八幡side
芙蓉Sまで残り1ヶ月まで迫って来ている中、ライスはいつもと変わり無くトレーニングをしている。しているのだが………今の段階でこの状況は正直物足りない。俺の考えたトレーニングでは最大限の事をしてはいるのだが、やはり限界はある。最後の直前のスパート、あれをどうにかしないと自慢のスタミナがあっても無駄になる。ライスの脚をどうやって磨くか………
今のライスに足りない物、それは瞬発力だ。それがあれば重バ場でも能力を発揮出来るし、スパートでも前にグッと進める事が出来る。それにライスの脚質は先行一択、前を追い抜くのであれば尚更必要だ。それに後ろに抜かれないだけのスピードも身につける必要がある。欲しいものはかなり多いが、このくらい求めなければ勝つなんて無理だからな。
だがライスには他のウマ娘と致命的に違う点が1つある。それは……体幹だ。俺はライスの担当になってから毎日走る姿勢や腕の振り方、脚の使い方や振り幅なんかを徹底して見ている。まぁ当たり前の事だけどな……まぁそれはいいとして、ライスの走り方は1度たりとも変えてない。相手を抜かす為に横に寄れても無駄な動きは一切しない。最低限の動きだけでそれをやるんだから驚かされた。
担当になって半年になる、にも関わらず修正を入れる必要が無いのだ。それだけ身体に自分のスタイルを無意識に覚えさせているのだと感服したくらいだ。
となると、問題は今のスタイルでどんな風にスピードと瞬発力をつけていくのか、という事だ。どうしたものか………それにしても。
ライス「……んんぅ〜。」スヤァ…
八幡「昨日眠れなかったらしいが、一体何してたんだ?まっ、体調も優れない状態でトレーニングをしても仕方ないしな。今はゆっくり休んでもらおう。」
同室はロブロイだから夜遅くまで何かを、ってのは考えづらい。なら同じ寮の誰かって事になるが……あまり想像がつかない。美浦寮って騒がしい奴……タイキか?いや、エルもあり得るな。ちょっと待って、美浦寮の騒がしい奴ってこの2人以外居なくね?
コンコンコンッ
八幡「ん?どうぞ。」
カフェ「失礼、します。」
八幡「……お前が来るなんて初めてだな。」
カフェ「はい、初めてです。それに何だか、居心地も良さそうなので来てしまいました。」
八幡「………もしかしてそれだけ?」
カフェ「いえ、違います。ライスさんは……どうやらお休みのようですね。」
八幡「あぁ、昨日寝付けなかったらしくてな。理由は聞いてないが、何かあったのか?」
カフェ「……実は少しだけ怪談を。」
あぁ、今ので察したわ。きっと怪談の話が怖くて寝付けなかったんだろう。想像つくわ〜……それにロブロイもそういうの苦手そうだしな。
八幡「それでこうなったのか……」
カフェ「はい。ライスさんとロブロイさんが一際反応していたので、少し心配になってきてみたのですが、どうやら今は大丈夫そうですね。」
八幡「流石に寝不足の状態でトレーニングは出来ないからな。わざわざありがとうな。」
カフェ「いえ……そういえば、トレーナーさん。お聞きする暇が無かったのですが、私達生徒に兄と呼ばせるのが好きなのでしょうか?」
八幡「………それ、俺が呼ばせてるわけじゃないから。君達ウマ娘が勝手にそう呼んでんの。」
カフェ「ふふふっ、冗談です。トレーナーさんがそういう人ではない事くらい、ちゃんと分かってます。」
八幡「それは何よりだ。んで、今お友達は?此処に居ないのか?」
カフェ「お友達なら、今はタキオンさんの研究室でお仕置き中です。」
八幡「お仕置き?」
カフェ「はい。また私のコレクションを変な色に光らせてしまったので。何をするのかは分かりませんが、きっと無事では済まされないでしょう。」
八幡「おいおい、それってお前のスペースは大丈夫なのか?一緒の部屋なんだろ?」
カフェ「……何故か被害がありません。」
これが幽霊の超能力なのかねぇ?
カフェ「……さっきの話の続きですが、トレーナーさんの事は兄とお呼びした方が「やめてくれ、いつも通りで頼む。」……そうですか、ではこれまで通りトレーナーさんと。」
八幡「あぁ、それで頼む……そうだ、せっかく来たんだしコーヒーでも飲むか?お茶菓子もあるぞ。」
カフェ「っ!いただきます!」
八幡「んじゃ、待っててくれ。」
途端に目の色変えやがって……分かりやすい奴だ。
八幡「ほい。」
カフェ「ありがとうございます。お茶菓子も美味しそうですね、これもトレーナーさんが?」
八幡「あぁ、偶に作ってる。」
カフェ「最初の頃のマカロンといいコレといい、トレーナーさんは多彩な方ですね。」
八幡「トレーナーにしては、だろ?まっ、やろうなんて最初から思わなければ普通はやらないしな。」
カフェ「……それはどういう?」
八幡「気にするな、トレーナーになる前の話だ。コーヒーが欲しかったら言え、また淹れてやるから。」
カフェ「………お兄さん。」
八幡「おい、だから兄はやめろ。」
カフェ「ですが、この面倒見の良さは兄と呼びたくなるのに充分過ぎる理由だと思います。」
八幡「……こういうところに理由があったのか。」
自分から誰かに施すの、止めた方がいいか?
ライス「ダメだよぉ〜……おにぃさまぁ〜。」スヤァ…
寝不足の理由はカフェによる怪談。