フジside
フジ「………」
八幡「………」
高松宮記念……というよりも今日1日のレーススケジュールが終了して、私と八幡さんは2人でトレセン学園に向かっている。他の皆は気を遣ってくれたのか、電車で帰ったみたい。今日のレース、私は追いつけなかった………八幡さんがあれだけ協力してくれたのに………でも、私がこうなってるのはそれだけが理由じゃない。
フジ「……ねぇ、八幡さん。少し……停めてもらってもいいかな?」
八幡「っ!………この辺りに公園が無いか今探してみる、少し待ってろ。」
突拍子も無い私のお願いにも八幡さんは答えてくれた。それだけ今の私は見るに堪えないって意味かもしれない。でも、その通りだと思ってる。きっと泣き顔よりも酷い顔をしていると思うし。
ーーー公園ーーー
フジ「………」
八幡「……もうすぐ4月とはいえ、夜になると少し冷えるな。フジ、少ししたら行くからな。」
フジ「………」
八幡「……フジ?」
フジ「八幡さん、今日のレース………」
八幡「あぁ、完全に負けちまったな。まさか坂でもあれだけ伸びるとは思わなかった。流石と言ったところだ、今回のを含めて1,200mは1着3回と2着1回、中京では負け無し、もう少し警戒しておくべきだった。」
フジ「けど、私がもっと早くスパートをかけていれば「たら・ればの話はするな、もっと惨めな思いになるだけだ。」………」
八幡「阪急杯でも分かったが、フジは短距離でも良い走りをする。本領のマイルならもっと「八幡さんっ!!」っ!?」
フジ「………何で?」
八幡「……何がだ?」
フジ「何で……どうして?何で会見の時にあんな事を言ったの?」
八幡「いや、あれは本当の事だか「違うっ!!絶対に違う!!私が負けたのは絶対に八幡さんのせいなんかじゃないっ!!」……フジ。」
レース後の会見で、私と八幡さんは同じ席に立った。私も答えられる事は答えた。でも、八幡さんは………
ーーー回想・レース後会見ーーー
私にされた質問は今日負けた事よりも、無敗記録が破られた事や適性の事についてだった。当然、私はこのレースは自分から出たいと言ったし、長距離よりも走り切れる自信はあった。それを取材の方々にお答えした。
「フジキセキさん、ありがとうございました。続いて担当トレーナーに伺います。今回は残念な結果に終わりました。感想はいかがでしょうか?」
八幡「確かに惜しい結果に終わりましたが、次に繋がる走りとも感じています。この敗北を糧に次のレースに挑みたいと思っています。」
「フジキセキさんにも伺いましたが、長距離から短距離の距離短縮は無理があったのでは?」
八幡「いえ、前走菊花賞から約5ヶ月の時間がありました。調整するのは不可能ではないと思っていましたし、フジの距離適性は中距離ですが、マイル寄りの中距離。なので短距離でも問題は無いと確信しています。」
「高松宮記念2着と惨敗の結果でしたが、敗因があるとすれば何でしょうか?」
私はこの時、自分のスパートがもっと早ければあんなに引き離される事も無かったと思っていた。既に3人が前に居たのに、私はジッと後ろで脚を溜めていた。八幡さんも言っていた、短距離では駆け引きが一瞬で決まるって。駆け引きのタイミングが遅かった、そう答えると思っていた。
でも八幡さんは………
八幡「そうですね……私の慢心、ですね。」
フジ(………え?)
「それはどういう意味でしょうか?」
八幡「阪急杯を勝って今日の高松宮記念に参戦しました。心のどこかで『フジなら絶対に勝つ。』と思っていたんでしょう。彼女のトレーニングも順調そのもので、今日の動きも抜群でした。ですが自分の慢心や驕り、詰めの甘さが今回の敗因に繋がったと感じています。今日の彼女に不満に残った走りは1つもありません。責めるべきは詰めるべき物を詰まずに怠った私です。」
フジ(………どうして?)
ーーー回想終了ーーー
フジ「どうして自分を責めるような事を言ったの?あのレースは私の追い出しミスだよ……八幡さんが自分を責める理由なんて何にも無いよ。」
八幡「………いや、そんな事は無い。作戦の指示出しは俺がしてるんだ。勝てなかった最大の要因は俺にあるようなものだ。」
フジ「でも八幡さんは私に任せるって言ったじゃないか!八幡さんは私を信じてくれたからそう言ったんでしょ?だったらどうしてあの場で私のミスを言わなかったの!?」
八幡「………」
フジ「八幡さん!」
八幡「……もし言っていたらどうなったと思う?」
フジ「え?そりゃ私の采配ミス………っ!!」
八幡「そうだ。お前が言った通り、殆どのウマ娘はトレーナーと作戦を練ってレースに挑んでる。ましてやGⅠにもなれば作戦は1つや2つ組んでいてもおかしくはない。人気の奴が敗れて、そのトレーナーがウマ娘のせいにしたらどうなると思う?世間は一気にそのトレーナーを叩くだろうな。自分で出した作戦をウマ娘のせいにしてるんだからな。そんな真似を俺がしてみろ、良くも悪くも世間から目立ってる俺だ、お前達がやろうとしている事と真逆の結果になる。まぁどの道、良い方向には向かいそうには無さそうけどな。」
わ、私は………無意識に、八幡さんを?
フジ「ご、ごめん、なさい……八幡、さん。わ、私そんなつもりで、言ったんじゃ!」ポロポロ
八幡「分かってるし気にすんな……ってのは無理だな。まぁでも、俺がどうして自分を責めるような真似をしたのかは理解してくれたか?」
八幡さんは最初から私を守っていたんだ……私に悪い注目が行かないように、八幡さんが全部身代わりになって。でも、それって………
フジ「そ…れじゃあ、八幡さんは………」ポロポロ
八幡「まぁ、それはどんな内容が出るかによるな。けどまぁ俺達はウマ娘あっての存在だ。それにちょっとやそっとの悪口なんて、俺にとっては今更だしな。」
フジ「………く、くぅ〜!」ポロポロ
私は最低だ……八幡さんにあんな事を言わせてしまった。八幡さんを傷付けたのは私なのに、それを私のせいとも言わない……力の無い私自身が憎い……大嫌いになりそう……
ギュッ!
フジ「っ!」
八幡「今は泣け、少しでもいいから吐き出せ。」
フジ「くっ、ふっうぅ、うぅ〜!!」ポロポロ
八幡さんに私は身体を八幡さんに預けたまま、声を殺して泣いた。今日の情けなくて、不甲斐無いレースと守られている事にも気付かずに八幡さんを責めてしまった私自身を呪いながら。
フジ、自分を嫌いにならんくてもいいんだよ?