マスカレード・ヴェネツィアン・ホテル   作:neo venetiatti

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第三十八話 夕暮れのお墓の島

ホテル・ネオ・ヴェネツィアーティーのロビーは、ここ最近あった出来事がうそのように静かで、本来の落ち着いた佇まいを取り戻していた。

 

だが、実際は予断を許さない状況が、依然として続いていた。

 

捜査本部のアルフ捜査官は、ホテルへの脅迫事件からアデルモ総支配人そのものに捜査のターゲットを絞りこむと、捜査方針の変更を告げていた。

 

だが、依然としてアデルモ本人の消息は掴めず、しかも捜査方針の変更は、インターポールの介入によるものであることもあり、捜査員たちの不満と苛立ちがつのる結果となっていた。

 

だが、ロビーには、数は減らされたものの、依然複数の捜査員が張り付いており、その中には、相変わらず仏頂面のアロンソもいた。

 

ホテルの従業員には、どうしても見えない鋭い眼差しでロビーに視線を向けていた。

 

アロンソは、アデルモを追う捜査班に自分を入れるよう何度もアルフに食い下がったが、ロビーから解放されることはなかった。

 

まだ、アデリーナの事件は解決しておらず、脅迫事件の解明にもいたっていない。

 

つまり、犯人の殺人予告は、まだ継続中というのが、アロンソがロビーに張り付けになっている理由だった。

 

「あのー、今いいですか?」

 

アガタは、アロンソとの距離を縮めようと、先程からちょっとずつ、何気なく近づいていた。

 

アロンソは、聞こえているのかいないのか、そのままロビーから目を離そうとしない。

 

「あ、あのー」

 

「忙しく見えますか?」

 

「えっ?」

 

「そんなに気を使うほど、忙しそうに見えますか?」

 

「いえ、そんな感じには見えません」

 

アガタは、〈やっぱりこの人とは合わない!〉と心の中で叫んでいた。

 

「なんですか?」

 

「ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 

「それで?」

 

「こんなところで聞くのもなんなんですが、何か捜査方針というものが変わったとお聞きしたのですが?」

 

「それが?」

 

「変に思われるかもしれないのですが、私がなぜそれをお聞きしたいかと申しますとですね?」

 

アロンソは、ちょっとイラついたようにアガタに視線を向けた。

 

「あ、あの、その・・・」

 

「彼女の件だろ?」

 

アガタは驚きの表情をアロンソに向けた。

 

「あんたの先輩」

 

「は、はい!なんでわかったんでしょうか・・・」

 

アロンソは前方を見据えたままゆっくりと答えた。

 

「あんたが心配そうなことといえば、それくらいだろうと思ったから」

 

「じゃあお聞きしますけど、どうなるんですか?」

 

「どうもこうも捜査中に変わりない」

 

「進んでるんですか?犯人探しは!」

 

アロンソがアガタの声の大きさに動きを止めた。

 

アガタもそれに気がついた。

 

「すみません」

 

「そんなに心配か?」

 

「当たり前です!そんなの、当然じゃないですか?」

 

「まあ、そうだな」

 

「あの、これは黙ってないといけないって言われていたから誰とも話してなかったですけど」

 

アガタは、少しためらいながらも決心したように、眉をりりしくさせてアロンソに向き直った。

 

「先輩を襲った犯人て、姉妹だったって話、あれ、本当ですか?先輩、その人たちに恨まれてたとかですか?」

 

「あのリネン室の女」

 

「そうです、それです!でもその人、ここへ来てまだ間もない人だったみたいです。私、聞きました。他の従業員の人から」

 

「ああ、そうだな」

 

「だから先輩が狙われた理由がわからないんです」

 

アロンソはすぐには答えようとはしなかった。

 

何か考えているのか、すこし間をおいて口を開いた。

 

「あんたには悪いが、狙われるには理由がある」

 

「先輩がですか?」

 

「ああ、そうだ。だが、本人が直接原因とは限らない」

 

「誰なんですか?先輩に迷惑をかけた人は!」

 

アロンソはそれ以上は話そうとしなかった。

 

だが、アガタは、そこで何かに気付いたように、前方をぼんやりと見た。

 

「もしかして、それって総支配人?」

 

アロンソは肯定もしなかったが否定もしなかった。

 

「でも先輩は、総支配人がヘッドハンティングしてきたくらいの、優秀なフロントクラークで・・・」

 

アガタは愕然とした顔でアロンソの横顔を見つめていた。

 

すると、二人の後ろから不意に声がかけられた。

 

「アガタさん、さすがだね」

 

二人が振り返ったところには、緊張感のかけらもない、中年のくたびれた男が、にやけた顔で立っていた。

 

「アールドさん!」

 

アガタの驚きとは反対に、アロンソはチラッと目を向けただけだった。

 

「アガタさんのお察しの通り。この事件の行く先を示す羅針盤の針は、全てアデルモ総支配人を指している」

 

アールドの言葉に、アロンソは咄嗟に目を向けた。

 

それには構わずアールドは言葉を続けた。

 

「アガタさんがおそらく聞いた姉妹の存在は、アデルモ氏に繋がっている話なんだ」

 

「じゃあ、先輩が襲われたのは?」

 

「言いにくいことなんだけど、巻き添えだと思う」

 

「そんなぁー!それじゃあんまりじゃないですかぁー!」

 

アガタは、厳しい表情でアールドに向かって言った。

 

「でもね、アガタさん?まだハッキリしたことじゃないんだ。それに、なぜアデリーナさんだったのかも、実は何かあるのだろうと、ボクはそう睨んでる」

 

「その辺にしておけ」

 

アロンソが割って入った。

 

「確かに、そうだね」

 

「何か分かってることがあるんですか?あるんだったら、教えて下さい!」

 

「ごめん、アガタさん。ボクはちょっとしゃべり過ぎた」

 

「どういうことですか?」

 

「先日、アガタさんがアルフ捜査官と会った人は、事態がもうちょっと深刻だということを意味している。本来ならアガタさんが会うべき人じゃなかったんだ。だから、これ以上は知らない方がいいと思う」

 

「じゃあこれから先、どうなるんですか?」

 

「捜査は続ける。途中でやめることはない」

 

アロンソが、アガタの質問に強い口調で答えた。

 

「おっ、アロンソ?どうしたんだ?お前らしくないなぁ。熱くなったりして」

 

アールドが茶化すように言ったが、アロンソは反応しなかった。

 

「もしかして、アデリーナさんだからなの?」

 

アロンソが一瞬反応したのを、アガタは見逃さなかった。

 

「ところでさぁ、僕から聞きたいことあるんだけど?」

 

アールドはキョロキョロ辺りを伺いながら、話しかけてきた。

 

「あの人、最近来られてます?」

 

「誰のことですか?」

 

「アレッサンドラ・テスタロッサ」

 

「ああ、はいはい・・・えーと、そういえば、最近見てないかも」

 

「そうなんだぁ。じゃあ、アリーチェ・エレノアは?来てる?」

 

「おい!」

 

アロンソが厳しい口調で言い放った。

 

「アリーチェ様なら、もうとっくにチェックアウトされてますけど」

 

「最後に見たのは?ひとりだった?」

 

「えっと・・・」

 

アガタはそれに答えようとして、そのまま動きが止まった。

驚いた表情が、その先に見える光景を信じられないと言っていた。

 

だが、次の瞬間、目から涙が溢れていた。

 

「どうしたの?アガタさん・・・」

 

アールドにもその意味がわかった。

 

アロンソは、鋭い目でその光景を凝視していた。

 

三人が一斉に視線を送ったその先にあるカウンターでは、その見慣れた姿が、他のホテルから応援で来ていた女性クラークの肩を軽く叩いて、笑顔で交代を告げていた。

 

そして、カウンターの前に立つと、ふっと息を吐き、いうものように姿勢を正した。

 

三人に気付いたその女性クラークは、笑顔で三人の視線に応えた。

 

「先輩・・・」

 

アガタは声をつまらせながら、カウンターへと駆け出して行った。

 

「アデリーナさん、もう退院したの?」

 

アールドはアガタの背中越しに、微笑んでいるアデリーナを見ていた。

 

「というか、アロンソ?いいの?」

 

「ああ、わかってる」

 

「だって、傷害から殺人未遂に切り替わったはずだよね?危ないんじゃないの?」

 

アールドは驚きと理解しがたい状況に、目が点になっていた。

 

「アロンソ捜査官は、いったい何を考えてんの?」

 

アロンソとアールドが複雑な表情で眺めているその先では、カウンターの中でアデリーナに飛び付いているアガタの姿があった。

 

 

 

 

灯里は、その初老の紳士アダルベルトにテーブルのところに座るよう声をかけた。

 

アダルベルトは、ハットを取って座り、テーブルの傍らにその帽子を置いた。

 

そして、灯里が入れた紅茶のカップを口元に運んで香りを嗅いだ。

 

満足げな表情でアダルベルトは一口飲んだ。

 

向かい側に座った灯里は、話をどう切り出そうか、ドギマギしていた。

 

「あ、あのー、こんなところまでお越しいただいて、申し訳ありません」

 

カップを皿に戻したアダルベルトは、優しく微笑んだ。

 

「そんなに気を使って頂かなくて結構ですよ。私のような歳の人間には、いくらでも時間がありますからな」

 

「それでも、こちらの事情に付き合わせてしまって」

 

「アルピーナ婦人から相談を持ちかけられた時は、正直驚きました」

 

「やっぱり」

 

「迷惑だと言ってるわけではないのですよ。今時そこまで人のことに心を砕く人がいるのだと感心した、ということです」

 

灯里はアダルベルトの言葉に恐縮していた。

 

灯里が以前出会っていたアレキサンドロの妻のことを、灯里はアルピーナ婦人に相談していた。

すでに灯里の素性に感ずいていた婦人は、今回の事件とは関係のない人物だと灯里は考えていたからだった。

ただ、婦人は自分があまり動き回ることが難しいだろうと言って、縁のあるアダルベルトを相談相手としてよこしてきたのだった。

だが灯里が安心できたのは、アールドから話を聞くまでのことだった。

 

もしかしたら、この人があの黒ずくめの男・・・

 

灯里の頭の中では、そんな考えがぐるぐる回っていた。

 

「大体のことは、婦人から伺っております」

 

灯里はアダルベルトの顔をじっと見つめていた。

 

「灯里さん?」

 

「あ、はい!」

 

「どうかされましたかな?」

 

「す、すみません。続けてください」

 

灯里は顔を紅くしてうつむいた。

 

「アレキサンドロ氏の奥方に、カフェ・フローリアンのカフェ・ラテを飲んで頂きたい。それもアレキサンドロ氏と一緒に。その話を聞いたとき、いいお話だと思いました」

 

「私のできることといったら、それくらいしか思いつかなかったんです」

 

「いえいえ、とてもいいアイデアだと思います。彼の奥方への気持ちと、その奥方が抱いているアレキサンドロ氏への思い。それを考えたら、素敵なおもてなしといえるでしょう」

 

「ありがとうございます。そう言って頂けるとうれしいです。もしかしたら、お節介なんじゃないかと思っていたので」

 

灯里は先程までと違って、表情がやっとほぐれてきたようだった。

 

「灯里さん?それで私に協力するようアルピーナ婦人が言ってこられたのだが、どのようなことかな?」

 

「アダルベルトさんは、アレキサンドロさんとご面識があるとお聞きしたのですが?」

 

「そうですな。彼とはまだ出会ってそれほど長い付き合いがあるというわけではないのだが、灯里さんならご存知だろう、カ・ドーロの修復工事。その折に偶然知り合ったんだ」

 

「確かアデリーナさんが、アダルベルトさんは資産家で・・・」

 

灯里は自分でそう言ってから、その先を話すのを躊躇してしまった。

 

アダルベルトは何かを察したように、少しうつむいた。

 

「アデリーナさんは、本当にお気の毒だったね。ホテル内であのようなことが起こるとは信じられない」

 

「あっ、そ、そうですね。ほんとに」

 

灯里にはまだ、目の前の男が事件に関わっている人物なのか、あの黒ずくめの男なのかどうなのかハッキリとしないため、疑心暗鬼でいっぱいになっていた。

 

「つまりこういうことですかな?」

 

アダルベルトは、紅茶をもう一度口に運ぶと、話を続けた。

 

「アレキサンドロ氏に、カフェ・フローリアンへ奥方と一緒に行くように説得して欲しいということですかな?」

 

「カ・ドーロでお知り合いになったというお話なら、ご協力をお願い出来るのではと、アルピーナ婦人がおっしゃったので」

 

「なるほど。で、灯里さんは、どのようなご計画を立てておられるのですか?」

 

「ご計画と言えるほどのものは、正直ありません。もしあるとしたら、サン・マルコ広場までご案内するぐらいかと」

 

「ゴンドラで、ですかな?」

 

「はい。でも奥さまは、両足がご不自由で・・・」

 

「なるほど。その辺はなんとかなるでしょう」

 

「なんとか?」

 

「はい。こう見えてもまだまだ若いですからな」

 

「そうなんですか・・・」

 

「見えませんかな?」

 

「あっ、いえ、その・・・失礼しました!」

 

「ハハハハ!」

 

 

アダルベルト氏は、灯里の予想通り、紳士的でやさしい人物だった。

 

話をしていても、とてもホテルを脅迫するような事件に関わっているとは思えなかった。

 

アルピーナ婦人が言っていた、ビジネス上の古くからの友人で、信頼できるひとだという言葉の方が、しっくりとしていた。

 

ただ、アールドが気にしていた軍人という言葉が、どうしても引っ掛かっていた。

 

そう考えると、どこかパズルのピースがうまくはまってゆくような、そんな感覚にとらわれる灯里だった。

 

 

 

 

暮れゆくサン・ミケーレ島は、人の気配を全く感じさせない、閑散とした空気があたりを覆い尽くしていた。

 

だが、船着き場からしばらく入り込んだところで、人の言い争う声がこだましていた。

 

切羽詰まったような顔をしている女性のそばで、若い男が中年男性の身体を縛り上げ、後ろから支えていた。

 

その少し離れたところには、その状況から一瞬たりとも目を離すことができないといった様子で、身動き一つせずに男が立っていた。

 

疲れきった様子の女性は、何か言いたげな素振りを示すが、うまく言葉にならないようだった。

 

その様子に、向かい側に立っている男が口を開いた。

 

「もう止めにしよう。こんなことをしても、何も解決しない」

 

その言葉に女はにらみ返して言った。

 

「今頃になって、何を訳のわからないことを言ってるの?協力すると言ったのは、そっちでしょ?」

 

「確かに言った。だが、こういうことをするつもりで言った訳じゃない」

 

「あなたたちがどういうつもりで言ったかは、わたしには関係ない。わたしはね、最初からこういうことが目的だったのよ!」

 

男はその言葉に一瞬身体が反応してしまった。

 

「おっと、動くんじゃない!」

 

女性のそばの若者が、縛り上げた中年男性の首もとにナイフをあてた。

 

「やめろ!それ以上はダメだ!もう引き返すことができなくなるぞ!」

 

「どこへ引き返すというんですか?アレキサンドロさん?」

 

アレキサンドロは額から汗を流しながら、じっと目を離さずにいた。

 

「あなたのような恵まれた人生を送ってきた人に、わたしの気持ちなんてわからないわ」

 

「君がそんなことを言うなんて・・・どうしてなんだ?私たちはわかりあえたんじゃなかったのか?だから計画を立てて、ここまでやってきたはずじゃないか?アルマ!」

 

アレキサンドロを見返すアルマは、アリーチェのそばにいたころの面影は、もうどこにもなかった。

 

感情を抑えきれなくなった思いが、恨みとなって吹き出しているようだった。

 

「どうしてそこまでのことをするんだ?」

 

「知ってしまったからよ。この男の本当の姿を!」

 

そう言って、アルマは締め上げたロープをぐいっと持ち上げた。

 

男が苦しそうに呻き声を上げた。

 

「仮にもその男は君の・・・」

 

後ろで支えていた若者が、アレキサンドロの言葉をさえぎるようにいった。

 

「もうやっちまおうぜ!どうせやるんだろ?」

 

アルマはそれには答えずに、アレキサンドロの方に目を向けた。

 

だが、アレキサンドロはその縛られて惨めな姿をさらしている男にむかって叫んだ。

 

「こんなことになって、なんとかいったらどうなんだ!アデルモ!」

 

殴られ腫れ上がった、その惨めな顔で、その縛られた男は、うめくように声を出した。

 

「す、すまなかった。ゆるしてくれ」

 

それを聞いた若者が、背後から怒鳴りつけた。

 

「あんた、そんな一言で終われると思ってるのかぁー!」

 

今にもアデルモの首にナイフを突き立てそうな勢いだった。

 

「待って。この男には、まだまだつぐなってもらわなくちゃいけない。苦しみも痛みも」

 

アルマはアデルモの顎のあたりを持って、ぐいっと持ち上げた。

 

「そこまでだ」

 

完全に不意をつかれた。

 

他に人間がいることに、アレキサンドロは全くきづかなかった。

 

そして、それはアルマも同じだった。

 

アルマもそのそばにいる青年も不意をつかれた顔になっていた。

 

いつの間にか拳銃をもった男たちに囲まれていた。

 

「アルマ、ご苦労だった」

 

「どういうことだ、アルマ!」

 

アレキサンドロは思わず叫んでいた。

 

「この男に復讐することに協力してくれるっていうから、手を組んだの。あんたたちみたいな生ぬるい考えじゃないってね」

 

「アルマ、お前いったい何を・・・」

 

その瞬間、拳銃の音が辺りに轟いた。

 

アデルモを支えていた青年が呻き声をあげて、その場に倒れた。

 

「えっ、どういうこと?」

 

「アルマ、さっき言ったろう?ご苦労だったなって。お前の仕事はこれで終わりだ。後はこちらに任せればいい」

 

「なんなの、それ・・・」

 

アルマは茫然と倒れている青年を見下ろしていた。

 

「お前は大した女だ。こんな場面でもまったく動じない。そう考えると、ちょっと惜しい気がする」

 

男は背広の内側から拳銃を取りだし、アルマに向けた。

 

その瞬間、アデルモがアルマに身を投げるように被さっていった。

 

「アルマ!」

 

それと同時に銃声が鳴り響いた。

 

しかも何発も。

 

撃ったのは、アルマたちを取り囲んでいた男たちではなかった。

 

その男たちの回りには、迷彩柄の軍服らしきものを着た複数の男たちが、自動ライフルを構えていた。

顔には迷彩のペイントを施していた。

 

「な、なんだ!お前たちは!」

 

アルマに拳銃を向けていた男は、そういうや否や、ライフルの銃把で背後から殴られ、失神した。

 

アルマのそばにいた青年を撃った男も同じ目にあって、倒れこんだ。

 

他の男たちは、背中にライフルを向けられ、観念して両手を挙げた。

 

「いったいあんたたちは誰なんだ?」

 

アレキサンドロは、茫然と立ち尽くしていた。

そして、その一言を言うのに精一杯だった。

 

すると、そのそばにひとりの少女が立っていた。

 

だが、その少女の目は、その前方にいるアルマをじっと見つめていた。

 

「間に合ってよかった」

 

アレキサンドロは驚いて振り返った。

 

「エレノアのご当主!なんでこんなところに?」

 

「今わたくしは、猛省しているところです」

 

そう言って歩き出したアリーチェは、アルマのそばまでくると、崩れ落ちたように座り込んでいるアルマの手を取った。

 

「この子はね、全く動じない、度胸のあるひとじゃないの。自分を押し殺して生きているうちに、人と共感できなくなった。それが理由」

 

アリーチェが握ったアルマの手は、ずっと震えが止まらずにいた。

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