八幡side
八幡「それで、相談っていうのは何だ?」
アルダン「はい。内容を話す前にこちらをご覧ください。」
アルダンがトレーニングを始める前に相談があるという事で、部室ではなくトレーナー室に居る。そのアルダンは自身のタブレットを俺に差し出して、ある動画を見せてきた。
八幡「……笠松のレースだな。しかもオグリが走ってるレースか……」
レース名はジュニアクラウン。笠松で行われている1,400mのレースだった。結果はオグリが差し切っての1着で幕を閉じた。だが、俺はこの動画でアルダンの言いたい事が何となく分かった気がする。だが、それはあくまでも俺の推測……本人の口から言ってもらわないとな。
八幡「それで、このレースを見せて俺に相談ってのは?」
アルダン「……兄様もお気付きになられたとは思いますが、最後の直線でオグリさんは2度目のスパートをかけました。あれは体力は勿論の事、精神力も必要……それは重々承知しております。ですが次のダービ-、私は今のままではまだ足りないと思うのです。なので、私にもこの映像のオグリさんのように2度目のスパートが出来るようなトレーニングを課してはもらえないでしょうか。」
八幡「………」
やっぱりか……けど今からそのトレーニングをするっていうのは現実的ではないな。NHKマイルCとダービ-の間隔は3週間。その内の最後の週は追い切りをするとして、2週間でそれを会得するのはかなり難しい。それに追い込み過ぎて本番でコンディションが整ってないまま走るのはもっと最悪だ。
八幡「……お前の気持ちは分かった。だが流石に期間が短過ぎる、たった2週間で出来るような簡単な芸当ではないのはこの映像を見ても分かるだろう?それに今は改善されているが、元々身体に不安面のあったお前が2週間のハードトレーニングに耐えられるかどうかも不安が残る。」
アルダン「………」
八幡「……とはいえ、やるだけやってはみる。」
アルダン「っ!本当ですかっ!?」
八幡「だがあまり期待はするな。メニューは組んでみるが、ダービ-当日のコンディション重視で行かせてもらう。」
アルダン「それで構いません、ありがとうございます。」
八幡「……誰かに影響でもされたのか?」
アルダン「……先日、チヨノオーさんのトレーニングを見ていました。先日の皐月賞で負けた事が悔しかったというのもあると思うのですが、鬼気迫る勢いでトレーニングをしていたものですから。」
八幡「成る程な……」
アルダン「それに、近くでマルゼンスキーさんも居らっしゃったのです。彼女は……その、とても残念な結果に終わりましたので。」
八幡「……確かに。チヨノオーはマルゼンを敬っているしな、マルゼンが走る事が出来なかったダービ-を代わりに私がって思っているのかもしれないしな。」
本人からも聞いたが、やっぱあの舞台で走りたい気持ちはかなり強かったのは肌で感じた。『大外枠でも構わない。』『他のウマ娘の邪魔はしない。』『ただ自分の力を試せればそれでいい。』そんな言葉を聞いた……
八幡「だったら、チヨノオーのダービ-に懸ける思いってのは相当に強い筈だ。きっと何が何でも喰らいついて来るだろう……そこがポイントだな。」
アルダン「と、言いますと?」
八幡「最終直線での競り合いが決め手になるって事だ。アルダン、チヨノオーは確実に伸びてくると思っておいた方がいい。そして抜いてもまた差し返してくるともな。きっとそれだけの事はしてくるだろう……だからアルダンも2回目のスパートをだせるかどうかはその場になってみないと分からないが、最低でもぶつかり合いになる事が最低条件だな。楽勝なレースで2度目のスパートをかけるなんてバカらしいからな。」
アルダン「……チヨノオーさんとの、ぶつかり合い。」
八幡「だから、2回目のスパートを引き出すのに重要になってくるのは……今言った競り合いになる事は必須条件として、もう1つは互いに全力以上を出せる相手と走るって事だ。かといってそんな相手はお前の同期でもほんの一握りだろう。」
アルダン「そう、ですね……」
八幡「だから、その辺りは俺に任せろ。それに、候補ならもう大体目星はついてるしな。」
アルダン「……出来るの、ですか?」
八幡「それに近い状況を作るくらいなら可能だ。だがこのトレーニングは3日に1度だ、それ以上は脚が持たない。」
アルダン「……分かりました。兄様、よろしくお願いします。」
八幡「あぁ、分かった。」
コンコンコンッ
八幡「?どうぞ。」
ラモーヌ「失礼……」
アルダン「っ!姉様……」
八幡「何か用か?見ての通り打ち合わせ中なんだが。」
ラモーヌ「………そろそろ必要になってきたのではなくて、併走。」
……やっぱ見破られていたか。
ラモーヌ「私でよければ、力をお貸ししましょうか?」
アルダン「っ!」
八幡「願ってもないお誘いだが、どういう風の吹き回しだ?」
ラモーヌ「あら、妹の大舞台ですもの。力を貸したいと思うのは当然ではなくて?それに……これはメジロ家の総意でもあるわ。」
アルダン「……どういう、意味でしょうか?」
ラモーヌ「これまで、何人ものメジロの先人達が多くの功績を讃えてきた。けれど、最高峰と言われている日本ダービーの頂には誰も届いていない……だから、貴女が最初の1人になる事を、お婆様は望んでおられるのよ。」
アルダン「………」
ラモーヌ「メジロ家現当主、メジロアサマの言葉をそのまま伝えるわ………『日本ダービーを獲りなさい。』。」
アルダン「………謹んで、お受けいたします。」
ラモーヌ「頼んだわよ。それから併走トレーニングは私がお相手するわ、よろしくて?」
八幡「願ってもないな。じゃあ、よろしく頼む。」