八幡side
風呂から上がった俺は部屋に戻って火照った身体を冷ますと同時にお酒を飲んでいる。脱衣所で先生と話している時にのみに行こうって話になってから、無性に飲みたくなったから融通してもらった。因みに部屋の電気は点けずに外の光だけで酒を飲んでいるから、所謂月見酒というヤツだ。言っておくが花札じゃないからね?ワインなんて飲む機会無いが、上等な物なんだろうな……普通に美味い。肴が無くても行けるくらいには。にしても、今日は雲が無いから月の明かりが直で浴びれるから良いものだ。
コンコンコンッ
八幡「どうぞ。」
父「失礼します、トレーナーさん……もしかしてお邪魔でしたか?」
八幡「いえ、そんな事はありません。熱くなった身体を冷ましているだけですから。」
父「そうですか……同席しても?」
八幡「構いませんよ、どうぞ。」
部屋に来たのはアルとラモーヌの父親。今はリラックスしているからか、さっきの懇親会の時とは違ってラフな格好をしている。しかし、高等部2人の娘を持つ父親とは思えないくらい若々しく見えるんだよな。
父「今年も残り僅かな時間となりましたね。トレーナーさんは今年、どのような1年でしたか?」
八幡「そうですね……良くも悪くも、激動の1年だったと思います。でも、最後にこうして悪い感情無く過ごせているのは、悪い事を全て祓えたからだと思っています。」
父「私の今年1年は幸せに満ちていました。」
八幡「?」
父「娘が、アルダンがあれだけ走れるようになったという事もありますが、あんなにも生き生きとした表情は今まで見た事がありませんでした。私達親の顔を伺うような子ではないのは理解していますが、メジロのウマ娘という重責は何処に行ってもついていくようなもの……その責を負いながらもあの子はとても楽しそうにしていた。トレーナーさんはアルダンから聞いているかもしれませんが、私と妻は元々アルダンのトレセン学園への入学を反対していました。理由は体調面での事です。」
八幡「……聞いています。」
父「娘の進みたい道を応援したいという気持ちはありました。しかしその進みたい道が、アルダンにとって辛く険しく厳しい道……真正面から応援したいとはなりませんでした。しかし今はもう違います、アルダンの選んだ道は正しかったのだと誇りをもって思えます。何せ、こんなにも頼もしいトレーナーさんが担当になってくださったのですから。」
八幡「買い被り過ぎですよ。自分は自分の出来る事でアルダンの手助けをしているに過ぎません、トレーナーとはそういうものですから。結果を出せたのはアルダンの努力の賜物です。」
父「しかしその背景には貴方の惜しみないサポートがあったからこそ、アルダンはあそこまで走れるようになった……貴方無くして今のアルダンは居ない、私も妻もトレーナーさんにはとても感謝しています。本当に、ありがとうございます。」
アルダンの父は感謝の言葉を述べると同時に頭まで下げてきた。俺なんかに下げる頭じゃないってのに……
八幡「頭を上げてください。さっきも言いましたが、俺はアルダンのサポートをしただけ……本当に頑張ったのはアルダン自身です。でなければお父様が言ったように、今のアルダンは存在していませんから。」
父「今はそういう事にしておきましょう。後でアルダンにも同じ事を聞いて答えを決める事にしましょうか。」
八幡「そうなったら俺に勝ち目が無くなりますので、止めてくれると嬉しいです。」
ーーー数時間後・居間ーーー
アルダン「それで、兄様は父様と何をお話されていたのですか?」
八幡「大した事じゃない、今年はどんな1年だったのかを振り返っていただけだ。」
アルダン「でしたら私とも後程、振り返りませんか?兄様とはまだじっくりお話したいです。」
八幡「それは構わないが、日付が過ぎたら早く寝る事が条件だ。夜更かしは集中力の欠如に繋がるからな。」
アルダン「分かりました。では明日の空いた時間にでもお願いいたします。」
八幡「年が明けたら今年の抱負とか目標とかの筈なんだが……」
パーマー「トレーナー!もうあっちで皆集まってるよ~!」
八幡「ん、それじゃあ行くか。」
アルダン「はい。」
この場所に来て数時間経ったからか、酒が少し回っているからか、今では目の前の煌びやかな雰囲気はあまり気にならない。
アサマ「比企谷トレーナー、今年は大変お世話になりました。来年も孫娘達がご迷惑をおかけすると思いますが、どうかよろしくお願いします。」
八幡「勿論です。メジロ家専属のトレーナーになったからには、最後までその役目を全うする所存です。」
アサマ「頼もしいですね。アルダン、シニアクラスのレースは、これまでよりもっと熾烈な戦いになる事でしょう。それでも貴方であれば乗り越えられると信じています。頑張ってくださいね。」
アルダン「はい、これからも精進いたします。」
アサマ「他の皆さんの活躍も楽しみに待っていますよ。」
マックイーン「はい。必ずやメジロに相応しい活躍をしてみせますわ。」
そうしている間にカウントダウンをする間も無く、年越しとなった。何とも締まらない年末年始になったが、これもまた味があって良いという事にしておこう。