エアグルーヴside
あの後、2000mに2400mを走った私はトレーナーから評価を貰ったが、私自身かなり低いと思っている。そして今日のトレーニングは私の走りを見るだけに留まり、残りの時間はミーティングを行う事になっている。一体何を話すのだろうか………
エアグルーヴ「………70点、75点に……60点。よりにもよって私の1番欲しい冠の評価が1番低いとはな。他のトレーナーからの評価ならばまだ反論していたかも知れんが、比企谷にはしても無駄だろう。だが、それも改善・克服をしていけばいいだけの事だ。こんな事で躓いている場合ではない。」
ーーー部室ーーー
エアグルーヴ「待たせたな。」
八幡「いや、大丈夫だ。早速だがいいか?」
エアグルーヴ「あぁ、大丈夫だ。」
八幡「ん、じゃあ本題から行く。お前の今日の走りを見て、メイクデビューを札幌の2000mにした。理由も説明した方がいいか?」
エアグルーヴ「あるなら頼む。」
八幡「理由は3つある。1つはコーナーだ。札幌は直線よりもコーナーの方が長い。コーナーで前との差を詰める展開を覚えてもらう為だ。2つ目は距離だ。」
エアグルーヴ「少し待て。距離と言ったが、2000mの距離は1番評価が高かった。その距離で行くのか?」
八幡「そうだ。それにデビュー戦は2000m以上のレースは無いしな。それと、さっき距離とは言ったが、正確には札幌の直線だ。札幌は中央の競バ場の中でも直線が約270mと2番目に短い。直線を向いてからスパートを掛けても追いつけないケースがある。まぁ1つ目のコーナーがちゃんと出来ていれば楽に勝てると言ってもいい。」
エアグルーヴ「成る程………理解した。それで、3つ目は何だ?」
八幡「3つ目は今後の為だな。ジュニア級では2000mをこの新馬戦の1度きりしか走らない。残りは1600mのレースにするつもりだ。今後1番大きいレースに出るとするなら確定で桜花賞だが、その前にも阪神JFがある。そして競バ場を除けば、秋華賞と同じ条件だ。それに向けての調整だと思え。1度のレースで結構なお得だろ?」
エアグルーヴ「………」
正直、私は今までの目の前に居るトレーナーを見て知識はあるが、それ以外はどうだろうと考えていた。幾ら知識が豊富でもそれを有効に活用できなければ意味は皆無だ。それがどうだ、この男は?今後の私の方針を理解した上で話を進めている。それに加えて、クラシック級の話も併用しながら今後の事を進めている。目先だけでなく、1年後の事まで見据えている………
八幡「どした?急に黙り込んでよ。」
エアグルーヴ「……いや、お前の評価を改めなければと思ってな。」
八幡「俺の評価なんてどうでもいいだろ。あってもなくてもただのトレーナーだ、それ以上でもそれ以下でもねぇよ。まっ、気持ちは受け取っておく。んで話を戻すが、デビューに関してお前から何かあるか?」
エアグルーヴ「いや、特にない。私自身、お前の説明に納得した。他にはあるか?」
八幡「………そういやお前の目標って何だ?」
エアグルーヴ「何?」
八幡「いや、そういうの一切聞いてねぇなって思ったからよ、聞かないとそういう計画立てられないだろ?」
エアグルーヴ「貴様、理解していたのではないのか?」
八幡「いや、してねぇよ?」
エアグルーヴ「では何故ティアラ路線にしたのだ?」
八幡「そんなのお前が『【女帝】として、ウマ娘の理想を体現する為』って言ってたから。【女帝】になるのに3冠路線を走るのはおかしい思ったから。だからティアラ路線だろうなって。」
………前言撤回しよう。コイツの評価は現時点のままにしておこう。
エアグルーヴ「はぁ……まぁ私の目指す路線だから文句はあるまい。だがそういうのは最初に聞け。」
八幡「そうするわ。」
エアグルーヴ「お前の言っていた通り、全てのウマ娘の理想を体現、そしてそれを【女帝】として示す事だ。私の母のようにな。」
八幡「……そうか。なら今後の路線にヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯に出走する事も視野に入れておく。ティアラタイトルだけじゃ寂しいしな。」
エアグルーヴ「今から決めて良いのか?」
八幡「あくまでも視野に入れておくだけだ。不安が出来たら取り消す事も考える。今は取り敢えずデビュー戦に向けての調整をしていく。内容次第で次のレースを決める事にする。」
エアグルーヴ「分かった。ならば今日はこれで解散か?」
八幡「そうだな、これで終わりにする。明日からは本格的に始めて行くぞ。デビュー戦まで3ヶ月、長いように感じるだろうが、お前の克服点を改善すると考えれば期間は短いと思え。謂わば準備期間と改善期間だ。」
エアグルーヴ「あぁ、分かった。」
こうして今日のトレーニングとミーティングは終了した。まさか初日からクラシック級の話が上がるとは思わなかったが、昨日の奴とは反して頼りがいのある感じになっていた。あれが普段からできていれば文句は無いのだが………
エアグルーヴ「面倒だが、奴にもマナーや礼儀作法というものを教えてやるか。」