八幡side
今日のトレーニングは休みで俺もやる事が無かったから未担当ウマ娘達の走りを見る約束をしていたから学園に来ていたのだが、そのトレーニング終わりに先輩2が俺と話がしたいと言ってきたのだ。だがこれまでの傲岸不遜な態度と違い、妙にしおらしかった。
俺はあまり話したくなかったのだが、あの態度は今までに見た事が無かったから何かあるのだろうと思って話を聞く事にした。そんで今はカフェテリアに来ている。
八幡「……それで、話っていうのは何ですか?」
先輩2「……ライスの様子はどうなんだ?順調に治ってるのか?」
八幡「はい。二重骨折は完治して後は解放脱臼だけになっています。今はリハビリの許可も出て、懸命に復帰に向けて努力をしています。」
先輩2「………そうか。」
………何だ?何時もならこのタイミングで何かを言ってくる筈なのに、今日は何も言ってこない。
八幡「………要件っていうのはライスの経過の事だけですか?それとも他に何か?」
先輩2「あ、あぁ……まぁ………」
八幡「……まさかとは思いますが、シービーの引き抜きなんて言いませんよね?」
先輩2「いや違うっ!もうミスターシービーの事はいいんだ。あの時は、俺が悪かったんだ………」
………前とは別人だ、横柄な態度すら無い。けど、一体何の話なんだ?
先輩2「すぅ〜………ふぅ〜…………実は、お前に渡したい物があるんだ。受け取るかどうかは物を見て判断してくれて構わない。俺がまだ此処に入って2〜3年に作った物なんだ。」
八幡「はぁ………」
渡されたのは1冊のノートだった。何のノートかは分からなかったが、中身を見て判断してくれて構わないと言っていたから、俺は早速中身を見た。中身の内容は脚のリハビリの内容だった……やり方のみならず鍛えたい部分、負荷、要点をきめ細かに書かれていた。
八幡「………随分と細かく書かれてますね、しかもこんなにビッシリと。」
先輩2「………」
八幡「………」
ページを捲る度に新しい内容なるのだが、最後の方になるとメニュー式になって纏められていた。シンプルなやり方だったが、それでも脚のどの部分を使わないようにするメニューで組まれていたメニューもあった。ライスの怪我している足首を使わないメニューもあった………俺が今1番欲しかった物でもあった。
八幡「………凄い。」
先輩2「っ!」
八幡「細かい内容を書いただけでなくメニュー作成までしっかりと書かれてる。こんなに良いノート、どうして俺に?」
先輩2「………俺がまだ新人の頃、担当していたウマ娘が居たんだ。結構良い子で次のレースで重賞を走る予定だったんだ。トレーニングも順調で次のレースでもきっと良いレースが出来る、そう思ってたんだ。」
八幡「………」
先輩2「そんでレース当日、最後の直線に入る手前で転倒したんだ。」
八幡「っ!」
先輩2「怪我はライスシャワーに比べたら大した事は無い……なんて言えないが、それでもかなり重度の骨折だった。1年くらい療養しなければならなかった。だから俺は自分の出来る限りの事をしようと思って色々とサポートをしてきたつもりだった。けど………」
八幡「けど?」
先輩2「………あの子が『これ以上、トレーナーに迷惑を掛けたくないから学園を辞める事にしました。』って言ったんだ。俺に相談無しにどうしてって思ったんだが、あの子は凄く悩んでいたんだと思う……トレーナーの俺にも相談出来ないくらいに。」
八幡「………」
先輩2「それから俺は……変わっちまった。強いウマ娘ばかりに目が行くようになっちまった。どうしてそうなったのか俺にも分からない、でも色々と考える事が無くなって楽になったって感じたんだ。完全にそれが当たり前になった時にお前が配属してきた。それから色々と変わった。」
八幡「最初は……色々言われました。」
先輩2「あぁ………そうだよな。本当にイライラする奴だって思ってた、何もしてないのに周りから自然と寄ってくるお前が気に食わなかった。強いウマ娘に逆スカウトされたのが無性に腹が立った。そんな事をいつも考えていた。それで………ライスシャワーの故障だ。」
俺としては皮肉を言ったつもりだったのに、すんなりと受け入れた………
先輩2「流石にあれじゃ引退するしか無いって思ってたのに、お前から現役を続けるって聞いて耳を疑った。こんなバカな判断をするトレーナーが存在するのかって思ったよ。けど回復していくライスシャワーを見て、リハビリのメニューやトレーニングメニューを作っているお前を見て、俺は今まで何をしていたんだろうって目が覚めたんだ。」
八幡「………」
ガタッ!
先輩2「比企谷、これまで本当に済まなかった!!」
八幡「………」
立ち上がったと思ったら、謝罪と同時に頭を下げた。これまでの態度を考えたら、この謝罪は嘘には思えない。しかもこんな場所で結構大きい声で言ったから注目は当然される。
八幡「……分かりました、俺はもう大丈夫です。座ってください。」
先輩2「………」
八幡「それでこのノート、本当に頂いてもいいんですか?これがあればウマ娘が怪我をした時に凄く役立つと思うんですけど?」
先輩2「いいんだよ、どうせ俺はこの先担当が増える事は無いだろうし。ウマ娘達からの評判だって悪いし、【身から出た錆】ってやつだよ。もうトレーナーを辞めようと思ってんだ。最後に少しでも罪滅ぼしっていうか、善行をしておこうって思ってただけなんだよ。」
八幡「……そうですか、ならこのノートは受け取れません。」
先輩2「そうか、まぁお前ならこんなノート無くても大丈「いえ、そうじゃありません。」……は?」
八幡「先輩さっき言いましたよね?この先担当が増える事は無いって。なら、今残ってるウマ娘の為に全力を注いであげてください。貴方の評判が落ちている時にも関わらず、貴方の傍を離れなかったたった1人の担当ウマ娘です。だったらその子が引退するまでトレーナーの責務を真っ当する、今の先輩なら出来る筈です。その子が怪我をした時にこのノートを使うべきです。」
先輩2「………お前が兄と呼ばれるわけだな。分かった、その子が引退・卒業する時まで頑張ってみる。」
八幡「はい。あっでも、続けたかったら続けても良いと思いますよ。心変わりなんてあって当然ですから。もしかしたらその間に良い事があるかもしれないんですから。」
先輩2「はははっ、これまでお前に散々悪行積んできた俺だぞ?そんな事、天地がひっくり返ってもあり得ないって。まぁでも、ありがとうな。」
これでまた1つ、悪い物が取り除かれて良い物が入ったな。
先輩2の改心……でもこんな過去があったとは意外でしたね。