天に立つ?ええ、ぜひお立ちなさい!   作:きりたん

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良質な劇というのは上質な脚本によって成されるのですわ!

 

 

今までその任を担っていた隊長がいなくなった事で、護廷十三隊は新たな隊長を選出することになった。一番隊には総隊長として任命された京楽春水が隊長となり、残った各隊は副隊長がそのまま格上げとして隊長の席を継いでいく事となった。だが新隊長たちは、突然空いた事によって座らされることになった隊長の()は重く肩にのしかかり、隊の内部には言いしれぬ不安が漂っていた。

 

 

「ギン……」

 

「松本…市丸隊長が処刑されたってのは聞いてる。けどよ、いつまでも落ち込んでられねぇだろ?」

 

「冬獅郎、あたしの事はしばらく放っておいてちょうだい」

 

「そんなわけにはいかねぇだろうが!…ったく、雛森のほうも心配だってのにどうすりゃいいんだ…」

 

 

そんな日番谷冬獅郎の心配を余所に、護廷十三隊は着々と新たな体制へと移行していった。新たな隊長・副隊長たちの顔見せとして京楽春水は隊首会を開き、既存の隊長には先達として助言などを含め手助けしてやってほしいと要請していた。

 

 

 

 

やがて瀞霊廷が落ち着きを取り戻し護廷十三隊もまた混乱が収まりつつあった頃、隠居の身となった山本元柳斎重國の元へ仰々しい籠がやってきた。旗紋は中央四十六室のものであり、周囲の者たちは何事かと一抹の不安を抱えていたが、当の本人は取り乱す事もなく落ち着いたままその者を出迎えた。

 

「……随分と大袈裟な来訪じゃのう。儂に用があるのであれば書簡で呼び出せば良いものを」

 

「うふふ、ご機嫌よう山本さん。呼び出すだなんてとんでもありませんわ。用があるほうが出向くのは礼儀ですもの。本日は貴方にちょっとしたお願いがございますの」

 

「まぁよい。話は家の中で聞く。大した持て成しはできぬがな」

 

お付きの者を多数従え、たとえ顔を知らずとも貴族の訪問であるとわかるほどに貴族然とした女…織田真姫が護廷十三隊を離れた山本元柳斎重國の元へとやってきていた。家屋の中へと招かれ、互いに座した後に真姫から告げられた内容に山本元柳斎重國は眉間に深い皺を刻み込む事となった。

 

「あまり回りくどいお話は好きじゃありませんので、まず用件をお伝え致しますわね。山本さんには、瀞霊廷を襲って頂きたいんですの」

 

「ほう…この儂に瀞霊廷を襲えときたか」

 

「うふふ、話は最後まで聞いてくださる?それにあまり興奮なさると身体に毒ですわよ。こほん、あの一件で混乱していた瀞霊廷は今、随分と落ち着きましたわ。でも所詮は表面上の、でしかありませんの。そこで山本さんには仮想敵役として、護廷十三隊を相手にしていただきたいのですわ」

 

「今の護廷十三隊が儂を相手に戦えるかという事かの?」

 

「かつてアタクシの言った言葉を覚えていらっしゃるかしら。

 

『もし貴方と同じだけの実力を持った外敵が現れた場合、今の死神の皆さんはどこまで戦えますの?』

 

アタクシは心配しているのですわ。今回の件は運良く旅禍として現れた者たちが弱かっただけですもの。もう少し相手が強かったとしたらきっと…実力が乏しく散って逝く死神さんたち、ただただ嬲られ無惨に殺される流魂街の住民たち…そんな光景が目に浮かぶようですわぁ。そんな悲しい事にならないよう、尸魂界を護る護廷の皆様には強くなって頂きたいというアタクシの気持ちですのよ」

 

「ふむ…貴様の言いたい事はわかった。一芝居打ち稽古を付けるというのであれば、普段はやる気を見せん春水めらの成長を見る良い機会かもしれぬな」

 

「くれぐれも芝居であることを悟られませんよう…貴方には本気でやってもらわねば敏い者には気付かれてしまう可能性もございますわよ?そうですわねぇ…なんなら部隊1つくらい潰しても構いませんわよ?」

 

「言っておくが、これはあくまでも稽古を付けるだけじゃ。何を企んでおるのか知らぬが、儂が討つのは尸魂界に仇なす者という事をよく覚えておけ」

 

「ふふふ、それで結構ですわ。それではお願いも聞いて頂けましたし、お茶にでも致しましょうか」

 

緊迫した話し合いは真姫の要望を山本元柳斎重國が承諾する事で本題は終了となり、後は真姫が土産として持参していた茶を飲みながら穏やかな茶会となっていった。中央四十六室や貴族の元で数多くの書簡に目を通し、あらましや成り立ちなどの知識から様々な話題で話は思いの外盛り上がっていたと言っても良いだろう。そこで山本元柳斎重國の瀞霊廷に対する想いを、真姫は微笑みを絶やすことなく聞いていた。

 

 

 

 

うふふふふふふ…あまりにも思い通りになると笑いしか出て来ないものですわねぇ。山本さんの反乱に今の護廷十三隊がどのように対するのか見ものですわねぇ。突如として牙を剥く最強の死神というのは、きっと護廷の皆さんにとって大きな衝撃となる事でしょうねぇ。

 

でも…それだけだと見ているアタクシとしては少々味気ないかしら?山本さんが最強の死神であろうと所詮は1人…ならば他にも玩具を用意すれば良いだけですわね。屋敷へと戻ったら早速連絡を取っておきましょう。

 

 

 

「聞こえていらっしゃるかしら?」

 

『やぁ、随分と楽しそうにしているようだが何か次のアイデアでも浮かんだのかい?』

 

「ええ、藍染さんもお変わりないようで何よりですわ。少しばかりアタクシのお願いを聞いてくださるかしら?」

 

手が足りない時は藍染さんにお願いすれば良いんですわ。とはいえ今回欲しいのは虚圏にいる悪霊さんたちのほうなのですけれど…かつてアタクシの魅力によって下僕となった彼らならば、きっと今でもアタクシのために存分に働いてくださると信じていますもの。

 

藍染さんに今回のアタクシの名案を聞いて頂き、敵役を増やすべく悪霊さんたちを送って欲しいとお願いしておきましたの。

 

『あの山本重國に瀞霊廷を襲わせるか…なかなか楽しそうな事を考えているね。貴女の事だから次は雛森くんや日番谷隊長で遊ぶのかと思っていたんだが、1人や2人程度では満足できなくなったのかい?』

 

「そういうわけではありませんわ。藍染さんに教えて頂いた松本さん含め、雛森さんたちはアタクシの描いた脚本の下で踊って頂くつもりですもの。ふふっ、今回の被害に遭う事になるその他大勢と一緒には致しませんわ」

 

『なるほどね。先程の話ならば、いくつかの大虚を今回の端役として尸魂界に送ろう』

 

アタクシのお願いに藍染さんが玩具をいくつか見繕って下さるという事ですし、あとはアタクシの号令の下で舞台の幕を上げるだけですわね。前回のようにせっかく演出を用意していたというのに、飛び入りに次ぐ飛び入りで意味を成さずに即興劇のようになるのは好ましくありませんもの。今度こそ操り人形のように舞台全てを見事に操ってみせて差し上げますわ。

 

「ところで藍染さん。以前どこかへ逃げておられた黒崎さんはどうなさっておいでかご存知かしら?」

 

『黒崎一護か…彼は四楓院夜一と共に現世に戻っているね。もしかしたら仲間を取り返す算段でもしているんじゃないかな?浦原喜助が何か企んでいるのかもしれないが、今のところ目立った動きの報告は来ていないね』

 

「わかりましたわ。ちなみに藍染さんのほうは進み具合のほうは如何ですの?」

 

『こちらはもう少しといったところだね。崩玉が身体に馴染むまであと数週間はかかりそうだ』

 

身体に馴染むというのはよくわかりませんが、藍染さんは崩玉をお食べになってその力を取り込むつもりかしら…見た目は飴玉にも見えない事はございませんけれど、あまりああいったものをお口に入れるのはどうかと思いますわよ?でもこれで情報の欠片(ピース)たちが集まり、今回の脚本の大凡の筋書きができあがって参りましたわ。

 

 

 

 

「それは重畳ですわ。それなら山本さんの反乱と悪霊さんたちの襲来…そこにもう一工夫というのは如何かしら。とっても素敵な物語を考えつきましたので、きっと藍染さんもお気に召すはずですわ」

 

アタクシは中央四十六室を含む貴族たちを傀儡としたことで、藍染さんがかつて知った事と同等かそれ以上の知識を有する事となりましたわ。霊王の存在やその欠片、地獄などなど様々な記述がそこには残されておりましたの。もちろんその中には零番隊や王鍵なども含まれておりましたわ。興味深かったのは、そこには()()()()()()()()の存在やそれに行った所業などでしたわね。

 

藍染さんが種族の垣根を超え、更に目指す先である場所…アタクシの推測にしかなりませんけれど、それはきっと霊王という立場が欲しいのではなく、在り方として霊王と同じようになりたいという意味かと思っておりますわ。

 

アタクシが何かをせずとも、藍染さんならばそれを成す事はできるでしょう。ただ淡々とそれに向けて突き進むのも悪くはありませんけれど、やはりそれを見守っているアタクシからすれば多少の人間ドラマが欲しいというものですわ。何より苦労して目的を達成したほうが得られる喜びというものは大きいものですもの。

 

そういうわけで今回は前回と違い、尸魂界と虚圏も現世も巻き込んだとっても壮大な物語を用意致しましたのわ。きっと参加された誰もが与えられた役に満足していただける事でしょう。

 

『ほう、随分と綿密な筋書きを考えついたものだね。しかもその中に私だけでなく貴女本人も参加しているとは…』

 

「1つ1つの()を丹念に育てるのも一興ではありますけれど、たくさんの咲いた花が散り逝く様というのもまた美しいものですもの。既に護廷を見限り離れた藍染さんにはご面倒かもしれませんが、そこはそれ…ご理解くださると思っておりますわ」

 

『そうだね…確かにその通りだが、どういった結末を辿るのか興味のある話でもある。決して悪い話ではないよ。死神、虚、浦原喜助や黒崎一護、更に初代死神代行…そして零番隊。まさに群像劇といったところだね。ならば来る時に備え、私もまた破面たちの準備を進めておこう』

 

 

どうやらお気に召したようですわね。それぞれの状況を加味したアタクシの脚本を聞いた藍染さんに良いお返事を頂き、此度の演劇にも参加頂けるようで何よりですわ。今回用意した脚本は今一度藍染さんが護廷の頃の仮面を被る案でしたので、気が進まないのではという不安はありましたのよ。仮にお気に召さなかったとしても、その時は少々変更して虚圏が舞台の中心になるだけでしたので問題はなかったのですけれど…やはり自発的に参加していただいたほうが良いに決まっていますものね。

 

 

 

それでは次の参加者へお声をかける事に致しましょうか。その前に…まずは下僕に探させなければなりませんわね。

 

 

 

 

……

………

 

 

 

 

「黒崎サン、そろそろ修行は終わりッス。しっかり身体を休めないと、これ以上やっても効果はありませんよ?」

 

「ああ…でも何かやってないと落ち着かねぇんだよ。ルキアも心を奪われたままだし、こうしてる間もアイツらは捕まってるんだ。早く助けに行かねぇと…」

 

「……黒崎サン、もしかしたら、捕まっている彼らを助けるのは不可能かもしれないッス。護廷中で侵入者を処刑したという話が流れているみたいなんスよ」

 

「そんなわけねぇ!アイツらがそんな簡単に死ぬはずがねぇんだ!」

 

「ただ…その話の中に井上サンらしき人物は出てこないので、彼女だけは生きている可能性は高いかもしれないッス」

 

「なら尚更じゃねぇか!井上が生きてるってんならアイツらだって死んでねぇかもしれねぇだろ!」

 

あれから浦原さんも調べてくれてはいるが、やはりルキアを元に戻すには心を奪った相手を見つけて取り返すしかないみたいだ。恐らく斬魄刀の能力だろうとは聞いちゃいるが、それがわかったとしても誰がやったのかがわからねぇと取り返しようがねぇってのは理解できちゃいるさ。

 

それにアイツらが処刑された?そんなわけねぇ!アイツらは生きてるに決まってる!それに井上だけが生かされてるなんて不自然なのはオレにだってわかるつもりだ。アイツらがいたから、ルキアの時だってなんとか助ける事はできたんだ。浦原さんの情報だってどこまで本当かなんてわからねぇし、オレがアイツらの無事を信じねぇで誰が信じるんだ。

 

 

 

 

「喜助よ、随分と唐突に伝えたもんじゃのぅ」

 

「いつまでも焦ってばかりではいざという時に動けないッスからねぇ。アレを奪われている以上、そう遠くないうちに次が起こるのは間違いないッス。黒崎サンには申し訳ありませんが、そんな時に()()()()で折れてもらうわけにはいかないッスからね…向こうがなぜ井上サンだけ残したのかわかりませんが、最悪を想定してアタシたちは動きましょう」

 

「藍染とあの女…織田真姫という名じゃったか。何が目的かは知らぬが、次で決着をつけてくれるわ」

 

「さすがに次は出し惜しみ無しの総力戦になりそうッスねぇ。こちらも余裕があるわけではありませんので、()()()()()にも声をかけておくッス」

 

 

 

 

くそっ!浦原さんから変な事を聞いちまったせいで頭から離れねぇ…おかげで遊子と夏梨にも余計な心配をかけちまったじゃねぇか。だからと言って手をこまねいて待ってるばかりじゃ意味がねぇ…いっそ浦原さんに頼んでもう一度尸魂界に行くか…

 

 

「おうおう、随分と辛気臭い面しとるのう。そんな顔しとったら、ええようになるモンもならへんようになってまうで?」

 

「……誰だよ?」

 

「こうして顔を合わすのは初めてやな。俺は平子真子いうモンや。ほんまはここで出しゃばる気はなかったんやけど、ちょぉっと状況が状況みたいでな。形振り構ってられんどっかの誰かさんから連絡があってお前さんに会いに来たんや」

 

「どっかの誰かって……もしかして浦原さんか?」

 

「ほう…軽そうな色の頭してるわりに察しはええみたいやな、その通りや。ええか?今のお前がノコノコと瀞霊廷に行ったところでアイツらには絶対に届かへん」

 

「そんなもん…やってみなけりゃわからねぇじゃねぇかよ!!」

 

 

浦原商店に戻ろうかと思ってたところに、なんか胡散臭い男が声をかけてきやがった。つーか、軽そうな色ってテメェも大して変わらねぇじゃねぇかよ!しかもオレの事を知りもしねぇで訳知り顔なあたり人の神経を逆撫でするのが好きらしいな。

 

「少なくとも俺はお前よりもアイツの事を知っとる。もう1人のほうはわからんけどな。それはまぁ置いとくとして、お前に声をかけた本題のほうやけど…わかりやすく言うとな、このままじゃ足引っ張るだけのひよっ子を使いもんになるように叩き上げてくれっちゅう事や」

 

「アンタ、2人よりも強いのか?」

 

「さぁなぁ…それでも、少なくともお前よりは強いのは確かや。アレコレ御託を並べてんと、男やったら黙って態度で表してみぃ」

 

「面白れぇ…こっちも今のオレじゃ物足りなかったところだ。さっさとアンタを追い抜いてアイツらを助けに行ってやる!」

 

そうだ…ルキアの時もそうだったじゃねぇか!たとえ最初は敵わなかったとしても、それで終わったわけじゃねぇ。今のオレの力が足りねぇなら、足りるだけの力を付ければいいだけだ。そうすりゃきっと…ルキアも元に戻って、チャドも井上も石田もみんな揃って、今までみたいな毎日がまた始まるんだ。

 

 

 

「しっかり気張りや……仲間を失ういうんは辛いもんやからなぁ……」

 

 

 

……

………

 

 

 

「このお茶は美味しいですわねぇ。貴女もお飲みなさいな」

 

「……貴女はどうしてあんな酷い事をするんですか。茶渡くんも石田くんも…」

 

「あら、悪い事をした者には罰が下るのは当然ですわよ?」

 

「それでも…何も殺す事は…」

 

うふふふ、随分とお優しい娘なのですわねぇ。何も知らず大人しくしていればきっと幸せになれた事でしょうに…

 

藍染さんとの次の催し物についてお話をした後、しばらくの間は次回の素敵な演目に向けてのんびりと羽を休めておりましたの。今までを振り返ってみれば、少々働きすぎではないかしら?と気付いたからというのもありますわ。アタクシのような才女にとっては駒を動かす程度は大した負担ではありませんでしたけれど、しっかりと休養を取り心のゆとりを忘れないというのも美しさを保つためには大事な事ですわ。

 

それなら誰かとお話でも…と思ったのですけれど、考えてみれば藍染さんが虚圏に行ってしまわれたので、アタクシとゆっくりお話をしてくださる方がいなくなってしまいましたの。それなら東仙さんでもお誘いしてみようかと思ったのですが、ふと目をやればいつぞやの娘がいるではありませんか。せっかくなので話し相手になって頂こうと感情を戻して差し上げたというのに…アタクシを楽しませるのが貴女の大事なお仕事なのですわよ?

 

「貴女には苛烈に見えたとしても、立場を変えて見てみればまた違った見方というものができますのよ。瀞霊廷に無断で侵入して護廷所属の死神を誘拐しようとした貴女たちを、どうして丁重に持て成して差し上げなければなりませんの?」

 

「それは……」

 

「それにあの黒崎さんと仰る方は、捕まった貴女たちを見捨てて朽木ルキアさんを奪って逃げてしまわれましたわ。もしあの時()()()()()()()()()()()()、亡くなったお二方は死なずに済んだかもしれませんわねぇ」

 

「そんな……」

 

あらあら、そんな悲痛な表情をなさってどうしたのかしら?もういない方たちの事など放っておいて、もっと楽しいお話を致しましょう?現世のお話など聞かせて頂けないかしら。アタクシはまだ現世には伺った事がございませんので少々興味があるんですの。貴女はアタクシと違った服装をしていらっしゃるけれど、そういった格好が現世では多いんですの?

 

せっかくアタクシから質問をして差し上げているというのに、まったく答えてくださらないわねぇ…

 

「ふう…困った娘ですわ。少しばかり現世のお話をしてくださっても良いというものですわよ。貴女が答えてくださらないのであれば、知りたい事は()()()にでもお聞き致しますわ」

 

「…え?それって…まさか…」

 

「アタクシが知っている中で現世の事に詳しい方にお聞きするだけですわ。そうですわねぇ…()()()()()()()()()()()()()()()()に致しましょう」

 

「待って下さい!あたしはどうなってもいいから、黒崎くんには酷い事しないで!」

 

「だって貴女はアタクシを楽しませて下さらないのですもの。それなら楽しませて下さる方にお話を聞くまでですわ」

 

「お願いします!あたしちゃんと言う事聞きますから!」

 

「どうやら時間切れのようですわぁ。それでは元通り人形として大人しくしてなさいな」

 

ふふっ、随分と黒崎さんの事を慕っていらっしゃるようですわねぇ。不安と焦燥で溢れんばかりでしたわよ?もう聞こえていらっしゃらないでしょうけれど…残念ながら貴女がどれだけご自分を犠牲になさろうとしても意味がありませんわ。なぜなら…もう既に貴女はアタクシの所有物でしかないのですもの。

 

「姫様、ご指示のありました者の居場所が判明致しました」

 

「ええ、ご苦労さま。それでは少々出かけると致しましょう」

 

「姫様自らですか?」

 

「もちろんですわ。ただお誘いするだけですので従者は必要ありませんわよ」

 

もう少しこちらの井上さんで楽しみたかったところですけれど、下僕が何やら報告に来てしまったので時間切れですの。環さんによって再度感情を奪われ人形となった彼女をその場に残し、報告を聞いてみれば予想通り探し人が見つかったという朗報でしたわ。余程見つかりたくはないようで、随分と手間をかけて姿を晦まされておられたようですわね。もっと早く見つかると思っておりましたわ。

 

アタクシのお話を聞けば、きっと自ら「参加させて欲しい」とお願いしてくるに決まっておりますもの。

 

 

 

 

 

「くっ……銀城!!」「銀城!」

 

「がはっ…お前らは…下がってろ!アンタ…俺たちに一体…何の用なんだ?」

 

「あら?最初にお伝えしたはずですわ。アタクシはただ…銀城さんという方にお話がありこちらへ参りましたのよ」

 

「何が…お話だ…いきなり襲いかかって…きておいて「はいわかりました」とでも…言うと思ったか!?」

 

そんな事を言われても困ってしまいますわぁ…アタクシは普通にお声かけしただけですのに、敵対心むき出しで来られたのはそちらの方ですのよ?てっきり虚圏の悪霊さんたちと同じ系統の方々なのかと思ったので同じ方法を選択しただけですわ。

 

それに虚圏の悪霊さんたちなら、こうすれば「姫様に従います」と言って頭を垂れるというのに…貴方たちはまるで被害者のように振る舞うのですから意味がわかりませんわね。でもせっかく見つけた参加者なのですから、こちらからも譲歩というものをして差し上げますわ。

 

「それはそれは申し訳ありませんでしたわぁ。どうにもお出迎えされた方が聞き苦しいお言葉と見苦しい態度だったものですから、礼儀というものを存じておられないものと判断してしまいましたの。どうかお気を悪くなさらないでくださいまし」

 

「こいつ!ここまでやっといて…」「やめろリルカ!!」

 

「待て…これ以上こいつらを傷付けないというのなら、俺が話を聞こう。アンタの探していたXCUTIONのリーダー、銀城空吾だ」

 

「うふふ、アタクシは最初から争う気などありませんわ。それでは誤解も解けた事ですし本題へと参りましょうか。まずは…ゆっくりお話できる場所へ案内して下さる?」

 

「…わかった。着いてきてくれ。お前らも手を出すなよ」

 

どうやらアタクシの素直な気持ちが伝わったようで何よりですわ。何やらお仲間さんがいるようですけれど…ふふっ、()()()()()()()()()()()()()()()また同じ事を繰り返すだなんて、とっても寂しがり屋さんなのですわねぇ。

 

「ここなら誰にも聞かれる事はない。まず俺から質問させてもらうが…死神が俺に何の用だ?」

 

「アタクシは死神ではありませんわ。尸魂界では瀞霊廷に上がり護廷十三隊などに所属した者を死神と呼びますもの。貴方は広義で尸魂界の者を死神と一括に仰っているのでしょうけれど、その意味でいうならアタクシも死神となってしまいますわねぇ」

 

「そういう御託は好きじゃねぇ。()()()()()()()()()()せるだけの力も持っているのはわかっている。そんなヤツが突然現れて警戒しないほうがおかしいだろう?」

 

せっかくアタクシが説明して差し上げたというのに随分な態度ですわねぇ。でも…冷静に言葉を選んでお話しているところ申し訳ないのですけれど、内心が荒れ狂っておられますわよ?貴方がどういった経緯でそうなったのかよぉく知っておりますし、環さんが喜んでおられますので流して差し上げますわ。

 

「それでは貴方にも理解しやすいように話して差し上げますわ。アタクシは貴方が過去に死神と何があったのかを知っておりますわ。その上で少しばかり手を貸して差し上げようと思っておりますの。例えば…かつて貴方を利用し、失う切っ掛けとなった者にお会いさせてあげましょうか?」

 

「……浮竹を連れてくるって事か?」

 

「いいえ、貴方がそれが良いというのならそれでも構いませんけれど…そうですわね。少々昔話をして差し上げますわ」

 

この方…銀城さんは本当に何もお知りにならないのですのね。アタクシを死神と思い憎悪に身を焦がすのは構わないのですけれど…()()()()()()()で満足して頂いては困りますの。その燻る小さな火にアタクシが風を当て薪を焚べて、やがて自身も周りも燃やし尽くす大火へと育てて差し上げますわ。

 

ご本人は死神代行という立場となりご活躍なさっていただけなのに、突如死神に裏切られてお仲間を斬られた事で復讐を心に秘めておられたのでしょう。それでも良いのですけれど、アタクシの演出する演劇においては少々不足ですの。ですので銀城さんには瀞霊廷に巣食う貴族たちの暗躍の顛末と、アタクシの創作した物語を合作したものを語って差し上げましたわ。

 

そんな物語と一緒にアタクシが考えている今回の銀城さんの登場の場面についてもお話してありますので、その時にどうするのかはご自身で決めて頂きましょう。アタクシはあくまでも場を整えて差し上げるだけで、そこからどう行動なさるかは銀城さん次第ですわね。

 

「なるほどな…尸魂界ってのは随分と腐ったヤツらの多いところみたいだな」

 

「ええ、現世(こちら)では死した者は天国というところに逝かれると思われておられるのでしょう?残念ですけれど、死した者は尸魂界で現世よりも酷い目に遭われる方も少なくありませんの」

 

「胸糞悪い話だぜ。その話を聞かされて俺が聞きたい事は2つだ。なんで俺に復讐させたいのか、そしてそれによってアンタは何を得るかだ」

 

「アタクシが貴方に求めるの事は特にありませんわ。復讐するもしないも貴方次第…アタクシも偶然この真実を知ってしまいましたの。そして…アタクシの心がそれを見なかった事にする事ができなかったのですわ。現世の者がその生を終え、死出の旅立ちを迎えたというのに辿り着く場所がこのような場所ではいけないと…過去を顧み、現在を愛で、未来に期待を残すのが尸魂界の先達としてのお役目だと思っておりますの」

 

アタクシの演じるかのような語りを受けて、銀城さんもすっかり真実だと思いこんでおられるようですわねぇ。アタクシが何を得るのかなんて気にしても仕方がないでしょうに、少々興が乗ったので更に謳い上げて差し上げましたわ。ふふっ、アタクシのこの言葉に感銘を受けない者などいるはずがありませんわね。銀城さんもアタクシの持つ崇高な志に言葉を発する事ができないようですわ。

 

「お…おう…アンタの言いたい事はわかった。んでさっきの話だが、俺はアンタの指示したタイミングで尸魂界に行けばいいんだな?」

 

「ええ、その通りですわ。いくら貴方でも護廷十三隊を相手に本懐を遂げられるとは考えておられないでしょう?アタクシがそこまでの道を用意して差し上げますので、貴方はその通りに来てくださればよろしいですわ」

 

「わかった。あと1つ頼みがある。さっき一緒にいたアイツらには何も言わないでくれ。行くのは俺1人だけだ」

 

「ええ、もちろん承知しておりますわ。考えてみれば現世の者たちなどアタクシから見れば赤子のようなもの…つい大人げない態度を取ってしまいましたわね。そうそう、アタクシからも質問よろしくて?現世の事をいろいろと教えて頂きたいんですの」

 

「…そういう事なら俺よりさっきのヤツのほうが詳しいな。一応俺からも注意しておくが、多少口が悪いところもあるかもしれないが勘弁してやってくれ」

 

うふふ、先程は悪霊さんたちと同じだと勘違いしていただけですわ。もう用件は済みましたけれど…このまま瀞霊廷へ戻るのは少々物足りないものですし、せっかくですので現世を少しばかり堪能させて頂いてから戻る事に致しましょう。

 

 

藍染さんと悪霊さんたち…山本さんに護廷の方々…黒崎さんに銀城さん…とっても素敵な舞台が見られる事を期待しておりますわぁ…

 

 

 

 

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