アイドルの僕にクール?なファン(姉)が出来ました   作:@naru

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 投稿が遅れてしまい申し訳ありません。多忙な今週を何とか乗り切ったので投稿再開です!
 そして、感想や評価、誤字報告、お気に入りなどをしていただいた皆様には本当に感謝で一杯です。
 アンケートのご協力もありがとうございました!今後の参考にさせて頂きます!
 今回は姉視点です。


 



4.本当の一面

 

 沈黙が続く気まずさを纏った重たい空気。

 そんな部屋の中で、私はベッドの上に何故か自分から正座していた。

 

 一番恐れていた私のアイドルオタクバレ。

 しかも、その中で推しが周音君だということも明らかになり、もう私は今すぐこの世から消え去りたい気分だった。

 

「あ、これ、luceの記念バッジ!こっちは‥‥‥僕の誕生日記念のですよね」

 

 当の言う推し本人は、特に気にした様子もなく私のコレクションを楽しそうに眺めている。

 その行動は気まずさを紛らわせる為のものなのか、はたまた本当に何も気にしていないからなのか分からなかった。

 この空間にいる私の肩身は狭い。全身から冷や汗が出るのを感じ、申し訳なさと気まずさから私は視線を下に固定している状態にいた。

 

 そんな中、その気まずい空気を断ち切るように周音君から言葉が切り出された。

 

「あの、美咲姉さん。僕は何も気にしてませんから、正座やめたらどうですか?」

 

「い、いや、でも、嘘だってついた訳だし、こ、こんな‥‥‥」

 

 気まずさ、恥ずかしさ、申し訳なさ。様々な感情が入り乱れ、もう言葉で気持ちを伝えるのですら難しい現状。

 折角少し距離が縮まったと思ったのに、こんなんじゃ更に仲を深める以前に嫌われてしまう。

 これからどんな顔して生活していけば良いのかと、思わず私は頭を押さえた。

 

「だからっ、気にしてないって言ってるじゃないですか」

 

「っ‥‥‥‥」

 

 声色を強くし、少し怒ったような口調で周音君が言葉を投げる。

 そんな言葉に驚いて、固定していた視線を上げると、そこにはいつもの明るい笑顔ではなく、ムッとした表情をした周音君がいた。

 

「別に趣味は人それぞれ。悪い物ではない限り、僕は否定なんかしません。確かに最初は驚きはしましたが、美咲姉さんがアイドルを好きでいてくれること、僕は凄く嬉しく思います」

 

「えっ、な、何で‥‥‥‥」

 

「何でって、当たり前のことじゃないですか?だって、僕自身アイドルをやっているんですから。自分を推してくれる、luceを応援してくれる人がいる。それは僕の動力になるし、そんな人を不快に思うはずがありません」

 

 そう言葉を並べる周音君の表情は先程と変わり、柔らかな微笑みを纏っていた。

 その姿が眩しくて思わず天使だと錯覚する程に、というか本当に天使に思えた。

 こんなオタク()を蔑む訳でもなく、寛容に見てくれる。

 最初は気遣って言ってくれているのかと思ったが、周音君の表情からそんな考えは取っ払われた。

 

 やっぱり推しは尊い。それを改めて自覚し、私は感謝で一杯だった心の中の気持ちを言葉にする。

 

「‥‥‥ありがとう」

 

「ふふっ、もしかして、僕に嫌われるかもって思ってました?」

 

 私が一番心配していた要素をつかれ、少しドキッとした。

 

「う、うん。け、結構怖かった」

 

「別に嫌ったりしませんよ。先ほども言った通り、ファンでいてくれることは嬉しいですから。あ、もし良かったら、握手でもしてみま———」

 

「い、良いの‥‥‥!?」

 

 何とも聞き捨てならない提案に私は思わず立ち上がり、食い気味に周音君に詰め寄る。

 そんな私の行動に驚いたのか、周音君は目をパチクリとさせて少し後ろに後退った。

 

「え、ええ。構わないですけど‥‥そんなに嬉しいですか?」

 

「勿論!凄く嬉しいに決まってる!」

 

 推しと握手出来るなんてまたとないチャンス。

 私は実際にluceのライブに行ったことがない。理由としては人混みが苦手という事と、こんな無表情な自分だからっていう勇気のなさから行けなかった。

 

 故に、握手会に参加した事も一度も無い。

 だからこそ、これは大きなチャンス。

 推しと握手出来る機会が来るなんて思っていなかった自分からすると、握手という行為は今までのどんな幸せより価値が高かった。

 

「まあ、そこまで喜んでくれるなら僕にとっても嬉しい限りです。では、どうぞ」

 

 そう言い、周音君は手を差し出す。

 私は息を呑み、その神々しい手をじっと見つめて一度深呼吸を落とした。

 煩いぐらいに響く心臓の音がとてつもない緊張を感じさせる。

 

 この手に触れて良いのか。握っても良いのか。

 私、セクハラで訴えられないよね?

 目の前にある一つの手を取るだけの動作に多くの躊躇いが生まれ、私はなかなか行動に移せない。

 

 そんな私の様子を見て、周音君は首を傾げた。

 じっと私の目を見据えるその視線には、『しないんですか?』という意味を含んでいるようで、私はまた一つ息を呑む。

 

 ここで行かなくて何がオタクだ。

 推しがわざわざ提案してくれたこの行為。無碍にする訳にもいかないし、何より私自身が望んでいること。

 

 覚悟を決めろ、白波美咲。このままずっと躊躇っていては女が廃る。

 自分から攻めていかなければダメなんだ。

 

 私は心の中で言い聞かせるように自分を奮い立たせる。

 そうして覚悟を決め、差し出された手に向けて漸く自分の手を動かした。

 

 もう少しで手と手が触れ合うという後数cmの距離。

 そこまで来た途端に更なる緊張が走り、手の震えが自分の視界にもはっきり映る。

 念願の推しとの握手はすぐそこ。今ならあまり表情に出ない私の性格に感謝出来る。

 

 もし、表情に出ていたとしたら、私はあまりの幸福感にニヤけてしまうだろうから。

 

 そうして、私の手にはほんのりとした温かさと、程よく柔らかい感触が伝わる。

 

「漸くきてくれましたか」

 

 少し呆れたように周音君は苦笑し、力を込めて私の手を握ってくれた。

 

 これが夢にまでみた推しの手。何なら男の子と握手したのも初めてだし、どれほどこの手が貴重な物なのかを私は実感する。

 

 真っ白な純白の肌。細く、繊細な指に合わさる推しの笑顔。

 それは女の理想とも言える男性像で、私は推しとの握手を噛み締めながらも周音君に視線を奪われ続ける。

 

「いつも応援してくれてありがとうございます。美咲姉さんのお陰で僕達luceも頑張れます♪」

 

 不意に放たれた感謝の言葉。

 その言葉に私は少し身体をビクッと振るわせる。

 

「あ、えっ、と‥‥‥‥‥」

 

「このペンライトって、もしかして僕のですか?嬉しいです!こんな僕を推してくれるなんてありがとうございます!」

 

「っ‥‥‥‥‥」

 

 感謝の応酬に合わせて私の右手を両手で包む周音君。

 こんな本当の握手会のような周音君の対応に、思わずたじたじになってしまう。

 それでも、神対応な周音君との握手にとてつもない幸せを感じていた。

 その感情を周音君に伝えられるよう何とか口を開く。

 

「わ、私も凄く嬉しい!周音君とこうして握手できるなんて思っても見なかった。さ、最初は本当に触れていいのかなって思ったし、緊張したし‥‥‥でも、こうして今握手出来て幸せっていうか、無表情だから伝わってないかもしれないけど‥‥‥‥」

 

「いえ、そんな事ないですよ。ちゃんと伝わっていますから、安心してください。それに、これくらいの事なんてこれから沢山してあげますよ。僕達は家族ですし、美咲姉さんは特別なファンですから♪」

 

 特別なファン。その言葉に何とも言えない喜びが心の中を埋め尽くす。

 誰しも好きな人から特別扱いされたら心にくるなにかがある筈だ。

 これ以上ない幸せを感じながら、私は思わず率直な気持ちを言葉にした。

 

 

「好き」

 

「っ‥‥‥‥‥」

 

 

 

 それは率直というより、思わず口を滑らして出てしまった言葉だった。

 私はしまったと口を押さえて視線を逸らし、その言葉を漏らしたことに後悔する。

 

 今日初顔合わせの弟に何を言っているんだ。

 周音君が推しとは言え、いきなり好きと告白しても相手を困らせるだけだろうし、何なら周音君にとって私からの告白なんてきっと迷惑でしかない。

 

 優しい周音君でも流石にこれは看過できない筈。

 もしかしたら、キモいと軽蔑されたり‥‥‥。

 

 そんな最悪な事態を想定しながら、恐る恐る私は周音君に視線を戻す。

 そこには、想定外な周音君の表情。一度も目にしたことのないその表情に、私は思わず言葉を漏らす。

 

「えっ‥‥‥‥」

 

 そこには、顔を紅に染め、驚いたように目を見開いた周音君がいたのだった。

 私と視線が合った周音君は恥ずかしさからか目を泳がせ、握手していた手を振り解いた。

 

「な、何ですか!?い、いきなり好きとか変なこと言わないでくださいよ!無表情でそういう事を言われると尚更困るんですけど!?」

 

 普段の清楚な彼の印象とは遠くかけ離れたような慌てようと表情を露わにし、心なしか言葉遣いも少し変わっている気がする。

 私はそんな推しの本当の姿、それが素なのか、完璧美少年とは違った一面に驚きよりもギャップの凄さに感動してしまう。

 

「か、可愛い‥‥‥」

 

「はぁ!?」

 

 さっきの言葉を訂正するのよりも先に、今の推しの姿に対する感想を口にしてしまい、周音君を更に混乱させてしまう。

 

「‥‥‥あ、い、いやっ、違う!今の全部違—————」

 

「っ〜〜〜〜〜。意味が分かりませんっ!」

 

 私はやっと自分が何を口にしたのか気づき、訂正しようと言葉にするが、周音君はドアを勢いよく開けて部屋から出て行ってしまった。

 部屋の中に残されたのは、閑散とした空気にポツンと佇む私。

 

 大きな幸せを噛み締めることが出来た握手も、この絶望を表したかのような現状によって、先程の幸福感など無いに等しかった。

 

 そんな中、部屋の中に響く一つの通知音。

 ベッドの上に置かれたスマホに私は目を移し、その通知の内容を確認する。

 通知の正体は、母からのメールであった。

 

 

『多分周音君に聞いてると思うけど、私と彰さん出かけているからお昼ご飯は二人で一緒に食べてね。お金はリビングのテーブルに置いてあるからそれを好きに使って良いわよ♪』

 

 そう言えばと、一番最初に周音君が部屋に入ってきた時の言葉を思い出す。

 

『すみません、そろそろお昼ですし、何か食べ‥‥よう‥‥と‥‥‥‥』

 

 部屋に入って来たのはお昼の事を伝える為だったのかと私は理解し、納得するが、今更そんなことどうでも良かった。

 私が今しがたやらかしてしまった事を考えたら、お腹の減りなど感じない。

 

「私、本当に何やってんだろ‥‥‥」

 

 私が感じるのは、何とも言えない虚無感と、これからに対する悲壮感だけであった。

 

 

 

 

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