今回の提督はどこか黒い。そんな感じがしますね。
案内されたのは執務室と書かれた部屋。入るとそこには見慣れた者ばかりいた。
「連れてきました。」
「うん。それじゃあ始めようか。」
長門が持っていた筒状の紙を広げる。海図だったようだ。
「私たちの鎮守府はここだ。担当海域は明日大本営から通達が来るはずだ。」
「それで、僕の予想としては担当海域はここらへんだと思うんだよね。」
提督が、取り出した赤ペンで丸を付ける。
「…思ったより狭いですね。」
「ここの戦力が整いだしたのはつい最近ですしまだ定期報告で戦力の増加を通達できていませんからね。」
「問題は、暁をどう使うかなんだよね。」
「この範囲だと、今の戦力で十分カバーしきれますね。」
「この予想された範囲外でやってもらうのが必須だな。一番いいのはこのあたりだろうか。」
長門が青いペンで新しく丸を付ける。
「そこは、最近レ級や姫級以上の深海棲艦が目撃されるところですね。」
「ああ、まだこの海域がそう言った深海棲艦の拠点になってる確証がないからまだどこにも報告はしてないし、暁を発見したところから逆方面だからきっとまだいるはずだ。」
「昨日の偵察の報告を見る限りでは、その海域が拠点となっているのはもう確実そうだから、確かにそこがベストだね。」
「それでは、その時の編成としてはやはりこの海域の担当は私と加賀さんが?」
「そうだな。ついでに吹雪を入れよう。私は…恐らくこの本来の海域の主力をたたく部隊に入るのが自然だろう。できるだけ時間稼ぎをしてここの主力にみんなの目を注目させたほうがいいか。」
「じゃあ、私は必然的に赤城さんたちとは逆方向に進む部隊のほうがいいわね。」
「イクはどう動けばいいの?」
「ああ、イクには単独で暁への伝令を頼みたい。」
「伝令?」
「うん。暁が一定の戦果を挙げた後に芝居をかけるからね。流れとしては暁が一定の戦果を挙げた後イクがそれを赤城に報告。芝居のために艦載機をあげるからそのことを暁に知らせて暁は撤退してもらう。そういえば、暁は一度にどれくらいの敵に対処できる?」
「ん…私?別に何体でも?」
「あいまいだな…。」
「まあ、彼女が圧倒的な戦力であるのは間違いないですし特に問題はないでしょう。」
「…ねえ、私の道具そろそろ返してくれない。」
「道具?ああ、あれのことか。そうだな、明日明石に返すよう言っておくよ。」
「今じゃダメかしら。」
「今日は明石呼んでないからもう寝ちゃってるだろうからね。申し訳ないけど我慢してもらえるかな。」
今日は特にこれ以上話すことはなかった。また明日会議をするらしい。けっよく今日中に狩り道具が帰ってくることはなかった。素手でできなくもないが圧倒的に効率が悪い。失意のまま部屋に戻ると物置のドアが開いていることに気づいた。
「…。」
一瞬警戒する。しかし人間の気配も獣の気配もしない。ただの閉め忘れかと近づくと中に灯されていない灯りがあった。
「…なんでこんなところに。」
疑問には思ったがとりあえず灯りをつける。使者が出てきて祈り始めた。見慣れた光景だ。なぜこんなところに灯りが出てきたのかは謎だったがこれで夢に帰れるのは便利だ。道具もないので一度戻って適当にノコギリ鉈でも買おうかと思ったがふとあるものを思い出した。今まで使ったことはないが一応使えないことはない。水銀弾消費が激しいのでせいぜい一艦隊が限界だがまあ、狩りができるなら何でもいい。そもそも今日はあまり月が見えない。そんなにいい夜にはならないだろう。
唯一の窓から外に飛び降りる。直下の狭い建物と海の間の部分に降りた。そこからまた降りて海に立つ。何歩か歩いてから振り返った。やはりいる。吹雪と会議に行った時からアメンドーズがずっと張り付いているのだ。今も同じ体制で建物のほとんどを覆うようにして張り付き彼女をじっと見つめている。奴は彼女を殺そうとはせずただじっと見つめているだけのようだ。奴らにとって彼女はもはやただの狩人などではない。もはや彼女は奴らを狩ることさえできる。ゆえに彼らは彼女を監視する。監視したところでそれがいったい彼らにとって何になるのかは一茶不明だが、ただ見ているのだ。彼女は早々に思考を打ち切り歩き出す。せめて今日一番の狩りとなるように。
ああ、いた。艦隊がいた。獣だ。獣がいるぞ。今日は夜だ。獣狩りの夜なんだ。月も二つある。奴もまたそこに存在する。血に酔うため、狩りをする。青ざめた血を求めるのだ。血を恐れてはならない。全うせよ。しかし、今夜彼女は祈りを行う。ああ、医療協会よ。汝らは素晴らしきものを生み出してくれた。はるか彼方への交信。それは必ずしも失敗ではなかったのだ。力だ。この交信は特別な力なのだ。だから彼女は祈り、交信する。
彼方への呼びかけを
彼女の周りに光弾が浮かぶ、数秒ののちすべてが艦隊めがけて飛んで行った。呼びかけを行い応じたのは上位者ではなく星そのものであった。その星は本来この場で存在などできないものだ。ゆえにその形を保てるのは数秒。直後に爆発を起こす。何も知らない艦隊は光弾を食らいその爆発も受けてすべてが吹き飛んでしまった。原型を残したものなど何一つない。すべては星の爆発とともに消え去ったのだ。
……というわけでもないらしい。彼方への呼びかけなんて初めて使った。一応一度は使ってみたかったので神秘を鍛えはしたが、確かに威力は絶大で直撃したものはチリになったし、爆風で十分吹き飛んだ。それでも外したり中途半端で生き残ったものがいる。しまった。武器なんて持ってきていない。最悪素手で殴るしかないだろうか。
相手には、ヲ級がいた。夜中だし艦載機は出さないだろうと思っていたがなんと普通に発艦してきた。まさか獣狩りでヤーナムを訪れている間にこんな個体が出てくるとは。艦載機からの攻撃をよけるのは簡単だ。しかし狩るのは難しい。武器の類はいまだに没収されたままだし、なんか手元に残しているものは……あ、あった。こんなものがあった。
彼女は懐からずさんに止められたはさみのようなものを手にはめた。
艦載機が爆弾を落とし至近弾、もしくは直撃したのかヲ級から彼女は水柱で見えなくなる。攻撃を続けるべきか否か、水柱が崩れ相手の様子が見えた瞬間に判断を下す…はずだった。水柱に穴をあけて突撃する一つの塊があった。艦載機の攻撃をやめる判断と相手を確認してから判断を下すという思案の間に起った出来事にヲ級は水柱が収まってから判断しようという考えを頭に残したまま本能で防御態勢をとった。頭より上のものが強く後ろに引っ張られる感覚がした。予想以上に強いその衝撃はヲ級を後ろに引き倒した。確認しなくともわかる。格納庫がやられたのだ。その証拠に頭の上がかなり軽くなった。今、自分は無防備となった。護衛の仲間もみな中破以上の損傷を受けている。この艦隊の旗艦としてヲ級は被害を最小限に食いとどめるため撤退を決意した。すぐさま残りの仲間に撤退の指示を……
――――――――――ッッッ!!!
咆哮だ。なにか吠えた。聞いたことのない鳴き声だ。仲間の声でないことは明らかだった。では、この声の主は…?それは、予想だにしなかった、しかしありえたものだった。だって、それは到底艦娘とは思えないものだったから。雲から月が出始めた。格納庫がないヲ級にとっては今まで以上に景色がよく見えただろう。ゆえに月光に照らされたそれをはっきりと見たはずだ。片手には動物の手をまねたようなもの。もう片方には動物同然の腕。顔を深く覆ったその衣装でうなだれているせいで表情は全く読み取れない。しかし、ありえないほどに美しい月がそのシルエットをはっきりと映し出す。
また、吠えた。今度はその主も一緒に。やはりそれが発していたものだった。飛び込んできたソレは両腕を広げ、大方人の形をしていればすることはなさそうなフォルムだった。護衛の一隻が標的だった。もはや動くことしかできなかったその仲間は避けることなどできるはずもなくソレの餌食になった。一振りするごとに舞い上がる仲間の体液。装甲がまるで役目をはたしていない。その光景はヲ級を含め艦隊の全員をくぎ付けにするには十分すぎた。同族にしか聞こえないおぞましい悲鳴が止んだ時、ヲ級は再び撤退命令を出した。仲間が撤退を開始する。ソレがまた飛んだ。今度は自分であった。今度は杖を前に出して受け流そうとする。だが、それがいけなかった。杖で防御姿勢をとった。ゆえにヲ級は迫りくるソレをまじかではっきりと見てしまった。目が合った。血走った、いやそれでも足りないほどにおぞましい目。瞬間ヲ級はソレの目に映ったものを見た。
理解できなかった。訳が分からなかった。存在などするはずがなかった。こんなもの存在していいはずがなかった。しかし、それは今目の前で自分めがけて飛んできている。ここはどこだ。あれはなんだ。どうして棺を開けている。どうして私は棺を開けて、棺の中から私を見ている。悪夢だ。悪夢が見える。町中に悪夢が広がっている。月からやってきた悪夢が夢の中にやってきた。私を連れて行こうとする。いやだ、やめてくれ。私に近づいてくるな。逃げたい。手足を必死に動かして花畑を匍匐する。ああ!だれだ。今私の足を切ったのは。奴だ。奴がいる。奴が私を狩ろうとしている。おかしい、違う、矛盾だ。矛盾しているんだ。矛盾している矛盾している矛盾している矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾、待て。はて、月は二つあっただろうか。満月が少し欠けたものと。大きく赤みを帯びた月。脳は理解を求める。だが求める理解はない。それでも理解を求め脳は外へ行こうとする。耐えろ。だめだ。言ってはならない。その理解を求めてはならない。だめだ、出て行ってしまう脳が外に、そとにそとにソトニぃィイイィィィいいぃい!!!!……ッ…
彼女は理性を保っている。故に目の前に浮かぶ物体を眺めていた。少し前聖杯ダンジョンから持ち出した獣の爪。恐らくそんじょそこらの人間が使えばたちまち理性を失ってしまうであろうこれは彼女のような狩人だからこそ扱えるものだ。この浮かぶ物体は彼女が首を飛ばす前に頭が吹き飛んだ。この物体は彼女を見たらしい。彼女を理解しようとしたそうだ。理解できるはずのないものを理解しようとした慣れの果て。この物体には啓蒙が足らなかったらしい。今日はもう止めにしよう。月も隠れた。残党も狩った。今夜はもう狩る必要もない。彼女は来た道を戻っていった。
アメンドーズはまだいた。相変わらずその視線を彼女に投げ続けている。彼女は奴を無視して部屋に戻っていった。ただもし奴が何か邪魔をするようであれば即刻狩ってしまおう。早々に狩りを切り上げたせいで窓の外は暗く今日の月は少し欠けた様子を見せている。きれいな薄い薄い青色だ。彼女は血に濡れた狩り装束から着替え、制服で椅子に腰かける。海面と水平線、その上に位置する月。なんとも綺麗なものだ。それに加えられる静寂。ここなら奴の視線も届かないのである。彼女はそのまま月が水平線に近くなるまでただひたすら月を眺めているのであった。
そうして月も沈みかけたころ彼女は灯りのことを思い出した。物置に行けば灯りが物悲しく光っている。どれ、そろそろ一回戻ってもいいころかもしれない。
目を開ければ目の前にはあの花畑が広がっていた。後ろにはあの石碑が立っていた。門を開け家に入る。
「ああ…狩人様。」
何時も通り彼がそこにいた。彼女は彼に微笑みを見せる。
「ええ。とても楽しいの。新しい発見もあったわ。上位者狩りよりも楽しいこと。」
彼は彼女の頭を撫でる。
「うふふ。これは私の昔の服よ。狩人様と初めて出会ったときに来ていた服。……そうね。あの頃からずいぶん変わってしまった。でもそれは狩人様も。昔の狩人様はかわいいなんて絶対行ってくれなかったわ。」
彼は彼女の言葉に何も答えるそぶりがないが、ただひたすらに彼女の頭を撫で続ける。
「…故郷というものは私を戻してしまう。少し、人間に戻ったわ。それがいいことなのかはわからない。複雑な気持ちになるの。」
彼は彼女の頭に手を置いたまま動きを止めた。
「えへへ。そうよね。狩人様の言う通り。もう行かなくっちゃ。」
彼女は彼の手を降ろし家を出ようとする。
「狩人様は私が獣になっても狩人様でいるのかしら。」
彼女は彼の反応を確認せずに行ってしまった。まるで大きな独り言のように済ませた。人形が立っていたが、人形が彼女に話しかけることはなく彼女もまた人形に何も言葉をかけずに通り過ぎた。石碑の前にたたずむ。正面に大きく書かれた自分の名前。その横に書かれている年号。その期間は1年にも満たなかった。彼女は膝真づき消えた。
ヲ級には啓蒙が足らなかったようですね。
発狂を表現するというのはこれまたなかなかに難しいもので、発狂したことがないのでどうしたらいいもんかと毎回悩みます。
実はまだ獣を爪を回収できてなかったりします。DLCもやったことないんで早くやってみたいですね。カリフラワーあたりが欲しいところ。
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