八幡side
八幡「しかし珍しいな、お前があそこまで怒るなんてな。何があったんだ?」
エアグルーヴ「聞かないんじゃなかったのか?」
八幡「それはアイツに対してだ。まぁ言いたくないのなら無理に聞き出したりはしない。」
エアグルーヴ「………私がお前がこうして話すようになったのは秋の天皇賞以降の事だ、アルヴにはそれ以前の私が強く見えていたのだろう。チームが結成されて、トゥインクルシリーズからDTに移籍した後の事を言われてしまってな。それだけならば私も怒りはしない。だが、お前やチームの皆との関わりをなれ合いと言われ、あまつさえそれ自体を否定するかのように言われたのが我慢ならなくてな。」
八幡「そういう事か……」
エアグルーヴ「済まない、手を借りるどころか煩わせてしまった……」
八幡「気にしてない。にしてもアイツ、ちゃんと言う事聞くかねぇ?」
エアグルーヴ「アルヴとて2度と走れなくなる可能性があると聞いてトレーニングを続ける程、無鉄砲な性格ではない。その辺りは分かってくれるだろう。」
だと良いんだが……アイツの様子からして3日経ったらすぐにトレーニング再開するタイプだぞ?1日の遅れが3日の遅れとか言って追い込むようなタイプにも見える。
八幡「……少し、荒療治でもしてみるか。」
エアグルーヴ「?何か言ったか?」
八幡「エアグルーヴ、アイツに少し現実を思い知らせてやるつもりは無いか?」
ーーー1週間後ーーー
アルヴ「はっ……はっ……はっ……」
「今日やっと練習を本格的に始めたって感じです。それまでは軽く身体を動かす程度だったので。」
エアグルーヴ「そうか、ありがとう。」
八幡「細かく教えてくれてありがとな。」
「いえいえっ!」
エアグルーヴ(現実を思い知らせる、か……八幡も中々に性格の悪い事をする。)
八幡「アドマイヤグルーヴ。」
アルヴ「……また貴方ですか。」
八幡「悪かったな、何度も来て。だが、少々無視出来ない事を聞かされたからな、トレーナーとしても看過する事は出来ないと思って、1つ提案を持って来た。」
アルヴ「……提案?」
八幡「併走の3本勝負だ。相手は勿論、エアグルーヴだ。」
アルヴ「何故、私がそんな事を……」
八幡「お前、エアグルーヴに言ったらしいな?『なれ合いなんてするから弱くなった。』って……小競り合いなら別に騒ぐ事じゃないが、チーム全体の事を言われたんじゃ俺も黙ってはいられない。加えてエアグルーヴはウチのチームリーダー、弱いなんて言われてすごすご退散するお優しい性格でもないのはお前だって知ってるだろ?だからその実力を見せてやろうと思ってな。」
アルヴ「受けるつもりなんて無いです。それにエアグルーヴさんとは実力が「安心しろ、すぐに決着がつかないよう手加減はしてやる。」っ……手加減?」
エアグルーヴ「あぁ、すぐに終わらせてしまってはつまらん。少しでもお前の後学になれば充分だろう。」
アルヴ「……手加減なんて要りません。本気で来てください。」
八幡「じゃ、併走するって事で。公平を保つ為にお前達のアップには口を出さない、各自でやってくれ。」
ーーー数十分後ーーー
エアグルーヴ「八幡、準備出来たぞ。」
八幡「分かった、じゃあ併走を始めるぞ。距離は3本全部1,600m、1本走り終えたら3分だけ間を入れてから再開する。今日は特別にゲートを借りられたから、それを使うぞ。何か質問はあるか?」
エアグルーヴ「いや、特に無い。」
アルヴ「ありません。」
八幡「じゃ、始めてくぞ。」
いつの間にか外野も集まり始めてるが、気にしないでおこう。2人も気にしてない様子だし、俺が気にしても仕方ないしな。
そして2人はゲートに収まった。
エアグルーヴ「再度、聞いておく。本当に加減は要らないのだな?」
アルヴ「余計なお世話です、本気でお願いします。」
エアグルーヴ「(本気、か……)いいだろう。」
ガッコン!!
アルヴ「はぁ……はぁ……はぁ……」ドサッ!!
エアグルーヴ「ふぅ、こんなところか……3本全て私の勝ちだな。」
アルヴ「はぁ……はぁ……わ、分かってはいたけど……こんなに、差があるなんて……」
エアグルーヴ「?」
アルヴ「けど、貴女の背中は捉えられた……次は勝ちます。」
エアグルーヴ「士気を高めているところ申しわけ無いのだが、私は本気を出しただけで全力を出したわけでは無いぞ。」
アルヴ「……え?」
エアグルーヴ「本気と言っていたな?お前の言葉通り、私は真剣に併走に取り組んだ。お前の要望通りな。さっき私が言った全力は、自身の持つ力の全て、全ての力を尽くすという意味だ。この併走では本気で取り組みはしたが、全力で走ってはいない。」
アルヴ「………」
エアグルーヴ「それどころか、そもそも全力で走れる状態でもないがな。」
アルヴ「?それは、どういう「こういう事だ。」っ!?」
エアグルーヴがジャージの両手足の袖を捲ると、そこにはリストウェイトが巻かれていた。1箇所につき2㎏だから合計8㎏、全力は出せない重さだ。因みに巻いたのは俺だし、この作戦を立案したのも俺だ。
エアグルーヴ「これで少しは分かってもらえたかアルヴ?今のお前は全力を出せないどころかハンデを出した状態の私にも勝てはしなかった……なれ合いで弱くなったこの程度の私にな。」
アルヴ「っ………」
八幡「まっ、少しはエアグルーヴの凄さを分かってもらえたと思うし、俺達は失礼する。エアグルーヴ、ダウンしてからトレーナー室に来てくれ。走りの反省をする。」
エアグルーヴ「あぁ、分かった。」
エアグルーヴ(アルヴには少々大人げない事をしてしまったが、これも本人の成長の為だ。心を鬼にする必要があった……それに、昔の自分を見ているようで少し腹が立ったのも事実だ。これで少しは分かってもらえるといいのだが。)
俺はそのまま学園の方に向かったのだが、ふと後ろを振り返るとアドマイヤグルーヴは地面に膝を着いたまま地面を見つめていた。その姿はこの前の時よりも小さく見えた。