アルダンside
美術館の刹那展の見物を終えた私達は、近くのカフェでお茶をする事に致しました。既に陽も落ちて辺りが少し暗くなってまいりましたので、街灯がキラキラと輝いています。
「お待たせ致しました、こちらご注文の品になります……ごゆっくりどうぞ。」
アルダン「もう、ご存知の事とは思いますが……私は生まれつき、あまりに弱く、脆い身体をしています。それでも、同じく脆いと言われた脚を持って生まれた姉は奇跡的に回復したからと、一縷の望みをかけましたが、どうやらそう甘くはありませんでした。世の常、ですね。」
八幡「……そうだな、人生ってのは上手くいかない事の連続みたいなものだしな。」
アルダン「過去に主治医からは『率直に言ってレースに耐えうる身体ではない。』『怪我や故障と隣り合わせになるだろう。』と診断されました……両親は、いまだに私が競走生活を送る事に反対しています。私を失う事が恐ろしくて堪らないと、先日も電話で泣かれました。私は本来、双子で生まれる予定でしたが………片方は死産でしたので。同じ結末に至らせるわけにはいかないと、必死なのでしょう。
八幡(いつもの穏やかで優しい目とは打って変わって、覚悟を持った目だ……)
アルダン「いつ、砕け散るとも知れぬこの身です。メジロの、あるいはウマ娘達の紡ぐ輝かしき歴史の中に、すぐ埋もれゆく事もあるでしょう……すぐに色褪せ、忘れさられる………それでも、『今』。今、この瞬間を輝かせる為、命を賭す事は私に許されたただ1つの権利なのです。短くとも、儚くとも、ほんのかすかな光跡であろうとも。私は私自身の生きた軌跡を、『今』に一筋、残したいのです。」
八幡「………」
アルダン「ご協力、いただけるでしょうか、比企谷さん。」
八幡「美術館で見た絵、作者の事にしか触れてなかったが……きっと、あの絵も綺麗だったんだろうな。」
アルダン「っ!」
八幡「それに、俺はお前の身体が弱い事も、体調を崩しやすい事も、全て承知した上で担当の契約をしたんだ。契約を交わしたからには自分からそれを破るような事は絶対にしない、お前ウマ娘を輝かせる手伝いをするのがトレーナーの役目だと俺は思っている。だから俺も、お前の言う『今』を輝かせる為に、全力を尽くそう。」
アルダン「………」
八幡「……?どうした?」
アルダン「あ……いえ、すみません。多少なりとも物怖じされるであろう、と失礼な予測を立ててしまっておりました。貴方は……私が思っていたよりもずっと、覚悟を決めてくださっていたのですね。」
八幡「何言ってんだよ、相手のウマ娘は真剣そのものなんだ、だったらその脚を預かるトレーナーは生半可な覚悟を持っちゃならない。このくらい当然の事だろ。」
アルダン「………」
あぁ……私はこの方を担当トレーナーに選んで間違いはありませんでした。この方だったら………比企谷さんであれば、どのようなウマ娘であってもきっと真剣に相手をしてくれるでしょう。
アルダン「比企谷さん、私は今の言葉を聞いて改めて思いました。貴方を担当に選んで本当に良かったと。」
八幡「そう思うのは早いと思うぞ?だってまだ始まってもいないんだ、俺達はまだ担当契約を交わしただけに過ぎない。これからトレーニングを重ねて、レースに出て、メジロアルダンっていう名前を残す……そうだろ?」
アルダン「………はい。」
八幡「なら、明日からまたトレーニングを頑張らないとな。」
アルダン「はい、明日からもよろしくお願いします。」
カフェでの一時を過ごしてからは、学園まで歩いて帰りました。
ーーー校門前ーーー
アルダン「では比企谷さん、また明日。」
八幡「あぁ、次はカフェテリアでだな。」
アルダン「えぇ、では「あら、もうお帰り?」っ!姉様……」
ラモーヌ「ご機嫌よう……アルダンのトレーナーになったそうね。」
八幡「あぁ、おかげさまでな。」
ラモーヌ「そう……今日は少しだけ、見えるわね。貴方の愛が。」
八幡「少し、真剣な話もしていたからな。それでだと思うぞ。お前の話も少しだが聞いた。」
ラモーヌ「この子の事だもの、きっと私の昔話でもしていたのでしょう?」
………見透かされていますね。
八幡「まぁ、当たらずも遠からずだな。俺もアルダンを担当する上で色々と試されていたって感じだな。」
アルダン「ひ、比企谷さん!」
八幡「間違ってはいないだろ?まぁでも、俺の意思は変わらない。お前の方から契約を破棄しない限りは俺もずっと担当を続けるつもりだ。」
ラモーヌ「………そう。なら、私から言う事は1つね。
アルダン「………」
姉様が、頭を下げた………
八幡「……あぁ、任せてくれ。」
ラモーヌ「………っ!ふふふっ、私の妹ながら妬けちゃうわね。その瞳を独り占め出来るんだから。」
アルダン「………あっ。」
………今なら姉様の言っていた事が分かります。比企谷さんの瞳からは確かな覚悟を感じます。
姉妹に挟まれる八幡……