ブルボンside
………あんな風に怒鳴られたのは生まれて初めてでした。父にすらあんな風に叱られた事はありませんでしたし、この先そういう事も起きないだろうと思っていました。しかし今日、私の脚の違和感を……いえ、怪我を報告しなかった事でトレーナーは私に怒りとも呼べる注意をしました。そしてあの言葉が胸に刺さりました。
八幡『お前はデビューを迎える前に走れなくなりたいのかっ!?』
ブルボン「………それは、とても嫌です。」
ーーー栗東寮・食堂ーーー
心なしか、場の雰囲気が少しだけ暗く感じます。何故でしょう?それに何故か視線も感じます。どうして………っ!理解、先の事を見ていたからでしょう。私の怪我やあのトレーナーの言葉の事で私に注目をしているのでしょう。しかし私はあのトレーナーが悪人だとは思いません。寧ろ悪いのは私です。
私がトレーナーに報告をしていれば、あのような事にはならなかったのですから。
???「やぁ、少しお悩みのようだね?私でよかったら相談に乗るよ、ブルボン。」
ブルボン「………寮長。」
???「あはははっ、君は相変わらずだね。私の事はフジで良いと言っているのに。」
彼女はフジキセキさん。この栗東寮の寮長を務めている方です。そして先日の模擬レースでも圧倒的な力で1着を取った方でもあります。
ブルボン「悩み、ではないのですが、今日の事で少し………」
フジ「あぁ、あのトレーナーさんの事かい?僕も見てはいたけど、ちょっと言い過ぎにも感じたね。注意するのは良いとしても、いきなりバカはいただけないね。」
ブルボン「いえ、あれは私がトレーナーに報告をしていれば問題無かったのです。あのトレーナーの言う通り、私は怪我というものを甘く見ていたのかもしれません。なので、ああ言われて当然です。」
フジ「君がそう思うのならこれ以上私からは何も言わないけど、そうじゃないとしたら、君は何に耽っているんだい?」
私が悩んでいる理由………
ブルボン「………分かりません。私は一体、何に悩んでいるのでしょうか?」
フジ「……成る程、君自身もまだ分かっていなかったみたいだね。でも急ぐ必要は無いと思うよ。けどもし、悩みがあったらいつでも言うんだよ?これでも私はこの寮を預かる寮長だからね。」スタスタ
ブルボン「………了解。」
ーーー栗東寮・自室ーーー
私は、何故、いえ……何に悩んでいるのでしょうか?それが分かりません。しかし、そのせいで原因不明のモヤモヤを確認しています。とても落ち着きません………
???「ブルボンさん、大丈夫ですか?」
ブルボン「っ!すみませんフラワーさん、大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
フラワー「いいえ、寮長からも言われてたんです。ブルボンさんの様子を見てあげて欲しいと!」
彼女は私と同部屋のニシノフラワーさん。とても優しく、人当たりの良い方です。そして噂では、彼女の写しているノートは教師の教え方、板書よりも分かりやすいのだとか………
フラワー「無理はしないでくださいね?」
ブルボン「はい。」
フラワー「そういえばブルボンさん、今日の走りとても凄かったです!昨日よりも格段に速くなっていました!」
ブルボン「はい、トレーナーのおかげで速く走れるようになりましたから。」
フラワー「そうなんですか〜……そんな人が担当になったらとても心強いですね。」
ブルボン「っ!」
今、心が一気に軽くなった気がしました。あのトレーナーが担当になってくれたら?私のトレーナーに?
トレーナーとしての技術はまだ分かりませんが、私の事を速く走れるようにしてくれました。それだけでなく、私の身体の事まで気遣ってくれる方………
ブルボン「ミッションを追加【明日、件のトレーナーの元へと向かい、想いを伝える。】学園へ向かうの次に最優先事項だと判断。トレーナーを見つけ次第、ミッションに移行します。」
フラワー「えっと、ブルボンさん?」
ブルボン「フラワーさん、ありがとうございます。貴女のおかげで心のモヤモヤが無くなりました。」
フラワー「は、はぁ………」
私はらしくもなく、明日が楽しみになっています。
翌朝、私は学園に行く準備を済ませて寮を出ました。あのトレーナーを探す為に少しだけ早く寮を出ましたが、何処に居るのか分からない為、現在再計算中………その結果、昨日のコース場へと向かう事にしました。
八幡「………」
ブルボン「……見つけました。」
オペレーション、実行。
ブルボン「すみません。」
八幡「ん?おぉ、ブルボンか。脚は大丈夫か?」
ブルボン「はい、問題ありません。」
八幡「そうか、ならいい。これから授業だろ、どうした?」
ブルボン「はい。私が昨日、感じた事をトレーナーに伝えたかったので、こちらに足を運びました。」
八幡「そうか………それで?」
ブルボン「私は走りを終えた後、寮で悩んでいました。理由は分かりません。何故かは分かりませんでしたが、とにかく悩んでいました。心の中がモヤモヤしていました。寮長や同室の方にもご迷惑をお掛けしました。しかし、ある出来事によって私はそのモヤモヤが消えました。」
八幡「そ、そうか……それは良かったな。」
ブルボン「はい。その出来事がトレーナーの事だったのです。」
八幡「………どのトレーナーだ?」
ブルボン「貴方です。同室の方と昨日の走りについてお話をしたのですが、走り方を教わっただけで速くなった私を褒めてくれました。そしてその後にトレーナーの腕も褒めていました。その後にこう言ったのです、『そんな人が担当になってくれたらとても心強いですね。』っと。そして私の心のモヤモヤがは消えて、1つの願いが芽生えました。トレーナー、私は貴方に希望します。私のトレーナーに、つきましては私のマスターになって欲しいです。」
この人以外に、私を育ててくれるトレーナーは居ないと判断しました。
ブルボンまでもが八幡へ逆スカウトを………八幡ったら罪な人!!
少しではありましたが紹介っ!
今回出てきたのは、【幻の3冠馬】フジキセキとGⅠ3勝のニシノフラワーです。
フジキセキはサンデーサイレンス初年度産駒としても有名です。引退するまで全勝した馬ですが、怪我により引退………関係者の話では『無事に引退できていれば3冠を獲れていた。』と断言する程の馬だったそう。
ニシノフラワーは阪神3歳牝馬S(現在は阪神JF)、桜花賞、スプリンターズSを勝利した名牝です。この頃は短距離レースにまだ代表とも言える馬が現れていなかったのであまり注目はされていませんでした………しかし、史上最強スプリンターとも呼ばれているサクラバクシンオーや、安田記念連覇のヤマニンゼファー、マイルCS優勝馬のシンコウラブリイと激戦を繰り広げ、牡馬と五角に渡り合う程の牝馬でした。(シンコウラブリイは牝馬ですけど。)