マスカレード・ヴェネツィアン・ホテル   作:neo venetiatti

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第二話 行き交う客

観光都市として人気の高いネオ・ヴェネツィアに、新名所といえるスポットが誕生した。

 

ホテル・ネオ・ヴェネツィアーティー。

 

アクア全土のみならずマンホームからの観光客や賓客を想定されており、豪華で質の高いホテルと、開業当初から評判が高い。

 

その豪華ホテルのロビーでは、縦横整然と並べられたソファで談笑する者や新聞を広げる者、誰かを待ちわびている者など、あちらこちらに様々な客の姿があった。

 

正面の入り口を入り、そのロビーのソファ群を左右に見ながら、真っ直ぐにそのまま中央を進むと、横に長く延びた受付カウンターにたどり着く。

 

そこには何人かのフロントクラークが姿勢を正し、笑顔で客を待ち受けている。

 

その日、ちょうど交代したタイミングでカウンターの中央の位置に立ったアデリーナは、ロビーを見渡してから正面に顔を向けると、少しふっと息を吐いて、背筋を伸ばし、柔らかに微笑んだ。

 

アデリーナは、年齢はまだ若いが、接客の的確さと仕事に対する情熱で、周囲から一目置かれている存在だった。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、ホテル・ネオ・ヴェネツィアーティーへ」

 

アデリーナの前にやって来たメガネをかけた老紳士が、予約を入れていることを告げた。

 

「アダルベルト様、いつもご利用いただきありがとうございます」

 

「今日も盛況だね」

「はい、お陰様で、たくさんのお客様にご利用頂いております」

「そうだね。忙しいかい?」

「はい、とても」

 

アデリーナは少し冗談めかした口調で言った。

 

「ハハハハ、それはいいことだ」

 

アダルベルトと名乗る老紳士は、アデリーナの表情を見て、嬉しそうに笑った。

アデリーナも優しく微笑み返す。

 

「この度もお仕事ですか?」

「いや、今回は観光なんだ」

「そうでいらっしゃいますか」

「たまにはネオ・ヴェネツィアでゆったりと時間を過ごそうと思ってね」

「そうなんですね。もしご予定などお考えがございましたら、チケットなど必要なものを手配いたしますが、いかがなさいますか?」

「そうだねぇ。その時はお願いするよ」

「かしこまりました。いつでもお声をおかけください」

 

アダルベルトは、それほど大きくないトランクを持ったベルボーイとともに、客室へと向かった。

 

アデリーナの右側の、少し離れた位置に立っていた女性のフロントクラークが、その様子を見送りながら、アデリーナのそばにスッと身を寄せてきた。

 

「先輩?あの方、お知り合いですか?」

「何言ってるの、アガタ?お客様よ」

「そんなことは分かってます。そうじゃなくて、よく知ってる方なのかということです」

「初めてお会いするわね」

「どういうことですか、それ?」

「どうもこうもないわよ。お客様の第一声を覚えてる?」

「忙しいかって」

「その前」

「確か、盛況だねって言ってました」

「“今日も“盛況だね、でしょ?」

「つまり、何度も来られてると」

「何度もじゃない。三度目」

「えっ、そうなんですか?」

 

アデリーナは手元にあるタブレットを操作して、すぐさま宿泊記録を呼び出した。

 

「確かに、それを見ればわかるとは思いますが。でも先輩?この度もお仕事ですかって聞かれてましたよね?」

「ここを見て」

 

アガタはアデリーナが指差した項目を、顔をぐっと近づけて見つめた。

 

「ボートのご予約」

「そう。過去二度ともカ・ドーロへ行くために、ボートの予約をされている」

「それなら観光じゃないですか?」

「もともとカ・ドーロは、ヴェネツィアの起業家マリノ・コンタリーニの邸宅だったところ。その後は美術館になったりしたけど、ネオ・ヴェネツィアで再現され後、この前の改装後にはコンタリーニを称える意味で、起業を推進する場所としても利用されるようになったでしょ?だから、多くのビジネスパーソンが集まる場所になった」

「つまり、アダルベルト様は起業家ということですか?」

「おそらくだけど、起業する人を支援する投資家だと思う」

「なんでそんなことまでわかるのですか?」

「まあね」

 

不思議そうにタブレットを眺めているアガタに、アデリーナが肘で彼女の腕をつついた。

 

「ほら!お客様!」

「は、はい!いらっしゃいませ!」

 

アガタが持ち前の笑顔を取り戻して接客しているとき、アデリーナのそばに別のフロントクラークが近づいて耳打ちした。

 

「アデルモ総支配人がお呼びです」

「今?」

「はい。至急だそうです」

「至急・・・」

 

アデリーナの顔に緊張が走った。

 

「しばらく私が交代します」

「わかった。ありがとう」

 

アデリーナは何事もなかったように、フロントの後方へと下がって行った。

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