夜明けの狩人   作:猫又提督

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第1話

目の前で知らない3人が海に沈んでいく。否、彼女はこの3人知っている。彼女は海から突き出す手をつかむ。否、彼女は何もできなかった。暗闇が覆い何も見えない。心地よい鐘の音がなった気がする。どこかで、誰かが呼ばれたような。

 

目を開くとそこには知らない風景が。否、彼女はこれを知る。階段を登り扉を開けば、そこには彼がいる。

 

「狩人様。」

 

彼女が声をかけると、彼はこちらを振り向き机の前から体をどかす。彼女が用があったのはその机だった。

 

「ありがとう。」

 

彼女は微笑む。彼は何も反応しないが、彼女には確かに彼の感情を理解していた。彼女が取り出したのは、その華奢な体躯からは到底想像できない仰々しいもの。彼女が作業していると彼は彼女を撫でる。

 

「狩人様?」

 

彼女の問いかけに彼は一切応じない。ただ彼女の頭を撫で続けるだけだった。

 

「…そう。そうなのね。分かったわ、狩人様。」

 

しかし、彼女は理解した。彼の意図を汲み取った。彼女は作業を足早に終わらせ持ち物を整理し始める。彼は2つのものを差し出した。輸血液と水銀弾であった。

 

「大丈夫よ、狩人様。ちゃんと持ってる。もうここに二度と来れないわけではないもの。また来れるわ。」

 

彼女には、彼が些か寂しそうにしているように感じたようだった。

 

「ねえ、狩人様。私は狩人かしら。獣かしら。…上位者、もしくはそのなりそこない?それとも、昔殺した艦娘かしら。」

 

彼女は出口で問う。彼女自身それが答にならないと知っていた。だが、聞きたい。他人の瞳は自分に何を見出すのかと、自分の瞳と違って何を見ているのかと。彼は、ただ一つ頷くだけだった。回答とは一切思えない行為。到底理解などできないその行為。しかしやはり、彼女は理解した。なにゆえそれを理解したのか。

 

階段の人形に挨拶をし、広い庭園の大木の根本。車椅子の横に大きく存在する慰霊碑。かつてここで高かったものと彼女は一切の関係がない。あの瞬間全てはもう終わっていた。後ろから足音がした。彼と人形が見送りに来てくれたらしい。

 

「えへへ。うまく行くといいな。」

 

彼女は微笑み、慰霊碑の前に手を掲げる。彼女の念じに使者が答えた。瞬間、この場に彼女は消滅した。

 

 

 

 

 

そこは森の中。明かりはついていて使者が祈りを捧げている。近くに砂浜があって、静かに波が砂地を撫でている。空には星と満月が浮かんでいる。しかし、ここはヤーナムではない。だから獣狩りの夜はないし、獣の病もない。いずれ夜は明ける。ここはどこか知らない場所。でも、必ず自分が知っている場所の近くのはずだった。彼女は森を出て砂浜を歩く。直ぐに砂浜は終わりヤーナムにはないはずの建物が見えだす。コンクリート製の建物。夜でも明るい建物群。ヤーナムよりも多い人口。ここは日本だ。彼女は狩人の衣装から学生服へと着替える。昔は毎日のように着ていたはずの服。何時しかそれは狩人の衣装へと変わっていた。彼女は懐かしい建物を背に海へ向かう。

 

波止場の先。向こうの喧騒はここまで届かずわずかな音を波がすべて打ち消してしまう。今宵は本当にいい月だ。思わずその場で交信してしまう。なにも考えず、その月の向こうにいる存在を感じる。ふと手が伸びてくる。その手が彼女を包み込もうとして…。

 

「……。」

 

後ろから笑い声が小さく聞こえる。どこかの学生二人。こちらを見て笑っている。どうやらスマホで映像もとっているらしい。狩人になってからいろいろな感覚が研ぎ澄まされてきた。特に耳と目は。鼻だけは少し衰えたかもしれない。しかし、これは見世物ではない。あまり見られていいものではないし、気が散る。彼女はメスを一つ手に取り投げる。まっすぐ学生たちの足元に刺さる。それだけで逃げてしまった。情けない。

 

彼女はやはり再び仮装束へと身を染めて海面へ降り立つ。そのまま月へ向かって歩き出した。

 

彼女は当てもなくただ海面を歩いていた。気づけば周りはすべて水平線で月も沈もうとしていた。彼女がこの瞬間に我に返ったのには訳がある。彼女の視線にあるものが映った。全身が黒くかつ金属のような光沢。見たことがないようなフォルムでもなぜか生き物であると確信できるその姿。深海棲艦が艦隊を組んで過ぎ去ろうとしていた。彼女の狩人としての本能が目覚める。 

 

相手も気づいたらしく各々が砲門を向ける。しかし、すでに彼女の姿はなく唐突に一本の腕が舞い上がる。彼女の腕か。否、それはその艦隊の旗艦であったへ級の腕であった。すでに彼女は自身の間合いに入っていた。これで艦隊は総混乱。近接戦など一切考えられていない奴らの武装では彼女を攻撃しようとも仲間を巻き込んでしまうと躊躇ってしまう。しかし彼女は止まらない。尚も鉈を操りへ級を切り刻む。寸刻にも及ばずして見るも無残なへ級の残骸が海に浮くこととなった。彼女の姿は返り血で染め上がり夜のせいで色こそわからないものの月の光でも返り血は鈍く光るのである。思わず深海棲艦ですら後ずさりしてしまう。 

 

次に彼女はイ級を狙った。瞬きする間もなく近づく相手にイ級はわずかな思考でまとっている装甲で受け止めることを選んだ。が、その決断虚しくまるで肉を切るかのようにイ級の体が二つに切断され李。上位者の体すら難なく切断する狩人の仕掛け武器。深海棲艦の装甲程度訳なかった。装甲が意味をなさないと悟ったのか逃走を開始した。しかしそんなことを許す彼女ではない。逃走を図る深海棲艦に片っ端から鉈を振り下ろす。残っていた深海棲艦は四隻。彼女は獣狩りでもあり、上位者狩りの狩人でもあった。が、さすがに力では対応しきれるものの数では対処のしようがない時もある。何とか三隻は狩ったが残りの一隻が早々に潜って逃げてしまったため取り逃してしまった。 

 

わずか数分の出来事。数分の喧騒が収まり再び静寂が訪れる。浮いていた残骸もゆっくりと沈みだした。周りに波のなくなると彼女はまたあてもなく歩き出した。彼女は先ほどのことを思い出していた。なぜか砲撃を躊躇った。仲間の無残な死にざまに狼狽えた。頼みの綱が効かないと悟った瞬間に逃走した、それもまるで恐怖にかられたかのように。深海棲艦があんなに人間のような態度をとるとは知らなかった。いや、彼女の昔の記憶ではやはり深海棲艦に感情の類は一切感じられていない。人間も新兵は感情が行動に出やすく熟練へになるほど行動には出なくなる。深海棲艦も同じだろうか。あれやこれやと考えているうちにだんだんと空が白んできた。水平線が太陽が昇り強烈な光が彼女を刺さんとばかりに照らす。彼女はまた歩みを止めた。

 

それまで望んでいたもの、取り戻さんとばかりにヤーナムを駆け回ったあの頃。それがいつからか獣を狩るために、上位者を狩るために、時には血に酔った狩人を狩ることが目的となったのはいつ頃だったろうか。今の自分はきっと血に酔っている。狩人が通ればきっと自分を狩ろうとしてくる。かつて求めたものがここでは毎日やってくる。夜明けがやってきた。

 

「暁…。」

 

彼女の名前でもある現象をつぶやく。見慣れないものをみて少し眉を顰める。まるで夜明けを嫌うかのように今度は太陽を背に歩き出した。

 

 

 

もう何日も歩いた。夜も夜明けも何度も体験した。暁を何度も見た。いくつ艦隊をつぶしたか分からない。艦隊を見つけたとき彼女の瞳は希望を見出したかのように光り、狩りつくせばまた虚ろになり歩き出す。狩りの対象や自分に牙をむかんとするもの以外に反応しない彼女には数日前からずっと見られていることに気づいていなかった。そして、前方から近づいてくるものの音にも。

 

「止まれ。」

 

前方から聞こえた声に彼女は顔をあげる。するとそこには一人に女性が立っていた。いや、一人ではないその女性含めて五人いた。彼女は女性の言葉に従い止まる。すると、その女性がほかに二人引き連れてやってきた。彼女はその女性を知っていた。昔の記憶が蘇る。女性の名は長門。そしてその両脇にいるのは吹雪と叢雲だ。長門たちは少し離れた位置で止まり、話しかける。

 

「…。単刀直入に聞く。貴様は何者だ。ここが日本の海域だとしているのか。」

「…狩人。」

「女の子?」

「しっ。」

「日本語が分かるのか。じゃあ次はその帽子とマスクを取るんだ。」

 

彼女はその言葉に従い帽子と布を降ろす。その姿に吹雪と叢雲は驚いた様子だった。長門は依然として平静を保っている。流石だ。記憶の中の彼女もそうしていつも厳格であった。それであって時折優しい物腰になるのだからみんなから好かれていた。かくいう自分もその一人であった。だから彼女が苦悶に満ちた表情を見せたときは心配し絶望したのを覚えている。そんな変わりない彼女が今自分の前に立っていた。

 

「…。海上を立っているところを見る限り貴様は艦娘のようだが、あいにく『狩人』という名の艦娘は聞いたことがない。詳しい話は鎮守府で聞かせてもらう。抵抗しようなどと考えるなよ。もし抵抗する気がないのならその手に持っているものを渡し、我々の指示に従え。」

 

彼女はおとなしく長門にノコギリ鉈とエヴェリンを渡した。次に府引きと叢雲が近づいてきて「腕を後ろに」というので、後ろにやるとそのまま体ごと縛られてしまった。さらに手錠をはめたような音も聞こえた。これで両腕を完全に封じられてしまった。叢雲が背中を押す。なすがままにされるとボート―――大発の前まで案内された。どうやらこれに乗れということらしい。少し狭い大発に座ると。先から伸びていたワイヤーを吹雪が自身に取り付けた。長門の号令で艦隊が出発する。吹雪が前進し、寸分遅れて大発が引っ張られる。艦隊は太陽を背にしたまままっすぐ進んでいった。

 

 

 

 

艦隊の一人赤城は大発の右側で監視していた。自らを狩人と名乗る少女。赤城はこの少女に底知れぬ恐怖を抱いていた。が、決してそれを顔には出さない。あくまで平静を保つ。この少女に恐怖を抱いているのは何も自分だけではないだろう。恐らく逆側にいる加賀と長門もそれを感じているはずだ。現に二人ともちらちらと少女を見ている。吹雪と叢雲はずっと周囲警戒をしている。これと言って気にしている様子はない。この恐怖はきっとある程度実戦を体験したものにしかわからないのだろう。少女が顔を見せたとき駆逐艦の二人はその見た目に驚いていた。むろん自分も件の正体が少女の姿をしていたのには驚いた。しかし、それよりも驚くべきはその眼だ。生きているとは思えないほど濁った眼。その眼に気づいたとき何かを見たような気がした。とても、恐ろしいものを。とてもではないが根移譲できるものではない。あんなに恐怖を感じるのは初めてだった。姫や鬼級と対峙した時よりも純粋な、それでいて異常な恐怖を感じた。

 

その少女は先ほどから一切その体を動かさない。言葉の通り波で大発が揺れても一切体が動くことはない。潜水艦の娘たちから報告を受け数日前から加賀と交代しながら監視し続けた。観測機が撮った映像を見たときは戦慄が走ったのを覚えている。ただ歩いているだけかと思いきや深海棲艦に近づくや否や突撃先ほど長門に預けたあの武器で深海棲艦を攻撃しだした。少女は一切の躊躇なく武器をふるい続けていた。その中でも最も恐ろしかったのは空母機動部隊と主力部隊を無傷で壊滅させたことだった。敵の艦載機の攻撃をすべてかわし、戦艦の砲撃すら弾くことがあるル級の盾を一太刀で切り落とす姿を見て言葉を失った。

 

その映像を見て直ちに提督に報告。何人かの艦娘も含めて会議した結果、接触し会話が可能であれば拘束して鎮守府へ移送。こちらを鎮めんとした場合はその場での処分が決まった。結果として、その対象はこうしておとなしくこちらの指示に従っているわけだが…。少々この少女に気を取られすぎてしまったのか出発尻も早くに鎮守府近海へ戻ってきた感覚がした。




気が向いたら続きかきます。全然投稿されてなかったら鼻で笑っといてください。

誤字脱字等ありましたら遠慮なくどうぞ。なお文法的におかしいところもあるとございますが、あえてそうしているところもありますのでご了承ください。報告したのに直される様子が無かったらそういうことです。
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