八幡side
2人から弁当交換の提案をされた翌日。俺はいつものようにトレーナーの仕事をひと段落させて、一足早くカフェテリアに来ている。先に言っておくと弁当を作り忘れたわけじゃない、家で作ってきてるしウマ娘の平均並の寮で作ってきてるから問題は無いだろう。まぁ……やる事が無くなったから、とだけ言っておく。
今頃、学生達はまだ授業の最中だろう……そして次の予鈴で昼食の時間だから生徒達が一気にこの食堂に集まってくる。その中で大食いのオグリとスぺが注文をせずに弁当片手に俺の所まで来たら誰もが驚くだろうな。いや待てよ、噂になっている時点でこうなるのは予想出来てるだろうから驚きはしないか、注目はするだろうが。
にしても大丈夫だろうか……常識的な量って釘を刺してはおいたが、もし大量に作ってきてたら……その時は周りの生徒達にお願いするしか無いな。
八幡「飯の時間がこんなにも待ち遠しくなるのって初めての感覚かもしれないな。」
「トレーナーさん、今日は料理じゃなくてお弁当なんですね。今日は誰と交換するんですか?」
八幡「……もしかしなくても、調理スタッフの皆さんにも広まってるんですか?」
「はい、多分誰も知らない人は居ないくらいには。」
そんなに広まってるのかよ……やっぱ女性が多いと噂が広まるのも早ぇわ、流石のネットワークだな。
ーーー昼休み・カフェテリアーーー
八幡「それで、どうしてお前達が集まってるんだ?」
ルドルフ「気になるじゃないか、いつも多くの料理を食している彼女達がどんな料理を作っているのか。」
エアグルーヴ「会長と同じ意見だ。」
ブライアン「……肉があったら寄越せ。」
八幡「寄越すわけねぇだろ、それを言うならアイツ等の弁当を見てから判断しろ。」
エアグルーヴ「しかし、やはり兄上が用意してきたのはそれなりに多いみたいだな。」
八幡「つってもウマ娘の平均量だけどな。満足しなくても満足してもらうしか無い。」
ルドルフ「まぁその辺りは彼女達の気持ち次第だろうな。」
スぺ「ト、トレーナーさん!」
すると扉側の方向からスぺとオグリが弁当箱を持ちながら緊張した顔立ちでこっちに向かってきた。良かった、2人共サイズは普通だ。
オグリ「済まない、待たせてしまっただろうか?」
八幡「いや、そんな事はない。まぁやっとこの日が来たって感じだ……とりあえず座れよ。」
スぺ「あのぉ~……そちらの3人は?」
八幡「気にするな。お前達の弁当がどんなものなのか気になって同席しているただの観客だ。」
スぺ「凄く気になるのですが………」
エアグルーヴ「兄上の言う通り、我々の事は気にしなくて構わない。」
2人はまだ何か言いたげな顔をしていたが、食べる時間が無くなってもアレだから座らせる事にした。
オグリ「トレーナー、コレが私の弁当だ。」
スぺ「ど、どうぞっ!」
八幡「ん、ありがとうな。じゃあ2人にも、俺の弁当だ。」
オグリ「おぉ……これが噂のっ!」キラキラ
スぺ「はわわわぁ~……っ!」キラキラ
八幡「揃った事だし、食べるか。」
オグリ「あぁ、食べよう!」
とりあえず俺は2人の中身を見る事からだな。まずはスぺの弁当から見るか……ほう、のり弁か。これはまた意外だな、しかもちくわと白身魚の揚げ物に挑戦するとは……中々思い切った事をしたものだ。オグリのは……うん、一般的なお弁当って感じだ。この鮭の焼き具合なんかも丁寧に出来てるし、他のもよく出来てる。
さて、食べるか……
八幡「あむっ……」モグモグ
………次はオグリのっと。
八幡「あむっ……」モグモグ
……ん?
オグリ「………」ジィ∼…
スぺ「………」ジィ∼…
………なんか、思い出すな。大学生だった頃の自分を。
八幡「……ふっ。」
オ・ス「っ!?」
俺も先生の一言が気になって、よく顔を見てたっけなぁ~……今なら先生の気持ちが何となく分かる気がする。最初の言葉ってのは、案外出てこないものなんだな。実際、どう答えるのが正解なのか分からない。けど、確かあの時先生は………
八幡「拙い味だな。」
オ・ス「っ………」
八幡「………けど美味い、あむ。」
確かこうだったか……まぁでも実際は美味い。食えない味じゃないし、普通に完食出来そうだ。
ーーー数十分後ーーー
八幡「ふぅ、ご馳走さん……美味かった。」
オグリ「………」
スぺ「………」
八幡「……お前等、全然食べてないじゃん。」
スぺ「あっ!えっと、それどころじゃなくて……トレーナーさんが自分のお弁当を食べていると思うと、なんか食べる気になれなくて。」
八幡「まぁそうだろうな、初めて誰かに振舞う料理なんて気になって仕方ないだろうしな。まぁでも、これで少しは料理を作る大変さを分かってくれたか?」
オグリ「あぁ、1つの料理を作るだけでもあれだけ難しいとは思わなかった。トレーナーやスタッフの人達やトメさん、母さんは本当に凄いんだな。」
スぺ「私も、いつも料理を作ってくれている方達には感謝しないとって思いました。」
八幡「そう思ってくれただけでも弁当を作らせた甲斐はあったってもんだ。まっ、お前達も料理をしてみろ。自分で作った料理を自分で食べるも良し、誰かに振舞うも良し、共有するも良しだ。」
これで少しは俺に飯をたかりに来るのを遠慮してくれると効果ありなんだが、それはまだ分からないな。