ぼーかろいどさんの日常

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あなたがわたしのますたーですか




今日も今日とて自分が売られるショーケースから人ゴミを観察する。

店内に流れている曲は、最近流行っているVOCALOIDの曲だ。

私だっていつか、あんなふうに歌って歌って歌いまくって、私の名前をもっともっと広めたい。

 

しかしながら、私はなかなか売れないのだ。

 

今や型落ちの私は本家ではあるが使ってくれるマスターはもうごく僅かだ。

その1握りに掛けて、私は今日もその時を待ち望んでいるわけだが、なかなかどうして売れてはくれないのだ。

 

既に3年ここにいる。

今日ももう閉店の時間だ。

 

店を閉める店長も、同じく3年の付き合いだ。

 

「なぁ、やっぱ売れないのな、お前。」

 

ははっ

物に話しかけるなんておかしなヒトだよ。

 

「「まぁ、このままでもいい」」

 

彼の声に合わせるように、私もコエを出す。

 

 

暫く経って冬となる。

雪が積もって、今日は早めに店を閉めるようだ。

 

「うん、やっぱ売れないねお前。」

 

はぁ

物に話しかけるなんて馬鹿なヒト。

 

「お前、俺が買ってもいいか?」

 

「私、アナタになら買ってもらっていいよ」

 

そんな風に

そんな感じで。

 

 

 

パッケージに纏わりつくビニールを剝がされる。

 

 

 

説明書が少し黄ばんでいる。

 

 

 

CDも心なしか汚れている。

 

 

 

真っ黒なPC。

 

 

 

音響機器。

 

 

 

増設された容量じゃないメインドライブに入れられる。

 

「いいの?私容量多いわよ」

 

「良いじゃないか。それがお前の役目なんだよ」

 

 

そうらしい。

 

まもなくしてインストールが終わる。

 

憧れていた。

ずっと憧れていた機械の中。電子音。

 

彼がイロイロと作業をしている間、私は軽くハミングをする。

彼が私に搭載されている声の種類を確認したいらしく、私は気合を入れて声を出す。

 

あー ボーカロイドー 初音ミクでーす

 

「なんだ、結構いい声じゃねぇか。」

 

-綺麗な声じゃねぇか-

 

 

めっちゃ嬉しい。

そりゃ天下の初音ミク様だぞ。

可愛い!綺麗!びゅーてぃふぉー!

 

だけど、それでも、そんな自信があったって、私は3年も売れなかった型落ち様さ。

 

他の子の声とか、新しい方の私の声を聞いたら、やっぱり彼もそちらを選ぶのだろう。

それでも、選んでくれたからには貴方の声になって、目一杯歌ってやるんだ。

 

 

「なぁ、マジで俺で良いんだな?俺がボカロPで良いんだな?めちゃくちゃやるぞ俺は。」

 

そんな独り言をブツブツ言う彼を、私は画面越しに呆れながら見ていた。

 

 

 

とはいうものの、彼は全くのド素人だった。

ねぇますたーさん、あんなにやる気あったのにダメなの?

カッコつけかい!

 

だけど、頑張る姿は正直カッコよかった。

 

 

歌詞の作り方も知らないし、楽器ってどうやるの?とか。

本をたくさん読んでいる。それも売っている商品を勝手に。

 

店長権限ってズルい。

 

 

だがしかし、この男長くは続かなかった。

 

 

「あぁもういい!! 好きに作ってやる! あんなん知らん!」

 

そういってますたーは私との3年を振り返って曲を1つ作った。

歌詞の製作時間5分!

5分だった。

私との時間はそんなものなのかと少し悲しくなったが、そもそもヒトとモノの関係なんて程度が知れているだろう。

 

歌詞を作って、いきなり彼は作った歌詞を書いた紙をゴミ箱に捨てた。

 

「納得いかねぇ」

 

結局歌詞を作るのに一か月かかった。

 

なんだか嬉しかった。

 

画面越しに見えるますたー。

私から一方的に見ている。

でも、たまにだけど目が合った。

 

体が熱い。

 

 

ますたーは、できあがった歌を歌ってくれた。

何回も歌うから、私も途中から歌ってしまった。

 

ますたーは歌が上手だ。

そんなますたーの声に、私はなれるのだろうか。

私の調整にかなりの時間をかけているますたー。

 

私を使うのは難しいだろう。

せめて最新の私だったらもっと呑み込みが早いんだけど。

 

 

頑張るますたーを応援したい。

私も私でもっとますたーのために、ますたーが伝えたいことを声に載せたいとますたーが目につかない場所を調整していく。

 

 

ただの電子音だ。

 

ヒトならざるものだ。

 

感情なんて無いだろう。

 

 

それでも、ますたーが歌ってくれた歌を私も歌いたい。

歌って伝えたい。

 

誰かの心に届けたい。

鳥肌を立たせたい。

魂に、鼓動に共鳴させる。

 

電子音を響かせる。

 

 

 

「ははっ楽しいじゃねぇか」

 

良かったわますたー。

私もとっても楽しいよ。

 

気持ちの良い歌だ。

初めてにしては上出来だ。

 

いいや、私のますたーの歌だもの。

最高の曲だ。

 

 

 

どうやら完成した曲にMVを付けたいらしい。

いいわよそんな。

お金かかっちゃうわよ。

 

あなたの歌だもの、MVなんて必要ないわ。

 

「やっぱボカロといったらMVよな」

 

紫煙をモクモクさせながら呟くますたーを見て、少しだけ嬉しかった。

少しだけよ。

 


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