マスカレード・ヴェネツィアン・ホテル   作:neo venetiatti

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第四話 ホテルマン

アデリーナは、いつでも客を迎えられるよう笑顔をつくろってはいたが、フロントから視界に入るアロンソが、どうしても気になっていた。

 

〈わかってはいても、なんか邪魔なのよね〉

 

そんなアデリーナに気付いたのか、アガタがそっと身を寄せてきた。

 

「先輩?どこ見てるんですか?」

「どこって、別にどこということはないわよ」

「そうなんですか?さっきからチラチラあの人のことを見てるように思うんですけど?」

「あの人?」

「あの日焼けした刑事さん」

「ちょっとアガタ!それを言っちゃダメでしょ?」

 

アデリーナは声をひそめるようにしていたが、強い口調でアガタに釘を刺した。

 

アロンソ刑事は、フロントクラークと同じ制服を着て、ロビーの中央寄りに立っていた。

昨日、アデリーナが総支配人室で会った時の印象とは違い、無精髭はきれいに剃られ、こざっぱりとしていて、制服のスーツ姿が板についていた。

アロンソは、いつでも対処できるよう、フロントクラークとしてホテルのロビーに張り付いていた。

 

「すみません、先輩。でも、私は何をしたらいいんですか?」

「いつも通りでいいのよ。フロントクラークとして、しっかりと働いていればいいの」

「でも先輩は、犯人逮捕に協力するんでしょ?」

「だからそういうことを口にしちゃダメだって!」

「スミマセン」

 

アロンソがフロントの方を振り返って、こちらにジロッと目を向けていた。

 

「私、あの人のこと、あんまり好きになれません」

「そんなこと、いいから」

 

アデリーナはカウンターの前にやって来た客に挨拶した。

アガタはすっと離れ、持ち場に戻った。

 

その時、アロンソの前にひとりの老婆がやってきた。

 

アロンソは、その硬い表情のまま、その老婆に顔を向けた。

 

「なんですか?」

「ここはホテル・ネオ・ヴェネツィアーティーでよろしいですか?」

「ええ、その通りですが?」

「ホテルなんて久し振りなもんで、勝手がわからなくてね」

「それなら、あちらに行ってください」

 

アロンソはフロントの方を指差した。

 

その様子を見たアデリーナの表情が一変した。

 

「アガタ、ここお願い!」

「は、はい!」

 

アデリーナはカウンターの端へ回り込むと、急ぎ足でアロンソのところへ向かった。

声のトーンは低く抑えられていたが、抑えきれない気持ちが爆発しそうだった。

 

「どういうつもりですか?」

「何が?」

「何がじゃありません!」

「何をそんなにカリカリしてるんですか?」

「お客様にあんな態度はおかしいじゃないですか?」

「ああ、あの客?ちゃんとフロントに案内しましたよ」

「そうじゃないです!あなたの態度がホテルマンとして、あり得ないと言ってるんです!」

「僕はホテルマンじゃない」

「じゃあ、あなたが着ているその制服は、なんなんですか?」

「これは捜査のためです」

「その制服を着た以上、あなたはすでにホテルマンなんです!そんな振る舞いをされると困るんです」

「僕はちゃんと客に案内しました」

「客じゃありません!」

「じゃあなに?」

「お客様です!」

 

アデリーナの毅然とした態度に、アロンソは煙たそうに回りに視線を向けていた。

 

「こうしている間にも犯人を取り逃がすかもしれない」

「犯人なんてどうでもいいんです!」

「ちょっと、あんた!」

 

周辺の客たちが、ふたりに視線を向けはじめていた。

 

その時、別のフロントクラークの制服を着た男が、アロンソに近づいて耳打ちした。

 

「目撃者・・・ウンディーネ・・・証言を・・・」

「わかった」

 

二人は足早にフロントの奥へと姿を消した。

 

その姿に呆気に取られていたアデリーナにも、その声が耳に届いていた。

 

「目撃者が現れたの?それもウンディーネって・・・」

 

アデリーナは、急いでフロントへ向かった。

そして、カウンターの前にたどり着いた老婆に優しく声をかけた。

その老婆は、何も気にしていないと手を振って見せた。

 

アデリーナには、その老婆の白く細い指がとても印象的だった。

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