「来ないわね。」
結構待った気がする。が、まだ来ない。どこでそんなに時間を喰ってるんだか。月はまだ白い。ああそうだ、鎮守府に行こうか。提督の様子がおかしいとか言っていたし、何よりほったらかしにされたのが気に入らない。だが、様子がおかしいとは聞いたがどうおかしいとは聞かなかったな。せいぜい付き合いが悪くなったぐらいか。
彼女は本を閉じ腰を上げた。
しばらくぶりに戻った鎮守府は前にしていた工事も終わったようで建物も増えているようだし、人も増えている。その分、ずいぶんと騒がしくなっていた。人がいるとこそこそ調べるわけにもいかないので取り合えば夜まで待つ。結局夜まで待ったが誰一人として訪ねることはなかった。夜になれば昼とは打って変わってシンと静まり返っていた。彼女は早速行動を開始する。提督を調べるのだからまずは提督がどこにいるのか探す。まず正面から普通に入ろうと思ったのだが、相も変わらず奴がそこにいるのはいいとして、前とは違って誰かが入り口の前に立っている。多分艦娘だ。見張りを付けたのか、何故、人が増えたからか?あったことない奴だ。別の場所から行こう。
確かドッグのほうに牢に入る入り口があったはずだ。あそこなら誰か立ってることはないだろう。
やはりドッグには誰もいなかった。明かりだけが静かにあった。確か扉がこの辺りに…あった。中に入ると雰囲気が一気に不気味なものになる。その程度で彼女にはなんてこともないのでずんずん進む。牢には誰もいなかった。入り口に聞き耳を立てて誰もいないのを確認すると、音をたてないようにゆっくり開けた。やはり誰もいない。右側はすぐに壁だ。牢ってこともあるのでここは建物の端っこなんだろう。
足音を立てないよう静かに歩く。このフロアは一切人の気配がしない。扉は等間隔にあるが、その全てが倉庫か空き室か。脳内で地図を広げた感じここら辺は建物内の右端っこだ。前は案内されて最短距離で行ったからそこまで大きくはないように感じたが今こうやって自分で歩いてみるとこの建物は意外に大きい。廊下の突き当りを右に曲がる。さっきよりも長い直線が見える。歩いてみてもずっと人の気配がしない。なぜ人の気配がしないのにこれだけ部屋があるのか…そういえば人は増えていたな。寮を別に建てたからか。
廊下の真ん中に立ったところでここがロビーだと知った。左側に玄関が見える。あ?なんか不自然だ……直立不動だ。まるで人形だな。顔も動かずか?後ろ姿しか見えないが、ま、動かないでいてくれるならそのままでいてくれ。
ここからなら提督室までの道は覚えている。提督がまだそこにいるのかはわからないがとりあえず行ってみよう。彼がどう怪しいのかなぜ怪しいのかはわからないが行ってみよう。果たしてそこに理由があるか分からないけど行ってみよう。
階段を上る、登り切った先の真ん中が目的地だ。
「…だ……こ…いの作戦はそこまで大掛かりにはなさそうだね。」
「そうね。」
「今回の作戦が終わったら休暇を取ろうと思います。加賀さんも一緒にどうですか?」
「そうですね。たまには一緒に過ごしましょう。」
……通り過ぎたか。階段を下りる音がした。隠れた部屋から出て目的地の目の前に立つ。きっとこの先に彼がいる。彼はまだここにいる。じゃあ、だめじゃないか。この部屋を探るのは彼がいなくなってからじゃないと、それまで隠れて居よう。
彼女は隣の部屋に入り待つ。じっとして、息を殺して、どんな音も聞き逃さないように。やがて扉があく、鍵をかける音、足音が小さくなった。外に出て部屋のノブを回す。しかし開かない。ああ、鍵をかけられたんだっけ。どうしよう。これでは入れない。困った。
「困ったわ。本当に困った…まあいいかしら」
あまり騒ぎになるようなことはしたくないが仕方がない。ノブの部分を破壊して無理やり入る。中は前からあまり変わっていない。怪しいと言えるようなところは見当たらない。ゲームなんかでは引き出しなんかに手記やらパソコンに謎の文章があったりするが実際にはそんなことはしない。ここにはなにか怪しいものがあることはなかった。となれば彼を尾行するのが正解か。
残念ながら彼が出ていってから時間が経ってしまったので今から彼を探すことはできないだろう。諦めて今夜は帰る。廊下に出ると電気が切れていた。玄関まで降りてくるとあの二人の艦娘はいなかった。というか扉もしまっている。仕方がなく来たときと同じように牢に向かい、そこからドッグを経由して出る。
残念ながらドッグを出たところで提督の後ろ姿が、なんてことはなかった。
誰とも合わず安全に夢まで戻ってくると、四人がいた。暁の服装が変わっている。
「あら、服変えたの?」
「あ、ヨアケさん。」
「そうなのよ、やっと変えてくれたのよ?暁ったら何回死んでもあの服装がいいって、レディだからって。」
「最近ついに心が折れたのです。」
「弱いー、って半泣きになりながら杖を振り回してたもんね。」
「も、もう!そんなこと言わないでよ!で、でも私が最初に死に慣れたわ!」
「あれだけ死んでたらそりゃそうなのですよ。」
「…最近ちょっと電が毒気ついた気がしてるんだけど気のせいかしら。」
「どう、狩りは順調?」
「ええ!なんか広い場所まで行ったわ!」
広い場所?ヤーナムは広い場所だらけだからよくわからない。でも順調そうならいい。
「ヨアケさんは何してたの?」
「私?私はあなた達の提督を嗅ぎ回ってるわ。」
「怪しいって言ったから?」
「そう。私を放置した仕返しにね。まあ、あなた達が怪しいって言っただけだから本当にやましいことがあるのかはわからないけど。今日は何も成果は無かったわ。あなた達他になにか知らないの?」
「うーん、怪しいったって最近無視されることが多かったってぐらいだし…」
「でも今まで司令官さんが無視することはなかったのでやっぱり変なのです。」
「誰か付けたこととかないの?」
「さあ、私はつけたことはないな。」
「私もないわ。」
「そう。じゃあ、地道に探すしかないわね。私はまたしばらくあっちにいることにするわ。あなたっちも頑張りなさい。」
「はーい!」
戻って来たところでまだ深夜だ。調査するにはもう遅い。また明日の夜を待つしかない。
彼の部屋を覗いた限りではおかしいところは見受けられなかったが、やはり数ヶ月放置させるのはおかしい。今度はつけて行ってみよう。
その日の朝は騒がしかった。放送で招集命令が下ったやいなや寮という寮から艦むすが一つの建物に走っていった。
昨日彼女が提督室の部屋のドアを破壊したのでそのことだろう。
「……」
彼女は部屋を出た。すると丁度部屋を出る鳴子と鉢合わせた。
「あ、おはよう御座います。」
「おはよう御座います。」
「どうしたましたかこんな朝早くに。」
「いえね、なにか面白そうなことがあるので。」
「…ああ、さっきの。」
「はい。では、少し急ぎますので。」
建物を出る。艦娘達が向かったのは庁舎の中だ。入り口には誰もいなかった。しかし、あれだけの大人数が入っていった割には静かだ。講堂かなにかあるはずだ。右には何も無かったので左側だ。階段のそばを通り過ぎると、角を曲がった先に扉がある。くぐった先は外廊下だった。そしてその行き着く先はまるで体育館のような大きな建物。おそらくあそこが講堂だろう。入り口には誰もいない。静かに近づき扉に聞き耳を立てる。…何も聞こえない。
「みんな集まったか。」
長門の声だ。よく通る。が、その声に反応する様子は全くない。
「今回集まってもらったのはほかでもない。提督室のドアが何者かによって破壊されていた。」
どよめきはない。本当にこの中に入ったのか?あそこに窓があるから覗いてみよう。
…いる。かなりの大人数がこの講堂の中で所狭しと並んで立っている。自分が思うのもなんだが少し気味が悪い。まるで生きているようには見えない。人形みたいだ。対照的に壇上で話をしている長門たちには変わった様子はない。淡々と人形たちに話しかけている。おや、提督がいないようだ。こういう時は提督も一緒にいるもんだと思ったが、別の場所にいるのか?
結局話しも今後警備をより強化するという月並みな対策をするだけに終わった。これならさっさと提督のほうに行っていればよかったかもしれない。昼は大きく動くことができない、かといって夜になるまで隠れて待つのも暇だ。というわけで昼もこそこそと探検してみよう。
例のごとくドッグから牢を経て庁舎に侵入する。経路があまり人目につかないところにあるのでここまでは楽。だが、問題はここからでぱっと思い付くような場所は何もなかったのでどこを探るか決まっていない。何か謎の地下空間とかあれば面白いが、そんなところがあるようには思えない。ひとまず牢にこもってどこを探検するか考えよう。
脳内マップを開く。講堂を見たときにその周辺に空き地が広がっていた。それもまあまあ広かった。だが、ああいうところに地下空間かなにか隠し通路の入り口があるのは少し考えづらい。あの下に空間が広がっているのはあるかもしれないが…どっちみち提督をつける必要がありそうだ。
今の時点では提督に怪しいところはなさそうだが、あの艦娘の様子は明らかにおかしい。ちょっと前は生き生きしていたし、何かあるのはあるはずだ。
出ようと立ったとき小さな鉄格子の窓から入った光が何かを照らした。
「…本棚?」
なぜか本棚がある。中にはそこそこ本が、どれも題名がついていない。昨日は夜に忍び込んだので気づかなかった。そもそも前はこんなものなかった。一冊手に取り松明を灯りに中を読んでみる。
「へー…これは、これは…」
中には簡潔に言って上位者の作り方が書かれていた。まさかの文字に一瞬理解できなかった。ということはまさかメンシス学派のやつが居るのか?…いや待て、いくら何でもぶっ飛びすぎてるだろう。なんでこの世界にメンシス学派がいるんだ。あーでも、アメンドーズがいたということはそういうことか?メンシス学派はアメンドーズに隠させていたらしいし…。
本の内容に戻ろう。ここに書かれている方法では上位者の材料に人間を使っている。ということはあの艦娘たちは上位者の材料なのか。確かにあれだけの量居れば上位者を作るのには十分だ。となればもしかして秘密の空間への入り口もまさかここに……?
「あ、あった。」
あった。牢の一番端っこに穴が開いている。中は真っ暗で全く分からないが地下へ梯子が伸びている。今行ってもいいがひとまず、戦利品として本を何冊か持っていこう。
夢にあの4人はいなかった。彼に尋ねるとついさっきまた出かけて行ったそうだ。仕方がないので彼と一緒にまとう。彼はいつも夢の中を散歩したり、時には自分でお茶を入れたりする。今回も彼に付き合って花園で2人でお茶を飲んでのんびりと待っていた。
お茶を飲み終わり小説を読んでいると、聞きなれた声が向こうから聞こえてきた。4人は少し疲れている様子だった。それに装備もそれぞれ変えていた。
「あ、ヨアケさん。」
「順調かしら?」
「それがね、あの3人がなかなか倒せないの。」
「何回やっても死んでしまうのです…」
「3人?ああ、ビルゲンワースの前の、でも4人で行けば楽じゃないの?」
「4人でいるときは楽なんだけど一人でもやられるとね。」
「…じゃあ、一人一人が強くなるしかないわね、後はそこにある障害物も利用しなさい。あ、そうだ。今日は面白いもの見つけてきたのよ。」
「どんなの?」
「ほらこれ。庁舎の中から見つけてきたわ。」
「何これ?」
「読んでみて。」
「上位者…材料に人間!?」
「え、何それ不気味ー!」
「上位者って誰なのです?」
「さあ?」
「え、上位者知らない?」
「じょういしゃっていう人に会ったことはないわ。」
「…ほら、あれよ。庁舎にしがみついていた奴がいたでしょう。あれ上位者よ。アメンドーズって言うの。」
「ああ、あれ上位者なの?え、じゃああれって人間からできてるの…?」
「いや、あれは違うわ。あれは外から来たのよ……ってこの本から書いてた。」
「それも鎮守府から見つけたやつかい?」
「いや、これはビルゲンワースで見つけた物よ。」
「ビルゲンワース?」
「それは今はいいわ。これで鎮守府内にこっちの世界の人が紛れ込んでいる可能性が出たわ。面白いことになりそうよ。私はもう少し探ってみるからあなた達も頑張りなさい。最後はあなた達も呼ぶから。」
「はーい!」
誤字脱字ありましたら遠慮なくどうぞ