八幡side
目の前に居る取材班の人達もだが、画面の前の人達も色んな事考えてるだろうな。特に北海道の人達は泣いて大喜びしてそうだし、東京の人達は不満たらたらだろう。けどまぁ、それもそれでURAや俺に非があるわけではない。責められる事はあるかもしれないが、返し文句はこうだ。
『え?じゃあ6月まで観戦の中止を延期にした方が良かったですか?こっちは別に俺とライスの希望を取り消しても良いんですよ?』
コレに限る。そしたら不満を持った奴等なんて何も言えなくなるからな。本当ならウチに来た手紙の送り主を晒してやっても良いんだが、それをやってしまうと俺もアイツ等と同じになる。それは絶対にお断りだ。
スピード「6月2週目のレースが終わり次第、中央レースの観戦を再開する事を約束する。しかし、一応これも告げておこう。もし万が一……いや億が一にも今回と同じような騒ぎが何処かのレース場で耳にするようであれば、また同じような処遇を執行させてもらう。これは警告でもあるが、その時は1ヶ月半なんて生温い数字では済まないと思って頂きたい。」
司会「それは、今回よりも長い期間の観戦中止を執行する、という意味でしょうか?」
スピード「どう捉えるかは君達に任せる。しかしこれだけは言える、軽率な行動や軽はずみな発言は慎んだ方が良い、とな。」
司会「……ありがとうございます。」
スピードシンボリさんは一応、釘を刺しておいたという感情なのだろう。多分これは全国民が気をつけなければならないと思ったに違いない。天皇賞のような事を繰り返せば、今度は更に重い処分を下すと言っているのだから。どんなに鈍感な奴でもこれには気付くだろう。
司会「それでは次に、日本ウマ娘トレーニングセンター学園のトレーナーである比企谷八幡さんです。」
八幡「ご紹介に預かりました、中央トレセン学園に所属するトレーナーの比企谷です。今回は皆さんにご報告したい事があってこの場に来ました。その内容は………ライスシャワーの次走についてです。」
俺はこの前までライスの次走を未定のままにしていた。しかし漸く次を決める事が出来た。これも全て、スイートさんのおかげだ。
司会「ライスシャワーさんの次のレース、それはやはり春のグランプリの宝塚記念でしょうか?」
八幡「いえ、違います。今のライスシャワーは天皇賞でのレース後でまだ万全と言えるような状態ではありませんので、宝塚記念には出走しません。次のライスシャワーのレースは
日本より遥か西の大陸、欧州のフランスの首都にあるパリ・ロンシャンレース場にて行われる長距離レース、ロワイヤリュー賞に決定しました。」
この発表に室内は騒めき始めた。それもそうだ、普通なら宝塚記念か目黒記念、もしくは夏の札幌記念に出走するのがセオリーだ。それを全て破って海外遠征だ。
司会「ど、どうして海外遠征という決断にまで至ったのか、理由を聞かせてもらえませんか!?」
八幡「初めにも言いましたが、1つはライスシャワーの調子が万全では無いからです。今のまま宝塚記念に出走しても得られるものは何も無いでしょう。何より天皇賞前に行ったトレーニングの負荷があまりにも大きい、自分と担当の間で決めていた事ですので後悔はありません。ですが結果を出したいあまり、体調や調子を考えずに目先のレースに出てしまっては元も子もありません。なので、6月と7月の期間はライスシャワーの体調面や精神面の回復期間、8月と9月は追込と調整期間として10月のレースに臨む流れです。」
司会「それならば、海外でなくとも日本でも良かったのではありませんか?」
八幡「勿論それも検討しました。国内で専念するという形も取れるのは確かです。しかし自分はこう思っています。長距離の舞台でならば、ライスシャワーは世界でもトップクラスだと。正直に言いますが、ライスシャワーは中距離の適性はありますが、確実に勝てると言える程の適性ではありません。これまで出走してきた中距離のレースは皐月賞を除けば勝利を納める事は出来ていますが、ライスシャワー本来の力を発揮出来てはいません。(今のは流石に方便だけど。)
しかし長距離であればライスシャワーの持つ能力を最大限まで発揮する事が可能です。その証拠に天皇賞ではメジロマックイーンを下せましたからね。これは本人やメンバーの前でも言いましたが、メジロマックイーンが中長どちらも卒なくこなせる中長距離タイプだとすれば、ライスシャワーは中距離も走れる長距離特化型タイプだと。話が逸れましたが、これから先は長距離のレースが秋になるまで殆ど無いと言っても良いくらいありません。なのでそれまでは準備期間として本番までじっくりとライスシャワーを仕上げ、来たるフランスのレースに臨む次第です。」
その方がライスの株も上がるだろう。善戦でもすれば良い方だ。それなら世間もマックイーンが負けたってのも頷けるって意識が持てるかもしれないからな。まぁそれでも俺はライスに暴言を吐いた奴を許すつもりは無いけど。
司会「ではもう既にライスシャワーさんの調整は始まっているのでしょうか?」
八幡「勿論始まってます。今は本来の調子を戻す事からやってるので、ハードな事はやらせないようにしてます。回復期間ですから。」
それからも幾つかの質問をもらってそれに答える形を取っていた。中々に長い会見だったが、何事も無く会見は終了した。とりあえず無事に終わって良かったと思ってる。
ライスの次走、10月のパリ・ロンシャンで行われるロワイヤリュー賞!