小さな歓迎会が終わった後、彼女は4人に狩人の道具を紹介していた。
「これが仕掛け武器。狩人はこいつを使って狩りをするの。仕掛けって言ってもこいつはただ伸びるだけだけど。これなんかはちょっと面白いかもね。」
彼女は一本の杖を出した。彼女がその杖を一振りすると刃が伸びて杖にまとられた。
「ちょっとかっこいいのです。」
「見てくれはいいけどね、威力が弱いからあんまり使えないのよねこれ。見てくれはいいのに。」
彼女が杖で床を一突きする。すると刃は杖の中にしまわれていった。
「派手なのはないの!?」
「派手?派手って言うなら、例えばこいつかしらね。これは私の昔のお気に入りよ。」
彼女が出したのは突起が付いた棒と刃が円盤状に一対並んだもの。その真ん中には穴がある。彼女はその穴に持っていた棒を挿した。ひどくこすれる音と火花を散らしながら刃が高速回転する。
「回転ノコギリっていうの。昔は重宝したわね。今は別のものつかってるけど。とりあえず、仕掛け武器って言うのはいろいろあるわ。とりあえずこの、ノコギリ鉈か、仕込み杖、獣狩りの斧をお勧めするわ。」
「えー、私さっきの回転ノコギリが欲しいわ。」
「無理よ、あれは最初から扱えるものじゃないのよ。いづれ使えるようになるから最初はその3つから選びなさい。」
「…じゃあ、私これにする!」
「い、電も雷ちゃんと同じものにするのです!」
「ふむ…じゃあ私はこれにしようかな。」
「私はこれにするわ!」
選んだのは、雷と電が獣狩りの斧、響がノコギリ鉈、暁は仕込み杖だった。
「暁、本当にそれでいいの?本当に弱いわよ、私も使ったときあったけどすぐにやめたわ。」
「これが一番レディっぽいわ!」
「…そう。あー、あと銃も使うわ。こっちは違いは単純よ。射程を取るか当たる面積を取るか。ぶっちゃけて言えば距離を取ることがそれほどないから最初は散弾銃で十分だと思うわ。」
「じゃあ、そうするわ。」
「そうだね。」
「私もそうするわ!」
「み、皆と同じにするのです…。」
「じゃあ、最後に狩り装束だけど…これはあそこの使者と相談してきなさい。費用は私が持つから。」
「お金かかるの?」
「似たようなものがかかるの。今は気にしなくていいわ。」
彼女が指したのは水盆の上にいる使者たち。それぞれが何かを持っている。4人がそこへ向かうと彼女は彼に4枚の紙を差し出した。契約書だ。
「はいこれ。狩人様に渡せばいいかしら?」
彼は彼女の頭を撫でながらその紙を受け取った。
「うふふ。後は頼んだわ。」
彼女は慰霊碑の前にいた。向こうへと行くための彼女の名が彫ってある慰霊碑。何の前触れもなくこの花畑に現れた。彼ですら心当たりがなかった。そもそもここに書かれていることは彼女にしか読めなかったし、その内容も彼女の名と没した年月が書かれているだけだ。しかし、その大きさは彼をも超える。金息の森にあった謎の石碑のようだ。
「ヨアケさーん!着てきたわよー!」
「ん、どう、気に入ったのはあった?」
雷電姉妹はヤハグル一式を選んだようだ。この二人はいつも同じものを選ぶな。響は灰装備か、で、暁は…
「…何それ。」
「ふふん。優美でしょ?」
「……。」
「すまない、暁がこれがいいと聞かなくて。」
「…いや、まあ、これは私も少し申し訳ないというか…どうせ後で思い知るだろうからいいわ。じゃあ、今から武器の使い方を教えるから。」
ヤーナム。獣の病がはびこるこの町は血の医療が盛んだったが皮肉にも崩壊の原因にもなった。そのある建物の上。
「うわ、おどろおどろしいわね。」
「あれ、ここ開かないわ?」
「そこは逆側しか開かないわ。こっちよ。」
4人は彼女の背を追う。彼女は少し行ったところで止まった。
「この先から獣は出始めるわ。基本的に私は後ろにいるから。死んでも大丈夫よ、さっきの場所から出てくるから。」
「え、今とんでもないことを聞いたような…」
「それぐらいの覚悟はしてもらわないと。安心しなさい、最初は誰でも死にまくるものよ。」
「そうと決まったら出発よ!」
「ちょ、ちょっと暁落ち着いて。危ないから。」
暁は建物の屋上を走る。木箱が積まれているのを見て壊そうとしたがそれよりも早く獣が券を振り回しながら現れた。暁は突然のことに動けなかった。ドレスは言わずとも戦闘に向いたものじゃない。刃先はドレスをやすやすと破りその下の肉を切り裂いた。暁は呻き、倒れた。おびえた顔をして浅く呼吸をしている。赤いドレスはさらに赤黒く染め上がっていた。
「あ、あ?い、痛い…痛い…。」
あの獣はもとは人間だ。自分たちで獣狩りをしようとして逆に獣になってしまった。獣になってしまった彼らはもはや人間と獣を区別できない、むしろ自分たちと同じ獣を人間だと思っている。獣を狩るという意志だけが残っている彼らは獣を殺すまでその武器をふるう。
獣は虫の息になっている暁に容赦なく剣を突き立てる。目の前の獣が死ぬまで何度も、何度も、何度も何度も。暁は刺されるたびにほんの少し体が浮き上がった。止めに頭に突き刺され、やっと獣は動きを止めた。ただの死体になった暁はだんだんとその形を崩し入り上になって消えた。獣は目の前の者が消えるとゆったりと元居た場所に戻っていた。
「…ああいう風になるから気を付けるのよ。」
「あ、暁…」
「そう心配しなさんなすぐ戻るから、ほら。」
後ろの明かりから霧が現れ徐々に形を成す。最終的にそれは暁に変わった。暁は戻ってすぐに吐いた。さっき歓迎会で飲み食いしたものをすべてその場にぶちまけた。彼女は暁のそばにより背中を撫でた。
「すぐに突っ走るからよ。次からは気をつけなさい。」
「う…ぉえ…」
「あ、暁…?だ、大丈夫?」
「あーあー、ほらほら、全部吐いちゃいなさい。」
数分後、呼吸は荒いが暁は落ち着いてきた。吐くことはなかったが、今度は涙が止まっていなかった。
「うぇ…ひっく、ひっく…。」
「さて、どうしたものかしらね…とりあえず行きましょうか。あなた達は先行ってなさい。気を付けるのよ。あと自分が進んだ道を覚えておくように、死んだらまたここに戻ってくるんだから。」
「う、うん。」
「暁ちゃんは…?」
「私がついておくから、落ち着いたら私たちもいくわ。」
「…分かった。」
3人は響を先頭にして先へ進んでいった。ほどなくして声が聞こえてきてやがてしなくなった。ここには誰も来なかったから先に進んだのだろう。
「はいはい、大丈夫、大丈夫よ。」
暁は依然泣きじゃくっている。自分が思うのもなんだが、こんなに泣き虫な性格していただろうか。いくら待っても泣き止まないのでいっそのこと担いでいこうかと思ったところで灯りから誰か出てきた。3人だった。
「…あらあら。」
3人は気づくと暁と同じように吐き出した。が、吐くだけ吐くと落ち着いたようだった。
「早かったわね。」
「う、そりゃあんなに大群が居たら対応しきれるわけないだろう。」
「まだ痛い気がするわ…」
「胸に穴が開いている気がするのです。」
電はそういって胸のあたりをさすっていた。と、暁が自分の体をまさぐりだした。
「あ?ちょ、ちょっと何やってるの。」
暁は手早くそれを取り出した。上位者の知恵。暁はそれを割った。すると暁はすぐに落ち着きを取り戻し立ち上がった。
「…大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
はて、不可解な、と思ったが落ち着きを取り戻したのでまあいいか。暁はすたすた歩きだして何事もなかったかのようだ。3人もほどなくして立ち上がった。
暁の様子がやはりおかしい。技量は素人だ。ドレスなんぞでまともな防具になるわけもない。ただ、2回目以降は死に対してなんの恐怖もないように見える。何か取りつかれたかな。彼女もさすがに何回は死に対する恐怖はあった。最初に上位者の知恵を授けたのがいけなかったかな?…恐れないっていうならそれでいいか。確実に響たちよりかは早く人の道を離れるだろうが、そもそも自分はとっくに人の道を離れているわけで。
何回も死にはしたが、大橋の前まで来た。4人も素人から毛が生えた程度だがまあ、大丈夫だろう。なんならこれからもっと死んでもらって経験を積んだほうがいい。
「この先に、大きな獣が現れるわ。とても強いだろうけど4人いるなら大丈夫よ。じゃあ、後は好きに回りなさい。」
「え、一緒にいないの?」
「基本的なこと教えたからもういいでしょ?あとは好きにヤーナムでも回りなさい。もしヤーナムに飽きたらほかの場所もあるから。狩人は気ままに獣を狩るのよ。もうここに夜明けは来ないわ。」
彼女は4人に何も言わせず道を引き返した。しばらくたって甲高い鳴き声が聞こえてきた。聖職者の獣、聖職者はより大きな恐ろしい獣になるそうだ。そうなのだろう、狩人も呑まれれば獣となる。血に酔った狩人ほどより恐ろしくなる。今もし彼女が獣になればどれほど恐ろしい獣になるだろうか。きっとどの獣よりも恐ろしい獣になるだろう。
夢に戻った。彼はどこか散歩しているらしい。人形も寝ていた。本当はもっと付き合う予定だったが飽きた。先回りしてビルゲンワースで待っていよう。前に読んだ本で少しメンシス学派に興味がわいた。それはもちろんこの集団が上位者に執着していたから。
ビルゲンワースは静かなところだ、何かの実験体らしきものが彷徨ってはいるが。このビルゲンワースで見つかったメンシス学派の誰かの手記。さっき見つけた。前には見つからなかったものだ。中にはなにかの実験の経過か何かが語られている。…上位者を…作ったらしい。これはヤハグルで出会ったものではないみたいだ。上位者を隠し守るために上位者を作ったと…メルゴーの乳母と名付けたようだ。乳母…乳母…そういえば悪夢の中にそれっぽい奴がいたかな。…隠し守る。何から隠すっていうんだい。上位者のために上位者を作り上げる、じゃあ上位者相手か?でもあの場にその上位者はいたが守っているっていうその上位者はいなかったが…赤ん坊の泣き声は聞こえたが、あれが上位者か?にわかには信じられないが、乳母という名前を付ける限りではやはりあの鳴き声の正体は上位者か。
「……」
思案につかれた彼女はふと湖を見る。この下今はもういない…いやいるのか。ここにいた爺さんには退いてもらった。今頃は中にいた学徒と何かしているだろう。彼が狩人として勤めを果たしきらない限りこの夜は明けない。彼女は狩りを全うしない限り夜は何度も繰り返す。この世界の秘密は暴かれて、また隠される。ここの蜘蛛を狩った時、遠くに女性が見えた。赤ん坊の泣き声と押しつぶされそうな巨大な赤い月。月…月ねぇ。まさかとは思うが…
ここにはメンシス学派のほかに医療協会の本もある。本当に何でもあるなここは。きっと大学的な立場だったんだろう。中にフラスコとか落ちていたし。中身を読んでみたが、いわゆる学術書のようだ。訳も分からない専門用語が連なっている。分かる単語は上位者と瞳という言葉くらいか。医療協会も上位者に興味があったらしい。だが専門用語やらがつらつらと書かれているだけでまったく内容が分からなかったので早々に投げ出した。そして取り出した小説を椅子を揺らしながら読み始めた。
主人公は一般な人。今までの人生も一般的で友人もどこにでもいるような奴だった。彼に普通じゃないようなことはただ一つ。彼はデジャブを感じることが多々あった。学校での先生の話の持って生き方。車がやってくる順番。テレビで見る大きなニュース。小さなことから大きなことまでよく感じていた。最初は周りによくそのことを話していたが、そのうち聞かされる友人がうんざりした様子を見せだしたので話すのはやめてしまった。だが、デジャブは収まらない。むしろ前よりも増えている気がする。彼は就職した。彼の仕事柄危ないことはよくあった。建築関係で働く彼はよく高所にいる。作業しているときによくデジャブを感じる。昔のものよりも確固たるものを感じるせいでたびたび手が止まり一緒に働いている友人から心配されていた。ある日のことだった。彼はいつも通り高所で作業をしていた。そこでの作業が終わり移動していた途中、角を曲がった瞬間死角にあったバケツを踏んでしまった。そのせいでバランスを崩した彼は足場から落ちてしまった。ビルの何十回からも落ちる彼は、自分は死ぬんだと感じた。なぜかこの瞬間でさえをデジャブを感じた。視界いっぱいに地面が広がった瞬間「次は…次こそは…」という声が聞こえ目を覚ます。
なにか悪い夢を見ていたようだった彼はその夢が何なのか分からず、悶々としたまま高校に行く準備を始めた。
この小説は『タイムトラベラー』という題名だそうだ。タイムトラベル、今いる時間から過去に戻ったり未来に進んだりする。この世界も離れてしばらくすると時間が巻き戻って夜が始まる。これはタイムトラベルだろうか。自分はタイムトラベラーなのだろうか。
暁ちゃんはもう人の心があまりなく気ままなので面倒を見るのも見捨てるのも自由です。
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