マスカレード・ヴェネツィアン・ホテル   作:neo venetiatti

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第二十八話 灯里の一番長い日 来訪者編 3

灯里の目の前に現れた女性は、少しポーズを決めて話しかけてきた。

 

「あの~、フロントクラークさん?とってもかわいい女の子を探してるのだけど、見かけたりしなかったかしら?」

 

先ほどまでの怪しげな態度とはまったく違う、余裕のポーズを決めていた。

 

「あ、あの~、アテナさんですよね?」

 

「ええ~~、なんでわかったのぉ~~?灯里ちゃ~~ん!」

 

「なんでと言われても・・・」

 

灯里は苦笑いするしかなかった。

 

すると、その後ろから黒髪ロングの、上下白のスーツスタイルでビシッとカッコよく決めた女性が現れた。

 

「おまえはバカか?」

「ちょっと!いくら晃ちゃんでもそれはヒドイわよ~~!」

「だからぁ、なんでいきなり名前で呼ぶんだ?」

「だってぇ~~」

 

晃はサングラスをはずすと、アテナの横に並んだ。

 

「一体、これのどこがお忍びなんだ?バレバレじゃないか!」

「そんなこと言ったって、灯里ちゃんがいたから、つい声をかけちゃったのよ。悪い?」

「もういい!お前とは二度とこんなところには来ないからな!」

 

「まあまあ、そんなこと言わないで下さい」

 

灯里は思わず間に入っていた。

 

「ほらぁ~」

「何がほらぁ~だ?」

「灯里ちゃんは、ちゃんとわかってるのよねぇ~」

「だから、何が言いたいんだ?」

「私がわざと分かりやすいように、声をかけたことよ」

「お前は、ただのドジッ子なだけだろ?」

「ちょっと、晃ちゃん!人前でなんてこと言うの?まるでこの私が、いつもドジばかりしてるみたいでしょ?」

「違うのか?」

「もう~~~」

 

「あの、お取り込みの途中で申し訳ありませんが、そろそろご用件をお願いできますでしょうか?」

 

「そうだったな。灯里は仕事中だった。邪魔してる場合じゃない」

「そうよねぇ。灯里ちゃんは今、大変な状況にいるのよね」

 

「それでお二人がそろって来られたわけは、どういうことなんでしょうか?」

 

「灯里、それは違うんだ」

 

「違う、と言いますと?」

 

「それはね、つまり、ふたりじゃないということよ」

 

「お二人じゃない、ですか?」

 

すると、晃とアテナが玄関の方に目線を移した。

 

「やっとお出ましか?」

「そうみたいね」

 

玄関の扉をドアボーイが両側から開けたところに、その人は登場した。

 

キレイにウェーブのかかった金髪の長い髪、肩からジャケットをはおり、タイトスカートで歩くその女性は、黒いサングラスがとてもクールに一段と美ししさが増しているようだった。

 

少し視線を横に向けながら、ハイヒールの靴音をロビーに響かせ、ゆっくりと三人のところに向かって歩いてくる。

 

「あ、あのー、もしかして・・・」

 

「なんだ?あいつ、なんかの撮影のつもりか?」

 

「カッコいいー!」

 

その女性はようやく三人のまえにやって来ると、ゆっくりとサングラスを外した。

 

「灯里ちゃん、ご苦労様♡」

「アリシアさん!」

 

「その勿体ぶった登場はなんなんだ?」

「アリシアちゃん、すごくイイ!」

 

「ありがとう、アテナちゃん。アテナちゃんもとってもキレイよ」

「ありがとう、アリシアちゃん!」

 

「晃ちゃんもカッコよく決まってる」

「そ、そうか?」

 

「あのー、ところで、さっきから聞いてるのですが、水の三大妖精の三人が集まって、一体どうことなんですか?」

 

「どういうことって、それは決まってるじゃない?陣中見舞いよ」

 

「陣中見舞い?」

 

「そうよ。灯里ちゃんが頑張ってるでしょ?だから、応援してあげたくなっちゃった♡」

 

「ついでにね、みんなでごはんを食べようとなったってわけ」

 

「それは、アテナ、お前が行きたい行きたいってうるさく言い出したからだろ?」

 

「そんなことないわよ!晃ちゃんだって、結構ノリノリだったわよ!」

 

言い合っているふたりの間で、アリシアはニッコリと微笑んだ。

 

「つまりね、みんなで灯里ちゃんを励ましてあげようとなったってことなの」

 

「そうだったんですか」

 

「お邪魔だったかしら?」

 

アテナが気を使うように聞いた。

 

「うれしいです!先輩方にわざわざ来ていただけるなんて、うれしいに決まってます!」

 

「そうか。それはよかった。来たかいがあったというものだ」

 

晃は、両手を腰において、ニッコリとほほえんで見せた。

 

「それで、皆さん、なんでそんな格好を?」

 

「これはね、みんなでホテルに合った格好にしようと考えたんだけど」

 

「私とアテナはまだしも、アリシア?お前のコンセプトはなんなんだ?」

 

「私はもちろん、大事な後輩の様子を見に来た、憧れの上司Aよ」

 

「自分で憧れって言うか?」

 

「なるほど」

 

「何がなるほどなんだ、アテナ?」

 

「だって、灯里ちゃんの元上司で、名前はアリシア。だから、上司A、でしょ?」

 

「アテナちゃん、大正解♡」

 

「だからぁ、ホテルだって言ってるだろ!」

 

 

 

 

晃とアテナは、先にレストランへ向かった。

 

灯里とアリシアは、ロビーの一角にあるソファーに向かい合うように座っていた。

 

「いろいろと話は聞いてるわ」

 

アリシアはサングラスをポーチにしまい、改めて灯里の顔を眺めていた。

 

「心配していたの。でも元気そうでよかった」

「はい。なんとかやってます」

「みんなも灯里ちゃんのことを心配しているわ」

「はい」

 

灯里は、それぞれがホテルに姿を現したときのことを思い出していた。

 

みんな忙しい身なのに、時間をさいてやってきていたのだった。

 

「アリシアさん、もしかしたら私の考えって、わがままだったのかなぁって思ってたんです」

「ううん、そんなことないわ。灯里ちゃんの思いは、みんなも同じなんだと思う。そう、それはネオ・ヴェネツィアへ思い。みんなにとっても大事なこと。だから、灯里ちゃんの勇気を、みんな尊敬してるのよ」

「尊敬なんて・・・」

 

「でもね、灯里ちゃん?」

 

穏やかだったアリシアの表情が真剣な表情へと変わった。

 

「はい?」

「無理しないでね、絶対に」

「アリシアさん」

「これだけは約束して。お願いだから」

 

アリシアの心配そうな顔を見て、灯里はアリシアに向かってしっかりと応えた。

 

「はい。わかりました」

 

すると、アリシアはほっとした表情で、ソファーに深くもたれかかった。

 

「灯里ちゃんの顔を見れたかしら?なんだかお腹がすいてきちゃった♡」

 

「アリシアさ~ん?私の顔って、お腹すくんですかぁ~~?」

 

「あらあら♡」

 

 

 

会議室のひとつ、モニタールームでアルフ捜査官は、ロビーを写し出していた画面から目を離した。

 

そして壁際にあるパイプ椅子に腰かけ、目頭を指でギュッと押した。

 

「灯里くんは、多くの人たちから慕われてるんだな」

 

そして、もう一度モニターに目を向けた。

 

「それに比べると、アイツはどうしたもんだろうか・・・」

 

アルフが見ている画面の中には、ロビーに立っているアロンソのそばに近づいてくる、くたびれたサラリーマン風の男が映し出されていた。

 

チラチラと灯里とアリシアの様子を横目で見ながら、にやけた顔でそのそばを通過しようとしていた。

 

 

 

 

「すごい美人だなぁ」

「うるさい」

「ちょっと、なにそれ?」

「うるさいからうるさいと言っているだけだ」

「誰?女優?あのウンディーネと親しそうに話してるけど」

 

アロンソは答えるのをやめた。

 

「今回の事件は、あれだね?」

「あれ?」

「ウンディーネが絡んでるね」

「ウンディーネが・・・何か分かったのか?」

「ほら、例の早朝のゴンドラの件」

「サンミケーレ島から消えた」

「そうそう」

「あれがどうした?」

「あれが正体不明」

「ふざけてるなら帰れ」

「正体不明のウンディーネ」

 

アロンソは別の方に顔を向けた。

 

「つまり、正体不明の水先案内会社」

「何?」

「存在してないんだよね、正式には」

「どういうことだ?」

「だから確かめたいんだけどさぁ」

 

アールドはそう言って、にこやかに話す灯里のそばに座っているアリシアを見ていた。

 

「いやぁ、ほんとに美人だなぁ」

 

アールドの言葉を聞いたアロンソは、アリシアの顔にチラッと目を向けた。

 

その瞬間、それに気づいたアリシアが、アロンソの方を見た。

 

アロンソはすぐに目をそらしたが、アリシアは怪訝な表情でアロンソ見ていた。

 

「あの手は気を付けた方がいいぞ」

「どういうことだ?」

「見ていないようでちゃんと見てる。怖い!」

 

「というか、お前、知ってるんだろ?」

「ああ、あの人ね」

 

アールドはアリシアに背を向けるようにして語り始めた。

 

「ゴンドラ協会名誉理事、すべてを完璧にこなす才女、アリシア・フローレンス」

 

「ウンディーネの現役時代、水の三大妖精と称えられたウンディーネ界のトップ3のひとり。だが実質的には彼女が飛び抜けていたらしい。ウンディーネの歴史でレジェンドと呼ばれているグランマから、これまた伝説といわれているARIAカンパニーを引き継いだ女性。なんでも完璧にこなすもんだから、ついたあだ名がミス・パーフェクト」

 

アールドはニヤリと笑って見せた。

 

「信じられる?あだ名にパーフェクトがつくんだよ。なにそれって感じ」

 

アールドは少し浮かれた調子でおどけていた。

 

「ロックオン」

「何?ロックオンて」

 

アールドはゆっくりとアリシアの方に顔を向けた。

 

アリシアが見ていた。

 

「うわー、どうしよう!」

「なんで刑事のお前がビビってるんだ?」

「何言ってんの、アロンソ?彼女の記憶力はハンパないんだから!覚えられたら、仕事がしにくくなるだろ?」

 

アロンソはロビーに目を向けながら、そのまま言った。

 

「それで、どうするんだ?」

「少しでも情報が欲しいとこだけど、今回は止めとく」

「お前らしくない」

「だって、アリシア・フローレンスだぞ?彼女に接触すれば、いろいろと勘ぐられるのは間違いない。俺の刑事としての勘が近づくなと言ってる」

「お前はなんかやらかしてるだろう」

「違うよ。刑事としてって言ってるだろう?」

 

 

 

「ねえ、灯里ちゃん?」

「どうしました、アリシアさん?」

 

アリシアはどこか遠くに目を向けながら、ちょっと怪訝な表情をしていた。

 

「私の顔、なんか変かしら?」

「アリシアさんの顔が変?どういうことですか?」

「ちゃんとメイクしてきたつもりなんだけど」

「アリシアさんのメイク、バッチリですよ!」

「ホント?」

「ホントですぅ~キレイに決まってますぅ~~!」

「よかった♡」

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