マスカレード・ヴェネツィアン・ホテル   作:neo venetiatti

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第十七話 水先案内店の謎

「水無灯里はマンホーム出身で、ARIAカンパニーに就職するためにアクアにやって来たようです」

 

捜査員のひとりが、会議室に集まった専従捜査班チームの中で立ち上がって報告した。

 

「つまり、ウンディーネになるために、わざわざマンホームからアクアにやって来たと?」

 

アルフは怪訝な表情でそう反応した。

 

「そんなウンディーネって、どれくらいいるもんなんだ?」

 

「そこは現時点では、わかっていません。ただ・・・」

「ただ、なんだ?」

「水無灯里は、すこぶる評判がいいようです」

「それはウンディーネとしてだな?」

「というか、何と言うか」

「なんだ?」

「時に家族のような、そうかと思うと親戚の姪っこのようなと。別の人物からは、なんでも気軽に話せる近所の看板娘だとも」

「つまり、どういうことなんだ?」

「ええと、つまり、みんなから慕われているということになります」

「ふーん」

 

アルフは思わずため息をついた。

 

「それでは、そのままの印象じゃないか?」

「しかし、それ以外は、特に変わった情報はありませんでした」

「ないのか・・・」

 

「あっ、しかし」

 

別の捜査員が声を上げた。

 

「おお、なんだ?他に何かあるのか?」

 

「実は、これはウンディーネ仲間からの情報なんですが」

「なんだ?」

「水無灯里は、叱られた経験がないということです」

「それは一体、何の情報なんだ?」

 

アルフは一気に力が抜けたように、パイプ椅子に座ってしまった。

 

「ARIAカンパニーの前の経営者、アリシア・フローレンスは、ミス・パーフェクトと世間から呼ばれるほどの逸材だったようです。そのアリシア・フローレンスが現役時代、後輩だった水無灯里は、なぜか彼女から叱られた経験が一度もなかったと、ウンディーネ仲間に自慢していたそうです」

「なぜかって、どういうことだ?そのアリシア・フローレンスから全幅の信頼を受けているという話だったぞ?」

「水無灯里がまだシングルの時代、実は水無灯里は、結構間の抜けたウンディーネだったと、他のウンディーネからは、そう評価を受けていたそうなんです」

「ちょっと待て。私はそうは聞いてないぞ。どういうことだ?」

 

アルフは腕を組むと、眉間にシワを寄せた。

 

「それはつまり、嘘をついているということなのか?」

「そこまではわかりません。ですので、ARIAカンパニーには少し探りを入れる必要があるのかもしれません」

「探りといってもなぁ・・・」

 

その時、アルフの携帯が鳴った。

 

電話に出たアルフの顔が、たちまち怪訝な表情へと変わった。

 

「わかった。そのまま監視を続けてくれ」

 

電話を切ったアルフは、パイプ椅子を立ち上がって、捜査員たちを見渡した。

 

「ARIAカンパニーに人の出入りがあることが確認された。実は先日、夜間に灯りが点っていたという通行人からの証言も得ている。もちろん、灯里くんがホテルにいる時間の間の話だ」

 

すると、アルフはズボンの両ポケットに手を突っ込むと、緊張した面持ちで言い放った。

 

「今晩、踏み込む」

 

 

 

 

「晃ちゃん、ごめんね」

 

すっかり暗くなったネオ・アドリア海を背景にして、その海にたたずむARIAカンパニーのそばに、姫屋のチーフ・ウンディーネである晃・E・フェラーリと、その背中にくっつくようにしているゴンドラ協会の名誉理事をつとめるアリシア・フローレンスのふたりが立っていた。

 

「あのなぁ、アリシア?私も忙しいんだぞ?わかってるんだろうな?」

「私だって忙しいわよ」

「じゃあなんでなんだ?」

「だって、ほらぁ・・・」

 

二人の姿は、このウンディーネの世界を牽引してきた人たちには、到底見えるものではなかった。

知らない人が見たら、二人の姿は立派な不審者に見えていたに違いない。

 

「おかしいでしょ、あれ?」

 

アリシアが晃の背中越しに指差した先には、誰もいないはずのARIAカンパニーの二階の窓に、ぼんやりと灯りが灯っていた。

 

「確かに」

「ねぇ?」

「そうだな」

「でしょ?」

「わかった」

「えぇ?」

「帰る」

「何言ってるの、晃ちゃん?」

「だから、お前のいう通り、灯りが点いてることを確かに確認した」

「そうじゃないでしょ?」

「だって一緒に見に来て欲しいっていうから」

「見ただけでどうするの?おかしいわよ、晃ちゃん!」

「いや、おかしいのはお前の方だろ?」

「なんで?」

「だって、いい歳して人の背中にそんなに隠れるもんか?」

「だって、晃ちゃん?あれを見てなんにも思わないの?」

「何がだ?」

「だって灯里ちゃんは、今、ホテル・ネオ・ヴェネツィアーティーにいるはずなのよ?」

「ああ、あの犯人逮捕に協力するっていう件だな?」

「そうよ」

「頑張ってるじゃないか?」

「そうじゃなくってっ!」

「おっ、何年振りだ?お前が怒ったのは?」

「もう、茶化さないで!」

「でもあれだろう?夜には灯里は帰ってくるんだろう?」

「だから心配なんじゃない!」

「でもお前は何してたんだ?こんなところで」

「昼間は誰もいないでしょ?だから一度見ておこうと思ったの」

「それで来てみたら、こうだったと」

「そういうこと」

 

ふたりは身を寄せ合いながら、恐る恐るARIAカンパニーへと近づいていった。

 

すると、二階の窓に何か影のようなものが動いたように見えた。

 

「な、なに?あれ?晃ちゃん!」

「これは確かになんかいるなぁ」

「なんかって何?」

「それを確かめるんだろ?」

「うん。じゃあ晃ちゃん、お願いね」

「おい!アリシア!何言ってんだ?」

「だって、怖いもん」

「お前が頼むから来たんだろ?頼んだ本人が行かなくてどうするんだ!」

「そんな大きな声出さないで!」

 

晃は正面の入り口のドアのところまでやって来ると、ドアノブに手をかけた。

 

鍵がかかっていた。

 

「アリシア、鍵」

「はい」

 

アリシアは晃の肩越しに鍵を差し出した。

 

「なんだ。用意はいいんだな」

「もう、いいから!」

 

晃はドアノブに鍵を差し込み、ゆっくりと回した。

 

カチャリとロックが外れる音がした。

 

「開いたわ」

「ああ、当たり前だ」

「えっ、どういうこと?」

「鍵を入れて回したから・・・」

「当たり前でしょ!」

「人に先に行かせといて、なんか偉そうなんだよな」

 

晃はそっとドアを開けた。

 

一階は真っ暗で、中はなんにも見えない状態だった。

 

「アリシア、ライトは?」

「はい」

「さすが」

 

その時だった。

 

二階でガタンと音がした。

 

「晃ちゃん!」

 

晃はアリシアから受け取ったライトをすぐさま点灯させた。

 

一階の店内の様子が照らし出される。

 

そこはいつものARIAカンパニーとは違う、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

ふたりはゆっくりと二階へ上がる階段の方へ進んだ。

 

「アリシア?行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待って!晃ちゃん!」

 

晃はもう待てないといった感じで、階段を上がっていった。

 

「危ないわ、晃ちゃん!」

「正体を突き止めてやる!」

 

階段をあがり切った晃は、ライトの灯りを周辺に向けた。

 

一瞬、誰か人の姿が見えた。

 

「だ、誰だ!」

 

その灯りの中に映し出された姿を見て、晃は思わず絶句した。

 

晃の背中に身を隠していたアリシアは、恐る恐るその様子を覗いてみた。

 

「どうしてなの?」

 

アリシアに続いて、ようやく晃も声を発することができた。

 

「お前、いったい誰だ?」

 

ライトの灯りに照らされた人物は、白地に赤色の、いつも目にしているユニフォーム姿のウンディーネだった。

 

「あ、あのー、もしかして、晃さんすか?」

 

眩しさを避けようと手をかざし、目を細めていたのは、あゆみ・K・ジャスミンだった。

 

「あゆみ?お前、そこで何やってんだ?」

「いやー、ちょっとした頼まれごとでして」

 

そう言って後頭部を気まずそうにかいたあゆみを見て、晃は大きなため息をついた。

 

「アリシア、先に謝っとく。スマン」

「どういうこと?」

 

アリシアはそう言うと、部屋の灯りをつけた。

 

「おい!あいつはどこにいるんだ!」

 

壁際には、ばつが悪そうに苦笑しているあゆみが座り込んでいた。

 

「やっぱり、そうなるっすよね?」

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