八幡side
八幡「よしっ!」
黒沼「……負けた、か。」
南坂「ブルボンさんとタンホイザさんはどちらが先着したかまだ分かりませんが、掲示板待ちですね。けどブルボンさんがやや有利に見えました。」
黒沼「ふっ、だが今回は比企谷に負けちまった。良いところまでは行ってたと思うんだが、やはり適性の問題もあったな。」
八幡「えぇ、でも次のレースで決着つけましょうよ。これでお互い3戦1勝1分1敗なんですから。」
黒沼「あぁ、その時までにブルボンを仕上げておかねぇとな。次こそは勝つぞ。」
八幡「望むところですよ。」
南坂「あ、あの……お2人共。良い雰囲気を壊すようで申しわけ無いのですが、なんかおかしくありませんか?なんていうか、周りの空気というか……」
……空気がおかしい?
………そういややたらと静かだ。GⅠレースだっていうのに歓声1つすら無い、ていうよりも……何だ?まるでヒソヒソと囁かれているような嫌な雰囲気………
八幡「何だ、この空気………何か分かります?」
黒沼「いや、俺にも分からねぇ。こんなのは今までで初めての事だ。」
南坂「僕もです。異様ですよね………」
♪〜♪〜
ん、電話……桐生院から?
八幡「はい、比企谷です。」
葵『もしもし比企谷君!今って何処に居ますか!?』
八幡「トレーナー専用の観客席だが……何だ、どうかしたのか?」
葵『だからそんなに落ち着いてるんですね……なら話しやすいです。私も今、京都レース場に来ていて一般席で観戦していたんですけど、周りの人達が……その、落胆の声というか、ライスさんを中傷するかのような発言をしていたので。』
八幡「はぁ?何でだよ……どういう事だよ?」
葵『………周りの人達はブルボンさんの3冠達成を夢見ていたのではないでしょうか?それがライスさんの先着で潰えてしまった……去年のトウカイテイオーさんが無念の骨折で菊花賞回避という事もあったので、今回それが余計に大きくなってしまったんだと思います……』
………つまりアレか?ブルボンの3冠達成が見られなかったからこんな空気になってるって事か?何だよそれ……そんなのただのテメェの都合じゃねぇか!
葵『それと私、聞いちゃったんです……誰かは分かりませんけど、ライスさんに向かって『ミホノブルボンが勝つところを観に来たんだよー!』とか『こんな結果になるんだったら来るんじゃなかったー!』とか、良くない言葉が飛んでいました。』
っ!!!ライスは!?
八幡「ライスッ!!」
俺が観客席からライスを探した。すぐに見つかったのだが、ライスは控え室に向かっている途中に見えた。だがその背中が余りにも辛そうに見えてしまい、今にも消えてしまいそうなくらい酷く小さな背中に見えた。
八幡「……済まん桐生院、もう切る。【ピッ】すいませんけど行かせてもらいます。」
黒沼「あぁ、マズいみたいだからな。」
南坂「早く行ってあげてください。」
八幡「………」コクッ
ーーー控え室ーーー
八幡「………」
……なんかもう分かる、空気が重い。それだけ応えたって事だよな。
八幡「……ライス、居るか?俺だ。」
ライス『……入って、良いよ。』
八幡「っ!!」
今の声を聞いて俺はすぐに扉を開けた。それもその筈だ、今の声………明らかに涙声だった。中を開けてライスを見ると、GⅠを勝てて嬉しい筈なのに歓喜という表現すら無かった。寧ろその反対だった。耳は完全に垂れていて尻尾も活力が無く、本人も向こう側を向いたまま俺の方を見ようとしない。
ライス「………」
八幡「……ライス、聞いちゃいけないってのは分かってるが聞かせてくれ。周りの連中の声、お前には聞こえてたのか?」
ライス「………」コクッ…
八幡「……そうか。」
確かに、周りの期待ってのはライスが勝つ事じゃなかったかもしれない。それこそミホノブルボンの無敗の3冠っていう瞬間を見たかったのだろう。だからといってあんな事を言って良いわけが無い。
ーーー取材ーーー
インタビュアー『菊花賞勝利です!今日の勝利、どんな気持ちですか?』
インタビュアー『ミホノブルボンさんの3冠達成がかかったレースを見事に阻止しましたね?』
インタビュアー『やはりライバルに勝てたという意味での勝利は格別ではないでしょうか?』
……台本形式でやっているのだろうが、俺にはこの質問がライスを追い詰めているようにしか聞こえなかった。その証拠にライスの表情は益々暗くなっていた。
その後ウイニングライブでもライスへの応援ではなく、ブルボンに対しての期待や励ましの声が多かった。ライスに対する応援の声は音源やヒソヒソ声で掻き消されてしまう程に小さ過ぎるものだった………
ーーー電車内ーーー
ライス「………」
八幡「………」
勝ったというのに、雪辱を晴らしたというのにこの空気だ。GⅠを勝ってこの空気ってあり得るものなのだろうか………これじゃライスが報われない。
ライス「……ねぇお兄様、ライスって走らない方が良かったのかな?」
八幡「何言ってんだ、そんなわけねぇだろ。周りの連中の声なんて気にするな。確かにお前がブルボンの3冠を阻止したのは事実だ。けどそれはアイツ等の事情だ、俺達が気にする事なんてねぇよ。俺達は全力を尽くして、その結果勝てたんだ。誰がなんて言おうと俺はお前の勝利を祝福する。有象無象の言う事なんて、自分の夢見てた事が見れなかっただけで愚痴こぼしてるだけなんだからな。見たきゃ自分で3冠路線全部走ってこいって言ってやれば良いんだよ。」
ライス「……う、うん。」
八幡「大丈夫だ。お前の勝利を信じてくれていた人だって居た筈だ。俺もお前の勝利を確信していたんだからな。お前は自分の力を全て出し切ってあの結果だったんだ、胸を張ってれば良いんだよ。」
ライス「……ありがとう、お兄様。」
………とは言ったものの、ライス完全に凹んじまってる。ライスの性格じゃ無理も無いのかもしれないが、今後どうしたものか………
ライスは何も悪い事してないもん!!!!!
悪者扱いした世間が悪いんだもん!!!!!