天に立つ?ええ、ぜひお立ちなさい! 作:きりたん
「頼む浦原さん!オレを尸魂界へ送ってくれ!」
「黒崎サン、尸魂界は今とても危険な状況に陥っているッス。そこに迂闊に飛び込むのは死にに行くようなモンなんスよ?」
「それでもだ!平子たちとの修行で力も付けた!今行かねぇでどうすんだ!?」
「……なら条件が1つだけ。今の尸魂界は以前とは比べ物にならないくらい混乱しているみたいッス。正直アタシにもどうなっているのかわからない上に、虚までもが暴れまわっているって情報もあるんス。だから…
「…どういう意味だ?とにかく中央四十六室に行けばいいんだな」
「一護のやつは少しは吹っ切れたのかの?」
「どうッスかね。平子サンが面倒を見てくれていたので、その辺りは期待しましょう」
「虚が尸魂界で暴れている、か…藍染め、一体何を考えておる…?」
「
…
……
………
旅禍の侵入という一件の顛末によりその顔ぶれが大きく変わる事となった瀞霊廷・護廷十三隊は、徐々にその混乱も治まりを見せていった。総隊長という席に座る事となった京楽春水もまた、やっとという思いが相応しいほどに珍しく憔悴していた。かつて自分たちの恩師であり、護廷十三隊を率いていた上司でもあった山本元柳斎重國という人物の偉大さと苦労の一端を自ら味わう事となってしまった。
それぞれの隊の癖のある隊長たちを束ね、自身の判断で尸魂界を守っていかねばならないという覚悟…そして変わりつつある護廷十三隊とは比べ物にならないほどに変わったとされる中央四十六室。考えるほどに嫌になる事柄に、流石の京楽春水も今までのように逃げるような事はできなかった。
普段の平静を取り戻したと言えるであろう瀞霊廷だったが、長く続いて欲しいという願いとは裏腹に予想などまったくしていなかった事態に見舞われる事となった。感じた事のある…などというレベルではなく、馴染みのあると言えるほどによく知った霊圧を感じる事となったからだ。
「この霊圧は……山じい!?」「これは…まさか元柳斎殿!?」
「京楽総隊長!雀部副隊長!報告します!流魂街の外れより凄まじい霊圧が感知されました!」
「ああ、よーく知っている霊圧だからね。山じいがここまで届くほどの霊圧を出すなんて、もしかしたら何かあったのかもしれない。そちらには何人かの隊長格のみで向かうから、後の事は雀部副隊長に任せるよ」
突如として火山が噴火したかのような激しい霊圧を感じ取り、総隊長である京楽春水は今も一番隊の副隊長として残っていた雀部長次郎に後の事を任せ飛び出して行った。流魂街の外れという場所は瀞霊廷からかなり遠く、その移動の間に十三番隊の隊長である浮竹十四郎や七番隊の隊長である狛村左陣らが合流しその場所を目指していた。
「……来たかのぅ」
「山じい!一体どうしたっていうんだよ!?」「先生!」
「ほう…京楽総隊長に浮竹隊長、狛村隊長に砕蜂隊長までおるのか。残りは瀞霊廷の守護に回っておるという事かの?」
「話を聞いてくれって!あんな霊圧を出すなんて只事じゃないってんで急いで来たんだぞ!?」
「それはすまなんだな。積もる話は後にして、まずは
「「「なっ…!?」」」
…
……
………
「雀部副隊長!緊急報告!現在流魂街の各地にて大型の虚が出現しているとの事です!」
「なんだと…?」
「雀部副隊長!二番隊より報告!!瀞霊廷の周囲にも突如として空間が裂け、大虚が多数現れたとの事です!」
「一体何が起こっているというのだ…?先程の元柳斎殿の霊圧も虚と戦っていたということか…とにかく流魂街の住人を助け出すのが先決だな」
京楽総隊長が山本重國の霊圧の場所へと向かい、その刃を合わせるという事態へと陥っていた頃…残された一番隊には更に緊急の報告が上がってきていた。副隊長として隊長の留守を守っていた雀部長次郎の下へとやってくる報告は、まさに凶報といえるほどの問題であった。もちろん死神として虚を相手取る事は珍しい事ではないが、大虚となれば油断できるような相手ではない。更に今は総隊長含めた数人の隊長が瀞霊廷内にいないという状況も各隊の混乱に拍車を掛けていた。
…
……
………
くそっ!一体どうなってやがる!?なんでこんなに虚がいやがるんだよ!
浦原さんに送ってもらって前回と同じような場所に辿り着いたと思えば、出迎えてくれたのは虚が人を襲っている場面だった。中央四十六室を目指せって言われてるけど、目の前で人が襲われてるってのに助けねぇで放っておくわけにはいかねぇだろ!
しかも助けた人に聞いたら虚はそいつだけじゃなく、いろんな場所に出現してるらしい。つーかこんな大変な状況になってるってのに死神のヤツらは何やってんだ!?しかも白道門を目指して走ってる間にまた襲われてる人がいるだと!?しかも子供…ダメだ、見捨てていけねぇ。
今まさに食おうとしていた虚を斬り飛ばし、恐怖で表情が凍りついた子供を抱えて逃げようとしていたんだが…それは罠だったんだ。子供のふりをした虚に近づいちまったオレが逆に食われそうになったところで、今度はオレが助けられるハメになっちまった。
だが…信じられないのはここからだった。オレを助けたのは…忘れようにも忘れられない、夜一さんに牢屋から助けられた時にあの女と一緒にいた男だった。
「危ないところだったね。君は黒崎一護…で間違いないかい?」
「テメェは…!?」
「君とこうして会うのは二度目だね。僕は護廷十三隊五番隊隊長の藍染惣右介。おっと、今は元五番隊隊長と言ったほうが良いかな?」
「ふざけんじゃねぇ!牢屋であの女と一緒にいたテメェを忘れたりはしねぇ!」
「ああ、勘違いしないでほしい。恐らくだが、君の目的と僕の目的は偶然にも一致しているはずなんだ」
「何……どういうことだ?」
「全ての元凶は僕と一緒にいた彼女だったのさ。少し長い話になるが聞いておいてほしい」
僕がいつも通り隊長として仕事をしていたある時、流魂街で何人もの人たちがまるで
あまり詳しくは語らないが、僕は彼女の指示の下で悪事に加担させられていたんだ。本来ならば護廷の一員として戦うべきだったんだろうけど、厄介な事に彼女が居座っているのが中央四十六室という権力者たちの中枢とも言える場所でね。まさに彼らが黒と言えば白さえ黒になるという表現が相応しいような場所だと思ってもらえればいい。そんな訳で他の隊長たち含め、誰にも言えなかったんだ。
そして彼女は僕の事も部下たちと同じように心を奪うつもりだったんだろう。君たちの侵入という混乱に乗じて護廷十三隊に対して僕が殺された事にしてしまったんだ。すぐにでも仲間たちに無事を知らせたいところだったんだが、それをしてしまうと今度は無事な仲間たちまで被害に遭う恐れがあったせいで躊躇ってしまった。
あの時はすまなかった…君と出会った時も逆らうわけにはいかなくてね。その後なんとか部下たちの身体だけは取り戻す事ができて今は安全な場所へと隠してある。後は奪われた心を取り戻してやればいいはずだったんだが、そこで見つかってしまってね。危うく本当に殺されるところだったんだがなんとか逃げ出す事ができ、こうして野に下りながら機会を伺っていたところで今の君と出会ったというわけなんだ。
「それに…何の確証もあるわけではないんだが、恐らくこの虚騒ぎも彼女が行っていると僕は見ていてね。君とここで出会えたのは正直幸運だったよ」
「そっか…アンタも結構大変な目に遭ってたんだな。でもアンタ、よく生きてたな。いや、アンタの力を見縊ってるわけじゃなくてさ…オレはあの女に一瞬で気絶させられたからよ」
「ああ、それは僕の斬魄刀の能力だね。
「へぇ…自分の以外だと前に戦った時にいくつか見た事があったけど、そういう能力もあるんだな」
「言葉で聞いただけではわかりにくいかもしれないね。せっかくだから僕の斬魄刀の能力を見せておこう。百聞は一見に如かずという言葉もある。見ておけば似たような能力を持った相手がいても、心構えはできているから焦ることはないだろう?」
「なるほどな…そんじゃ頼むわ」
つまり黒幕はあの女だったって事だ。くそっ!あの時オレがやられてなけりゃこんな事にはならなかったかもしれねぇのに…だがまだ望みが絶たれたわけじゃねぇ。偶然かもしれねぇが、あの女に利用されていたっていう隊長に出会う事ができた。しかも話を来てみればあの女のタチが悪いとしか言いようのねぇ内容だ…斬魄刀の能力もあったんだろうけど、よく生きて逃げ延びることができたもんだな。実際に見せてもらった藍染隊長の…いや今は隊長じゃねぇんだっけ。藍染さんでいいや。藍染さんの斬魄刀は確かに言われてなきゃ騙されるだろうな。
そんな藍染さんと一緒に出てくる虚を退治しながら白道門へと向かって行ったんだが、本来いるはずの門番がいないって事に藍染さんが気付いたんだ。白道門には兕丹坊って門番がいる事はオレも前回来たから知ってる。その兕丹坊がいなくて、門が開けっ放しになってたんだ。正確には門扉自体が壊されてて門を閉める事ができなくなってた…だな。
「どうやら瀞霊廷のほうでも何かあったみたいだ。本当はすぐにでも中央四十六室のほうへ行きたいところなんだが、この騒ぎだ…残された仲間たちも気にかかる。君は先に行っていてくれ。仲間の無事を確認したら僕も後を追うよ」
「ああ、わかった。あの女を倒せばいいってのがわかってるんだ。今度こそ遅れは取らねぇ!」
「いいかい?彼女は決して表に出て戦うようなタイプじゃない。言葉巧みに相手を翻弄する事を得意としている策士だ。君は彼女にやられたと言うが、恐らく彼女の容姿に騙されて不意を突かれたんじゃないかな。とにかく彼女と相対するなら、正面から力で押す君の戦い方は優位に持っていけるかもしれない。最後に…彼女はどうやら
「ああ、サンキューな!アンタも仲間が無事だといいな」
藍染さんは仲間が気になるってんで、先にオレだけあの女のところに行く事になった。まぁ色々あったって言ってもやっぱ仲間を心配するのは当たり前の事だしな。それに藍染さんには悪いがあの女に借りを返したいって気持ちもある。
それに別れ際に十分なアドバイスも貰ったからには勝ってみせねぇとな。きっと慰めも入ってたんだろうが…確かに言われた通りあの女と初めて会った時は、どう見ても戦うような感じに見えなかったから気が抜けてたってのは否定できねぇ。だがもう油断はしねぇ!
もうすぐあの女と初めて会った場所に着く。会ったらまずはアイツらをどうしたのか直接問い質すつもりだ。浦原さんや平子たちの話は聞いちゃいたが、それでもあの人たちは直接尸魂界で見たわけじゃねぇ。だからいくら世話になったからって、オレが直接確認するまでは鵜呑みにするわけにはいかねぇんだ。
「うふふ…ごきげんよう、黒崎さん。本日はどういったご用件でいらしたのかしら?」
「出やがったな!てめぇが黒幕だってのはもうわかってんだ!悪いがてめぇの与太話に付き合ってやるつもりはねぇぜ!」
「あら…アタクシのお話を勝手に与太話扱いはひどいですわねぇ。女性の話には黙って耳を傾けるのが殿方としての礼儀ですわよ?」
「ああそうかい…そりゃ悪かったな。こちとらそんなに育ちが良くねぇもんでな。悪党の話を真面目に聞いてやるほど優しい教えはされてねぇんだよ!だが1つだけ聞かせろ。オレの仲間…チャドと石田と井上はどこにいる?」
「アタクシの話など聞きたくないのではなくて?でもそうですわねぇ…教えて差し上げてもよろしいのですけれど、せっかくなので戯れにお付き合い頂きますわ。少しばかりお時間を頂きたいので、こちらにいる悪霊さんたちと戦っておいてくださいな」
やっぱりまともに話をする気はねぇみてぇだな…しかもこの女、虚を2体も呼び出しやがった。やっぱ藍染さんの予想通り、尸魂界で虚が暴れてるってのもこいつの仕業で間違いなさそうだな。つまりオレがこの女を倒せば、ルキアを含めた大勢の奪われた心も戻って虚騒ぎも収まるってわけだ。
そういうわかりやすいのは嫌いじゃねぇぜ!だが…出てきた虚はさっきまで倒していたヤツとは比べもんにならねぇほど強くなってやがる。しかも2体の虚が連携して攻撃してきやがるなんて…
「うふふ、そういえば井上さんでしたか?彼女のような可愛らしい女性は、それに相応しい場所へと置いてありますわ。場所?…浮浪者のような野蛮な殿方がたくさんいる場所ですわ。ご想像なさってみて?可愛らしいお人形さんのような彼女が、何の抵抗もできないままたくさんの暴漢に辱められる…とっても哀しいですわねぇ?」
「て……てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ふふっ、冗談ですわ。相応しい場所と申しましたでしょう?ちゃぁんとアタクシの手元にございますわ。それに、同じ女性として、女性の尊厳を踏みにじるような事は致しませんわよ?」
「ふざけんじゃねぇ!ならてめぇを倒して井上を奪い返すまでだ!」
くそっ!言葉で翻弄してくるって聞いてわかっていても聞き流すなんてできねぇ!大体この女の言葉がどこまで本当でどこまでが嘘なのかだってわかったもんじゃねぇんだ。自分の目で確かめるまでは安心できねぇ。しかもあの女の口車に惑わされたせいで虚から意識が外れちまった…!
「うふふ、油断大敵ですわよ?」
「しまった…!」
ダメだ!避けられねぇ…!ルキア…井上…チャド…石田…
「無事のようだな、一護」
「こんな虚ごときに遅れを取るなんて…腕が鈍ったんじゃないのか?」
「え……チャド…?石田…?」
攻撃を受ける事を覚悟していたが、そこに来るはずの衝撃が来なかった。しかも攻撃しようとしていた虚は吹き飛ばされて壁にぶつかってる…そこにはオレが見たかった2人の姿があったんだ。
「どうした一護。呆けている場合ではないぞ。まだ井上が捕まっている」
「敵を目の前にして間抜け面を晒しているからやられそうになるんじゃないのか」
「チャド!石田!やっぱり生きてたのか!?」
「ああ、殺される一歩手前だったが、なんとかこうして生きている。心配かけたな」
「そんなに簡単に殺されはしないさ。むしろ死にそうだったのは君のほうじゃないのかい」
やっぱり生きてたんだな!やっぱりこいつらが簡単に殺されるはずなんてねぇんだ!チャドも石田もいつも通りだし、浦原さんたちの情報が間違ってたんだな!後は井上を助けるだけ…そして井上を助けるのもルキアを元に戻すのも、目の前にいるこの女を倒せばいいんだ。前にルキアを救いに来た時はバラバラになっちまって…あんな結果になっちまったが今回は違うぜ。
「チャド!石田!あの女の言葉に惑わされるな!」
「ああ、わかっている。一護も熱くなるなよ?」
「黒崎が一番心配なんだけどね。とにかく井上さんを助けるのが優先だ」
コイツらが捕まってオレだけ逃げて…浦原さんや平子から聞かされて、心のどこかでは「本当の事なんじゃないのか」って気持ちが消えなかった。だけど、やっぱりそうじゃなかったんだ!
もう騙されたりはしねぇ!女だって事も気にしねぇし、戦えねぇような見た目にも惑わされたりもしねぇ!
「うふふ、ところで……貴方は先程から
もうこいつの言葉なんて気にならねぇ!
「またお得意の口車か?チャドも石田も戻ってきた!後はテメェを倒して井上を助け出すだけだ!」
待ってろ井上!チャドと石田と一緒にすぐ助けに行くからな!
「はて?黒崎さんがずっと仰っておられるチャドさんと石田さんというのは…………」
そこに転がっている…