大学生になって一人暮らしも始めたのでなかなか書けませんでした。次もいつになるか…
現在夜の約10時、彼女は庁舎の茂みに潜んでいた。視界から玄関が見える。先程残業まみれだったらしい提督が玄関を左から右へ横切るのをみた。取り出したのは青い秘薬。これで玄関を通る。例のごとくお人形さんな艦娘が見張っているが、わざわざ置いてあるぐらいだ、正面から来たものには反応できるのだろう。秘薬を飲んだ状態では単純な動きしかできないから、とりあえず玄関を過ぎるところまで……
意識が戻ったとき丁度角を曲がる奴が見えた。足音を立てないように歩いて壁につく。予想だと、奴はあの部屋に入るはずだが……入った。跡をつけて例の部屋の前まで来る。念の為聞き耳をしたが、扉の前に誰かが立っているなんてことはない。
入ると、そこには誰もいなかった。だからあのはしごの下を覗いた。明かりだ、明かりがついている。降りたか、しかし不用意に自分も降りると面倒になりそうだ。
本来、彼女の目的は満足すること。故に今やっている事は全て彼女の興味から来ているものだ。その興味とは、即ち上位者。大体、この鎮守府はおかしい。なぜアメンドーズがいる。この世界はヤーナムや血の医療とは全くの無関係だ。しかし、実際にここにいる、ずっといる。さらに彼女すら気づけなかった異変。狩人が気づけない、それ即ち上位者の仕業だろう。果たしてそれがアメンドーズによるものか、ロマ…もしくはまた別の上位者か。どっちみち上位者は狩る。あとあの提督は怪しい。現にこうやって梯子の下にいるわけだし、メンシス学派の本だっておいていた。まさかとは思うがあの男、メンシス学派か?
「…ァぁ……」
「…?」
何か聞こえた。
「ああァァああ___」
うめき声、どこかで聞いたことがある。聞き取ろうと思えば思うほどその声はどんどん不明瞭になっていく。……ああ、思い出した。あれはいつしか彼女の戦力テストに使った……
「…は?」
思わず声が出てしまった。今下で使われているのはいつしか試験的に使用した深海棲艦をおびき寄せる装置だ。なぜ鎮守府の地下でそれを使っているんだ。一体なんの目的で。
鎮守府に深海棲艦が押し寄せるかと思ったがそれから少し経ってもそんな気配は全くしない。こうして待っている間も声はずっと聞こえてきている。だがあれはもはや声とは言い難く、音といったほうがまだあっているだろう。何かの音、しかしそれを説明するのに適切なものが浮かばない。深海棲艦というのはどうも理解しがたい。ああやってわけもわからず奇声を発するものもいれば、たどたどしいが言語を発する者もいる。そういうやつはイ級やロ級が出している声を理解しているのだろうか。もしかしたら人間が動物を使役するのと同じ感じなのかもしれない。
…また余計に色々考えてしまった。最近癖づいている。要はあの男があの装置を使ってこの下で何かをしている、それだけだ。問題はその何かなのだが。
不気味な声をひたすらに聞いていたがだんだん、小さくなっていく。久々の変化に感覚を研ぎ澄ませるが聞こえてきたのははしごを登る音、しまった。奴が戻ってくる。
彼女はドッグへ向かう扉の向こうに隠れた。登りきる音、ドアを開ける音がする。しかし開けたのは彼女が居るほうではない、庁舎へ戻るドア。少しだけ開けて誰もいないことを確認すると梯子に手をかけて降りていく。
降りてから前回と同じように電気をつける。と、底には予想外の光景があった。何もない、前に彼女がこの場にやってきたのと同じように何もない空間が広がっている。少なくとも奴が上ってくる少し前まで確実に深海棲艦の声がしていた。あの短時間で何の痕跡も残さずに上ってくるのは不可能だと思うが…まさかあの装置を起動しただけで何もしていないなんてことはない。そっちのほうが意味不明だ。じゃあ結局奴がここで何をしていたのかということだが、上位者が隠してる…という考えは一度捨てよう。そう考えると何でもかんでも上位者のせいにして何も解決しなさそうだ。しかし、こうも何もないのではどうにもできない。せいぜいあの男が何かしら関与しているということが分かったぐらい……帰るか。
どこか無駄な時間を過ごした気がする今宵。これ以上自分で何か見つけることは無理かもしれない。あの4人から何か報告があるまではまたここでおとなしくしていようか。飽きたと思っていたここの風景もしばらくぶりに戻ると少し新鮮味を感じる。冷蔵庫にはあのときもらった蜂蜜酒がまだ結構残っている。せっかくなので蓋代わりのグラスで1杯。あぁ、酒を飲み物として飲んだのはこれが最初だったが酒に魅了されているようだ。今ならヤーナムの酒も行ける気がする。今まで投げつける以外にしたことがなかったが、そうだ、自分は狩人だ。血によった狩人。ならばこの酒だって行けるはずだ。そう思って勢いに任せて1杯。
「…あぁ。」
こりゃあいい。なんたって香りがいいんだ。濃厚なほどに、少し下品とも言えるほどの濃厚さ。狩りをするのには向いてないがこれは酔うのに丁度いい。蜂蜜酒は美味いが、この1本しかない。ヤーナムの酒で十分なら今夜はこの移ろいゆく月を見ながら過ごそうじゃないか。
さてさて、そろそろ月も水平線近くなってきた頃。瓶をあおって飲むのもそれはそれでいいが、やはり彼女的にはグラスで飲むのが好みなようで……いや、そんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。月を眺めているとけたたましい喇叭が鳴り響く。時計を見ると確かに起床時間っぽいが月はまだ空の上、なるほどそういう季節か。それはそうとヤーナムのどこに行けばグラスが置いてあるだろうかと考えているとノックもなしに入ってくる誰か。振り返ると暁たちがそこにいた。
「あら、はやいわね。起床時間さっきでしょ?」
「何言ってるの?起床時間は1時間前よ?」
「あら?」
確かに1時間すぎている…グラスのことを考えていただけで1時間経ってしまっていたらしい。はてさて、酔いというのは時間の感覚を曖昧にさせてしまう。
「…あー、で?どうしたの?」
「あ、あのね!上位者っぽいもの見つけたの!」
「本当?」
「本当よ、本当!」
予想外の言葉に響の方を見るが響も頷いているので、暁の妄言ではないらしい。
「どこで?」
「ここの反対側よ。講堂からもっと向こう。旧ドッグの中にそれっぽいのがあったの。」
反対側か。彼女はずっとこっち側しか探索していなかったのでそりゃあ見つからないわけだ。そうか、そういえばこの鎮守府は孤島だったか。
「なるほど。そういえば旧ドッグなんてあったのね。」
「元々ここは飛び地で挟撃をするために無理やり作られたところなの。」
「今はもう前線が違うから使ってないわ。一度に2隻までしか出撃できないし。」
「ふーん、じゃあちょっと私も様子見に行くわ。」
4人に案内されてその、旧ドッグまで行った。少し大きめの建物、その中に入ると確かに海面がビルゲンワースの湖みたいに白く光っている。
「確かにいそうね。じゃあ行こうかしら。」
「え、もう?」
「何もなかったから、もう上位者ぐらいしか疑う要因ないの。大体私そんな考えるの好きじゃないし、これでどうにかなるならそれがいいわ。」
飛び込むと海水に濡れることなく新たな湖が広がっていた。そしてあの蜘蛛も。
「…一緒ね。」
4人も彼女の後すぐに落ちてきた。
「一緒だね。」
「そうね、さあ、さっさとやりましょう。取り巻きはお願いするわ。」
ロマは一人だと苦労するが複数人だと全く苦労はしない。厄介なのは取り巻きの子蜘蛛でそれさえいなければ全く強くない。雷を纏わせてずっと殴ってればなんとかなる。
「はい、おしまい。」
ロマが消滅し間もなく子蜘蛛も消えた。すると何か聞こえ始めた。それはだんだんと大きくなり聞こえる全てがその何か、うめき声に変わっていく。瞬きをすると光景が一変し、旧ドッグに戻ってきた。
「あれ、戻ってきた?」
「う、まだあの声が残ってる…」
彼女は4人をおいて空の様子を見に行った。やはり月が赤い。何か、変わったらしい。そして、あのうめき声、深海棲艦だ。
「わぁ、月が赤い!」
暁がたったったっと走ってやってきた。その後ろから響が雷と電に支えられながら近づいてきた。雷電コンビは顔色も大丈夫そうだが、響の顔がまだグロッキーだ。暁は満面の笑顔だが。
「行ってみましょうか。何か変わっているかも。」
目指すはあの地下空間。ロマが何か隠していたというなら、今ならそこに何かがあるだろう。月が赤く変わったせいか周りの雰囲気が不気味に感じる。
「どこに行くの?」
「地下。」
「地下ならあっちだけど?」
暁が指すのは彼女が目指す方向とは明後日の方向だ。しかも、あの地下空間は彼女が覚えている限り梯子以外の出入り口はなかったはずだ。
「あっち?」
「うん。地下でしょ?」
なんだか情報の齟齬がありそうだがとりあえずついていってみる。
そこにあるのは狭そうな平小屋。中は下に続く階段があるだけで、そこを降りていくと真っ暗な空間が広がっていた。暁が電気をつけてくれると、いくつかの牢屋があった。
「…ここは?」
「牢だけど?」
「違反者が入るやつ?」
「そう…だけど?」
「庁舎のじゃなくて?」
「え?あそこにはないけど?」
「右奥のやつよ…しらないの?」
「あそこはいっつも鍵が閉まってるから…。」
「……なるほど。分かった、行きましょう。」
「もういいの?」
「ええ。」
階段を上ると、響が壁にもたれて座っていた。
「大丈夫?」
「まだ吐き気がするよ…みんなはよく平気だね。」
「まぁ、すぐに聞こえなくなったし。」
「聞こえなくなったら平気なのです。」
響が復活できるまで待っておこうと思っていると、遠くから誰か近づいてくる。多分こんな夜中に何をしているのか聞かれるんだろう。どう言い訳をしたものかと思ったが、何やらやけに遅い。それに歩き方もおかしい。
「……」
「どうかしたの?」
「いや、あっちから誰か来てるんだけどなんかおかしいなって。」
「あれはたぶん川内さ…ん?」
暁が言うにはあれは川内らしいが…いやあれは絶対違うぞ。服こそ確かにそうだがそこから見える本来人の形をしているものが違う。その顔は川内の顔どころがもはや人間の顔すらしていない。腐りかけていている。
「…あれが隠されていたものかしらね。」
「え、あ、あれどうするの?」
「もちろん狩る。」
相手はゆっくりゆっくり近づいてくる。こちらも武器を手にして待ち構える。相手は何も持っていないようで両手を前にかざしている。どういう攻撃をしてくるかと思ったが一定距離になると飛びついてきた。回避は簡単だし、顔同様手足まで腐りかけているのか起き上がるのにも苦労しているようだ。
「…ねえ、これ頼んでもいい?わたしは、あそこ行きたいから。」
「え、あ、うん。」
「もし追い付くんなら、庁舎の玄関から一番右奥の中にある梯子の下にいるから。」
「わ、分かった…。」
彼女は4人を置いて一人庁舎に入る。電気は付きっぱなしだが誰一人いないそのまま例の部屋を目指すと廊下の真ん中に誰かいる。
「あ…」
「……吹雪。」
「久しぶりだね。」
「どうしたのこんなところで。」
「それはこっちも一緒だよ。」
「それもそうね。じゃあ悪いんだけどそこを通してもらえない?」
「…ごめんね、それはできないの。提督に言われてるから。だから帰ってくれないかな?」
「嫌だって言ったら?」
吹雪は艤装を付けたまま立っていた。そして手に持っていた連装砲を彼女に向けた。
「ごめんね。本当にごめんね。なんでかは分からないけど提督に言われたから…」
「心配しなくていいわ。無理にでも通るから。」
仕方がない、とつぶやきながら一歩踏み出そうとしたその時、あろうことか吹雪は屋内で撃った。威嚇のつもりだったか彼女自身ではなく足元に撃った。それでも大きな爆発は一発で建物を無残にし、壁や天井が崩れ二階まで見えた。
「…本気みたいね。」
「私だって本当はこんなことしたくないの。でも提督からの命令だから…」
さっきの川内もどきは恐らくロマが居なくなったから本当の姿が云々のせいだと思うが、吹雪は違うのか。
「いいえ。気にしなくてもいいわ。やることは変わらないもの。」
さっきと同じように一歩踏み出す。当然吹雪もまた撃ってくる。次はあててくるかと思ったが砲口からまた威嚇だと判断した。横にずれて砲撃で崩れた部屋に逃げる。艦砲は強力だが、そのせいで煙がひどい。そのすきに距離を縮める。煙を抜けたところでちょうど吹雪の目の前になった。吹雪はぎょっとしたがそれでも彼女に砲口を向けた。これは逆に彼女をぎょっとさせたが体をひねり射線上からずれる。瞬間彼女の体をかすめ部屋がまた爆発した。そしてその爆発と吹雪の首が跳ねたのはほぼ同時だった。首の切り口から血がどぼどぼ流れ出る。部屋の隅に転がった吹雪の首には彼女と最後に目が合った時の驚きの顔があったままだった。
彼女は転がった吹雪の首を一瞥に歩いて例の部屋へ向かう。やはりカギがかかってるか。鍵など持っているはずがないので鍵の横とドアノブの横を撃ち抜きドアをけり開ける。そのまま梯子を下りていく。部屋に入った時にから急に聞こえてきたうめき声は、降りるたびにさらに大きくなっていく。降りた先はすでに電気がついていて、とんでもないほどの気配があった。降り切って振り返るとそこにはあの男とその後ろになんとも形容しがたい真っ黒な異形がいた。
多分次か、その次で終わります。
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