あれ、今回早いな…
部屋に戻った彼女は考えていた。ここにアメンドーズがいる理由。…ここに人工の上位者が?
「…まさかね。」
さっき読んだ本のせいでそんな考え方をしてしまったが、一番ありえないことだ。確かに提督あたりが怪しい気がするがいくら何でも上位者を作れるはずなどない。あの男はただの提督で、人間だ。上位者のことはもちろんヤーナムのことすら知らないはず。…しかし、どう考えてもアメンドーズがここにいるのかが分からない。やはり、あの男がメンシス学派であるのか。もしくは、彼女と同じようにメンシス学派がこちらにやってきたのか。あのあともう少し調べてみたが上位者を作ろうとしていたのはメンシス学派だけであった。理由は強靭な肉体を持つため。詳しくは分からないが、獣の力を使って自らを進化、上位者かそれ以上の存在にでもなろうとしていたのだろうか。そんなことを当時の彼女が知るはずもなく、荒らしまわってすべて水泡に帰さしてしまったのだが。
だめだ。考えれば考えるほどよくわからなくなる。第一彼女以外にこっちへ来ることができるやつが居るのだろうか。万が一いたとして彼女は人形と狩人以外に他の存在を見なかったが、夢を通さずにこの世界に行く方法があるのだろうか。
結局、考えても何も案は出てこず彼女はコンコン、とノックされた音で思案を止めた。
「誰…ってあなた達。」
「来たわ!」
「早いわねまだ…18時にもなってないのに。」
「ふふん!それほど私たちが優秀っていうことなのよ!」
「私たちは練度が低いからね、やることが少ないんだ。」
「自由時間がながいのです!」
一つのことを話すのに話すのにわざわざ4人で分担しているところが姉妹っぽいな。廊下で話をするのも何なので中に招いた。生憎この部屋の内装は来客を想定していない。複数人用の机椅子もなければ出せる茶も茶菓子もない。とりあえず、4人は一度も使ったことがないベッドに座らせることにする。
「で、今日は何の用かしら?」
「昨日応えてくれなかった質問に答えてもらうためよ!」
「質問?」
確か昨日何かマシンガントークを仕掛けられた。3つぐらい同時に吹っ掛けられたか。
「あー。えっと、私がここにいる理由と何をしてるかだったかしら?」
「そうよ!あとその服も。」
「この服はただの狩装束よ。ここにいるのは…そうねぇ、なんて言ったらいいか…しいて言うなら軟禁されてるのよね。特にこれと言ってしていることはないわ。何もさせてくれないから、自由気ままよ。」
「え!軟禁されてるの!?」
「ひどいのです!誰にやられたのです!」
「あなたたちの提督さんよ。軟禁と言ってもただここに置かれて何にも声かけられないだけなんだけどね。」
「司令官か。そういえば最近司令官が素っ気ないな。」
「あ、確かに。最近の司令官ったら全く暁たちのこと構ってくれないのよ。」
「それは、司令官さんが忙しくなったからなのです。」
「でも、いくら何でもここで軟禁しておくのはひどいと思うわ。」
「司令官さんはそんなことするはずないと思うのです…。」
「ふーん…ねえ、最近提督に変わった様子とかない?こう…怪しい実験みたいなのをしているとか。」
丁度いい。なんだか、話題が提督のほうへ向いたのでついでに怪しいことがないか聞いてみよう。暁たちなら彼女よりも提督と接する機会が多そうなのでなにか情報があるかもしれない。
「司令官に?なにか変なところあったかしら?」
「さあ?私たちもあんまり司令官と会えなくなっちゃったからよく分からないのよね。」
「分からなかったらとりあえず別にいいわ。次からちょっと気を付けておいてくれない?」
「もう一人の暁はどうしてそんなに司令官に執着するんだい。」
「…あなたたちにしか見えない化け物と関係があるかもしれないの。」
「本当!?」
「なるほど。それなら別にいいか。」
「…ねえ。もう一人の私。その服…なんて言ったかしら…。」
「狩装束のこと?」
「そうそれ。それってなにか狩りをするってことよね。もう一人の私は猟師さんなの…なんか、もう一人の私って言いにくいわ。」
「無理にそう呼ばなくてもいいわよ。」
「じゃあ、新しい名前つけてあげましょ!」
「何にするのです?」
「暁でしょ?だから…うーん?」
「何か出ないのかい。自分と同じ名前だろう。」
「うーん…何も出てこない…。」
「暁…暁…あ!暁って夜明けって意味よね?じゃあ『ヨアケ』でいいんじゃない!?」
『ヨアケ』夜明けか。まあ、いいんじゃないだろうか。
「私はそれで構わないわよ。」
「じゃあ、きょうからあなたはヨアケね!」
「で、話を戻すけど、ヨアケは猟師さんなの?」
「ん…猟師とはちょっと違うかな。私は狩人よ。」
「カリウド…?」
「狩人だよ、暁。」
「狩人って何するのです?」
「…狩人に興味があるのかしら?」
「すっごいあるわ!」
「そう。じゃあ、今日の夜…そうねぇ、22時くらいにまたここに来たら連れて行ってあげるわ。」
「本当!?じゃあ、その時間にまた来るわ!そろそろ夕食の時間だから早くいかなくっちゃ!」
「あ、まって。ヨアケは何も食べてないんでしょう/何か持ってきたほうがいいかしら。」
「大丈夫よ。私のことなら心配しないで。」
「でも…。」
「暁。本人がいいと言っているんだ。それを否定するのは失礼だよ。」
「…分かったわ。じゃあ、またあとでねヨアケ。」
「ええ、また。」
そうか。彼女たちは狩りに興味があるのか。嬉しいことだ。笑みがこぼれてしまう。つかの間の喧騒は過ぎ去り再び静寂が訪れる。時刻は1800。夕暮れは低く、日が沈み切るまでそう時間はかからないだろう。彼女…ヨアケは、今度から来客用にいろいろ準備してたほうがいいかしら、と実に平和な悩みをかかえていた。
日が沈み切り暗闇が世界を照らし数刻。彼女は一人、電気をつけずに月光で本を読む……ことはさすがにできないので素直に電気をつけてビルゲンワースから持ってきた本を読んでいた。あれから、アメンドーズについてもっと何か書かれていることは二だろうかと呼んでいたが、分かったのは昔は、アメンドーズはたくさんいたらしい、ということだけ。確かに、アメンドーズは上位者ながら個体数は多い。ここにいるアメンドーズもあちらにいた個体とは違う個体だろう。
コンコン、とノック。時計の時刻は22時である。彼女たちだ。
「いらっしゃい、時間ぴったりね。」
「レディーだもの!時間はしっかり守るわ!」
「暁が全然起きないから遅れかけたんだけど。」
「だ、だってしょうがないじゃない!22時っていつもは寝てるんだもの!」
「それじゃ、行きましょうか。」
「私たち何も用意してないけど大丈夫?」
「大丈夫よ。今回は見てるだけでしょ?」
「はいなのです。」
「じゃあ、ついてきて。」
彼女は、暁たちを引き連れ建物の裏まで行った。すぐ下は海だ。彼女はいつも通り海へ降り立った。しかし、暁たちは降りてこようとしない。
「どうしたの。」
「え、か、狩りって海に出るの?森じゃなくて?」
「そうよ。だから、見たいなら降りてきなさい。」
「で、でも私たちは艤装がないと海の上には立てれないわ。艤装はもう工廠が閉まってるからつけれないし。」
「ん…そうね……じゃあ、ちょっとこれ使ってみて。」
彼女が取り出したのは頭蓋骨。『狂人の智慧』だ。狩人は得た啓もうによってさまざまなことを『知る』。それが例え理に反するものだとしても、その方法を知ることができる。
「うえ!?な、なによそれ!」
「何って、智慧だけど?」
「い、いやいやいや。それ完全に頭蓋骨じゃない!どう、しろってのよ!」
「どう、ってこう。」
彼女はその頭蓋骨を握り潰す。手ごろなうめきとともに、頭にはその狂った思念が一つ入り込む。彼女には何の問題もない。何時も見た光景よりも幾何か平和な惨事が入ってくるだけだ。
「…え、えぇ…。」
暁は明らかに躊躇った。引いてまでいる。雷や電まで苦笑いだ。しかし、彼女がもう一つ取り出した狂人の知恵に響がそれを受けった。
「え、ひ、響、本気!?」
「本気も何もこうしないと何も始まらないだろう。ここまできて退くわけにもいかないし……お、思ったよりも簡単に…ぃ!?」
「ひ、響!?」
狂人の智慧を割った瞬間いままでずっと涼しい顔つきをしていた響の顔がゆがんだ。両目をかっと見開いてその場にうずくまる。この狂人の知恵は狩人に対してこそ、ただ啓蒙を得るだけでどうってことないがそうでないものがその智慧を引き入れることはまさに危険なことである。『狂人の智慧』だ。普通の人がとうてい耐えられないものだろう。狂人の智慧は狂人が知るからこそ意味がある。そう、もし響に狩人である可能性がないなら彼女はその場で発狂して死ぬ。ヨアケは、彼女たちにはその資格があると判断し使わせようとして、実際に響が使った。
響はすぐに元に戻った。額に汗がにじんだり、まだすこし呼吸が荒くあれど発狂することはなかった。
「だ、大丈夫?響。」
「あ、ああ。大丈夫、落ち着いた。」
「さあ、おいで。私は狩人であると強く思って。狩りに行くんだって。狩りのためならどんなことも辞さない。海の上ぐらい造作もない。」
ヨアケは響の手を取り優しくエスコートする。響もそれに応え彼女の手を取りゆっくりと海面に降り立つ。
「…本当だ。立てた…!」
「すごーい!ねえ、今度私私!」
「はいはい。落ち着いて。ほら。」
雷にも智慧を渡す。割った時の反応をひどくしかめっ面をしただけ。その次に試した電も同じであった。
「うへえ。なんか嫌な感じ。」
「頭の中にいろいろ入ってきたのです。」
二人も響と同じようにヨアケのサポートに海面に降り立つ。
「さあ、最後はあなたよ。暁。」
「う、うん…。」
「なんだい。怖いのかい暁。」
「大丈夫よ。ちょっと嫌な感じはするけどすぐに収まるわ。」
「暁ちゃんも早く来るのです。」
「わ、分かった!分かったわよ。」
「はい、どうぞ。」
暁にも狂人の智慧を渡す。しかし、彼女は気づいてしまった。暁にわたった瞬間。渡したものが狂人の智慧ではないことに。それは『上位者の叡智』だ。神に近い存在である上位者。その断片が収まったこの智慧はもちろん狂人が持つ智慧以上の狂気が入っている。人ならざるものに出会った人の智慧とそもそも人ならざる者の智慧。簡単に人が触れればたちまちその理解を通り越してしまう。訳が違う。流石にいくら彼女たちが狩人になりうる者たちであっても狩人でなければ絶対に死ぬ。
彼女はなぜそんなミスを犯してしまったのか。否、彼女はミスなど起こしていない。最初から知っていた。自分が暁に上位者の叡智を渡そうとしていることに。それは通り一遍の、すこし頭の出した存在では簡単にその命を砕かれてしまうものであることを。だから彼女はそれをわたした。
暁は上位者の叡智を割る。人ならざる者の叡智がいま、暁の頭に怒涛の如くなだれ込む。…数秒経つ。暁に変化は見られない。何も起こらない。
彼女は笑いをこらえていた。必死にこらえていた。久方ぶりの興奮。今すぐその場で自分の予想の的確さについて自画自賛を盛大にしたい気持ちを抑え微笑で済ます。
「……おしまい?」
「そうね。どう?なんともなかった?」
「…なんか変なのが見えたわ。」
「なんかって?」
「うーん。見たことない動物だったわ。頭がすっごいもじゃもじゃしててすごく細かったわ。そいつ私を捕まえようとしたけど、つかもうしたらなんかどっか行っちゃった。」
「そう…さあ、おいで。あなたもきっと立てるようになっているわ。」
「う、うん…わあ、立ってる!」
「遅いよ、暁。」
「響が早すぎるのよ!あんなに普通怖くて触れないわ。」
「さあ、行こうか。個々の夜はいつまでも続かない。私の狩りは夜の間だけだから。」
彼女は暁たちを促す。その顔はひどく優しかった。しかし、彼女の内面はまたひどく笑顔であった。耐えた。耐えたぞ。あの上位者に彼女は耐えた。しかも平然としてだ。しまいには上位者すら恐れた。ああ…素晴らしい。それが自分の分身であるというのだからなおさら素晴らしい。きっと、彼女たちはいい狩人になれる。いや、して見せる。して見せよう。私がそうさせてあげたい。そうだ、帰ったら彼女たちを夢に連れて帰ろう。そして狩人様に頼んでまた獣狩りの夜を繰り返してもらうんだ。ああ…楽しみだ。ひどいくらいに…ああ、だめだだめだだめだ。耐えろ、耐えるんだ。興奮したらまた全身から血を吹き出してしまうぞ。あまり怖がらしてはいけないよ。楽しみは逃げていかない。ゆっくりゆっくり楽しまなくちゃ。
彼女は暁たちの前に立ち歩く。その顔は誰にも見られていない。ゆえに、その笑顔はひどくゆがみ、一番の楽しみを後にに置き、今夜の獣狩りを始めんとしていた。
おめでとう!狩人暁ちゃんはヨアケに進化した!
不穏ですね暁ちゃん。彼女、もう啓蒙が大変なことになっているので思考がもうアレです。興奮するとミコラーシュ並みにテンション上がってしまいます。
マジェスティック!!
個人的にはメンシス学派お気に入りですよ。考え方とか。
ただしミコラーシュてめぇはだめだ。逃げ回って誘い込むのに本当苦労しました。彼方への呼びかけも避けずらかったし。
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