転生者こと最良のおかげか本来よりも早く時計の針が進んだ。
「金未来杯ってあるだろう」
「はい。べるぜバブとかぬらりひょんの孫とかが読み切りで掲載されていたやつですよね」
王道的なバトルものに路線を変更してアイデアを詰まらせる事はなく王道的な推理物を書くことになった。本格的なネームが出来たので服部に見せに来た。
擬探偵TRAPを見てコレは面白いと判断した服部は次の読み切りについて話題を出す。次の読み切りは未来の漫画家達を本誌掲載で発掘する金未来杯、本来の原作ならば王道的な漫画を描いてきて色々な批評を受けるが最良のお陰でそれが無くなった。
「ああ、そうだ。この作品ならば掲載は間違いなく通ると思うよ」
「……もしそれで1位を取ることが出来れば連載に持っていく事は出来ますか?」
連載を夢見ている最高は1位を取ることが出来ればの話をする。
「連載……もしかして新妻くんに感化されたのかい?高校に行きながら連載なんて無茶だと僕は思う」
「でも、新妻さんは連載決定してるじゃないですか。僕達は作画と原作に分かれています、高校に行きながらでも連載は出来ます!!」
「…………分かった」
最高の熱量に服部は折れる。しかし簡単には折れない
「先ずはこの擬探偵TRAPの読み切りを描くのと同時進行で2週間に1話を作ってもらう」
「2週間に1話ですか!?」
「そうだ。本格的なペン入れはいいがちゃんとしたネームを1つ完成させる。本来ならばアシスタントが必要だけど、そこは今回は見逃す……そして読み切りで1番を取れば連載会議に話を回そう」
「そ、そこまでしないと連載会議に回してくれないんですか!」
まだ連載すら、それこそ読み切りの掲載すら決まっていない。亜城木夢叶はプロの予行演習をしなければならない。
難題を突きつけられて秋人は思わず声を荒げるのだがそうだと服部は重く頷く
「何度も言うように高校に行きながら連載なんて無茶だ。推理物は特に頭を使う、無理に連載を勝ち取らずに定期的な読み切り掲載というのも1つの手だ。それこそじっくり2年間ネタを暖め続けた方が良いと僕は思っている……王道的な推理物の漫画を目指しているならばそれぐらいしておかないと」
「……分かりました」
「最高、大丈夫なのか!?今でも結構いっぱいいっぱいなんだぞ」
高木は物語を考えればいいが、最高は物語を描かなければならない。
アシスタントと提携しての漫画作成はおろかまだちゃんとした漫画家になっていないのに連載している漫画家と同等の働きを、それこそ高校に行きながらと割と無茶な行為だと高木は心配する。
「多少の無理や無茶をしないと高校に行きながら連載なんて出来ない。服部さん、金未来杯で1位を取って2週間に1話原稿を作成すれば連載に持っていってくれるんですよね」
「ああ、ただし一度でも〆切を守れなかったらその時は高校に行きながらじゃなくじっくりと2年間力を蓄えての連載を目指してくれ」
「……秋人、行こう」
「あ、ああ」
話はなんとか付ける事が出来た。後は頑張って面白い漫画を作るだけでいい。
そう決まったのならば此処でああだこうだ話をしても仕方がない事だと最高は判断し、席を立った。
「必ず連載に漕ぎ着けます!その時はよろしくお願いします」
「……ああ、期待しているよ!」
最高のやる気に服部は感化される。
彼等ならばもしかしてと言う淡い期待を寄せて亜城木夢叶の2人を見送った。
「連載か……」
もう一度疑探偵TRAPのネームを見てみる。
何処に出してもおかしくない推理物……しかし推理物はトリックを考えるのが難しかったりする。秋人の話作りの上手さを知っている服部は探偵物に必要な基礎的な部分、推理のトリックについて考えて早速自分のデスクに向き合う。推理物のドラマや漫画、アニメ、映画等を大量に購入して高木の家に送りつける。服部なりの力添え、応援である。彼等ならば出来るかもしれないと信じている。
「あれ、真城くんじゃん」
編集部に通じる階から1階に降りると福田がいた。
奇遇だなと最高に挨拶をするのだが最高は頭に?を浮かびあげる
「すみません、どちら様ですか?」
「おいおい、もう忘れたのかよ?福田真太だよ!」
「……最高、知り合いか?」
「いや……あの、もしかして最良と勘違いしていませんか?」
「最良?真城くんじゃないのか?」
「はい。亜城木夢叶の真城最高、最良の兄です」
「あ、亜城木夢叶の原作を担当している高木秋人です!」
「嘘だろ、兄弟で漫画家を目指してるのか!?」
改めてはじめましてと頭を下げる亜城木夢叶の2人。
福田は直ぐに自分が最良と最高が別人だとわかったので勘違いしていた事を謝るのだが過去に何度か最高と最良を見間違う事があったので最高は特に気にしない。
「亜城木夢叶っつーと、この前の赤マルでこの世は金と知恵を描いた作者か。ありゃ面白かったぜ」
「ありがとうございます」
「でもアレはジャンプ向けじゃない青年誌向けの漫画だ。1位を取るのは難しい……確か本ちゃん3位だったな」
「はい……1位が新妻エイジのCROW、2位が最良のエルドリッチで悔しいです」
「悔しいですって嫌味か?オレなんて5位だぞ、5位……
「ええ、そういう福田さんもじゃないんですか」
「ああ。読み切りのネームを持ってきたんだ」
お互いに頑張ろうぜと背中を向け合う亜城木夢叶と福田。
ライバルは新妻エイジや弟の最良だけじゃないと改めて思い知らされる。
「ジャンプで1番になるのって難しいな……でも、ワクワクしてこないか?」
「ああ……先ずは読み切りを目指すぞ」
帰りの電車で話し合う最高と秋人。コレから段々と上に登っていくのが楽しみである。
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「おめでとう、高兄」
高木さんに推理物を勧めてみれば面白いぐらいに話は進んでいった。
欺探偵TRAPが通常よりも半年以上早くに生まれ……金未来杯に先程エントリーが決まった。
「やった、やった。やったぁ!」
金未来杯に掲載される事を兄は喜ぶ。まだ漫画家として登竜門を通っただけだが今は喜ばせておく。
チラリとネームの段階で読ませてもらったが実に面白い漫画だった……高木さんと上手く噛み合っている作品を見つけ出せてよかったと思う
「高兄、喜ぶのはいいけどそこまでにしておいた方がいいよ」
「あ……ああ、そうだな」
やったやったと喜ぶ兄の意識を現実に戻す。
亜城木夢叶は高校に行きながらの連載を目指す為の条件として2週間に1話、原稿を用意しておかなければならない。上手く時計の針を進める事は出来ているけどもこういうところは原作と変わりない。
「最良は……残念だったな」
「それは言わないでくれ」
一方の僕はと言えば読み切りを作ってみたのは良かったんだが、金未来杯にエントリーどころか赤マルも掠らなかった。
こういう時もあるものだと現実を受け入れてみるのだがやっぱり辛いものがある。兄はフォローをしてくれるけども触れてはいけない部分だ……けど、いい挫折だと僕は思っている。面白い漫画を描くには多少の挫折も必要だ。
「アレでダメだったら次のネタを浮かべないとな」
昔描いたツバサ・クロニクルとイナズマイレブンGO2からインスピレーションを受けた漫画を次は出してみるかな。
新しい読み切りのネタを浮かべてはメモ帳にネタを書いていく。何時何処でネタが必要になるか分からないからネタはあって困らない。兄達の連載をもぎ取るという覚悟を見習って僕も連載を掴み取る前提でネームを描いていく。
「時空最強の戦士を集める……ただ戦闘力が強い人じゃなく、色々な能力を持った人達を……」
ノートパソコンにネタを打ち込む。敗戦間近の国が一発逆転を狙って異世界の技術や人材を取り組む、時空最強の国家を作る為に異世界に行く。
異世界は様々な世界、時代でその時その時に応じて必要な人が変わったりする……う〜ん、銀魂みたい色々と出来る漫画で尚且つ王道的なバトル漫画みたいなのが出来るな。
「ん……電話だ」
ネタを纏めていると内田さんから電話が掛かってくる。金未来も赤マルも落ちてしまった事をフォローしてくれる……じゃないよな。そういう感じの性格じゃないし。
「はい、もしもし」
『あ、最良くんお疲れ様です』
「お疲れ様です……どうしました?今、新しい漫画のネタを纏めているんですけど……」
割と大事な仕事なので邪魔は困る。なんだろうと首を傾げる
『実は新妻エイジのアシスタントを探していて、彼は若いから年上のアシスタントが着けづらいんだ。最良くんなら年齢が下だし、行けるかなって……読み切りのネームが忙しそうみたいだからこの話は』
「あ、いいですよ」
『えっ!?いいのかい?』
「ネタ作りに息詰まってるところもありますし、新妻エイジの漫画を見て色々と学ぶところもあると思います……ただ、自分はまだ中学生なので夏休みだけになりますが」
『ああ。新妻くんに合うアシスタントが見つかるまでの間だけでいいんだ』
「分かりました」
初アシスタント……僕の作画が新妻エイジの作品に合うのだろうか。
とりあえず明日からアシスタントに行ってくれと住所が記載されたメールが送られた。新妻さんは吉祥寺に住んでいる。
「最良、なんの電話だったんだ?」
「新妻さんのアシスタントをやってくれないかって電話だよ」
「新妻って、新妻エイジ!?」
「そう。アシスタントが見つかる夏休みの間だけね……これもまた良い社会勉強になると思うから行ってくるよ」
「そう、か……新妻エイジから良いものを奪ってこいよ」
「奪ってこいって物騒だなぁ」
新妻エイジのアシスタントになる事に兄は軽くショックを受ける。
僕はまだまだ漫画家の卵なのでこんな事もある……新妻エイジから技術を得る事は……多分出来ないだろうな。
「高兄、もし連載を取る事が出来たらその時は高兄のアシスタントをするよ」
「最良……その時は頼んだぞ」
「まぁでも、それよりも先に連載をもぎ取って逆になってるかもしれないけどね」
「言ったな、お前よりも先に連載をもぎ取ってみせるよ」
「10週打ち切りにならない様にしてね」
軽口を叩きあえるのは兄弟の特権だ。
新妻エイジのところでアシスタントをしないといけないので必要な物を用意しておく。新妻さんは手書きの漫画家、僕みたいにパソコンを用いて作画を描いているわけじゃない。とはいえ、パソコン無しの手描きで漫画を描くことが出来ないわけじゃない
「え〜っと、ここか」
兄は兄で連載を目指して描いているので邪魔をする訳にはいかない。
メールで記載された住所に向かうとマンションだった。ガンガンとなんか五月蝿いなと思っているとそこが新妻さんが仕事場にしている部屋だと判明、ここが仕事場かとインターホンを鳴らす。
「君が真城くんかい?」
インターホンを鳴らすと中年のおじさん……中井さんが出てくる。
「は、はい。真城最良です」
「話は聞いているよ。短い間だけどよろしくね。僕は中井、君と同じ新妻くんのアシスタントを務めてる」
緊張しながらも新妻さんの仕事場に入る。
おじさんの仕事場以外の仕事場ははじめてだが緊張すると思っていたが……あ
「福田さん、どうも」
「よぉ、真城くん。手塚賞ぶりだな」
福田さんが居たのでペコリと頭を下げる。
知っている人の顔があって良かったと少しだけホッとする。福田さんはジッと僕のことを見つめている
「似てるな」
「はい?」
「いや、亜城木夢叶に会ったんだけどよ……兄弟で漫画家目指してるって中々にレアだな。遠目で見れば瓜二つだ」
「たまに間違われたりするんですよ……よっこいしょっと」
見知った顔が居てくれて緊張が解れた。此処は漫画家の神聖な職場であるが僕もその漫画家の一員になっていると気持ちを切り替える。
「ジュワーンジャッキーン!クロスクリス、カラスキリース!」
「この番号に振られているのがスクリーントーンでこの☓印はベタ入れで、このマークが格子線だよ」
新妻さんに一応の挨拶はしてみるものの反応がない。漫画を描くのに忙しくて自分の世界に入り込んでいる。
代わりに中井さんが何処をどうすればいいのかを教えてくれる。新妻さんは背景の下書きもしているのでぶっちゃけた話、アシスタントが3人も必要なのだろうか?と思うがお金になって漫画を描く練習にもなるので文句は言わない。
「そういえば君の兄貴、金未来杯にエントリー出来たんだってな」
「ええ、兄達は自分の漫画のスタイルを無事に見つけることが出来たようで」
「亜城木夢叶の漫画ね。この世は金と知恵みたいなジャンプらしくない漫画だったら1番を取るのは難しくねえか?」
「そこは見てのお楽しみですよ……」
王道的なバトル漫画は亜城木夢叶には無理だがそれでも何とかなる。何故ならば彼等は主人公の目をしているからだ。
福田さんと軽く談笑を済ませると早速ペンを手にする。ここ最近はデジタル原画だったのでペンを持つのは久しぶりだと思いつつサラリサラリと背景を描いていく。
「あれ、真城先生なんで居るんですか?」
一通りの下書きを終えたのか新妻さんは僕の存在に気付く。
アシスタントとして仕事場に来てから30分ぐらい経過している。やっとかと思いつつも新妻さんに口を開く
「担当の人に頼まれたんですよ。新妻さんのアシスタントを探している夏休みの間だけアシスタントをしてくれないかって」
「え〜あんなに面白い漫画を描くことが出来るのにこんなところでアシスタントしてるなんて勿体無いですよ」
「いや、コレも人生経験の1つだと思えばいいですし何よりも漫画を描くことが出来て楽しいですよ」
仕事が楽しいとかフィクションかなにかだと思っていたけどもこういう世界もあるんだと教えられた。
前世じゃキツい事だらけだけど今生は楽しいことだからかな……とりあえずはペン入れをし、背景にペンを入れたりやスクリーントーンを貼っていく。
「真城くん、早いな」
「スタンドの事を知ってテンション爆上げの岸辺露伴並みに早いと自負しております」
伊達に転生者はやっていない。子供の頃から将来漫画家になるのを目指して漫画を描いているので背景等は簡単に描いていく。
「そういえば新妻さん、1話目何位だったんですか?」
「1話目は1位でした。2話目も1位を取れるかと思ったんですけども4位でショックです」
「4位でショックって、1話目からコケてしまう漫画も存在しているから充分過ぎる順位……じゃないですよね。漫画家を目指す以上はやっぱり人気投票で1位を取りたいですよね」
「はい。やっぱりやるからには1番にならないと……なにがいけなかったんですかね?」
真剣な顔で聞いてくる新妻さん……本来ならばここに居るのは高兄だが……言った方がいいよな。
「新妻さんの漫画は迫力とスピード感があって面白いです。ですけど、それだけです。絵は上手いですけど話が自己満足の話になっています」
「自己満足ですか?」
「読者にこう、訴えかけるみたいなものが無いです。兄の、亜城木夢叶のこの世は金と知恵みたいにもしかしたらと思える様な内容じゃないんです」
「む〜難しいですね」
「ネームを見せてください」
「あ、ネームは書いていないです」
「はぁ!?ネームを描いてないってマジか!!」
「はい。だってめんどくさいじゃないですか、同じ絵を2回も描かないといけないのは」
めんどくさいって……漫画の大元であるネームを描かずにいきなり生原稿、新妻エイジはマジの天才なんだと思い知らされる。
「雄二郎の奴はなにやってんだ。打ち合わせしてんのか」
「してるって事にしておいてくださいと言われています」
「はぁ!?アイツ、それでも編集者かよ!」
担当の雄二郎さんにキレる福田さん。
打ち合わせ無しでコレだけ面白いものが描けている……仮に打ち合わせをしたらどうなるんだろうか。
「新妻さん、このままだったら順位が下がっていくかもしれないですよ……もっと真剣にやらないと」
「僕は何時だって真面目ですよ……でも描き直した方がいいみたいですね。何処を書き直せばいいと思いますか?」
「そうですね」
「って、おいおい。敵に塩を送るのか?」
「敵じゃありません、同じ雑誌で漫画を描いているライバルです……どういう感じに漫画を描いていくのか談義してみたいですし、福田さんもどうですか?」
「……ったく、仕方ねえな。この話だけだぞ」
なんだかんだと言いながら面倒を見てくれる福田さんはお節介焼きないい人だ。
CROWについて熱く語り合う僕達を見て中井さんは言葉が出ない。コレが若さと言うものである。やっぱり絵が上手いならば漫画家の1つでも目指すものだろう
「……あ、いいネタが浮かんだ」
新妻さんのアシスタントに来て良かったと思う。
天帝vs童子切を連載化したいんだが
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短編集にだけしとけ