八幡side
オーシャンS当日。俺は中山レース場に来ていて、もうすぐカレンの出番になる時間帯だ。俺の居る席には戸塚に加えてカレンの家族が来ている。今日も今日とてカレンの写真撮影やグッズの収集で忙しそうにしている。見慣れちまったけど、この存在感にはまだ慣れない……このバズーカみたいなカメラ。だが今日この部屋に来ているのは俺と戸塚達だけじゃない。
八幡「しかし、予定をつけてくれていたとは思わなかった。高松宮記念だとおもっていたんだがなぁ。」
ルビー「高松宮記念まで残り少ない期間となりました。本日は本番に最も近い状況を作れるレースです、見ておいた方が損はありません。レース経験のあるウマ娘からの視点とトレーナーである貴方の視点、2つが合わさる事でより良いものが生まれると思われます。」
八幡「それはありがたい。」
ルビー「ところで比企谷トレーナー、1つご質問をさせてください。こちらに来る途中、シービーさんからこの部屋に入れてほしいと頼まれたのですが、彼女とはどのようなご関係ですか?」
八幡「しつこくつきまとってくるノラウマ娘ってところだ。」
ルビー「……要領が得られませんが、こちらのお部屋には案内しなくてもよろしいと解釈します。」
八幡「あぁ、それでいい。」
ガチャッ
戸塚「やっぱり生で観るのとテレビだと違うよね、久しぶりだけどちょっと感動しちゃったよ!」
弟「カレンお姉ちゃんのレース、早く始まらないかなぁ~。」
パパ「まだパドック紹介が終わったばかりだからね、もう少し先だよ。ささ、この間にレンズの交換しておかないと。」
ママ「あの子大丈夫かしら?ちゃんと皆の分を応募出来てたらいいんだけど……」
八幡「因みに何の応募なんですか?」
ママ「カレンのゼッケンのレプリカを応募しに行ったんです。ショップでは売ってなくて応募の中から抽選で当たった人にしか貰えないんです。」
八幡「成る程……」
戸塚「八幡はそういうのは集めてなさそうだね。」
八幡「まぁ俺はトレーナーだしな、こういうグッズを集めてるウマ娘なら学園にも居るが、トレーナーでは聞かないな。」
姉「じゃあトレーナーさんはレース場に来てもショップには行かないんですね。」
八幡「そうだな。俺はどちらかと言えばレース前のパドックとかをよく見る事が多い。レースに臨むウマ娘達の様子を見るって意味でもあるが、その他に不調がなかったりだとか変な動きをしていなかったりとかな。」
戸塚「どうしてそんな事を?」
八幡「大事にさせない為だ。レース中でもそうだが、レース前でも何が起こるかは誰にも分からない。よくある事だが、出走前に故障が発生して出走取消になったりだってするからな。戸塚もクラブコーチしてたら見かけないか?出る予定だった子が出走を取り消すところを。」
戸塚「……そうだね、確かによく見るよ。残念だなって思うよ。」
八幡「まぁ確かにそうだが、その判断は全てトレーナーに委ねられているといっても過言じゃない。その場で無理をせず次のレースに繋げるか、押し通してでもレースに出るかでそのウマ娘の状況っていうのは大きく変わる。少なくとも俺はそういうのを避ける為に状態の良くないウマ娘に対しては担当トレーナーに勧告するようにしている。迷惑と思われても俺は怪我をしているウマ娘をそのまま放置したくはなくてな。まぁさっきも言ったように、最後に判断するのは担当のトレーナーだ。聞き入れてくれなかったトレーナーの担当ウマ娘のその後は……まぁ予想通りって感じだ。」
戸塚「骨折、とかかな……」
ご家族の皆さんは驚いていたが、戸塚は流石はクラブのコーチをしているだけあって理解が早い。ルビーもそういうのは理解していたようだ……いいや、寧ろそれを目の前で見ているから無理も無いか。少しだけ表情が暗くなった。
戸塚「じゃあ八幡がパドックで誰かとお話していたのってそういう事なの?」
八幡「まぁな。」
パパ「……っ!それじゃあカレンはどうなのでしょうかっ!?」
八幡「ご安心ください、今のところは目立って不調なところはありません。ですが先程も言いましたが、レース中においても何が起きるかは分かりません。カレンが勝つ事を願うのは勿論ですが、走り切る事も願ってくださると嬉しいです。」
パパ「トレーナーさんの言う通りだね。皆、カレンが勝つ事もそうだけど、まずは無事に走り切れる事を祈ろう。勿論カレンだけじゃなくて、他の子達もね。」
八幡「ありがとうございます。」
ルビー「……トレーナーさん、先程の怪我のお話はもしかすると……」
八幡「お前の現役時代の事を思い出させるつもりは無かったんだが、結果的に辛い事を思い出させたな……不謹慎だった、済まない。」
ルビー「いえ、今を走るウマ娘達やその彼女達を見守る貴方達トレーナーには必要な心得と存じます。」
八幡「そう言ってくれると助かる。」
その後はオーシャンSが問題無く発走されて、大きな事故が起きる事無くレースが終わった。因みにカレンは無事に1着を獲る事が出来たので、高松宮記念の優先出走権を得る事が出来た。