八幡side
ーーー病院・集中手術室前ーーー
八幡「………」
俺は座りながら指を絡ませて祈る事しか出来なかった………ライスが病院に搬送されてからどのくらい経ったかだろうか?今でも目の前には赤いランプで灯され、手術が継続されている。しかも集中手術室だ。これだけでも分かる、ライスの状態が一刻も争う事態だという事が。
ライスが転倒したあの瞬間、あの瞬間だけ嘘だと思ってほしいと何度も思った……だが現実はこうして目の前に突きつけられている。いや、もうその事を考えるのは止めだ。今はただ、ライスの無事を祈るだけだ………
八幡「頼む………ライスを、助けてくれ………」
ーーー数十分後ーーー
ルドルフ「っ!兄さん!!」
シービー「八幡っ!!」
八幡「っ……お前達、それに先生……プロフェッサー。勝手に出て行ってすみません。」
マンノウォー「いや、責めるつもりなんて毛頭無い。寧ろあんな事が起きたのだ、優しいお前がジッとしてなどいられないだろう。」
八幡「………」
タリアト「……今も手術中のようだな。」
八幡「はい……なんかもう祈る事以外他に何かやろうとも思えなくて………時間って分かりますか?」
シービー「あたし達は全部のレースを見終わってから病院に来たから、大体1時間くらいかな。」
八幡「……そうか。」
1時間しか経ってないのか……なんかもっと長く経っているような気がしてたのに、まだそれだけしか進んでないのか。
ルドルフ「兄さん、きっとこの後にも大勢の生徒やトレーナーがこの病院に訪れると思う。ライスは今や日本ウマ娘界の宝とも言っていい存在だ。その状態が気にならない人が居ないわけが無い。現に外では沖野トレーナーとチーム・スピカ、東条トレーナーとチーム・リギル、黒沼トレーナーとミホノブルボン、南坂トレーナーとチーム・カノープス、メインTに後輩トレーナー、兄さんのの同期トレーナー達やライスと親しい友人達も既に外で待っていたよ。皆それぞれ不安な様子だった……」
八幡「………」
タリアト「今は待つしかあるまい。私達に出来る事はライスの無事を祈る、それだけだ。この病院の医師達の力を信じてな。」
シービー「………ねぇ八幡、何か食べに行こうよ。」
八幡「……はぁ?お前この状況「こんな状況だからだよ。だって八幡、何も言わなかったら絶対此処でずっと待ってるつもりでしょ?それはダメ、少しでもいいから何か食べないと。」いや、けど………」
マンノウォー「そうだな。タリアト、お前は八幡と2人を連れて軽く食べられる所に行って来い。私がその間、此処で待とう。」
タリアト「師よ、それなら私が残る。この場は私が「私がお前に2度も同じような苦痛を与えるような愚かな師匠に見えるか?」っ!」
マンノウォー「弟子が後輩、孫弟子が担当ウマ娘、形は違えどその苦痛は私では計り知れない。それを知っているお前と八幡は宝塚記念のあのレースはトラウマものだろう。今、八幡の心を1番に理解してやれるのはお前だけだ。八幡の傍に居てやれ。」
タリアト「………分かった。」
俺達はプロフェッサーを残して、何か軽く食べられる店へと向かったのだが、食べはしたものの味を全く感じなかった。今は一刻も早くライスの現状を知りたかった。
ーーー1時間後ーーー
タリアト「師よ、戻ったぞ。」
マンノウォー「……随分と早かったな。」
八幡「居ても立っても居られないですよ。」
マンノウォー「……そうだろうな。」
すると、手術中のランプが消えた。
ガチャッ
医師「……手術は成功しました。それと命に別状はありませんのでご安心ください。」
シービー「はぁ………良かったぁ〜………」
医師「……貴方が担当トレーナーですね?細かいお話は別室で致しましょう。」
八幡「はい、お願いします。」
ーーー個室ーーー
医師「まず、ライスシャワーさんの容態ですが、左脚の開放脱臼に二重骨折と重傷です。加えて二重骨折ですが、後少しのところで粉砕骨折に至るところまで来ていましたので、不幸中の幸いと言ったところでしょう。次に開放脱臼ですが、これも不幸中の幸いと言っていいでしょう。これがもしもっと深い損傷だったら、2度と歩けなくなっていたかもしれません。」
八幡「………」
医師「少なく見積もっても1年半、長くても2年は治療とリハビリに専念する事になるでしょう。それと、1番気にしているであろう彼女の今後についてですが………レースへの復帰は諦めるべきです。たとえその意志があったとしても、絶望的です。」
八幡「っ………」
医師「もし怪我が完治したとしても、以前のような走りを身に付けるのは非常に困難な上にとても現実的ではありません。彼女の為にも最善の判断をしてあげてください。」
ーーー外ーーー
八幡「………」
ルドルフ「っ!兄さん!」
沖野「おい比企谷、大丈夫なのかライスシャワーは!?どうなったんだ?」
テイオー「ねぇ、ライスはどうなったの!?」
ブルボン「トレーナー、私も気になります!ライスさんは、ライスはどうなったのですか!?」
タンホイザ「トレーナー、私にもっ!!」
ロブロイ「ト、トレーナーさん!!」
黒沼「お前等落ち着け!!寄って集って来られたら言い難いもんが返ってもっと言い難くなるだろ。」
沖野「……そ、それもそうだな。悪い比企谷。」
タリアト「だが、ライスの容態は此処に居る誰もが気にしている。八幡、医師はなんと言ったんだ?」
八幡「………左脚の二重骨折、開放脱臼だそうです。最低でも1年半は治療とリハビリ、レースへの復帰は絶望的、だそうです。」
シービー「嘘………」
テイオー「それって、もうライスは走れないって事なの!?ねぇトレーナー!?」
ルドルフ「止せテイオー。」
テイオー「でもカイチョー!」
ルドルフ「この中で1番心を痛めているのは兄さんなんだ!今のライスの事を聞いて、平静でいられるわけが無い。声を荒げてやるな。」
テイオー「………」
八幡「………なぁ、誰か教えてくれ……何でだ?何でライスばかりが、こんな目に遭う?」
『………』
八幡「やっとだろ……やっと陽の光を浴びられるようになったんだぞ?【ヒール】だの【マーク屋】だの【刺客】だのと呼ばれていたライスが、やっとあったけぇ声援を送られるようになったんだぞ?」
タリアト「………」
八幡「それなのに、また暗闇に落とすのか?これからだろ!?アイツが、ライスが陽の光浴びながらレースをしていくのはこれからだろ!!?それが、何でこんな目に遭わなければならない!!?ライスが何をしたってんだっ!!!?」
ダァン!!!!
タリアト「八幡………」
俺は近くにあった木に向かって思わず拳を叩きつけた。だが残るのは拳の痛みと虚しさだけだった………
なんかこれ書いてて思ったんですけど、この時期に宝塚記念の事を書けたのって運命だったのかなって。来週は宝塚記念だから。
そして6月4日はライスの命日。ちょうど今年で30年になります。