ルドルフside
12月最後の日曜日がやってきた……つまりは今年の総決算とも言われるグランプリレース、有マ記念が開催される日だ。テイオーもそのレースに出走する。しかも1年ぶりという形でだ……正直に言って、勝てる可能性は5割も無い。1年もの間レースを出ずに勝利をした前例なんて今までに無い。世界中を探してもだ。それに加えて宝塚記念前の3度の骨折での挫折、あの場では何とかツインターボのおかげで乗り切ったが、その時の事情とはワケが違う。
八幡「気になってしょうがないって顔だな。」
ルドルフ「っ!」
八幡「俺が気付かないと思うか?テイオーの事を考えているんだろう?お前が気にしないわけない。」
ルドルフ「……あぁ。レースに出るのは去年の有マ記念以来1年ぶり、普通に考えて勝てるわけがない。」
八幡「だろうな。それに俺達はチーム・スピカを加えて他の陣営のトレーニングを見てはいない。どんな調子、どんな作戦で行くのかなんて分からない。加えてテイオーは骨折から復帰して間も無いから満足なトレーニングが出来ていない。それはお前も分かるだろ?」
ルドルフ「………」
八幡「だが俺が最後に見たテイオーの顔は、ダービーの頃とも天皇賞の時とも違う。よく分からんが、いつも元気なイメージとはかけ離れていた。まるで何かが乗り移ったかのような感じだった。」
ルドルフ「……兄さんにはそんな風に見えたのか。」
八幡「まぁな。どうなるかは分からんが。」
………テイオーの姿は15時半にならないと姿が見えない。それまで時間を潰さなければならないのだが、むぅ……やはりどうしても気になってしまうな。
シービー「楽しみだねぇ〜今日のレース!」
ライス「有マ記念ですからね、お母様とお父様も楽しみにしてるんだよ!」
シービー「まぁでも?ルドルフはそれどころじゃないみたいだけど。」
ルドルフ「す、済まない……」
ライス「テイオーさんの事が気になってるんですよね?お兄様も言ってたから。」
八幡「ルドルフの今年1番の失敗だろうな。」
ルドルフ「あはは、兄さんの言う通りだな。あぁライス、勘違いしないでほしいのだが、この地に来たのが間違いだったと言っているわけではない。私だけ早く戻っておけばと思っているのだよ。」
シービー「お気に入りのテイオーと電話しちゃえば?そしたら少しはマシになるんじゃない?」
ルドルフ「……そうだな、そうしてみよう。」
ーーー15:20ーーー
ルドルフ「………」
……そろそろだろう。しかし今通話をしては迷惑だろうか?いやしかし、レース前の激励を送りたいのも事実。むぅ………ままならないものだ。
八幡「何してんの?」
ルドルフ「っ!?に、兄さん……」
八幡「掛けてやれ。多分、お前の言葉が1番アイツの心に火を付ける。他でも無い、トウカイテイオーが憧れたお前だからこそだ。」
ルドルフ「………しかし、私はまだ「デビューしてるしてないの問題じゃねぇよ。要は、お前が伝えたい事をテイオーに伝えてやりゃあそれで良いんだよ。悩む必要なんてねぇ。」………」
………
piッ!
prrr…prrr…prrr…prrっ!
ルドルフ「っ!」
テイオー『カイチョー、突然どうしたの?』
ルドルフ「いや、済まない。迷惑かと思ったが檄を飛ばそうと思ってね。」
テイオー『ううん、そんな事無いよ!カイチョーとお話し出来てボクは嬉しいよ!!』
ルドルフ「そうか。その服、ダービー以来だな。」
テイオー『うん、今日はこれで走りたくて………』
ルドルフ「そうか………っ!」
画面が僅かに揺れている。武者震い、とは違うものだな。テイオーも少なからず、怖いのだろう。
テイオー『ねぇ、変な事聞いても良い?』
ルドルフ「ん?」
テイオー『会長は……どうしてた?絶対に勝ちたい、そういう気持ちの時。』
ルドルフ「……難しいな。レースに出る全員、勝ちたい気持ちは同じ筈だ。勝利の為に己を錬磨し、力を高め、集中し、勝負に挑んでいる………にも関わらず、例えどんなに万全で最高潮だっとしても、勝負に綾はある。レースに絶対は無い。」
目の前のテイオーの瞳が揺れているのが分かる。
ルドルフ「だが……」
テイオー『っ!』
ルドルフ「自分の中にある信念……絶対に揺るがない気持ち……これは、誰にも動かせない。」
テイオー『………』
表情に覇気が戻ったな……これで大丈夫そうだ。
ルドルフ「少しは参考になったか?」
テイオー『うん!ありがと、カイチョー。』
ルドルフ「さて、そろそろ切るよ。私は生徒会長故に個人を応援する事はしない。しかし、【生徒会長】としてではなく、1人のウマ娘【シンボリルドルフ】として君を応援している。」
………ふぅ。
八幡「お疲れさん、まるでお父さんみたいなお堅い激励だったな。」
ルドルフ「……言わないでくれ。」
八幡「まっ、後はアイツ次第だ。後は応援するだけだ。そうだろ?」
ルドルフ「あぁ。あ……」クラ…
八幡「おっと……通話1本するだけでそんなに緊張してたのか?お前らしいと言えばお前らしいが……」
ルドルフ「はは、済まない、情けない姿を見せてしまった……もう大丈夫だ。「レースまでほんの少し時間がある、少し気を抜いておけ。腰抜かした状態で下に行ったら、逆に不安がられるぞ。」………では兄さん、少しだけ身体を借りるよ。」
八幡「おう……」
私は兄さんの身体に自身を預けて目を瞑った。今まで何とも思っていなかったが、不思議と兄さんには甘えられる。今まで頼られる事は多かったが、私が誰かにこんな風に頼った事は無かったな……
ライスの実家でテイオーのレース観戦!