という表現がピッタリ似合うような表情で襲いかかってきた相手を前にして『死にたくない!』と強く思ったからなのか、なぜか力が漲るというか言い表すことのできない不思議な感覚に襲われた。相手のほうが大きく力も強いはずなのに、まるで相手が強敵に見えないというか虫を駆除するような感覚というか…その感覚のまま刀を振れば、人を斬ったとは思えないほど簡単に両断してしまい、まるで素振りをしているかのような抵抗の無さだったわ。
そんな殺伐とした毎日を繰り返し、幼女から少女になり刀の扱いもそれなりになってきた頃に1人のお婆ちゃんに出会った。この老人も私と同じように襲われたりしないために隠れ住んでいるらしく、私を見ては可愛がり食べ物をくれて世話してくれるため気づけば転がり込んでいた。どうやら私の容姿がとても可愛いということで、蝶よ花よどころかお姫様のように扱ってくれる。そんなお婆ちゃんの事が気に入らないはずもなく、そこからは期待に応えようと言葉遣いを改め態度もそれらしくなるように努めていきましたわ。お姫様がどういう言葉遣いなのかは想像でしかないけれど、きっとこんな感じなのでしょう。教養も大事ですが、いつ誰が襲ってくるかわからないので刀だけは常に手放さず、いざという時に十全に振るえるように鍛錬も欠かさないようにしておりますが。
お婆様はアタクシに『真姫』と名前を付けてくださり、更にはお婆様が大切にしているいう家名『織田』を拝命し『
「心配なさらないでお婆様。教えて頂いた知識と生きる術を活かし、アタクシが全てを治めてみせますわ」
「真姫…ワシはお前さんが幸せに暮らしてくれればそれで良いんだよ。死神になって戦ってほしいとも思わん。ただ、死神となり瀞霊廷で暮らすほうが安全だと思っとるだけじゃ」
「いいえ、それではアタクシの考える幸せにはなりませんの。この世界の全部がアタクシに跪けば、全ての人々が幸せになれますわ。そしてそれこそがアタクシの幸せでもありますのよ」
「真姫……どうしてこうなってしまったんじゃ」
あらお婆様、アタクシは間違っておりませんわよ。奪い奪われる者がいるのなら、その全てをアタクシが全部取り上げてから下賜してあげればよろしいんですもの。そうすれば皆がアタクシの下で幸せになれますわ。そのためには皆がひれ伏すだけの力が必要ですわね。魅力は日々磨いているので問題ないでしょうけれど、武力や権力といったものはお婆様が仰る通り死神にならないと手に入らないでしょうね。お婆様の教えと日々の努力によって斬魄刀の始解というものには成功いたしましたが、刀が扇子に変身するってどういう原理なんでしょう?しかも扇子じゃ戦えないのではないかしら…それとも戦いなど他に任せてアタクシは優雅に舞えという事でしょうか?幸いにも斬魄刀にも意思?があるらしく、きちんと戦い方や型や技などは教えて頂けるので1人で素振りするよりは効率が良いのかもしれませんが…それよりも斬魄刀というお話し相手ができた事のほうが嬉しかったですわ。名前も教えて頂いたので、それからは斬魄刀ではなく「環さん」と呼ぶようになりましたの。
アタクシの斬魄刀の能力は周囲の感情を食して力へと変えるとの事でした。確かアタクシが初めて人を斬った時には、
お婆様からの知識を授けて頂き、環さんからは戦い方の指南を受ける日々を過ごしておりましたが「鍛錬も良いが実践に勝る経験はない」という環さんからの助言を頂いたので実践訓練をすることに決めました。幼い頃の記憶を頼りに、かつてアタクシのような可愛い幼女に襲いかかってきた無頼者たちの住処へと向かいます。やはりそこには数人の山賊のような者たちがおり、アタクシを見て下品に笑っていましたわ。
「誰かと思えば身なりの良い女じゃねぇか。ちょっと物足りねぇが、楽しむ分には問題ねぇな」
「…やはり害獣は害獣。少しでも改心しているかと期待したアタクシが間違いでしたわ。でもこれで心置きなく駆除できますわね」
「何言ってやがる。お嬢ちゃん、大人しく手に持ってるの置いてこっちに来な。そうすりゃ楽しい思いをさせてやるからよ」
「話になりませんわね。アタクシの治める世界に貴方達のような獣の居場所はございませんの…お心安らかにお眠りさない」
やはり見た目と中身というのは乖離しないという事でしょうか。アタクシを見て跪くならば番犬程度に飼ってさしあげても良いと思っておりましたが、犬にもなれないのならば必要ありませんわね。ならばせめて戦いというものを学ぼうかと思いましたが戦いにもならず、ただただ環さんに教えて頂いた型を振るうだけの作業となってしまいましたわ。優雅に舞いながら害獣の首を斬り落としていく様は見栄えがするのかもしれませんが、感想を聞こうにも死んでしまっては聞けませんわね。感情が力となり、力はそのまま切れ味へと変わるという能力のおかげなのか人を斬る感触も何もなく呆気なく終わってしまいましたもの。
その日からなるべく戦いの経験を積むべくお婆様と過ごす時間の合間を縫って様々な場所へと赴いてみたのですが、やはりどこへ行っても山賊まがいの似たような者たちしかおらず大した経験にはなりませんでしたわ。もちろん害獣退治をすることで人々には感謝されたりはするのですが…まだまだアタクシの可愛い見た目では畏れまでは届かないようですわね。
そんな可憐な少女だったアタクシが更に美しく成長し、日々の努力と崇高な精神によって魅力と実力を兼ね備えた才女になった頃に1人の死神だと名乗る男性がアタクシの前にやってきましたの。その男性の名は藍染惣右介さん。話を聞けばまだ死神になって年数が浅く、どうやら治安が悪い場所とはいえあまりにも死者の数が多いためこの辺りに調査に来たらしいですわ。
「それらの害獣駆除ならアタクシがやりましたわ。褒章は、そうですわね…近頃お婆様の体調が優れない事も多いので薬を用意して頂けるかしら?」
「いや、真姫さんでしたよね。死神でもない貴女が斬魄刀を持って始解までできる事とか、ならず者とはいえ斬り捨ててる事とか、いろいろと問題行動しかしてないんですが…」
「あら、死神にならないと刀を持ってはいけないなんてアタクシの辞書には書いてありませんわ。そのような決め事など所詮は出る杭に打たれないようにするための誤魔化しでしかございませんのよ?いずれ死神どころか世界の全てを手にするつもりですし、なんならそのような決め事など覆してご覧に入れて差し上げますわ」
「ふむ…この尸魂界でそんな事を言えば謀反として粛清は免れないのだけれど、とても興味深い考え方ですね。知ってか知らずかわからないが、貴女は尸魂界にいながらこの世界の在り方を認めていないとは…」
話のわかるお方でしたのでアタクシの教えを授けて差し上げて、紆余曲折の末藍染さんは時折アタクシの下へと足を運ぶようになりましたわ。話している印象ですとこの藍染さんというお方はとても穏やかそうな人柄をしておりますわね。ただ憂いもあるようで、自らの向上心と周囲との温度差に風邪をこじらせそうになっているようですわね。
死神と言っても所詮は小市民なのでしょうね、日々霊力や実力と共に器まで大きく成長しているアタクシのような存在がいないとはいえ嘆かわしい事ですわ。とはいえ、アタクシは藍染さんと出会ったことで自身の未熟を知り、斬拳走鬼という死神の戦い方については鍛錬方法も世間話ついでにご教授頂く事に成功しました。いえ、これは藍染さんとしては理解していてアタクシに教えたのでしょうね。こればかりはお婆様や環さんには教えてもらえない事だったので、アタクシがこの世界に君臨した時にお礼をすることに致しましょう。
藍染さんとのお話は興味深いものが多く、そしてお婆様には教えてもらっていない様々な事を知る事ができました。きっとお婆様も知らなかったんでしょうね。虚圏という場所や虚などといった悪霊さんの存在など、アタクシが見ていた世界はまだまだ狭い籠の中のようでしたわ。尸魂界、虚圏に現世…もしかしたら藍染さんもまだ見知らぬ世界が広がっていても不思議ではありませんわね。
この出会いによって新たな戦い方を手に入れてから数十年ほど時が流れ、研鑽の日々はアタクシを更に上へと押し上げて行ってくれましたわ。唯一お婆様が亡くなられた事だけが悔いといえば悔いになりますわね。お婆様にはアタクシが世界に君臨し、その後にやってくる幸福な世界を味わって頂きたかったのですが…恥ずかしながらこの時ばかりは悲しさで大泣きしてしまいましたわ。とはいえ悪い事ばかりではなく、そのおかげで斬魄刀が仰るには「今までなかった自身の感情の爆発によってついに卍解という能力を目覚めさせるための準備が整った」そうですわ。確かにアタクシの今までの生き方を省みると、そこまで感情豊かとは言い切れないかもしれませんわね。つまりお婆様は最後の最後でアタクシを更に上へと押し上げてくださったという事…見ていてくださいお婆様。アタクシはこの哀しみを胸に抱いて前へと進んでみせますわ!
「真姫さん、私は瀞霊廷で様々な事を知った。そして私はそれを許すことができない。よって死神の枠に囚われず高みを目指す事にしたよ」
「藍染さんが何を知りそう思ったのかはわかりかねますが、そう仰るのならばアタクシはそれを応援致しますわ。そもそも有象無象を纏めるのは同じレベルでは成し得ませんもの」
「ああ。今は雌伏の時なれど、力を蓄え時期を計り、君の言う有象無象たちの上に立ってみせよう」
お婆様の哀しみは癒えずとも日々お婆様の教えを反芻し環さんと共に研鑽を積んでいたところに藍染さんがやってきて突然宣言なされましたわ。でもその内容だと藍染さんもアタクシと同じように全てを自分の下に跪かせようというのかしら?それだと藍染さんはアタクシの好敵手のような存在になってしまいますわね…そうだわ!何もアタクシが直接上に立ち民衆を束ねる必要などありませんわ。アタクシが頂点に立ち、藍染さんがその下で民衆に目を光らせる…これが最良なんじゃないからしら。そうと決まればアタクシも藍染さんが上に立てるように応援だけではなく助力したほうがよろしいですわね。
「藍染さん。貴方の志はしかと受け止めましたわ。先程は応援すると申しましたけれど、アタクシも藍染さんの目的を達成できるようお手伝いさせていただきますわ」
「ほう?それでは貴女がかつて言っていた世界を手に入れるという目的に反するのではないのかい?」
「いいえ、アタクシの目的と貴方の目的は必ずしも相対するものではありませんわ。無論、相対しないとも申しませんが…」
「なるほど…ならば貴女には少し協力してもらうことにしようか。1人では何かと面倒だからね。差し当たって…」
藍染さんの話し方が変わっているのは、こちらのほうが本来の藍染さんということでしょうか?藍染さんが仰るには、アタクシは既に上位席官にすら勝てるレベルの実力はあるけれどまだまだ足りないらしいですわ。上位席官というのがどの程度なのかわかりませんが、藍染さんの言葉から察するに大したことはないのでしょうね。死神になって力を磨くでも良いけれど、それだと結局その程度になってしまうということで虚圏という話で聞いていた場所へと行く事になりましたの。
藍染さんに秘密裏に連れてきて頂いた虚圏はとても広く、しかも白い砂しかないような場所でしたわ。相手は悪霊さんであるから遠慮はいらないと仰っていたので、期待しながら獲物を探そうにもなかなか見当たりませんでしたわ。そんな広い場所で長距離を移動する必要があるため、聞いていた走力というものを鍛えるのにも適しているようですし、出会った悪霊さんたちはまさにむき出しの感情をぶつけてこられるので環さんも喜んでその感情を糧にしているようでしたわ。普通ならとっくに食べられちゃっているらしいのですが、感情豊かな悪霊さんたちと環さんの能力のおかげで力を付けるのにとても良い環境になってくれていますの。虚たちの「自分のほうが上だ」という優越感から、叩きのめされた後の怒りや恐怖といった感情の落差が環さんにとっては美味というのは説明して頂いてもよくわかりませんでしたけれど…
もはや時間の感覚などなく体感ではかなりの時間を虚圏で過ごし、
「大帝…ですの?」
「ああ…お前さん死神だろ?なんで虚圏にいるのか知らないが、部下を大勢やられた事で大帝の怒りを買ったらしい。下手人は女の死神だって話まで流れてる。悪いことは言わないから逃げたほうがいいぞ」
「逃げる…ですって?ご冗談はおよしなさいな。全てに君臨するのはこのアタクシですわよ。たかが虚圏程度の王気取りに逃げるような脆弱な精神はしておりませんわ」
たまたま見つけた悪霊さんを問答無用で斬り伏せようとしたのですが、その悪霊さんはアタクシの姿を見るや否やすぐに降伏なさりましたわ。どうやらこの虚圏で悪霊さんを退治していくアタクシの事が噂となり流れているようですわね。それは別に構わないですし、流れた噂によって悪霊さんたちに芽生える恐怖や怒りの感情が…更にはアタクシに対する怒りに震える大帝さんの姿を見て恐怖する悪霊さんたちの感情もまたアタクシの力となっていくなんて、とっても素敵な循環になってまいりましたわ。
他にも情報がないかと聞いてみれば、その悪霊さんから1つだけ良い事を教えて頂きましたわ。大帝さんとやらには数多くの部下がいらっしゃるみたいですわね。つまり悪霊さんたちもただ襲いかかる害獣だけでなくアタクシのために働く番犬足り得る存在もいるという事ですわ。そしてそんな大勢の部下を抱える大帝さんを部下にすれば虚圏を手に入れたも同然という事ですの。そうとわかればできればすぐにでも大帝さんのところへと向かいたいところだったのですが、環さんが卍解修行なるものを行いたいと仰るので先に済ませることにしましたの。虚圏で王を語られるほどの方なので万全にしておいたほうが良いと仰られましたし、アタクシの事を想って仰って頂いているのを無下になどできませんしね。
環さんが仰るには『斬魄刀である環さん自身が具象化され、そして環さんを屈服させる』という事なのですが、結果的に卍解という能力を引き出す事ができるようにはなりましたわ…ただ、あのような心にくる修行はもうやりたくないですわね。いくらアタクシが才色兼備のスーパーレディとはいえ、斬魄刀である環さんからすればまだまだ完全無欠には程遠いという事なのでしょうか。卍解の能力もアタクシにとっては使い勝手の良いものとはいえ、戦う力という点で言えば霊力というものが上昇する以外にそこまで変わっていないからこそ、環さんも心配してくださっているのでしょうね。
そこでふと気づいてしまいましたわ。どうしてアタクシはこんなに戦う事ばかり考えているのでしょう…と。確かに戦う力も大事ですが、アタクシが矢面に立ってどうするんですの?秀外恵中たるアタクシのような存在はその美貌と智謀をもってしてこそなのではないのかしら…と。そうと決まればまずはこの虚圏でその計略を悪霊さんたちにご覧に入れて差し上げますわ!
決して移動の仕方がわからないんじゃなくってよ!
…
……
………
「藍染隊長。虚圏に来たんはええんですが、手当り次第強そうなんに声かけていきますか?」
「そうだね…最上級大虚は優先的に集めるつもりだが、ある程度数は必要だからね…それに彼女もいることだし、現在の虚圏の状況を把握しておく必要がある」
「……彼女ですか?誰かボクらの他にも協力者が?」
「いや、なんでもない。それよりも虚圏は広い…まずは手分けして数を集めようか。ギンも要もそれぞれ交渉に当たってくれ。方法は任せるよ」
さて、彼女をこの虚圏に放り出して結構な時間が経つ。彼女の力は死神でもないただの流魂街の住人としては破格の力ではあったが、それでもその程度に過ぎなかった。本来ならば報告し死神として瀞霊廷に連れて来られるのだが…当時の私にとって彼女の考え方には共感させられた部分もあり、あえて報告はしていなかった。いや、彼女の考え方が死神となることで矯正させられてしまうかもしれない事が、今の偽りの自分の姿と重なってしまったからだろうか。
彼女と出会ったのは、私がまだ死神として研鑽に励み貪欲に力を磨いている時だったか…その頃から彼女は周囲の存在の事を有象無象と称し、尸魂界に存在している小さな個の存在でしかないにも関わらず己の在り方を己で定め周囲の言葉に流されない。その事で何度も彼女の育ての親から相談や愚痴を聞いたものだ。最初は突如力を持ってしまったが故にその力に酔っているのかとも思ったが、観察程度のつもりで話していけばまるで
その考え方に刺激を受けたわけではないが、己の定めた目標のため研鑽を積む者と定められたシステムに流されそれを当然と受け入れる者たちとではどちらが印象に残るかなど言うまでもない。既に副隊長まで地位を上げ、更に知識と力を求めていた時に私はそれを知った。それを知ってしまえば謳われている死神の存在意義など霞んで見え、今自分のいる場所は所詮その程度でしかない事も理解した。今は届かずとも雌伏の果てに…最早瀞霊廷などという箱庭に興味を失い、斬魄刀である鏡花水月の力を活用し出来の悪い人形劇を片手間に行いながら様々な試みを行っていった。
ギンと要という部下を作りはしたが所詮はそれぞれが秘めている目的のため…私にとっては便利な駒程度の存在でしかない。その後表向きは模範的な死神を演じ、裏では浦原喜助の研究成果や虚での実験など、多岐に渡る地道な積み重ねの末に瀞霊廷での死神での実験と平行して今度は虚圏を実験場とすることにした。
ギンと要と共に虚圏へと来たので、ついでに彼女の様子でも見てみようかと思っていたが2人を彼女と会わせるにしても先にどうなったのか知っておく必要がある。仮に力及ばず虚に食い殺されたのならそこまでだが…恐らくそうはならないだろう。私の知る彼女が虚圏に来た事でどのような変化を齎したのか興味があった。
彼女の霊圧を探索しながら瞬歩で移動していき、覚えのある霊圧を感知しそこへと移動してみれば、そこには大量の虚と彼女がいた。だが両者は戦っているようにも見えず、それどころか虚が彼女へと傅いている。
「やぁ真姫さん、久しぶりだね。ところでこれはどういった状況なのかな?」
「あら、藍染さん。お久しぶりですわね。彼らはアタクシに従う下僕たちですわ。これから大帝という方の軍と戯れるところですの。ぜひ藍染さんもご覧になっていってくださいな」
「ふむ…興味深いところではあるが、それは少し待ってもらっても構わないかな?私は今纏まった数の虚が欲しくてね。ついでにどうして貴女が虚たちを纏め上げているのか聞いてもいいかい」
彼女になぜ虚たちを従えて戦争のような事をしているのか聞いてみれば、とても簡潔な答えをくれた。もちろん彼女にとって利となるものが重なったからというのもあったようだが、一番は「アタクシに前線は似合いませんもの」という言葉に集約されていた。周囲にいた付き人のような虚にも話を聞いてみれば、どうやら彼女はいつの頃からか虚を配下に置き始め勢力を拡大し、ついには大帝と呼ばれる虚に匹敵する軍勢となっていたそうだ。そしてその姿から配下の虚たちからは『女帝』と呼ばれているらしい。本人は可愛くないからと「姫様とお呼びなさい」と言っているそうだが、その名で呼んでいるのは彼女に付き従う周りの一部だけとの事だった。
今までの彼女を見ていたからか、ただ力を磨いているだけだと思っていなかったが…虚を従えて戦わせようとは、私の考えと重なる部分があるのは間違いない。ただ、実質彼女の力により行われているそれを、「アタクシの美貌による魅了みたいなものですわ!」と言い切れるあたりが彼女らしい。だがせっかく整った場を用意してくれたのだから、あとは私が彼らを使ってあげるとしよう。
「ところで話は変わるんだが、そろそろ尸魂界に戻ってみないかい?どうやら今まで一度も戻ってこなかったようだからこっちの水が合ったのかもしれないが、瀞霊廷などを見てみればまた違ったものが見られるかもしれないよ」
「アタクシを連れてきたのが藍染さんなのですから、連れてこられたアタクシが移動の仕方など知っているはずもございませんわ。でもそうですわね…それではこちらの事は藍染さんにお任せして、アタクシはその瀞霊廷のほうに向かわせて頂きますわね」
「なんなら私のほうから死神になれるよう取り計らおうか?今の貴女ならば十分に務まると思うが…」
「お心遣いは嬉しく思いますが遠慮させていただきますわ。アタクシはアタクシに相応しい場所へと進んでいくだけですもの。それでは送ってくださる?」
「それはすまなかったね。では行こうか」
どうやら彼女にとって虚の軍勢などどうでもいい事のようだね。戻り方がわからずにずっと虚圏にいたとは思っていなかったよ。しかし戯れに軍を組織して気まぐれに放り出すとは、やはり彼女は私を楽しませてくれるようだ。彼女の鶴の一声でその軍勢が全て私の配下に変わった。あとは大帝と呼ばれている軍勢のほうを支配下に収めれば虚圏を掌握することができるだろう。ひとまず彼女を瀞霊廷へと送り、配下となった虚たちに認めさせたところでギンと要が戻ってきたようだね。
「藍染隊長、どうやら虚たちは二大勢力どっちかに所属してるらしいですわ。どっちにも入ってない虚もおるらしいですけど、そういうんは巻き込まれんように距離を置いたりしてるみたいですね」
「こちらも同じような情報でした。虚どもが徒党を組むとは、虚圏は我々が知らない間に動きを見せていたようですな」
「ギン、要。心配はいらない。その二大勢力のうち1つは既に配下となった。後は残ったもう1つを収めれば虚圏は我々の支配下となるだろう」
「なんと…さすが藍染様」「えぇ…藍染隊長早すぎですわ」
偶然とはいえ、私もここまで予想を超えて事が進むとは思っていなかったよ。本来は虚圏で力を付けさせた後に、死神たちをかき回すデコイにでもなってくれればと思っていたんだが…次は瀞霊廷でどんな事をして見せてくれるのか期待していようじゃないか。