夜明けの狩人   作:猫又提督

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前回から6日経ちましたね。

いあ!いあ!くとぅるーふたぐん!
いあ!いあ!くとぅるーふたぐん!


第7話

彼女の目の前には緑色が広がっていた。その場でもがく感じで水の中にいるのだとわかる。しかし、息苦しさを感じることはない。

 

緑色に黒色が混じってきた。…否。違う。黒色が混じってきたのではない。黒い空間の中で緑色の何かが動いているのだ。気づけば彼女の周りには細長い触手のようなものが取り巻く。しかしその触手も彼女からはかなり遠く見える。それでも彼女よりも圧倒的に長く見えるそれはいかに巨大化なのかを示す。もはや、その触手が目の前の緑色のものと繋がっているのかわからない程に。そしてよく目を凝らすと下の、底のほうに小さく建物の跡が並んでいた。まるで町のようだった

 

緑色の壁から目が開いた。片目だけだがそれでも彼女よりも大きい。目が開いたことでその他の配置がある程度把握できそうだった。

 

「……」

「…何よ。」

「……」

「放っといて。」

 

それがは彼女に話しかけてきた。彼女にしか聞こえない声。彼女は淡々と答えるが、しかし心の中では全く余裕がなかった。ちょっと気を抜けば意識を持って行かれそうだ。…発狂してしまいそうだ。一本、一本と鎮静剤を飲む。空になって捨てた瓶は彼女の下に広がる真っ黒な空間に吸い込まれていく。動くときの抵抗感と違って声を出した時の反響や息苦しさがないのでここが本当に水中なのかが分からなかったが、ゆっくり、ゆっくりと空き瓶が落ちていく様を見るとやっぱり水中なのだとわかる。

 

「……」

「…聞こえなかった?…無駄よ。」

「……」

「……」

 

物体は絶えず話しかけてくる。そろそろ答える余裕がなくなってきた。絶え間なく鎮静剤を飲むが追いつかない。啓蒙がどんどん上がっていく。駄目だ。もう耐えられない。

 

「…っ。」

 

頭がはじけとぶ。体に自分の血が降りかかる。彼女は体勢を崩し床に倒れた。

 

「……っはぁ、はあ。…耐えれた…。」

 

床に倒れた。もうさっきの緑色の何かも、あの空間も、建物全体を取り巻いていた不気味な雰囲気も、視線すらももう何もない。立ち上がった彼女は床に転がった大量の空き瓶にぶつかり、自分の血が付いた衣服がこすれたときのニチャっとした音を立てながら立ち上がる。外はすでに明るくなっていた。

 

「…うそでしょ。」

 

せっかく出かけてすっきりしようとしてたのにこの有様である。今度出てきたらあのタコ野郎は狩ってやろうと胸に誓った。…はて、何故タコ野郎なのかあのとき触手らしきものは見えたがタコだとはわからなかったはずだが。なぜあれだけでタコと判断したのか自分でもわからなかった。

 

今がもう朝であることを知らせるようにノックが鳴った。しまった。今自分は全身血だらけだ。しかも外に出る前だったので寄りにもよって制服姿で、である。流石に制服は狩り装束のようにはいかない。普通に洗濯しないとだめだ。制服に予備はないので、とりあえず狩装束を着てドアを開ける。吹雪が朝食を持ってきていた。最近本当に吹雪ばかりが訪ねてくるようになった。そのことを吹雪に言うと

 

「提督がね、仲がよさそうだからって、任されてるんだ。」

 

だそうだ。別に特段仲がいいわけでもないのだが。

 

「そういえば、暁ちゃん服どうしたの?いつもと違うね。」

「たまには違う服を着たい時だってあるのよ。」

 

服のことはそう言ってごまかした。あとでどこかで洗濯しなければ。

 

なんともやりきれない気持ちで朝食をとり本を読んでいると不意にノックが鳴った。回収に来るにはまだ時間が早いはずだが…。

 

「隣に引っ越してきたものです。挨拶に来ました。」

 

隣に引っ越してきた?隣というと空き室のことだろうか。いや、まて。そも、ここは鎮守府でこんなアパートのようなことが起こるはずはないのだが。しかし、彼女にはそんなことはどうでもよかった。お隣さんである。母から、毎度のようにお隣さんとの関係は大切にするべきだと言われていた。

 

「はーい。あ、これはどうも。」

 

だから、彼女の言葉遣いも丁寧になる。

 

「初めまして、隣に引っ越してきた鳴子と申します。」

「あ、私は暁です。」

 

そこに立っていたのは、きれいな女性だった。綺麗すぎるとも言っていい。彼女が出会ってきたどの女性よりもきれいだった。

 

「暁さんですね。あ、これ良かったらどうぞ。」

「ご丁寧にありがとうございます。」

 

鳴子という女性が手渡してきた紙袋を覗くと、入っているのはもみじ饅頭の箱らしかった。何故もみじ饅頭なのか。

 

「もみじ饅頭ですか。」

「はい、ちょっとここに来る前に寄ったものですから。」

 

鳴子とは、そのまましばらく話をして別れた。机の上で箱を開けもみじ饅頭を一つ取り出す。袋には『カスタード』と書いてある。もみじ饅頭が広島のお菓子であるのは知っていた。しかし彼女は佐世保生まれであるのでこれと言って広島に思い入れがあるわけでもないし、もみじ饅頭すら初めて食べる。が、話だけは聞いていた。話の通りこの饅頭はおいしかった。しかしまあ、こういった菓子を食べるとどうものどが渇く。あいにく渡されたコップのお茶は飲み干してしまった。また吹雪が来た時にお代わりでも貰おう。

 

回収に来た吹雪にその旨を話すと

 

「それじゃ、ここに冷蔵庫でもおいてもらう?いちいち頼むのも面倒でしょ。」

 

彼女はただお茶のお代わりを頼んだだけで話が飛躍した気もするがまあ、確かに饅頭はまだたくさんあるし、そのたびにお茶をもらうのも確かに面倒だし頼んどいたほうがいいだろう。

 

数時間後、吹雪、ではなく長門が小さめの冷蔵庫を持ってやってきた。吹雪はその後ろで大きめのペットボトルのお茶を持ってきていた。流石に吹雪では冷蔵庫は持ってこれなかったようだ。

 

「はいこれ、必要になったら言ってね。」

「ありがとう。」

 

今日は特に自分を使うようなことはしないらしい。今日の静寂が訪れた。となれば彼女のやることは読書のみだ。読みかけの本を取り読み始めた。

 

夕方になったころ、またノックがなった。いたのは鳴子だった。

 

「すいません。越してきたばかりの者が尋ねるのもおかしいんですがちょっと探し物をしていて。」

「いいえ。困ったときにはお互い助け合うものですから。して、探し物ととは?」

「ええとですねこれなんですけど。」

 

鳴子はポケットから携帯を取り出した。彼女が知っているものより薄いように思えたが今はそんなことはどうでもいい。見せられたのは一冊の本の写真だった。

 

「ちょっとこの本を探していまして。」

 

パッと見昔の本のようだった。本の表紙がそんな感じだし色も無愛想な茶色だった。しかしその本の題名は書いていなかった。

 

「ほう。…この本の名前は?」

「ネクロノミコンです。」

 

ネクロノミコン…あ、そういえば昨日読んだ奴がそんな題名だったはずだ。彼女は鳴子にちょっと待っててくださいと言って本棚に向かった。

 

「なんでまたそんな本を?」

「ちょっと、頼まれてましてね。」

 

あった、あった。が、ぎっちり嵌っているせいでなかなか取り出せない。

 

「その人は考古学の方かだれかで?」

「いえ、別にそうではないですけど…なぜそのように?」

「その本に書いてある言語が全く見たこともないようなものだったのでてっきりかなり昔の本かと。」

 

やっと取れた。彼女はネクロノミコンを持って鳴子のもとに戻る。

 

「…読んだんですか?」

「ええ、まあ。全く書いてあることは読めないのに内容はなぜかわかるとかいう不思議な本でしたけどね。まあ、私にはあまり面白くは感じれなかったですが。あ、気を付けてくださいよ。この本、読んでから変なことが起こりますから。なんか変に大きなタコに気を狂わさせそうになりますからね。私もあそこまで焦ったのは久々ですよ。死にかけましたから。」

 

 

彼女はこれでも一定の常識がある。むやみやたらに、ましてまだ一度しかあってない人に本を読んでから気が狂いそうになっただの、変なタコに出会っただのは言わないだろう。たとえ警告だとしても、それが到底理解されるようなことではないと彼女当然分かっている。しかし、彼女は鳴子がこの警告を理解すると判断した。鳴子はこの警告――いや、注意と言ったほうがいいだろう。この注意の意味が分かると。

 

「…大丈夫ですよ。いや、しかし。驚きました。まさかアレに出会って正気を保ってまさか記憶まではっきりとしている人間がいるなんて。」

 

そのなるこの言葉はまるで自分が人間ではないとでも言っているような言い草だった。

 

「なんか、自分は人間じゃないって言ってるみたいですね。」

「ええ。私は人間ではありませんから。」

 

鳴子は当然のようにそう言った。彼女は、しかし当然のようにそれを受け取った。むしろ納得し質問をした。

 

「なるほど。じゃあ、鳴子さんはあのタコが何なのか分かるんですか。」

「タコ…はは。いいですね気に入りました。今度から私もあいつのことタコって呼ぼ。…あ。すみませんえっとあのタコですね。あー、言葉で説明するのはちょっと…あっあれ。ちょうどあれがまあ、似たようなやつですよ。」

 

鳴子が指したのはアメンドーズだった。

 

「存在はあんな奴よりもっと上ですけどね。」

 

当然だ。彼女の正気を奪いかねないほどの存在だったのだ。そんじょそこらの上位者クラスではないだろう。しかし、アメンドーズと似たような存在とは?あのタコは上位者なのだろうか。こう言っては何だが上位者という枠には収まりきらないような気がしたが。

 

「一応、支配者ではありましたからね。いくら馬鹿にしたところでそれは事実なんで。あ、一つ言っておきます。別に擁護するとかじゃないんですけど、奴に刃向かおうなんて思わないほうがいいですよ。人間とは格が違い過ぎるんです。本来一生出会うことのないような存在なんですから。まあ、あのタコも、もうあなたには近付こうとはしないでしょうけどね。」

 

鳴子は礼を言って自分の部屋に戻っていった。

 

「…人間。私が人間かぁ。私も、もはや人間とは言い切れませんけどね…。」

 

そうつぶやく彼女の言葉はきっと背を向けている鳴子には聞こえなかっただろう。

 

彼女は部屋には戻らず鳴子が部屋に消えた後一階に降りて昨日建物の中を進んだ時に気づいた洗面台で血だらけの服を洗い何とか血を落とした後、部屋でそれを干し、本を読んでいた。一区切りついてふと窓に目をやった時、遠くから砲撃のような音がした。演習か…、彼女はそう思った。今日はいつもより砲撃の音が激しいような気がするし、時々怒号のような声もかすかに聞こえる。そういえば例の作戦も近い。きっとそれでいつもよりも激しい訓練をしているのだろう。時たま窓からも遠くで演習を行っている様子が見て取れた。

 

彼女は懐かしいと思った。あの演習の様子を見ていると昔、神通さんと行った演習を思い出す。あの人の演習は特に厳しかったから余計覚えている。人に厳しい分あの人は優しい時は優しかったしとても強かった。それ相応の人だった。きっとあの人ならあの日を生き延びたことだろう。今もどこかで元気にしているかもしれない。ああ、あの人が言っていた通り厳しかったこともなんでも時間がたてば全部いい思い出になるもんだ。特にそれしかこれといった思いでしかない彼女は特に。

 

今の彼女があの艦隊と戦ってもきっと彼女が勝つだろう。それほど彼女は自負していたし、実際彼女は強い。ずっと人ならざる者、それを狩る者ですら彼女は狩ってきた。今の彼女に勝てるのはあのタコか、鳴子ぐらいだろう。彼女は鳴子がまとっていたどこか異様な雰囲気を、鳴子が自分は人間じゃないといったことで納得した。どれほどの存在なのか知らないがあのタコを心から嘲られるのであれば相当なはずだ。彼女は正直あのタコには勝てないと思っているし、そもそも二度と会いたくない。あのタコはいくら啓蒙を減らしても嫌でも認知してしまう。鳴子の言う通り奴には下手に反抗しないほうがいいのかもしれない。まあ、また鳴子の言う通り二度とあのタコに会わないのだろうけど。

 

「世の中って不思議なのねぇ。」

 

どこかで知ったか、事実は小説よりも奇なり、という言葉。まさにこのようなことを言うのだろうと彼女は思った。この世界もこの世界でヤーナムと似ているのかもしれない。あの狂った世界に。

 

 

 

月日は淡々経って行った。もはや代わり映えのしなくなった毎日。彼女が日中に呼び出されることもなければ、意味もなく出席させられる会議でなにか尋ねられることもない。楽しみで言えば読書と、窓から眺める演習の風景、あとはなることも会話ぐらいだろうか。気づけば作戦日前日となっていた。

 

 




今回はクトゥルフ回でしたね。一度TRPGで狩人を使ってみたいと思っているのですが、狩人なら支配者クラスに合わない限り神話生物にあっても啓蒙を得て終わりそうですね。

実はかれこれ1年ぐらい艦これに触れてなかったりします。だから艦娘の性格とか分からなくなるんでしょうね()

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