天に立つ?ええ、ぜひお立ちなさい!   作:きりたん

8 / 9
想像を超えるからこそ舞台は盛り上がるというものですわ!

 

 

「そんな……オレが……オレのせいでみんなが……」

 

「ええ、その通りですわねぇ。お仲間を見捨てて逃亡し、戻ってこられたかと思ったら残された唯一の生き残りの少女まで斬ってしまわれましたもの。貴方の残酷さにはアタクシも敵いませんわねぇ」

 

「違う!オレは……オレは……」

 

「それともお仲間のように振る舞っておいででしたけれど、その実彼らの事を疎んでおられたのかしらぁ?まぁ良いでしょう。貴方もこの後処刑なんですけれど…少しだけ猶予を差し上げますわ。その間でしっかりと苦悩し、後悔しておきなさいな。それがアタクシの為に、ひいては世界のためにもなる事ですわよ。この者を牢へと連れてお行きなさい」

 

あの女と対峙した時にチャドと石田が死んだ事を目の前で証明されてしまい、視界が真っ白になったと思ったら…次に気付いた時には井上が刀で貫かれてた……それも、オレの斬魄刀で……

 

この女が言っている事は何も間違っちゃいねぇ……あの時ルキアを助けるために、チャドたちが捕まっている事を知っていながら逃げたのは事実だ。そして井上もオレが……でも、それでもオレはあいつらを悪く思った事は一度もねぇ。信頼できる仲間だと思ってたし、助けたいと思ったのだって本心だ……

 

周りにいた死神たちに連れられて、前回と同じ牢屋に入れられても逃げ出そうとか考えられなかった。このままオレも殺されるのか……?今のオレには助けたい仲間も一緒に戦ってくれる仲間もいなくなっちまったし、何が正しくて何が間違ってるのかもわかんなくなっちまった。

 

オレがルキアを助けようとしたのが間違っていたのか…?あの女が言うように、オレが動かなければ仲間を失うような事にはならなかったのか…?『オレがみんなを護るんだ』なんて出来もしない事を考えて行動した結果がコレって事なのか…?ダメだ…わかんねぇ…

 

 

「随分と参っちまってるみたいだな」

 

「……?アンタ誰だ?」

 

「俺は銀城空吾。簡単に言やぁ、お前の先輩ってところか?」

 

「その先輩がなんで牢屋に入れられてんだよ?」

 

「覚えてないのか…まぁこのまま黙って待ってるのもあれだしな。意味がわかんねぇだろうが、お前の気持ちは俺が一番理解できているつもりだ。そんな柄じゃねぇが、ちょっと俺の話に付き合えよ。今のお前は見ちゃいられねぇ…」

 

 

 

……

………

 

 

 

うふふふふ…アタクシの迅速な判断によって此度の虚襲撃事件は幕を閉じる事となりましたの。首謀者と思われる黒崎さんは抵抗する気力もないのか斬魄刀を奪われ投獄、手助けをしたであろうと見られている銀城さんも同じく捕まり投獄されましたわ。銀城さんはそのまま死神の手によって処刑しても良かったのですけれど、何やら放心しておられたようですので投獄にして差し上げましたの。

 

きっと()()()()()()()()()()()()()()()に、何かご自分と重なるような思い出でもあったのかもしれませんわねぇ。

 

銀城さんの方は月島さんが何とかするでしょう。脱獄して復讐の炎に焼かれるも良し、アタクシに慈悲を願うも良し…貴方たちのお好きに行動なさるとよろしいですわ。もっとも……場合によっては四十六室が処刑の裁定を下してしまう(アタクシの気分が変わってしまう)かもしれませんけれど……

 

 

「どうして彼らはすぐに処刑せず、あの女の子だけ殺したのか教えてもらえるかい?」

 

「あら、京楽さんは女性に長く苦しめとでも仰るのかしら?刀に刺し貫かれていた以上、速やかに殺して差し上げるのが慈悲だとは思いませんこと?」

 

「そうじゃない。それに彼らの抹殺は四十六室の指示だったはずだ。それなのにその対象を投獄し、彼女だけ殺したのが気になっただけさ」

 

「ええ、確かにその通りですわ。本来ならばここで全員殺しておくべきでしょうねぇ。でも…既に瀕死の彼女の目の前で黒崎さんを殺してしまえば、きっと彼女の絶望は果てしないものとなっていたでしょう……同じ女性としてそのような非業の最期を迎えさせるなんてアタクシにはできませんでしたの」

 

「なるほど……それにしても貴女は随分と()()()()()いるようだね。あそこまで見事に首を斬り落とす太刀筋なんて、護廷(ウチ)の隊士だってそう簡単にできるものじゃないよ」

 

京楽さんたら、アタクシが井上さんだけを殺した事に納得なさっておられないようですのねぇ。まぁ…抹殺指令を出しておいて黒崎さんと銀城さんを生かして投獄したのはアタクシなので仕方ないのですけれどね。

 

そして…流石総隊長さんとでも言うべきかしら。アタクシがただの中央四十六室の客分ではない事は感づかれておられるようですわね。わざわざ太刀筋だと表現したのも悪くないのですけれど、まだ明かす気はございませんわ。

 

「うふふ…この程度、乙女の嗜みですわ。日々研鑽を積まれておられる護廷の方々に比べればとてもとても……アタクシのようなか弱い女では戦場に赴いて戦うなど考えただけでも恐ろしいですわぁ」

 

「そうかい?案外血生臭い戦場のほうが水が合うかもしれないよ?」

 

あらあら、京楽さんったらアタクシに戦場が似合うだなんて失礼な物言いですこと……どうしてもそちらをご所望されるのであれば応えて差し上げないでもありませんけれど、今はまだその時ではありませんの。地位(四十六室)で示し、知略(暗躍)で示し、既に尸魂界は貴方たちがどう思おうともアタクシの遊び場となっておりますのよ?それでも納得ができないと仰る時には……お望み通り(霊力)でも示して差し上げますわ。

 

 

 

「やぁ、随分と楽しんでいたみたいだね」

 

「あら、藍染さん。少しばかり遅かったんですのねぇ。ちょうど先程とっても感動的なお別れの場面が終わったところでしたのよ。アタクシ悲しくって涙が止まりませんでしたわぁ」

 

「それは良かった。私も少しながら協力した甲斐があるというものだ。そしてこちらは予定通り王鍵は手に入れた。後は鍵を開けて対面といこうじゃないか」

 

「ふふっ、それは重畳ですわ。ちなみに話に聞く浦原さんという方や四楓院さんはどうなさったんですの?」

 

「ああ、彼らか…彼らは出来損ないたちと一緒に少し邪魔をしてきたが、破面たちが相手をしている間にどこかへ逃げて行ったようだ。どうやら何か()()()にも気を取られていたようだからね」

 

うふふ、余所見なんて感心しませんわねぇ。何か他に気にかかるような出来事でもあったのかしら?瀞霊廷の皆様はアタクシの劇に出演頂いておりますので、現世で問題など起ころうはずもないと思うのですけれど…そういえば市丸さんはご一緒ではなかったんですのねぇ。一応死んだという位置付けですし、他に何かお役目を与えておられるのでしょう。

 

「それでは藍染さんも準備が整ったようですし、今回の物語の第二幕……いいえ、終幕の開始と参りましょうか」

 

「ああ、そうだね。秩序と混沌が併存し、世の理は無稽を紡ぐ…空虚な座は意思によって、真の意味で見上げられるべき場所としての意味を持つだろう」

 

「ふふっ、とっても楽しみにしておりますわぁ」

 

 

それにしても、藍染さんが来られたということは次の合図がそろそろ届いても良い頃合いですのに、考えていたよりも遅いですわねぇ。このまま幕開けの知らせが届かないという事はないでしょうけれど、やはりアタクシ自らの手で鳴らしたほうが良かったかしら?

 

 

 

「姫様!火急の用件です!現世の重霊地が…原因不明ながら消滅しているとの事!これにより護廷十三隊より隊長格を含め出動の許可を求める要請が届いております!」

 

「あらあら…それは大変ですわねぇ。虚が攻めてきたと思えば今度は現世なんですのねぇ。勿論許可致しますわ。事は危急を要するため、過剰と思われる程度には戦力を動かしても構わないとお伝えなさい。ついでに隊長を降りられた山本さんたちも同行するように指示しておいてくださる?」

 

「はっ!それではすぐに護廷十三隊へ通達を出します!」

 

「そうそう…瀞霊廷の守護を疎かにするわけには参りませんから、そうですわねぇ……五番隊と九番隊、そして十番隊の方々には守護のために残って頂きましょう。そのように伝えておいてくださいな」

 

 

うふふ…ようやっと待っておりました合図が届きましたわ。重霊地の消滅なんてとっても大変な事態ですわねぇ。護廷の死神さんたちの現世への出動の許可まで一緒に届くということは、ある程度そこで止まっていたということかしら。それとも、それだけなら中央四十六室が隊長たちの出動を認めないと思っておられた方でもいたのかもしれませんわね。中途半端に飛び出されても面倒なだけですし、ここは皆さん揃ってお出かけして頂いても構いませんわ。

 

そういえば…まだあの方とお会いしたことはありませんでしたわねぇ。この際ですから、今のうちに少々交友を深めておくことに致しましょうか。

 

 

……

………

 

 

「ご、五番隊隊長の雛森桃です!」

 

「うふふ、そう緊張なさらないで?アタクシは織田真姫と申しますの。貴女の事は常々藍染さんから伺っておりましたわ」

 

「えっ…?藍染隊長があたしの事を…?」

 

「ええ、とっても優秀で可愛らしい部下だと仰っておりましたわ。アタクシも貴女にお会いするのを楽しみにしておりましたのよ?」

 

 

多くの死神さんたちが瀞霊廷を離れて現世の調査に向かわれて、守護のためと残って頂いた隊より新しく隊長に就任なされた雛森さんに来て頂きましたの。この方の事は藍染さんから伺っておりましたけれど、その話の通り予想を裏切らないお方のようで安心致しましたわ。

 

 

「実はですねぇ、貴女には是非アタクシのお友達になって頂きたかったんですの。恥ずかしながら…アタクシは今まで()()()()()しかお友達がいなかったので、貴女のような可愛らしいお友達が欲しかったんですわぁ」

 

「あたしでいいんですか?もしかして藍染隊長も…」

 

「ええ、瀞霊廷内で藍染さんとアタクシの事がどのように噂されておられたのか多少耳に入っておりますわ。でもそれは誤解ですのよ?アタクシと藍染さんはお友達と言ったほうが正しいですわねぇ」

 

「そうなんですね…良かった…」

 

「ふふっ、安心なさいました?貴女が藍染さんを慕っておられるのは今の反応でよくわかりましたわ。藍染さんがおられなくなってからさぞかし寂しかったでしょうねぇ」

 

「ふぇっ…?あ、あたしは藍染隊長を尊敬してるんであって…そんな…慕っているだなんて…」

 

「あら?アタクシの勘違いでしたの?てっきり藍染さんも貴女の事を……いえ、憶測で確証のない事を言うわけには参りませんわねぇ」

 

「えっ…?今のってどういう……」

 

 

うふふ、とっても素敵な反応をなさる初心な方ですわねぇ。寂しさや嫉妬、喜びといった感情が素直に伝わってきてアタクシもお話していて楽しいですわ。期待を持たせるような事を言うのは忍びないのですけれど、貴女にはきちんとその分の見返り(役どころ)は用意してありますので許してくださいな。

 

「あの、藍染隊長とは普段どういったお話をされていたんですか?」

 

「そうですわねぇ…二人で話していたのは主に(この世界の)将来をどうするかといった事などでしょうか。藍染さんも色々とお忙しい方ですから、なかなかそういった事を話す機会というのはなかったんですの。なので、こちらにお越し頂いた際にはよくお互いの意見を言ったりしておりましたわ」

 

「え……(二人の将来…?お互いの意見…?)」

 

「どうかなされましたの?何やら顔色が優れませんわよ?」

 

「いえ…何でもありません…(もしかしてやっぱり噂通りだったんじゃ…なんでこんなにモヤモヤするんだろ……藍染隊長……)」

 

「何かあるなら仰ってくださって構いませんのよ?それで…先程のお話ですけれど、アタクシとお友達になってくださる?」

 

「あ、はい!あたしで良ければ喜んで!」

 

それはそれは良かったですわぁ。東仙さんを瀞霊廷に残したのはこの後の事を見届けて頂くためですけれど、わざわざ五番隊と十番隊を残したのはこれから始まる悲劇のためでもありますもの。その中心となる雛森さんとは是非とも仲良くなっておきたかったんですわ。

 

 

……

………

 

 

「なぁ雛森…お前最近よく四十六室に呼ばれてるみたいだけど何してるんだ?」

 

「うーん…普通にお話したりとか、お茶したりかなぁ」

 

「お前、今の瀞霊廷の状況をわかってんだろうな?隊長のお前がしっかりしねぇと他の隊士に示しがつかねぇぞ」

 

「大丈夫だよ!あたし最近すっごく調子が良いんだから!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!それじゃあたし行くね」

 

「おい…!なんだこの違和感は……?」

 

 

……

………

 

 

「さて黒崎さん。ここでお会いするのは二度目ですわねぇ」

 

「……オレを殺しに来たのか…?」

 

「ええ、その通りですわ。でも井上さんを目の前で失った時に比べ幾分が元気になられているようで何よりですわ。その原因はそちらに幽閉されておられる銀城さんかしら?」

 

「別に何も変わっちゃいねぇよ……」

 

「まぁどちらでも構いませんわ。それよりも貴方に伝えておく事がございますの」

 

「……なんだよ?」

 

 

 

「貴方の住む現世の…貴方の暮らしていた空座町という場所は……消滅してしまいましたわ。貴方の家族もお友達も…もう貴方の大切な方々は誰も残ってはおりませんの」

 

 

 

「……なん……だと……」

 

「うふふ…朽木ルキアさんを助けると息巻いて返り討ちに遭いお仲間を置いて逃げ出し、処刑されたお仲間の首を見て我を失い残されたお仲間を斬り殺した黒崎さん。もう貴方には頼る事のできるお仲間どころか、帰るべき場所も何もかも失ってしまいましたわ。これから貴方の親しい方たちが待つ場所へと旅立つ前に、今の気持ちをアタクシに教えてくださらないかしら?」

 

「嘘だろ……そんな……」

 

「ふふっ、良いお顔をなさいますわねぇ。それではもう使い道のなさそうな貴方とはここでお別れですわ。黒崎さん、ごきげんよう……」

 

 

黒崎さんはとっても愉快なお方でしたけれど、次が控えておりますのでここでお別れですわ。それにしても全てを失った事を知った時の表情はそれはそれは素敵でしたわぁ。是非とも後世に残しておきたいほどでしたもの。鍵の材料となってしまったご家族やご友人の方々はそこに住んでいた不運としか言いようがありませんので、せめてもの慈悲としてここで終わらせて差し上げるのがアタクシの優しさですわ。

 

そして……

 

「おい、なんでこいつを殺す必要があったんだ」

 

「うふふ、銀城さんもまだいらっしゃったんですのねぇ」

 

「それより質問に答えろ。なんでこいつを殺した?」

 

「全てを失い孤独となった哀れなお方に救いを差し上げただけですわ。ふふっ、もちろんそれは……黒崎さんに限ったお話ではございませんわよ?」

 

「なっ……!?どういうつもりだ!?」

 

「ご安心なさいな。貴方の死はアタクシが無駄には致しませんわ。貴方の復讐の炎はここで消えてしまいますけれど、残された火種は新たな炎となって周囲を焼き尽くす事でしょう」

 

「くそ……こんな……」

 

銀城さんも哀れなお方ですわねぇ。大人しくご自身の事だけを考えておられればこうはならなかったというのに…こうなってしまった以上は銀城さんにはご退場頂きましょうか。でも何も心配はいりませんわ。これより始まる舞台が貴方たちの死を一層引き立ててくださるのですもの。

 

それでは雑用も済んだ事ですし、アタクシは戻って次の報を待つ事にしたいところなんですけれど……環さんが仰るには何やら鼠が嗅ぎ回っているようですわねぇ。普段ならば見逃して差し上げるところですけれど、これから何かと忙しくなるのでさっさと退治しておきましょう。鼠は鼠らしく…人知れぬところでひっそりと……ね。

 

 

 

「くっ…!まさか見つかるなんて……」

 

「あらあら、随分と大きな鼠ですこと。それにしてもいつから護廷の隊士は中央四十六室を嗅ぎ回る事が許される立場でいらしたのかしら?」

 

「アンタが雛森に何かしているのはわかってるんだよ!これでも雛森や冬獅郎とはそれなりの付き合いでね。明らかに様子が変わっていく仲間を見て放っておくわけにはいかないのさ!」

 

なるほど、理解致しましたわ。アタクシの目の前にいる方、十番隊副隊長の松本さんは雛森さんを心配して原因を探ろうとなさっておられたという事なのですわねぇ。それにしても困りましたわぁ…元々貴女も舞台に上がって頂くつもりではありましたけれど、それは今ではなかったんですのよ?ただ…これ以上舞台袖をウロウロとされるのはあまり良い事ではありませんし、その時までアタクシの下で()()()()していてくださいな。

 

「仰っしゃりたい事はわかりましたわ。できれば貴女ともお話してみたい気持ちはあるんですけれど、それは次の機会に致しましょう。今はアタクシのお友達(お人形)としてゆっくり休んでいてくださいませ」

 

「アンタにあたしが倒せるとでも?貴族のお嬢さんにやられるようなヤワなつもりはないよ。悪いけどここは退かせてもらう!唸れ…灰…」

 

「うふふ…アタクシが見目麗しい事は否定致しませんけれど、戦えないという認識は改めたほうがよろしくてよ?」

 

こちらの副隊長さんはアタクシが戦えないと思っておられたようですわねぇ。それなのに斬魄刀を解放しようとなさるのはどうかと思いますわよ?実際は既に解放されている状態のアタクシと、今から相手の目の前で斬魄刀を解放しようとしている松本さんという状況なのですから…もちろん敵うはずもありませんわよね?そしてアタクシがそれ(解放)を黙って見守っている必要もありませんわ。

 

思っていた形とは少々違いましたけれど、期せずして松本さんが手に入ったのですから良しと致しましょう。どうやら松本さんの他にも動いている方がいるようですけれど、何もしてこないのであれば観客として迎えて差し上げるのも吝かではありませんわ。

 

 

 

「姫様!十二番隊より緊急報告!尸魂界各地に再度虚の反応多数ありとの事!」

 

「姫様!更に霊王宮への扉が……何者かの仕業によって開放された模様!」

 

「このままでは虚たちが霊王宮へと侵入してしまうかもしれません!現世にいる護廷の主力部隊を呼び戻しましょう!」

 

 

「貴方たち、少し落ち着きなさいな。焦ったところで何も解決など致しませんわよ?きちんと瀞霊廷の守護のための部隊は残っているのですから、今頃はもう動き出してらっしゃる事でしょう。それに…現世でお仕事を頑張っておられる死神さんたちを呼び戻すなど申し訳がありませんわ。そう心配なさらなくても大丈夫ですわよ」

 

ふふっ、予定通りの報告が下僕からやって参りましたわねぇ。それにわざわざ現世に行って下さっておられるのに戻ってきてもらう必要などありませんもの。貴方たちは下僕らしくアタクシの打った布石が見事に花開くところでも見ておればよろしいんですのよ。

 

 

 

……

………

 

 

「日番谷隊長!松本副隊長がどこにもおりません!」

 

「くそっ!あいつ一体どこで油売っていやがるんだ!」

 

前回虚が瀞霊廷に攻めてきてから、まだ時間が経ってないってのにまた襲撃だと…?しかも瀞霊廷が混乱している間に現世では重霊地が消滅するなんて、一体何が起こってるってんだ……雛森は中央四十六室に呼ばれるようになってから様子はおかしいし、松本はどこにいるかわからねぇときた。有り得ないはずなのに、まるで今までの全部に意図があるような気持ちにさせられる。

 

「とにかく今は虚の対処だ!残っている五番隊と九番隊とも連携して対処に当たれ!俺は虚が霊王宮に入らないようにそっちを守る!それと引き続き松本を探せ!」

 

いくら普段はサボり癖があるっていっても、こんな事態になってまでどこかでサボるほど松本は馬鹿じゃねぇ…つまり何かに巻き込まれたか、すでにどこかで戦ってる可能性だってあるわけだ。くそっ!なんでこうも問題ばっかりが次から次へと出てきやがるんだよ。

 

とにかく今は目の前の事に集中だ…恐らく現世に行った隊長たちには十二番隊が連絡を取っているはず。各所に現れた虚には五番隊や九番隊も対処しているはずだから、俺が今やるべきは何故か開けられている霊王宮への道を守る事だ。もしこれらのタイミングが全部誰かの手によって合わされているとしたら……確実に狙いは霊王宮だろう。

 

中心部へと向かっている途中も、隊士たちは多少混乱しているがそれでも動けてはいる。これなら雛森と東仙隊長が指揮していてくれれば早々に崩れる事はないだろう…って、なんで霊王宮の扉の前に雛森がいるんだ!?しかもあれは……

 

「雛森!……と、藍染……?」

 

なんで殺されたはずの藍染がここに…?しかもなんで雛森も一緒にいるんだ…?何がどうなってるってんだよ……!つい隠れちまったじゃねぇか…

 

 

 

「雛森くん、久しぶりだね」

 

「あ…あ…藍染…隊長…?」

 

「もちろん私だ。正真正銘の藍染惣右介本人だよ」

 

「生きてたんですね……でもどうして…藍染隊長が瀞霊廷を……」

 

「ああ、君は先程()()()()()()()()()()()を見たんだったね。あれ自体(虚の襲撃)に大した意味はないよ。それよりも雛森くん、良ければ君も私を手伝ってくれないかい?」

 

「え……?」

 

「私はこれから霊王宮でやることがあってね。ちなみに君が交友のある真姫さんは昔からずっと私を手伝ってくれているよ?」

 

「(そんな…このままじゃ藍染隊長を真姫さんに取られちゃう…!)あたしやります!藍染隊長のためにお手伝いさせてください!」

 

「ありがとう雛森くん。それじゃあまずは……()()()()()()()()日番谷隊長を倒してきてくれるかな?今の君の力を私に見せてほしい」

 

「はい!」

 

 

なんで雛森が藍染に従ってるんだ!?しかも藍染が虚を呼び出してるだと…?つまり今回も前回も藍染が事件を起こした張本人って事じゃないのか!それをわかっていて藍染の味方をするなんてありえねぇ…藍染に何かされてるに決まってる!

 

「藍染!てめぇ雛森に何しやがった!?」

 

「私は何もしていないよ。ただ手伝いをお願いしただけさ。それは君も見ていたのだからわかっているだろう?」

 

「そんなはずはねぇ!とにかくてめぇを倒せばいいって事はわかってんだ!覚悟しやがれ!」

 

「ダメだよ。藍染隊長はあたしだけを見てくれてるんだから……弾け…飛梅!」

 

「ちっ!霜天に坐せ、氷輪丸!」

 

なんで黒幕が目の前にいるのに雛森と戦わなきゃならねぇんだ…

 

 

 

「くっ…やめろ雛森!お前何をやってるかわかってんのか!?」

 

「ごめんねシロちゃん……あたしあの人には負けられないの!早くしないと取られちゃう…!」

 

 

……

………

 

 

疑ってはいなかったが、どうやら彼女は脚本通り雛森くんを私たちに都合の良い状態へと仕上げてくれたようだ。恋心と誤認させていた私が言うのも何だが…そこを利用して嫉妬心と焦燥感を煽り、ほんの少しだけその感情を大きくするというのは彼女らしいと言うべきか。

 

そしてその当て馬とされた日番谷隊長は残念だったね。大切な幼馴染であり、護廷十三隊の仲間だったはずの者が目の前で護廷を裏切ったんだ。更に襲いかかってくるというのはきっと彼女好みの激しい感情に揺れている事だろう。

 

だが先程も言ったが、私は何もしていないよ。ただ雛森くんに「手伝ってほしい」と言っただけだ。そして「真姫さんも私を手伝ってくれている」というのも真実だ。嘘は1つも言っていないのだからね。

 

 

 

「藍染様……」

 

「要か…久しぶりだね。彼女の側は様々なものを知るには良い場所だっただろう?」

 

「はい、姫様は私の知らなかった真実と正義の道を示してくださいました」

 

「要も一緒に霊王宮へ行くかい?君が根源となるものを見てみたいと言うのなら構わないよ?」

 

「お気持ちはありがたいのですが…私は藍染様が霊王宮へと赴いた後、余計な邪魔が入らぬようこの場をお守り致します」

 

「そうか…では後は頼んだよ。私は私の役目を果たしに行くとしよう」

 

 

やはり要を彼女の下へ置いてきたのは悪い選択ではなかったようだ。この様子ならば彼を斬るような事にはならないだろう。今の世界の在り方に嘆き、悩み、あの頃からどのような変化が訪れたのかはわからないが、これより大きな変革を迎える以上その働きに期待しているからね。

 

 

「まさかお前ら手を組んでたって事かよ…つまり今までの一連の騒動は陽動だったということか」

 

「それは正しくない表現だね、日番谷隊長。要は最初から私の部下だ。そして君の考えている今が本命で、それまでの事は陽動だと言うのも大きな間違いだ。あれらは全てそうあるように描かれた事なのさ。いずれ真実を知る機会があるかもしれないが……少なくともそれは今ではない」

 

「ふざけんじゃねぇ!てめぇが何を考えてやがるか知らねぇが、このまま思い通りになってやるほど俺たち(死神)は甘くねぇぞ!」

 

「ならば止めてみるといい。今君の相手をしている雛森くんを倒し、私の背を守る要を倒す事ができればだけどね」

 

「待て!……1つ聞かせろ。霊王宮へ行こうとしてるって事は、てめぇの目的は……」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね。最後に教えておいてあげようか。

 

 

       私が天に立つ事にした

 

 

ただそれだけの事だよ」

 

 

 

 

 

 

 

……

………

 

 

 

 

 

「陛下…以上が現在の瀞霊廷の様子でございます」

 

 

 

 

「うむ…諸君、我々を追いやった憎き死神共が疲弊し、霊王宮への道が開け放たれ…そして雌伏の時を過ごしていた我らの準備は万全の状態で整っている。まずは瀞霊廷を制圧し、霊王の力を得ようとする不届き者を粛清するとしよう。そして現世より戻ってきた死神共に我ら滅却師の力と、護るべき場所の変わり果てた様を見せつけてくれようぞ」

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。