八幡side
ライスの怪我からちょうど9ヶ月目。俺は病院の主治医から連絡を受けて定期検診の結果を聞きに病院へと赴いている。まだ長引く怪我だと思っているが、この前の手術の成功もあるから、良い報告だと嬉しい。前の報告では怪我の状況次第でリハビリの許可も降りるとの事だったからな。因みにだが、メジロ家で療養していたマックイーンもこの前、漸くトレセン学園に復学した。長い闘病生活だったが、良いニュースを聞けた。引退しなかったのは、まだやりたい事があるからなのだろう。
ーーー診察室ーーー
八幡「失礼します、比企谷です。」
「ご無沙汰しております、比企谷トレーナー。早速ではありますが、ライスシャワーさんの定期検診の経過報告をさせていただきます。」
八幡「よろしくお願いします。」
「まず、こちらから仰った方がいいでしょう。まだリハビリは許可出来ません。」
八幡「………」
「今のライスさんの筋力では片足で立つのも少し難しいでしょう。ついては次の定期検診までの1ヶ月の期間内に自身の力で立って座るの動作や車椅子に移動する動作を身に付ける事が出来れば、リハビリを許可します。所謂課題というものです。」
八幡「……分かりました。」
「勿論、今言いました動作確認については比企谷トレーナーが同伴でも構いませんが、我々スタッフも定められた時間で練習を行います。」
八幡「よろしくお願いします。」
「次に怪我の経過ですが、二重骨折の方は完治致しました。脚の骨も完全に癒合しておりますので、心配いらないと思いますが、まだ癒合したばかりなので油断は禁物と言ったところでしょう。まだ走れる状態ではありませんので、再発の危険は皆無だと思われます。」
八幡「そうですか……運動は出来ませんから、骨折はもう大丈夫ですね。それで、開放脱臼の方は?」
「手術後4ヶ月が経過しましたが、順調に修復してきています。まだ完全ではありませんが、予定よりも半年くらい早く患部が修復しています。これも手術の成功がとても大きいでしょう。」
八幡「はい、先生達にはとても感謝しています。」
「いえいえ、これがお仕事ですから。それにライスシャワーさんを見ていると思うんです、本気でレースの復帰を望んでいるのだと。私もマックイーンお嬢様の元へ行く機会があったのですが、その時のお嬢様と同じ強い意志を感じる目をされていました。京都で手術を担当した医師からレースの続行を希望していると聞いた時は、目と耳を疑いました。自分の状況を分かってて言っているのかと。」
八幡「………」
「ですが、その疑念はすぐに吹っ飛びました。先も言いましたが、マックイーンお嬢様と同じ目をされていましたので。それに、日々彼女の元に来る学園の生徒の皆さんも1日でも早くライスシャワーさんの復帰を望んでいるみたいですし、そんな強い覚悟をお持ちの方を無碍には出来ませんからね。」
八幡「………」
「本来であれば引退すべき大怪我なのですが、それをしなかったという事は彼女にはまだやり残した事があるのでしょう。それを聞くつもりはありませんが、我々は彼女の怪我が完治するまで最大限の治療をさせていただきます。」
……主治医さんの言ってる事は殆どが正しい。俺も最初は引退すべきだと思っていた。その事も正直に伝えた。その上でライスは現役続行を望んだ。ライスだけでなくご両親まで俺に頭を下げて頼んだ。だから俺も1つ、決めている事がある。それはまだまだ先の事になりそうだけどな。
八幡「先生、ライスの事、よろしくお願いします。」
「えぇ、これからもライスシャワーさんと一緒に頑張っていきましょう。」
ーーーライスの個室ーーー
ライス「そっかぁ、まだリハビリはダメかぁ………」
八幡「まずは課題クリアを頑張ろうな。聞いてると思うが、骨折はもう完治してるがまだ癒合したばかりだが、走るわけじゃないから問題無いってよ。」
ライス「うん。早く運動したいなぁ……」
八幡「会う度にそれだな……まぁ無理も無い、長い事走ってないしな。それに仲間が走ってる姿を見ると、自ずと走りたくなるもんだよな。」
ライス「うん……ブルボンさんもね、次のレース決まったんだって。」
八幡「へぇ……何に出るんだ?」
ライス「この前、金鯱賞に走って勝ったのはお兄様も知ってるよね?だから大阪杯に出るんだって。それでその後に天皇賞・春に出るって。何でって聞いたら『クラシック3冠は獲れなかったので、春の3冠を獲りに行きます。ライスさんが居ないのが残念ですが。』だって。」
八幡「そうか……でもまだ怪我して1年も経ってないんだ、本当なら2年もかかる怪我なんだ、少しずつ良い方向に向かってるんだから焦る事は無い。まぁ、そんな事言われてもって思うかもしれないけどな。」
ライス「……ねぇお兄様。」
八幡「ん?」
ライス「………ううん、やっぱり何でもない。お兄様も無理し過ぎないでね。」
八幡「……あぁ、ありがとうな。」
早くライスを復帰させて、ターフで走ってる姿をファンに見せてやりたいな。
八幡side
ーーーーーー
ライス「………」
「言わなかったのかい?トレーナーに。」
ライス「あっ……はい、ちょっと言い辛くて。」
「悪い事をしているわけじゃないんだから、素直に話せば良いと思うよ?」
ライス「でも……やっぱり秘密のままが良いです。」
「そうかい?まぁ君がそう言うなら僕も何も言わないよ。喜んでくれると良いね、君のトレーナー。」
ライス「……はい。」
困ったように笑うライス。その彼女の手元にはA5サイズの革手帳が握られていた。
リハビリはまだかぁ……でも骨折は完治!!
それにしても、ライスの秘密って一体?