エアグルーヴside
エアグルーヴ「はぁ……はぁ……」
………私は東京の芝2,000mのGⅠレース、天皇賞・秋を先頭で駆け抜けた。今年に入ってからは事実上の無敗。京都記念から始まり大阪杯、宝塚記念、札幌記念、そして今日の天皇賞。私の1つの目標である最高の栄誉を手にした瞬間だった。
エアグルーヴ「はぁ……はぁ……ふぅ……っ!そうだ、トレーナーは………」
私はゴール板を駆け抜けたその先で視線を感じながら私だけが感じる視線を探した………だが、その視線はもう感じられず、見つける事は叶わなかった。
エアグルーヴ「………そうだな、今更見にきてくれたところで何かが変わるわけでもない。約束したところで何も変わらん………宝塚記念の時もそうだ、ただレース場に居てくれただけだ。それだけでも充分だろう。」
バブル「負けたよ、エアグルーヴ。」
エアグルーヴ「っ!バブル。」
バブル「今日は私の全てをぶつけたつもりだった。それでも君には届かなかった……はぁ〜やっぱり強いよ君はっ!行けるっ!って思ったらさらに伸びるんだもの!またトレーニングを重ねないとね〜。」
エアグルーヴ「その時も今日と同じようにまた捻じ伏せてやるまでだ。」
バブル「次は絶対に勝つからね、じゃあ!」
バブルは私に再戦の意を伝えるとその場を後にした。内面では相当悔しい筈だ。それでもバブルは私を讃えてくれた。本気でそう思っているからこそ言えた言葉だろう。
エアグルーヴ「さて、私も使命を全うしよう。」
自身の走ってきたターフを小走りしながらサークルへと向かって行った。声援に応えるのも女帝になる為の道だ、怠る事など出来ん。だがどうせなら、トレーナーも此処に居て欲しかった………そしてアイツだけに手を振ってやりたかった………ふっ、高望みだな。そんな事、期待するだけ無駄だというのに。
エアグルーヴ「ありがとう、皆のおかげだ!」
私が来てくれたファンにそう言うと、拍手と歓声が一気に爆発した。これだけの人が讃えてくれている……嬉しい事だ。
まぁアイツもこの会場の何処かに………
エアグルーヴ「え………な、んで……?」
私がウィナーズサークルに到着すると、そこにはいつも観客席に居る筈のトレーナーが目の前に居た。
八幡「フジとルドルフとドーベルとファインに頼み込まれたんだよ。あの4人、俺に頭下げてまで頼み込んできたんだ。しかもドーベルに至っては引き止める為とは言え、俺の手を握ったりもしたくらいだ。ったく、お前に迎えなんて要らんって何度も言ったのに聞かなくてよ………」
エアグルーヴ「………」
八幡「まぁ………アレだ、改まって言う事でもないが、お疲れさん。良い走りだった。それと………優勝、おめでとう。」
エアグルーヴ「っ!!」
ドクンッ!!
………何故だ?何故なんだ?こんな、こんな何でもない、ただの祝いの言葉なのに………
エアグルーヴ「………」フルフル
なのに、どうして……どうして………
エアグルーヴ「………」ポロポロ
こんなにも心が、熱く満たされているんだ………涙が、止まらない………
八幡「えっ……マジかよ、やっぱ俺なんか居ねぇ方が良かっうおっ!!?」
エアグルーヴ「………」ギュー!
八幡「え、あ、そのぉ〜、エアグルーヴ、さん?」
エアグルーヴ「今は……今だけは、少しだけ……こうさせてくれ。」ギュー!
八幡「あ、あぁ………」
初めてだった………こんなにも心が満たされたのは。今まではトレーナーが来てくれてはいてもこの場所に来る事は無かった。私が不要だと言ったからだ………だが今日は、フジに会長やファイン、ドーベルの計らいのおかげで来てくれた……そればかりか祝いの言葉も言ってくれた。私はトレーナーから……八幡から祝いの言葉をかけてもらった事が無かった、だからなのかもしれん。いや、もしかするとそれも違う別の感情からきているのかもしれない。
エアグルーヴ「………もう大丈夫だ。済まなかった、礼を言う。」
八幡「いや、別に良いけどよ……大丈夫か?」
エアグルーヴ「あぁ………それとトレーナー。これまでの非礼、本当に済まなかった。」
八幡「え!?……あ、あぁいや、気にしてないからお前も気にするなよ。それに、俺も……なんか悪かった。気付いてやれなくて。嫌な思いをさせちまってたな。少しは機嫌を直してくれるとありがたいんだが………」
エアグルーヴ「あぁ、最高の気分だ……」
八幡「おぉそうか……え?最高?」
エアグルーヴ「さぁ行くぞ八幡!レースが終わってからも忙しいんだ!これからはお前も参加だ!」グイッ!
八幡「え、ちょっ、おい引っ張んなって!つか、え?待って、これからは俺も参加って何に?」
エアグルーヴ「決まっているだろう、勝利者インタビューに表彰式、この後の予定全てにだ!私の杖……いや、パートナーならそのくらい余裕だな、八幡?」
八幡「そんなにあるのかよ……ん?待って、ていうか何で名前呼び?」
気にするな、私がそうしたいだけだ………そしてこれからは共に歩むぞ、八幡。
そしてその後は勝利者インタビューを行ったのだが、2年ぶりのトレーナー参加に取材陣はどよめいていた。それもそうだ、この2年と数ヶ月の間ずっと姿を見せずに居たのだ。急な参加は驚きを隠せないものだった。その影響もあってか、インタビューはかなり長引いた。
そして表彰式だが………
八幡「………なぁ、写真撮影ってどうしてもやんないとダメなのか?」
エアグルーヴ「ダメだ。言っただろう、これからはお前も参加だと。」
八幡「いや確かに言ってたけどよ、コレって俺要らなくね?今更参加する意味ってあんの?」
エアグルーヴ「気にするな。今日からはお前も写真に写るのだ、そんな目をするな。」
それに、私がお前と共に写りたいという理由でもあるのだ。今まではそんな事は無かったからな。
八幡「コレは元からだ。」
エアグルーヴ「フフッ、そうだったな。眼鏡でも付ければ良かったのではないか?」
八幡「付けても付けなくてもどっちでもいい。」
カシャカシャカシャ!
パシャパシャパシャ!
八幡「俺、写真苦手なんだよなぁ………」
エアグルーヴ「私はカメラのフラッシュが苦手だ………」
八幡「せめて音無しとか閃光無しのスマホとかでやってもらいたいもんだ。」
エアグルーヴ「意見が合ったな、次の表彰式ではそうしてもらうか?」
八幡「(ん?次の?)それが取材陣に通ったらな。」
エアグルーヴ「そうだな。」
口取り式も終わって私達はウイニングライブが始まるまで控え室に居る。
八幡「あのさ、俺帰ったらダメなの?」
エアグルーヴ「………お前は私のライブを1度も見た事がないだろう?外で待っていると最初に言っていたしな。見ていくのも良いだろう、それとも……嫌か?」
八幡「いや、嫌というわけではないが………」
エアグルーヴ「ならばいいだろう。そして帰りは共に帰るぞ。此処は東京、トレセン学園には歩いても帰れる。」
八幡「……そうだな。」
エアグルーヴ「それに簡単な事だ、見ているだけでもライブは楽しめる。」
八幡(エアグルーヴの奴、色々と吹っ切れてやがる。遠慮無しだ………)
それからウイニングライブも滞り無く始まって、1日のレースが終わった。今日は八幡が居てくれたからか、いつも以上にライブが出来ていた気がする。
ーーー部室ーーー
整理整頓を心掛けているこの部室内では、棚に私がこれまで獲ってきたトロフィーが飾られている。阪神JF、桜花賞、オークス、秋華賞、大阪杯、宝塚記念………GⅠだけでも6つあるが、今日はそこに天皇賞が加わって7つ目になる。GⅡ、GⅢも含めると11になる。そして………
八幡「………写真もそこに飾るのか?」
エアグルーヴ「記念すべき日だ、共に撮った表彰式なのだ。いいだろう?」
八幡「分かったよ、お前の好きにしろ。」
エアグルーヴ「あぁ、そうさせて貰う。」
八幡「さて、明日と明後日は休みにする。トレーニング再開は2日後な。」
エアグルーヴ「あぁ、分かった。」
八幡「んじゃあ「八幡。」な……どうした?」
エアグルーヴ「今日は……ありがとう///」
八幡「………お、おう。」
………ふふっ、今日は最高の日だ。
よ、漸く……漸く2人が元の関係……いや、それ以上の関係に発展したよ!!