八幡side
研修3日目。ルドルフは既に弥生賞に向けての追い切りに入っている。調子は良好、コンディションだって上昇していて、本人の気力も充実している。本人もそれを理解しているのか、走り終えた後に少しだけ自信のあるような表情を浮かべている。俺も前評判を見てみたんだが、ルドルフが1番人気なのは予想出来ていたんだが、支持率が半端じゃない。他のウマ娘も確かな実力があるにも関わらず、ルドルフのせいで霞んでしまっているのだ。
それに………
ルドルフ「ふっ……ふっ……ふっ……っ!」
取1「アレがシンボリルドルフの走り……」
取2「凄い……もうシニアクラスのそれにしか見えないような走りだっ!」
取3「あの走りに対抗出来るウマ娘は居るのか?」
取材に来ているこの人達でさえもこの反応だ。ルドルフが勝つかのようなムードが既に見えてしまっているのだ。確かにルドルフは同世代の中での実力は逸脱していると思っているが、だからといって油断は命取りだ。確実に獲りに行く。
ルドルフ「ふぅ……」
八幡「ルドルフ、弥生賞に関わらず皐月賞でも走る中山レース場では『心臓破りの坂』がある。その坂を最後まで全力で走り切れるようにな。弥生賞でそれが出来たら勝ちに大きく前進する。」
ルドルフ「あぁ、分かっているよ。それに比企谷君、我々の行く道は道すら無いのだろう?ならば坂があるだけまだマシというものさ。我々が先駆者になるのだから。」
八幡「……そうだったな。中山2,000mの急坂、東京2,400mの長坂、京都3,000mの登りと降り、どれも重要なポイントだ。それにダービーと菊花賞においてはぶっつけ本番だ。不安要素があったらすぐに言えよ。」
ルドルフ「あぁ。その時は頼りにしているよ。」
八幡「ん、じゃあそろそろ時間だな。ダウンして今日は上がりにするぞ。」
ルドルフ「あぁ、分かった。」
ーーー部室ーーー
ルドルフ「比企谷君、今日もお疲れ様。」
八幡「ルドルフもな、今から日曜日が楽しみになってくる。」
ルドルフ「期待に添えられるように頑張るさ。」
八幡「お前の事だ、どうせ期待以上の走りを無自覚にするんだろ?」
ルドルフ「さぁ?もしかしたら本番の皐月賞までそれを取っておくかもしれないよ?」
八幡「お前がそんな勿体ぶる事をするかよ。」
コンコンコンッ
八幡「ん?どうぞ。」
ガチャッ
たづな「失礼致します。トレーニングお疲れ様です、比企谷トレーナー、にシンボリルドルフさん。」
八幡「ありがとうございます。駿川さんも業務お疲れ様です。それで、何かありましたか?」
たづな「はい。現在、担当を持っているトレーナーのご紹介をしているところです。先日に歓迎会を開きはしましたが、誰がどのウマ娘を育てているのかは分かっておりませんでしたので。そこで改めてご紹介しておこうと思って失礼させていただきました。」
成る程、要は俺とルドルフの紹介って事か。約2名に紹介は必要無いとは思うが、他の奴等にはやっておかないと印象も悪くなる。ここはやっておかないとな。
八幡「分かりました。外も寒いと思いますので中へ入れてください。」
たづな「ありがとうございます。それでは皆さん、許可も取れましたので中へお入りください。」
すると男女合わせて6人が順番に入って来た。思えばこうして合格者と顔を合わせるのは初めてだな。
たづな「ではご紹介します。こちらは比企谷八幡トレーナーです。お隣に居るのは皆さんもご存知でしょうけど、シンボリルドルフさんです。比企谷トレーナーは昨年にこの中央トレセン学園のトレーナーになったばかりですが、主席合格という事を考慮した結果、初年度から担当を持つ事を許されたトレーナーの1人です。」
1「えぇ!?じ、じゃあさっきの桐生院さんは次席って事なんですか!?」
たづな「はい。その証拠に今し方言いましたが、昨年配属のトレーナーの中で担当を持っているのは桐生院トレーナーと比企谷トレーナーの2人だけです。そればかりか比企谷トレーナーは初年度から担当となったシンボリルドルフをデビュー戦、重賞、GⅠと3戦3勝の成績でここまで育て上げたトレーナーなんですよ。」
八幡「……少々持ち上げ過ぎな気もしますが、改めて自己紹介をします。比企谷です、歳は皆さんと1つか2つしか変わらないから、この研修期間内や中央トレセンに配属が決まった時には気軽に声をかけてくれ。」
2「あ、あの!俺、比企谷さんに会ったら1つ聞きたい事があったんですけど、いいですか!?」
八幡「?何だ?」
2「どうやったら、ウマ娘と近い距離感を作れるんでしょうか!?」
八幡「……は?」
2「いやぁ俺、どうもその距離感っていうのが上手く掴めなくて……同期のコイツ等からも言われたんですけど、かなりグイグイ行っちゃうみたいなんですよ。んで俺、食堂とか廊下で比企谷さんを見かけたんですけど、色んなウマ娘達から声をかけられていたので、どうやったらそんな風に出来るのかなって思ってたんです!なんか秘伝とかってあるんですか?」
参ったなぁ………俺そういうの全く気にした事ないんだが?マジで自然体。それになんか視線を感じる、そこのお前だよ一色。『は?先輩が?いやいや無いでしょそんなの。あのボッチで根暗でコミュ障な先輩がそんな事出来るわけ無いじゃないですか。』みたいな目で見てんじゃねぇよ。そう思ってるかどうかは今は置いといて………
八幡「俺自身、特に何かを意識したりはしてない。」
2「え、無意識でアレなんですか?」
八幡「まぁ聞け。これは俺に限った事じゃないと思うが、人もウマ娘も動物もそれぞれパーソナルスペースってのが存在する。その差は千差万別、覚えようとしてもキリが無い。」
2「は、はぁ……」
八幡「だから俺は最初、必ず1歩引いたところから話すようにしている。元々俺は人と話すような性格でもないし、他の奴と居るよりも1人で居た方が楽に感じる性格だ。追う者追わず、来る者拒まず、って感じだ。」
2「そ、そうか!じゃあ「だからといってこれが正解かどうかと言われると、それは違う。」……え?」
八幡「さっきも言った言葉、覚えてるか?千差万別……今のやり方は俺が独自に見つけた方法だ。それをお前がやったとしても必ず成功するという保証はどこにも無い。だからお前はお前なりのやり方で探して行くしか方法は無い。こっちが手探りならあっちも手探り、最初からグイグイ行って反応が良かったらソイツにはそれが合ってて、逆に引かれるようなら少しトーンを下げたり距離を取るのも1つのやり方だ。残り4日でそれを少しでもいいから色んな方法で試してみろ、此処はトレセン学園で色んなウマ娘が居る。それを観察して自分に合っているかどうかを見極めるのもトレーナーとしてやっていく上で重要な要素の1つだ。」
『………』
………あ、あれ?なんか静かになっちゃったんだけど?どした?俺なんか悪い事言ったか?うるさいとかそういう言葉とか使ってないと思うんだけど?
2「す、すげぇ……そんな風に考えてたんですね!」
八幡「ん?いや、常に考えてるわけじゃないぞ。」
3「じゃあタイプに合わせてそういう対応をしてるって事ですか?」
八幡「まぁそうだな、そんな感じだ。」
2「成る程、じゃあ相手の態度とか表情を見て話すのが大事って事なんですね!」
八幡「それも大事だな。ウマ娘は俺達人間よりも耳も嗅覚も良い、つまりは感情の変化にも敏感だと思っても良い。勿論、相手を見つめ過ぎるのも良くないから、そこは慎重にな。先に話題とか決めておくと会話はスムーズになると思うぞ。」
2「分かりました!早速明日、実践してみます!」
答えになったかどうかは分からんが、とりあえずアドバイスくらいにはなっただろう。
ルドルフ「君はやはり教えるのが上手いな、他の皆も参考になったようだぞ。」
八幡「それは何より。俺の言ってる事、間違ってはいないだろ?最初にお前に会った時だって敬語だったしな。」
ルドルフ「そうだったね。慎重な君らしいやり方だと私は思うよ。」
八幡流、対ウマ娘用距離感克服法!