東方少女SS~短編   作:hidolite

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振り回す腕

 まず見えたのは空であった。

 地面に引っ張られて生まれ落ちてきた彼女はしかし空を見ていた。

 飛んでみたい、何て言うとても原始的な感覚だったようだ。

 

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 異変というのはこの世界ではある意味行事的である。

 好き勝手に妖怪が起こすその地に悪影響を与える出来事を、巫女が解決しに行くというだけのこと。

 しかし難儀なことに、異変解決を行えるのは人間と相場が決まっているのである。

 それはこの世界のしがらみに足を踏み込むことになる。

 なのでそれは少し置いておいて。

 

 ここに居るのはその巫女と共に異変解決によく見かける、普通の魔法使いである霧雨魔理沙あった。

「よう霊夢、用はないがやってきたぞ。」

 そう声高に宣言し神社の縁側に座り込んだのは白黒の衣装を纏った少女であった。

 それに対し霊夢と呼ばれた大きなリボンを頭につけた巫女は、特に返事をせず縁側にて茶を啜っていた。

 普通に無視された魔理沙はしかし勝手しったるやといったように居座った。

「全くあんたも暇ね、こんな神社に来て何が面白いのよ。」

「別に神社に来てるわけじゃないさ、お前に会いに来てるんだよ。」

「そう、危篤な人間もいたものね。」

 少し勇気を出してそう言った魔理沙はしかし天然か計算か、掴み所のない霊夢には刺さらなかった。

「けっ!霊夢がそう言うなら私だって別にいいけどな。」

 そう吐き捨てると魔理沙は携えていた箒に跨り、そのまま飛んで快晴の彼方へと消えて行った。

「あら、お饅頭を出そうと思ったのに。勿体ないわね。」

 飛び出した魔理沙にしかし霊夢もこれまた平然とした様子で、どうやらこれが彼女たちの常らしかった。

 霊夢は輝く太陽を見上げ、少し顔をしかめた。

 

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 白黒の眼下に広がるのは緑とも紫ともつかない薄気味悪い色をした森であった。

 それは木というよりも謎の瘴気によって生み出された色であった。

 その中に普通の人間が居続ければ無事では済まない。

 人はそこを魔法の森と呼んだ。

「ったく霊夢のやつ。相変わらずだな。」

 魔理沙は魔法の森の中央辺りで降下し森の中に入った。

 そしてそこから少し移動すると家らしきものが見えてきた。

 彼女はその薄汚い家に入ると、立地故か鍵を閉めずに居間まで移動した。

 その部屋は外観と同じかさらに汚れていて、単純にものが溢れかえっていた。

 収集家というよりは単なる収集癖とでもいうのか。

 彼女の部屋は人としての尊厳を保てないくらいには人間の住処としてどうかしていた。

「よっと!」

 ものを乗り越えて奥の部屋へと辿り着いた彼女は、部屋の隅に箒を置いて机に向かう。

 その部屋は居間と同じように地面がもので埋め尽くされているが、しかしそのものの大半は赤茶色の装丁の本であった。

 彼女は先ほどまでの少しバツの悪そうな表情は既に抜け落ちており。

 彼女の印象とはかけ離れる鋭い視線を宿していた。

 そして机の上にある液体が入った試験管を頻りに伺い、何かに取り憑かれたかのように赤茶色の装丁の本に何かを書き記していた。

 窓のないその部屋で魔法によって生み出された光を頼りに彼女はいつまでもいつまでも机にかじりついていた。

 

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「霊夢、今日もやってきたぞ。」

 昨日に引き続き神社に足を運んだ魔理沙は、しかし今日は霊夢の隣に座らずに彼女を正面から見つめていた。

 それを不審に思った霊夢は、怪訝そうに魔理沙の顔を下から覗き込む。

 そこにあったのはまるで冷たい彼女の瞳。

 それを見た霊夢は何かを察したように、自らの左側に置いていた大幣を手に持つと立ち上がりそれを受けた魔理沙も霊夢と一定の距離をとった。

「私は構わないけれど、あんたはそれでいいの?」

「私だって構わないさ、ようやく届いたかもしれないんだから。」

 その整った容貌に影を落とした魔理沙はそれだけ言うと、懐から掌に収まる程度の大きさの八卦路のようなものを取り出した。

 それを見た霊夢はどうやら魔理沙が本気であるとより認識したのか眉に皺を寄せる。

 

 行われたのは普段彼女たちが嗜む弾幕ごっこなる遊びではなく、つまりは真剣勝負であった。

 駆け抜ける札に迸る光の柱、それを弾く結界。

 様々なものを駆使し戦う彼女が賭けているのはそれこそ命であった。

 

 しかしそれは魔理沙にとってのみであった。

 放たれた光球の影に隠れて、避けきれなかったお札によって態勢を崩された白黒は、背中から地面に落ちてしまう。

 衝撃で肺から空気が無くなりまともに呼吸ができなくなってしまう。

 そんな彼女を霊夢は冷めた目で見下ろす。

「こっ……っ殺せよ!そういう……ことだろ。」

 魔理沙はせめて尊厳を保ちたいと巫女にそう言った。

「嫌よ、貴方は私の友達だもの。」

 しかし霊夢は感情のない声色でそう言うとスタスタと歩いて縁側に座り、まるで何事もなかったかのように再び茶を啜り始めた。

 ようやく呼吸困難から立ち直った魔理沙は、そんな霊夢を見て、悔しくて、悲しくて、そして淋しくて。

 そばに落ちていた箒を掴み取り不格好なまま飛び去っていた。

「元気ね。」

 霊夢が一人残された境内に、そんな彼女の呟きのみが染み渡った。

 

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 しょっぱい涙で顔面を汚しながら、風に撫でられている魔理沙は何も考えたくなかった。

 才能のために生かされ教育された霊夢相手に、それでも自分はライバルだと思っていた。

 彼女にとってかけがえのないものでありたかった。

 幼い頃にふと見つけた一筋の輝き。

 浮かぶ赤い服に緑の髪。

 あれに憧れ飛び込んだ世界で、しかし彼女は今打ちのめされていた。

 

 脇目も振らずにしがみついていた箒は、しかし原動力が無くなり彼女の体もろとも地面へと崩れ落ちた。

 痛みを抑えて立ち上がるとその視界は黄色に埋め尽くされた。

 幻想郷最恐の妖怪が住むと言われる太陽の畑であった。

 その実はただの花好きの妖怪が作った趣味のひまわり畑である。

「もうそんな季節か。」

 大輪の向日葵を眺めて魔理沙は感慨に耽る。

 自分の髪と似た色をしたその花びらとその生き様に少し自己投影してしまったのだ。

「ええそうよ、まぁ私たちにしてみれば一年のサイクルというのは非常に短いのだけれどね。」

 魔理沙の呟きに答えたのは、太陽の畑を作った花の妖怪、風見幽香である。

「なんだ居たのか。」

「ええ、あんな破れかぶれな飛行物体が自分の畑に接近したら誰だって警戒するわよ。」

「そいつは悪かったな。」

 会話はそこで終わった。

 普段から大人しくない質の魔理沙はしかし今は少しナイーブであった。

 それを見かねたと言うよりは、面白がっているのか、幽香は彼女にそのことを尋ねた。

「別に、ただの喧嘩さ。私の独り相撲だけどね。」

「そう、ならいいわ。」

「とりあえずは、失った水分でも補給しましょう。」

 幽香は魔理沙を自分の家まで招待したのだった。

 

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 幽香はその端麗な容姿も相まって優雅なティータイムと言った様子だ。

 しかしそれとは反対に、魔理沙は落ち込んだ様子を隠しもせずに沈んでいた。

 けれど、魔理沙は話さないし幽香は踏み込まない。

 そんな奇妙に心地の良い空間が生まれていた。

「幽香も喧嘩したりするのか?」

 少し元気を取り戻した魔理沙は幽香にそう聞いた。

「そうねぇ、いつだったか遥か昔にあったような気もするわ。」

「妖怪も喧嘩するのか?」

「妖怪と言ったて別に機械じゃないもの、感情だってあるしプライドだってあるのよ。」

 幽香は魔理沙を見ているようで、しかしそれよりももっと遠くの何かを見ていた。

 白黒はそんな大妖怪の歴史の厚みと、そして人間的な意外な一面を感じていた。

「別にアドバイスという訳ではないけれど、人間って案外すぐ死んでしまうのよ。」

 幽香のその言葉は果たして警告か、しかしそれは自嘲というか戒めというかそう言った類の、どこか寂しげな彼女の独り言なのかもしれない。

 魔理沙はやはりわかり切っていたことに太鼓判を押された気分だった。

 しかし生来前向きな彼女はそれでもポジティブであった。

「そうだよな。落ち着いた、少し頑張ってみるか。」

「そういや早苗が外の世界にゃこんな言葉があるっていてたな。」

『長い人生そんなに急いでどこへ行く。』

 それに対してようやく答えがでたと言ったように、魔理沙は今までの騒がしさを取り戻していた。

「それじゃぁまたな、幽香。」

 魔理沙は魔理沙の返事を待たずして飛んでいってしまった。

 時刻は夕方、幽香はまだ太陽が居るにも関わらず登ってきた三日月を眺めた。

「ふふっ、忙しないわね。」

 月はその明るい空に、薄く輝いていた。

 

 その日幻想郷の夜空に流れ星が輝いた。

 小さく鋭く、とても素早い流れ星が。

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